タリホーです。

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ゲゲゲの鬼太郎(6期)第68話「極刑! 地獄流し」視聴

連続アニメとして考えると(前回がアレだったから話のバランスとして)あのオチは十分予想出来たし、伏線も張ってあったけど、「こう来たか」と感心した6期「地獄流し」。

 

地獄流し

鬼太郎シリーズでは、「〇〇流し」と呼ぶ、相手が自力で逃れられない異世界島流しにしてしまう戦術をとる妖怪が(鬼太郎を含めて)多数いる。そんな「〇〇流し」の中で最も有名なのがこの「地獄流し」と呼ばれる作品だ。

原作は「墓場の鬼太郎」期に発表された作品であり、鬼太郎ファンなら当然知っている定番中の定番。殺し屋の政吉とギャングの豆蔵という悪人二人組が鬼太郎の家に入ったが為に生きながら地獄へ送られてしまう物語。地獄に流された二人を石を通して眺める鬼太郎で物語は終わるが、少年マガジンオリジナル版では「ふたりの悪人が改心すれば、きっと、鬼太郎は地獄へむかえにいくでしょう」といったコメントが枠外に付いている。流石に残りの人生を地獄で…というのは子供向けにしては残酷過ぎるからね。

少年マガジン/オリジナル版 ゲゲゲの鬼太郎(1) (講談社漫画文庫)

アニメは1・4・5期に放送。3期では百目が地獄流しをする回があるが、内容は完全にオリジナルなので例外と考えて良い。1期は原作に則った展開なので、特別言及することはないものの、4期と5期はアレンジに注目したい。

4期ではいわゆる死者が行く地獄とは異なり、鬼太郎が持つダイヤの中にある世界を「地獄」としているのが最大の改変であり、鬼太郎ファミリーによる試練も見所。笑顔・若さ・母との記憶という金では買えない、金よりも高価なものを要求する鬼太郎ファミリー。改心の余地があるかどうかを試される寓話的な展開は鬼太郎らしからぬ趣があり、かなり印象に残っている。

5期では妖怪横丁という設定を活かし横丁ぐるみで悪人三人組(吉川という男が追加された)を地獄送りにしている。1期・4期では一応悪人は現世に戻れている(ただし4期は二人組の片方の二郎のみ)が、5期では改心の余地なしと見なされ、二度と現世に戻れなかった様子。

 

「地獄流し」の元ネタ、「水晶球の世界」

水木しげる 貸本名作選 怪奇 不死鳥を飼う男・猫又 (ホーム社漫画文庫)

地獄流しと言えば、地獄の風景を映し出すダイヤの様な石(鬼太郎はトランジスタテレビと言っていたが)が道具として欠かせない。その元ネタと思しき作品が昭和39年に発表された「水晶球の世界」から見出せる。

「水晶球の世界」は、剥製屋の親父が所有していたある水晶球に映る別世界がどこのものなのかを突き止めようとした研究員の物語なのだが、こちらはホラー要素はあまり無く、どちらかと言うとSF的な話。別世界の正体も地獄ではなく火星となっている。

 

更生としての地獄流し

正直6期では「地獄流し」はやらないだろうと思っていた。と言うのも、第7話「幽霊電車」において既に「地獄流し」の変奏曲的な物語が出来上がっていたため、この後でまた同じように悪人を地獄送りにするプロットの話を放送してしまうと、単なる焼き直しか二番煎じの作品になりかねないと思ったからだ。

今回放送前に見たあらすじも、カケルという青年がコンビニ強盗をした結果地獄流しにされてしまうという、犯罪行為とは釣り合いの取れない処罰に違和感を覚えた。

「6期のことだから、この後カケルには恐るべき余罪が…という展開かな?」と思ったし、餓鬼道で謎の肉を喰らったり、謎のオブジェの下に溜まった酒を飲んだから、「これはヨモツヘグイの法則で帰れないな」とも思った。

でも結局の所この予測は良い意味で裏切られたなと思っている。これまでの「処罰としての地獄流し」から「更生としての地獄流し」に変換し、お盆という生者と死者の距離感が近くなる時期を利用した感動話に仕立て上げた脚本に脱帽。伏線は張ってあったものの、前半部が日曜朝としてはかなりヘビーな描写が続いていただけに、話がどう転ぶのか予測を立てにくくさせているのも巧いと感じた。

 

土蜘蛛は何の象徴か?

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©水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション

今回カケルの前に現れた妖怪、土蜘蛛。その登場の仕方が何とも意味ありげだったのでちょっと考察してみよう。

ja.wikipedia.org

土蜘蛛は上古の日本において天皇・朝廷に従わなかった土豪たちを示す名称であり、同様の存在は国栖(くず)とも呼ばれていた。また「つちぐも」という名称は「土隠(つちごもり)」=「横穴のような住居で暮らしてた様子、穴に籠る様子」から付けられたとされている。

 

以上の情報をふまえて今回のカケルの境遇を合わせてみると、そこにはリンクしている点がありはしないだろうか?

カケルも(天皇・朝廷とまではいかないが)社会の常道から外れた行為をとった点ではクズと呼ばれても仕方ない立場であり、冒頭の部屋に籠っている様も「土隠」を象徴している様に思える。

つまり今回の土蜘蛛は、部屋に籠り社会の常道から外れた行為を企み実行したカケルの姿を妖怪として具現化させたものだと考えることが出来る。カケルが吐き出した己の顔が土蜘蛛に変化したのも、そう考えれば合点がいくのではないだろうか?

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©水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション

言い換えれば、これはカケルの悪の感情=悪心(あくしん)であり、土蜘蛛と立ち向かい滅ぼした展開も、己の悪心と戦い更生の道を切り開いたと見ることが出来よう。

ちなみに悪心は「おしん」とも読めるが、そうなると意味が変わり、胸がむかむかする感じや吐き気を意味する。と言うことは、カケルはあの世のものを喰らい悪心(おしん)を起こし、悪心(あくしん)を吐き出したということになる。この二重の「悪心」は偶然の産物か、それとも脚本の意図したものかはわからない。が、今回のプロットと合わせてなかなかに凝った趣向になっているのではないだろうか?

 

(蛇足になるが、オリジナル要素に加えて、餓鬼道の風景や酒の溜まっていた謎のオブジェも原作準拠だった。これも個人的には評価したい。)

 

 

次回は四将の三体目、鬼童伊吹丸が登場。原作に登場しないキャラだけにどういう展開になるのか非常に気になる。現在進行形で妖怪を憎む石動と、過去に名無しの策謀で妖怪を憎むことになったものの和解出来たまなとの絡みも気になるし、予告に映った首無しの亡霊の正体も気になる。もう色々気になるな!