本日、『ジェリーフィッシュは凍らない』を読み終わった。
『そして誰もいなくなった』『十角館の殺人』『殺しの双曲線』といった、
①外部からの出入りが不可能な状況下(クローズド・サークル)
②①の状況下にいる登場人物全員が死亡
③犯人となる人物が(一見すると)いない
の条件を満たしたミステリで、第26回鮎川哲也賞受賞作。
(以下、ネタバレのため要注意!)
いつも読み終わった後、参考に「黄金の羊毛亭」にUPされている感想記事をチェックしている。
本作の場合、「航行試験計画書」のアンフェアさ・犯人のわかりやすさ・ハウダニットに対する批評がなされている。具体的な内容については上記のサイトのネタバレ感想を読んでいただきたい。
著者が犯人の意外性を放棄していることは話の構成からしてみてもわかるが、ミステリ好きの私は、「バラバラにされた被害者がエドワードではなくサイモンだった」と明かされる前に、「唯一身体がバラバラにされた被害者」という時点で「怪しい」と思った。
本書の場合はバラバラにした所に作為が感じられたのもあるけれど、「容疑者の中で唯一絶対的に他殺とわかるような殺され方をしている=犯人の可能性が高い」というのは、『そして誰もいなくなった』系統のミステリにおけるメタ的推理あるあるの一つだと思う。
あと『そして誰もいなくなった』系統のミステリを読んでいると自然と法則というかパターンのようなものが見えてくる。
例えば「序盤で死亡した人物は犯人でない」。序盤で死んだフリをしながら殺していくのはまず無理だしリスクが高いからね。
あと「毒殺された人物は犯人でない」。これも毒殺されたフリをするのはまず無理。撲殺・刺殺と違って、(まず間違いなく)他者に身体を触られて生存確認されてしまうから。勿論共犯となる人がいて嘘の死亡確認をしてくれれば話は別だろうけど、それでも死体として運搬される時に第三者に触られることを考えるとリスクが高い。
さて、これまでの『そして誰もいなくなった』系統のミステリにおける課題点は以下のポイントになるだろう。
①クローズド・サークル内部犯の場合、犯人だと悟られずにどうやってターゲットを殺していくか
②クローズド・サークル内部犯で自殺する場合、どうやって他殺されたように見せかけるか
③クローズド・サークル内部犯で自殺しない場合、どうやって死亡したと他の人間に思わせるか※
④クローズド・サークル外部犯の場合、そもそもどうやって内部に侵入するか
⑤クローズド・サークル外部犯の場合、内部の被害者に気づかれずにどうやって殺していくか
⑥クローズド・サークル内外を問わず自殺しない場合、クローズド・サークルからいかに脱出するか
※これは犯人がクローズド・サークル内部にいることを外部の人間が知っていて、その人物に対して死んだように思わせたい、または内部の被害者に自分が死んだように見せかけたい場合に限る。
本書の場合は⑥がメイントリックとしてよく出来ていた。特に中盤で否定された「二つのジェリーフィッシュ」説が、乗員の《亡命組》による国外逃亡計画という点で鮮やかにクリアされているのが巧かった。
今後も『そして誰もいなくなった』系統のミステリに挑戦して書く者がいると思うが、上記のポイントを押さえた堅実な作品が出るのか、もしくは私の意表を突くような新たな作品が出て来るのか。こればかりは神のみぞ知る。