タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

【金田一少年の事件簿】「悪魔組曲殺人事件」を徹底比較

今週は五代目金田一の新作エピソード「聖恋島殺人事件」の感想を書く予定だったが、ご存じの通り北海道の海難事故の影響を受け一週間の延期となった。そしてその穴埋めとして初代・堂本版のシーズン2の初回「悪魔組曲殺人事件」の再放送が5月1日に放送された。※

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初代ドラマ版の「悪魔組曲」は上の記事で簡単ながら感想を書いていたので、本来ならば今週の感想記事はお休みするつもりだったが、YouTube東映アニメーションミュージアムチャンネルの方でも何とアニメ版の「悪魔組曲」が期間限定で配信されることになり、奇しくも同日にドラマ版とアニメ版を見比べられる機会を得た。

www.youtube.com

そういうことで、今週はドラマ版とアニメ版の比較をしながら両者の魅力や特徴を語っていきたい。なお、原作は漫画ではなくドラマCDだが、私は未視聴のため原作ではなくあくまでもドラマ・アニメの両者を比較した上でのレビューとなることを先に断っておく。

 

※5月1日に再放送されたドラマは再編集版のため、ノーカット版を視聴したい場合はTVer で配信されている方をおススメする。

 

(以下、ドラマ及びアニメのネタバレあり)

 

事件のおさらい

まずは登場人物についておさらい。ドラマ版とアニメ版の登場人物は以下の通り。

(レギュラーのはじめと美雪は除く)

 

〇ドラマ版

御堂周一郎:故人。著名な作曲家。

御堂優歌:周一郎の孫娘。

小沢竜二郎:御堂の弟子の一人で作曲家。

夏岡猛彦:御堂の弟子の一人で指揮者。

風倉百合恵:御堂の弟子の一人でオペラ歌手。

紅亜理沙:御堂の弟子の一人でバイオリニスト。苗字の読みは「くれない」。

田村秀明:音楽プロデューサー。

剣持勇:警部。はじめ、美雪と共に御堂の山荘へ向かう。

 

〇アニメ版

御堂周一郎:故人。著名な作曲家。

山根優歌:御堂のマネージャー。美雪と知り合い。

マイケル・ヘンリー:御堂の弟子の一人で作曲家。フランス人。

夏岡猛彦:御堂の弟子の一人で指揮者。

風倉百合恵:御堂の弟子の一人でオペラ歌手。

紅亜理沙:御堂の弟子の一人でバイオリニスト。苗字の読みは「くれ」。

椿陽造:御堂家の執事。

明智健悟:警視。山根とは知り合いで楽譜探しのため呼ばれる。

 

下線を引いたので一目瞭然だと思うが、御堂・夏岡・風倉を除いた登場人物が変更・改変されているのが特徴で、更にアニメ版の夏岡は登場人物の中で唯一、御堂の「悪魔組曲」の詩のメモを持っていたということになっている。

 

そして、事件解決の鍵となる「悪魔組曲」の詩はドラマ版とアニメ版では当然ながら内容が微妙に異なっている。

 

〇ドラマ版

〈第一の詩〉

煌めき 闇深まり

聖なるを手にした騎士が

悪魔の餌食と なりはてぬ

〈第二の詩〉

をとって 弦を引き

悪魔討たんと騎士は往く

されどは止まりて 落ち

騎士の正義は 消え果てる

〈第三の詩〉

己が胸をで切り裂き

騎士は心に光を得る

聖なる歌は己が胸にぞありき

 

〇アニメ版

〈第一の詩〉

ああ 雷光煌めき 闇さらに深まりて

魔界の宴の刻来たり

今宵の犠牲と選ばれし

聖なるをば手にせし騎士は

悪魔の餌食と なりはてぬ

〈第二の詩〉

凛々しく 雄々しく かぶりて

悪魔討たんと 騎士は往く

されど悪魔は呪われし 地獄の歌を口ずさむ

は止まりて 落ち 騎士は苦しむ 呪いの歌に

悪魔の嘲笑 野に響き 騎士の正義は消え果てぬ

〈第三の詩〉

されど最後の力にて 騎士は挑まん 地獄の歌に

をばとりて 弦をはり 放つ一矢が悪魔を射抜く

絶叫残して悪魔は消える

呪いの歌の呪縛は解けて

騎士は心に光を得る

・・・聖なる鍵は己が胸にぞありき

 

このようにドラマ版とアニメ版を比較してみると、ドラマの方が若干簡素化された詩になっているものの、大まかな内容は同じだ。ただ、第三の詩はドラマ版だとなのに対しアニメ版は弓矢となっている。そのため、第三の事件で用いられた凶器も同様に異なっている。

