前回の続き。
「鏡の国の殺人」(特別編)
今回は前回と同じ「鍵のかかった部屋SP」の再編集版で、後半部の平松館長殺しは原作『ミステリークロック』所収の「鏡の国の殺人」に相当する。前回が定番の施錠型密室だとすると、今回は監視カメラで密室状況が生まれているのがポイント。廊下側と迷路側の計三台の監視カメラを欺いて、犯人がどうやって館長室に辿り着いたのかが問題となる。
榎本は連ドラで勤めていた大手セキュリティ会社を辞め独立、原作通り個人経営のセキュリティショップを開き、模型による現場検証もそこで行うのだが、再編集によって青砥が初めて訪れる下りはカットされている。部屋の様子はほぼ連ドラ時の備品倉庫室と同じだが、警察の無線を盗聴する機械や泥棒向けのグッズがあったりと、限りなく黒に近いグレーな店になっている。
原作では自他共に榎本の裏稼業が泥棒だいうことが黙認されているが、あくまでもドラマはグレーゾーンを保っており、ドラマ版榎本の底の見えないキャラクターと相まってミステリアスな雰囲気を醸し出している。
原作との相違点はまず平松館長の死が自殺に見せかけられていること。ドラマでは前回の密室殺人とのつながりで、罪を自白して自殺する状況を偽装することが出来たが、原作にそんなつながりは存在しないので、犯人は自殺に見せかけることなく平松館長を撲殺。その罪を榎本に着せようとした。何故榎本に濡れ衣が?と思った方は原作を読めばわかるのでここでは割愛させていただく。
そしてドラマではカットされたが、原作ではルイス・キャロル研究家の萵苣根功(ちしゃね・こう)というかなーりエキセントリックな人物が登場する。持って回った言い方をしたり、七五調で会話をしたり、『不思議の国のアリス』の住人さながらの変人気質で青砥を翻弄するが、榎本とはまた別タイプの常識から逸脱した人物ということもあり、犯人が仕掛けた3つのトリックのうち2つを見破る結構重要な人物なのだ。
萵苣根氏が2つのトリックを暴くので、実質榎本が解決したのは犯人にとって最後の砦となるトリックのみ。そのトリックを解く鍵となったのは腕時計だったが、ドラマでは芹沢のストーカー事件がヒントになっており、コメディ演出との相性も抜群だったと思う。
(ここからネタバレ感想)原作では迷路の入り口・出口だけでなく中盤にもトリックが仕掛けられているが、ドラマでは尺の都合もありカットされている。入口のホロウマスク錯視によるトリックはテーマパークでも使われる有名なトリックで、ディズニーランドの「ホーンテッドマンション」でも用いられている(書斎でゲストをじーっと見つめてくる胸像、アレがそうなの)。
出口の偏光レンズとフィルムを利用したトリックはやはり映像で見た方が何倍も分かり易い。床を艶消しの黒にした言い訳も用意してあったが、萵苣根氏には通用せず、芸術を犯罪に利用したがためにボロが出てしまう流れも本作の巧い所と言えるだろう。
殺害動機について、原作では平松館長に自分の作品がマネーロンダリングに利用されていたことが原因となっているが、ドラマ版の「お前に才能なんか無いんだよ」と言いつけた佐野史郎さんの憎たらしい演技が堂に入るレベルで、個人的にはドラマ版の方に軍配を上げたい。(ネタバレ感想ここまで)