タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

名探偵ポワロ「誘拐された総理大臣」視聴

名探偵ポワロ 全巻DVD-SET

サボっていた分の記事。

 

「誘拐された総理大臣」(「首相誘拐事件」)

ポアロ登場 (クリスティー文庫)

原作は『ポアロ登場』所収の「首相誘拐事件」。連合国会議のためフランスを訪れたイギリス首相が誘拐され、下院議長のエステア卿の要請により、ポワロは誘拐された首相を探し出すことになる。シリーズ中でも重大事件の部類に入るが分量は40頁にも満たない短編。過去にNHKでアニメ化されているが、アニメ版はドキドキさせる展開があるのに対し、ドラマ版は原作ともアニメ版とも毛色が異なる。これは犯人の犯行動機の改変によるものだが、もう少し首相の存在感を出した方が良かったのでは…?何で最後仕立屋さんでシメちゃうのよ。

 

(以下、ドラマと原作のネタバレあり)

 

個人的注目ポイント

・タイムリミットの違い

原作では首相を会議に間に合わせるためタイムリミットが設けられており、24時間(と15分)以内に首相を見つけてフランスの会議へ送迎しないといけない。一方のドラマ版はタイムリミットの猶予が少し伸びて32時間(と15分)になっている。これは事件の依頼が原作だと夕食後にあったのに対し、ドラマは昼間に依頼があったという違いによるもの。

 

アイルランド問題

原作の犯人はドイツのスパイによるもので、ミスリードとしてアイルランド人のオマーフィーを配置していた。これは作品の発表当時アイルランド独立の気運が高まっていたことによるものだが、ドラマ版は時代設定を第一次世界大戦後に変えたため、ドイツのスパイという真相が凡庸になってしまうと判断されたのか、アイルランド問題を犯行動機としている。

www.y-history.net

それに伴い人物設定も一部変更されており、オマーフィーはジョン・パトリック・イーガンという名称に変更され犯行グループの一人になり、原作の女スパイであったベルタ・エベンタルがダニエルズ夫人として登場する。

 

・イギリスの離婚事情

離婚騒動を隠れ蓑にし、夫妻と運転手によって計画を実行したというのがドラマのアレンジポイント。海軍中佐夫妻の離婚騒動が新聞沙汰になるのは現代だとちょっと違和感があるが、これは日本だと離婚は双方が同意し、離婚届を役所が受理すれば離婚が成立するのに対して、イギリスでは司法の介入が必要という違いがあるから(しかも婚姻後一年は離婚出来ない)。つまり、裁判で離婚の判決が下らない限りは法律上夫婦となってしまうのだ。また、離婚の判決を得るためには不貞行為や家庭内暴力といった「婚姻が修復不可能な程度に破綻していること」を証明しなければならないようで、ダニエルズ夫妻の離婚裁判が新聞沙汰になったのは、夫人の申し立てが相当のものだったに違いない。

 

このように、イギリスの離婚は司法や宗教上の問題(カトリックは離婚は原則禁止)があるため、日本以上に離婚・再婚絡みの殺人は犯行動機になりやすいのだろう。クリスティの作品でも再婚したいのに離婚が無理なため殺人を犯す犯人が出て来る。