タリホーです。

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富豪刑事 Balance:UNLIMITED check-1「来た、見た、買った」視聴

原作も深田恭子さんのドラマ版も見てない私だが、面白かったので視聴継続

 

富豪刑事』について

富豪刑事 (新潮文庫)

原作は筒井康隆氏による連作短編集。大富豪・神戸喜久右衛門の息子・神戸大助が有り余る財力を用いて難事件を解決に導く刑事物語、とのこと。

2005年にテレビ朝日でドラマ化し、翌年に続編となる富豪刑事デラックスが放送されたが、主人公の神戸大助は深田さん演じる神戸美和子という女性に変更されている。

 

原作が発表されたのが1970年代半ばから後半にかけて、それも4作きりのシリーズなので、(時代設定の点だけでなく)原作に忠実な映像化はドラマもアニメも含めて為されていないが、こうやって何度も映像化されるところを見ると、それだけ原作そのものに創作意欲をかきたてる要素があると言えるのかもしれない

筒井氏によると本作を執筆した動機は、制約が多く非現実的で、その上シリーズものという拘束がある小説を書いておけば、他作品でめちゃくちゃなものを書いても誹りを受けないと考えて書いたという旨を語っている。

www.shinchosha.co.jp

(↑同ページの作家自作を語るを聴いていただければわかります)

確かに良く出来た推理小説ほど虚構性が高いというのは的を射た指摘だと思うし、本作における神戸大助も虚構性という点では申し分がないキャラクターだ。人によってはこの虚構性を好まない人もいるのかもしれないが、小説にリアリティを求めるのはどうなんだろうって思うし(ジャンルにもよるけど…)、ノンフィクションでも虚構性の高い凶悪殺人は探せばいくらでも出て来るので、虚構性の高さを批判するのは正直ナンセンスだと思っている。むしろその虚構性を楽しまないでどうするんだよ。

 

ちなみに、有り余る金と権力で事件を解決するというと、ここ最近では相葉雅紀さん主演で映像化された貴族探偵を思い出す。こちらは金よりも権力が前面に出ているタイプの探偵。

貴族探偵 (集英社文庫)

これも言ってみれば虚構性の極致みたいな作品で、何なら虚構以外の何物でもない世界観なのだが、神戸大助と貴族探偵が手を組めば日本の犯罪の大部分は一掃されるのでは…と夢見る自分がいる。

 

check-1「来た、見た、買った」

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原作について長々と記したがこれくらいにして、本筋となるアニメの話に移る。

1話は捜査一課とは異なる「現代犯罪対策本部準備室」に配属された神戸が配属早々クラシックカーフェスティバルの爆弾予告騒ぎを解決してしまうって話。

要約してしまうと爆弾騒ぎがメインのように思えるが、実際は爆弾犯本人は逮捕され、爆弾を搭載した車両がよりによって行きずりの強盗二人組に乗り逃げされるという、結構ドタバタとした展開になっているのがポイント。

その強盗二人組にしても、単純な金目当ての男二人組みたいな感じではなくて、組の金を使い込んでその補填のためやむなく強盗をするヘタレなクズ男・ヒロシと、付き添いで来たがドジな一面のある女・ヨーコという設定なので、1話目からキャラクターの密度が高い。(ちゃっかり筒井先生本人もゲスト出演してるし)

そもそもメインとなる「現代犯罪対策本部準備室」が警察組織の理から外れた者たちのコミュニティみたいな位置づけなので、配属された刑事たちも実に個性的で虚構的。これだけクセ者たちが揃っていれば、キャラクター面で退屈させられることは、ひとまず無さそうである。

 

Wikipedia の情報で語るのは情けないことではあるが、一部そこから情報を引いてくると、原作の神戸大助は正義漢として描かれており、金銭感覚やそれに伴った行動が常人と違っている。一方で、アニメの神戸は正義漢としては描かれておらず、行動も金銭面を抜きにしてもエキセントリックな面が目立っている。これは制作陣も狙ってやっていることだと思うし、公式HPにも「刑事。だが正義とは限らない」と明言されている。

 神戸から正義の面が抜け落ちている分、その役を担うのが本作のもう一人の主人公でアニメオリジナルキャラクターの加藤春。正義や人命を重んじる性格が災いして「現代犯罪対策本部準備室」に送られたとのことだが、この辺りの深掘りはおいおいやっていくだろう。

深掘りといえば、そもそも神戸が何故花形の捜査一課ではなく「現代犯罪対策本部準備室」の配属を志望したのかも謎だが、これも気になる所ではある。

 

