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名探偵ポワロ「マースドン荘の惨劇」視聴

名探偵ポワロ 全巻DVD-SET

 

「マースドン荘の惨劇」(「マースドン荘の悲劇」)

ポアロ登場 (クリスティー文庫)

原作は『ポアロ登場』所収の「マースドン荘の悲劇」。保険会社からの依頼でポワロはマースドン荘の当主、ジョナサン・マルトラバース氏の不審死について調査をする。しかし、ドラマはこの導入部が異なっている。

「農村で農夫連続毒殺事件が起こっている」との知らせを聞いて行ってみれば、それは宿屋の主人ノートンが創作した未完の自作小説であり、ノートンはその結末部をポワロに考えてもらうため、小説内の事件であることを伏せ依頼をしたのだ。半ば騙されて田舎の農村まで来てしまったポワロだが、ロンドンへ戻る列車がないためやむなく宿泊する。その翌日、始発で帰ろうとした時にマルトラバース氏の事件を聞き調査に乗り出す…というのがドラマ版の導入部になる。

本作は物語の冒頭から流れるオカルト色が一番の特徴で、幽霊の影に怯えるスーザンが印象に残る。が、このオカルト色はドラマオリジナルの演出で、原作はオカルトとはまた別の意味で怖い結末になっている。

 

(以下、ドラマと原作のネタバレあり)

 

個人的注目ポイント

・民間の防衛訓練

劇中で市民がガスマスクを着用する訓練の描写が見られるが、これはドイツとの戦争を想定し、毒ガスによる空襲に備えた訓練。1928年に毒ガスや細菌を用いた兵器を使用することを禁じたジュネーブ議定書が発効されていたとはいえ、ドイツによる化学兵器攻撃が懸念されていたということを示している。

この防衛訓練の下りはドラマオリジナルの展開で、犯人のミスリードとして演出された(効果はイマイチだが)。

 

・自作自演のオカルトが…

本作は詰まるところ保険金殺人で、病死(ショック死)に見せかけることを目的としているが、ドラマは銃による直接的な殺害に至る前にありもしない霊の存在をクローズアップし、マルトラバース氏がショック死するよう誘導していたという回りくどい戦法を犯人がとっていたというのが個人的には微妙というか追加の演出としてはイマイチかな~と思ってしまう。

またそういうオカルト的手法で相手を死なせようとしていた犯人が、ポワロが仕掛けた自白に導くオカルト描写にビビるというのも犯人の性格に合っていないような気がする。

 

・犯行手段と手がかりについて

ドラマでは夫人が犯人とする手がかりとして、夫人が描いていた絵の影の向きが指摘されているが、映像を見ればわかるように天気は快晴というより曇天に近く影がクッキリ出ている様子はなかった。それでもあの話で押し切ったのは撮影スケジュールの都合とかもあって晴天を待っている余裕はなかったということだろうか。まぁイギリスは雨が多いとよく聞くからね。

手がかりに関する改変は絵の影の他にブラック大尉のこともある。原作では彼が夕食時にマルトラバース夫妻にした海外での自殺事件が夫人の殺害計画のアイデアになってしまったと記されているが、ドラマではアフリカ土産を梱包した新聞に載っていた自殺事件の報道が夫人にアイデアを与えたことになっている。比べてみると、ドラマのブラック大尉の方が罪悪感に駆られることはなさそうだ。

また犯行時の様子も原作とドラマでは微妙に異なり、ドラマではマルトラバース氏が寝ている時に殺害したことになっているが、原作では昨夜の夕食時に話題となった自殺事件をそれとなく話の種とし、「あんな方法で自殺できるのかマネしてくださらない?」自発的に銃を咥えさせてからズドン!とやる手法だった。正直オカルトで飾ったドラマよりも原作の方が何倍も恐ろしい。