本日の午前中に『消失!』を読了した。
本作では「密室状況からの死体(犯人)消失」と「ミッシング・リンク」の二つのテーマを扱った作品だが、トリックの絶妙な組み合わせによって唯一無二のミステリとなっている。
ストーリーについては割愛。本作のトリックについて所感を。
(以下、本作のネタバレをしながら解説するので未読の方要注意!)
ある意味バカミスではある
第一のサプライズ、殺人ではなく殺犬という点について。
動物を人に誤認させるトリック自体は珍しくなく、某国内作品でも用いられたトリックなのだが、長編で用いられているのは恐らく本作だけではないだろうか。
それ故に、本作をバカミス・壁本に分類する読書家もいるだろうが、このトリックが第二のサプライズにつながる訳であり、死体消失における問題点をクリアするためのトリックにもなっているので私は容認できると思う。
贅沢な文句を言うならば、「被害者を人間と思わせ、尚且つアンフェアでない描写にはなっていたが、それが犬であるという伏線にはなっていない」という点だろうか。犬であったという伏線があれば、もっと驚いたし騙されたと膝を打ったのだが、発表当時20代だった著者にそれを求めるのは厳し過ぎるかな。
人間では無理だった
第二のサプライズ、被害者は三匹ではなく一匹という点について。
被害者が人間、しかも複数の場合、いかに密室からの消失が困難かという事はここで筆を費やさずともわかってもらえるだろう。
しかし被害者が犬となると話は別。死体の消失の困難だけでなく、殺害そのものの困難や後処理の困難も軽減される。更に言えば連続ではなく単独の殺犬なので警察機構に捜査され犯人の痕跡を見つけられるリスクも無くなる。そして人間では到底困難な性別の偽装と多重生活を送れるのも動物ならではと言えるだろう。
犬一匹の死を「人間消失」と「ミッシング・リンク」に膨らませた作者の手腕に改めて感服。
そういや…
第三のサプライズ、探偵が犯人という点について。
そもそも人間消失とミッシング・リンクを読者に意識させるようにしたのは新寺仁だったからね。探偵が犯人という小説もこれまた国内外問わず幾つもあるのだけれど、探偵が事件の謎を作り上げるというのは余り例が無いと思う。
ちなみに、本作は「平成ミステリベスト」の87位(全200作品中)にランクインした。
#平成ミステリベスト pic.twitter.com/9cTjq615NM
— 松井和翠 (@WasuiMatui2014) 2019年3月30日
平成ミステリもこうやって見ると結構あるものだな…。半分の100作も見れてないんだよな。