正義には「Balance」が必要である

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さて、本作のタイトル「富豪刑事 Balance:UNLIMITED」について。劇中でも出て来たワード“Balance:UNLIMITED”を訳すと「残高:無制限」となる。神戸財閥の無限に等しい財力を端的に示したワードとして効果的であるが、この物語において「Balance」という単語を持ち込んできたのは洒落っ気があって良いと思っている。

何故なら「Balance」には「残高」という意味だけでなく、天秤・均衡といった意味もあるからだ。

ejje.weblio.jp

バランスの良い食事・運動と言うように、どんなことにおいてもバランスは大事であり、バランスを失うと大抵悪い結果になる。

これは正義を行うにしても同様で、行き過ぎた正義は誹謗中傷や私刑につながるし、現に新型コロナウイルスが広まったこの日本でもそういった傾向が見受けられるようになった。(例えば、自粛期間中に開いていたジム店のドアを蹴って壊した事件とか)

 

個人個人の尺度で人を裁いたり糾弾してしまうと社会秩序が成り立たない。そのために司法制度があり、警察機構が存在するのだが、残念ながらこうやって築き上げてきた均衡も往々にして崩される場合が多い。

今回の場合、クラシックカーフェスティバルを強行した官邸や次期国王となるアブラー首長国王子が正にその均衡を崩した対象であり、もし彼らがフェスティバルを中止していれば、爆弾騒ぎなどそもそも起こらなかった可能性が高い。

そして、もし神戸がこの事件に介入することがなかったら一体どうなっていたか?

勿論、爆弾犯は捕まったであろう。しかし、爆弾を載せた車は例の強盗二人組によって奪われ、何も知らない二人はそのまま市内を逃走。市内で爆弾は爆発し、強盗犯二人を含む死傷者が多数出ていたに違いない

 

そう考えると、神戸の取った行動はいささか乱暴な所があるとはいえ、崩された均衡を是正したという点では評価すべきだと思うし、均衡を崩した張本人である王子の車を即座に買い取って格の違いを見せつけた所なんかは実に痛快ではないだろうか?

とはいえ、彼のとった均衡の是正は完璧であるとは言えない

確かに彼のやり方は多数の死傷者を出さない方法ではあったが、一人も犠牲者を出さない方法ではなかった。あのまま爆弾を搭載した車を押し出していたら、車に乗っていたヨーコは間違いなく死んでいた。本来ここで死ぬ運命ではなかった彼女がね。

でもその不完全な是正を完璧なものにしてくれたのが、他ならぬ加藤春だったというのが上手い。加藤だけでは死傷者が多数出ていたし、神戸だけではヨーコが死んでいた。二人がいたからこそ、本来あるべき均衡に戻すことが出来たのだ

(あんなクズ男と一緒になってヨーコの前途多難っぷりが予想されるが、まぁ死ぬよりはマシだと思えば良いよね?)

 

今回の劇中では神戸のやり方に対して加藤が立腹していたが、この先衝突があったとしても、この「Balance」の良さを是非維持してほしいものだ。

 

蛇足

・サブタイトルの「来た、見た、買った」はガイウス・ユリウス・カエサルが、紀元前47年のゼラの戦いの勝利を、ローマにいるガイウス・マティウスに知らせた言葉「来た、見た、勝った」をもじったもの。戦いの激しさと速さを伝えるためのこの言葉を今回の事件のサブタイトルに持ってきたのは正解だったと思う(激しさも迅速さもあったからね)。

来た、見た、勝った - Wikipedia

 

勝鬨橋を跳開し、爆弾を搭載した車を落とす作戦がとられたが、1980年に機械部への送電が取り止められて以降跳開することは出来なくなっているため、現実であの作戦をとるのは不可能である

ja.wikipedia.org

劇中で一瞬映った「東京都可動橋跳開特別申請書」を見ると申請日が2020年4月12日と記されているから、パラレルワールドの話として割り切ってしまっても良いが、実は一般市民のあずかり知らぬ所で神戸財閥がいつでも跳開出来るよう資金提供していた…と考える余地もなくはない(その目的までは流石にわからないが…)。

 

・本編最後に「今回計上された費用」が出てきて何か見覚えがあるな~と思っていたらアニメ「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の「本日の被害」だった。

 

・神戸大助の声を担当したのは大貫勇輔さん。実は大貫さん、昨年放送されたドラマ「ルパンの娘」で深田恭子さんと共演していたのだから運命を感じる。