【5話あらすじ】
— 【公式】富豪刑事 Balance:UNLIMITED (@fugoukeiji_bul) 2020年8月12日
ポリアドル共和国の大統領が来日し、
大使館の外で警護にあたる捜査一課を手伝わされる現対本部の一同。
神戸グループ代表である大助は賓客として大使館内に招かれていた。
そんな中、大使館内で職員の死体が発見された。(続く)
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いや前回との落差!!
check-5「もし金を汝の召使としなければ、金は汝の主人となるだろう」
今回のサブタイトルはイギリスの哲学者フランシス・ベーコンの名言「If money be not thy servant, it will be thy master」を訳したもの。ベーコンと言えば高校の倫理の教科書で「知識は力なり」という名言を遺し、人間の実験・観察には先入観や誤解・偏見が付きまとうことを「イドラ」の概念で説いた人物と記されていたが、彼は金にまつわる名言もいくつか遺しており、例えば「Money is like muck, not good except it be spread(金はこやしのようなもので、撒かなければ役に立たない)」などがある。
捜査一課の応援でポリアドル共和国大使館の警護の手伝いをさせられる羽目になった現対本部一同(定年間近の仲本除く)。ただし、大助は大統領であるアルバレス氏の賓客として招かれているため、今回は大使館の内部(大助)と外部(加藤)から事件の様子が描かれる。3000億もの金が動く巨大ダムプロジェクト絡みの訪日は、当然ながら物語を不穏な展開へ導くことに。
ちなみに、ポリアドル共和国は言うまでもなく架空の国家だが、国旗のデザインはカメルーン共和国がモデルではないかと思われる(縦縞の真ん中以外の色が同じ)。ただ、国名の響きはボリビアとエクアドルを足して2で割ったかのような南米系のものとなっている。
余談となるが、カメルーンには9つのダムが存在し、うち8つは1970~90年の間に竣工されている。
主客転倒
5話はサブタイトルから仄めかされているように、主客転倒の構図が物語を評価する上で重要となってくる。
本来賓客として招かれたはずの大助がホストの大統領を守る羽目になったり、有能な武器であるはずのヒュスクが今回初めて大助の命令に背く発言をしたりと、あるべきものが目的を果たさず別の悪い結果となって発露し右往左往する事態になる。そのため、3話以前のブッ飛んだ方法で事件を解決した大助の姿やそれに伴う痛快さは今回得られない。どこかモヤっと、スッキリしない後味が残るのだ。
それもそのはず、今回の事件の犯人であるSPのリカルドはポリアドル神戸商事が手配した人間。つまり神戸財閥の傘下の人間であり、その点を含めると今回大助は(直接ではないが)神戸財閥内部の人間と常日頃身に着けているガジェットによって苦しめられたことになるのだ。
大助にとって「飼い犬に手を噛まれる」こととなった今回の事件は人間と機械双方の欠点による所が大きい。人間の場合は、融通が利くという能力が良くも悪くも欠点となる。機械はプログラムされたことしか出来ないし実行しないが、人間には意思があるため命令されたこと以外を実行したり、命令者の思いを誤解した形で実行するといったエラーを起こす。今回のリカルドも人間であるが故に職務を悪用した報復行為に走ったのだ。
これは大助を助けに行った鈴江も同様で、猫を轢き殺してでも駆けつけることは出来たが、「たとえ緊急時でも猫を殺してはいけない」という形で咄嗟に「融通を利かせた」ために事故というエラーを起こしてしまった。
一方の機械(ガジェット)は反対に融通の利かなさが欠点。プログラムしたことしか実行出来ないのだから、「密室に人間が閉じ込められる等の非常事態が起こった場合は開錠する」といったプログラムがされていなければ扉は開かない。というか、何が非常事態で何が非常事態でないか判断する能力がない機械にそれを行うのは難しい。それ故にヒュスクは非常事態でありながら、起動装置の解除に必要な情報を「大助にそれを与える権限がない」という理由だけで一蹴してしまうのだ。
ここでサブタイトルについて改めて言及するが、「もし金を汝の召使としなければ、金は汝の主人となるだろう」は言うまでもなく「金に振り回されることがないよう気を付けろ」という先人の忠告であり、これをもっと広い意味で捉えるならば、どんなに便利な道具でも使いこなせなければそれに振り回される結果となることを指し示している。それは人間にしろ機械にしろ同じで、扱いを誤ればそれは恐ろしい主客転倒という形で作用し自分に報いることになるだろう。
ダムに沈む集落を省みず利益優先に走った大統領はテロの報いを受け、守ってくれるはずの部屋が処刑場になる。大助が今回苦戦したのは、そんな愚かな大統領に加担したことによる“とばっちり”と考えれば良いのかもしれないが、前回を含めると4・5話は大助の全能性を崩壊させにかかっているみたいなので、ここから先は加藤とのより強固な関係が求められる事件が描かれるだろうと予想する。それに非番で登場しなかった仲本もな~んかきな臭い描かれ方をしているので、その点も併せて注目していきたい。
それにしても、掃除のおじさんでも複製出来る鍵って大使館のセキュリティとしていかがなものなのか…ww。いや、おじさんの前職が鍵屋なら話は別だけど。
さいごに(もう一つの主客転倒)
今回の事件を視聴した方の大部分は恐らく私と同じ考えだと思うが、犯人であるリカルドの犯行に関する主客転倒についてちょっと言っておきたい。
リカルドは巨大ダム竣工の主導者である大統領を殺害するため、大使館のシェフを殺害。緊急事態という名目で部屋に閉じ込め事前に仕掛けていた毒ガス装置で大統領を殺害しようとした。事件収束後、「何故調印式で毒ガスを撒かなかったのか」という亀井の疑問に対して加藤はリカルドは無差別殺人を良しとしなかった、あくまで犠牲者は最小限に止めたかったと彼の真意を推測している。
が、だからと言ってリカルドが崇高な人物だということにはならない。
リカルドの故郷がどんな惨状に遭ったのかを私たちは知らないが、それを抜きにしてもリカルドの計画は必然的に罪のないシェフやSPが死ぬものであり(大助自身に罪はないが、大統領に加担している側の人間なので仕方ない部分はあるかな?)、それを実行した時点で何の罪もない人々をダムの犠牲とした大統領と五十歩百歩の結果になる。
無差別殺人を避けるという人命の重さに配慮した計画でありながら、実際は罪のない人物を犠牲にするという卑劣さを内包したこの事件は、「大統領だけを殺害する計画」が「大統領を殺すためなら多少の犠牲は容認する計画」になり、結果人命配慮の主客転倒が起こったと考えられないだろうか…?