また第一の事件の見立てはドラマ版が悪魔のステンドグラスなのに対し、アニメ版は床に描かれた悪魔の絵となっている。そして小沢(ヘンリー)が握っていた鍵はドラマ版は犯人が所持していた鍵なのに対し、アニメ版はヘンリーの寝室の鍵になっている。それによって犯人特定のプロセスが改変されているのがミステリという点で最も注目すべきポイントだ。

第二の事件の見立てはドラマ版とアニメ版は同じものの殺害方法が違っており、ドラマ版は詩に見立てて弓矢を使った射殺となっているが、アニメ版は殺害方法や死因は不明だ(胴体部分に外傷は見られないので恐らく撲殺だろうか)。

 

事件解説(謎解き特化のドラマ版と愛情劇としてのアニメ版)

Who:鍵、誤った見立て

How:偶然生まれた見立て

Why:事故、脅迫者の口封じ

今回の事件は「悪魔組曲」の詩に見立てた連続殺人だが、ドラマ版は第一の事件の見立てを人為的に行うことが不可能なことが強調されており、それによって御堂周一郎の亡霊による仕業だというオカルト的解釈や怪人の存在が違和感なく成立しているのがドラマとして優れているポイントの一つと言えるだろう。※1

第一の見立てが偶然出来上がった所はドラマ版・アニメ版共に同じだが、問題は鍵の扱い。アニメ版では鍵そのものが犯人の名を示すダイイングメッセージとなっており、被害者がフランス人であることがダイイングメッセージに繋がるヒントになっている。一方のドラマ版は、鍵が犯人の所持品であるという点ではダイイングメッセージになり得るが、アニメ版と違ってもみあいの末偶然もぎ取られたものであること、後の犯人の行動に影響を及ぼすものとして活用されており、それがフーダニットとしてより隙のない作りになっているのがドラマ版の巧い所だ。

 

第二の事件の見立てについては、犯人が馬を意味する「駒」ではなく玩具の「独楽」を見立てに利用したという誤った見立てが事件解決のポイントとなる。つまり、詩の内容を文章ではなく音で聞いただけの人間が犯人となり、屋敷への到着が遅れて詩のメモを入手出来なかった紅が犯人として特定される。(ぶっちゃけ前後の文脈から判断すれば「駒」を「独楽」と間違えることはないと思うが…)

ただ、ドラマ版では「悪魔組曲」の詩を渡されたのが小沢と紅以外の弟子だったのに対し、アニメ版では夏岡以外詩のメモを知らなかったため、誤った見立てが犯人特定の材料になっておらず、実質ダイイングメッセージだけで犯人を特定しているのがアニメ版の少々勿体ない点だ。

 

ドラマはここから更に前述した鍵によって紅を追い詰めているのが巧いポイントで、悪魔組曲を演奏する際に自分のバイオリンではなく別荘内にあったバイオリンを利用した(=自分のバイオリンケースを開けることが出来なかった)ことが手がかりとしてごく自然に配置されているのが秀逸。また、その鍵を剣持がトランクケースの鍵とすり替え、偽の鍵を犯人のそばにわざと置いておくという罠を張って、犯人が言い逃れ出来ないようにしているのもよく出来ていると評価したい。

 

ここからは動機面の話になる。第一の殺人が事故で、第二の殺人が脅迫してきた風倉の口封じという点はドラマ版・アニメ版共に同じ。問題は御堂と紅の関係という部分だ。

ドラマ版は御堂と紅は恋人同士の関係だったが、ある日を境に御堂は紅を無視するようになり、それが御堂への憎悪に繋がったと同時に「悪魔組曲」が弟子たちを争わせ追い詰めるために作成された曲だと誤解することになった遠因として描かれている。

ただし、御堂が紅を無視したのは彼女に対する愛情がなくなったのではなく耳の障害によるもので、それが劇中で登場した調律されていないピアノや、ドラマ冒頭の雷鳴轟くなかでの演奏会として表されている。特に冒頭の演奏会の下りは、一見するとシーズン2の初回ということで、(最初にこのドラマを見た時は)劇的な演出のために木やピアノに落雷させていたとばかり思っていたのだが、この場面そのものが御堂の耳が聞こえないことを示す大胆な伏線になっているのだ。耳が聞こえないから落雷に反応することなく平然と笑っていられたのであり、弟子たちとの会話もよく聞くと対話として成り立っていない。一方的に自分の言いたいことを御堂が言っていたに過ぎないことがわかるだろう。

耳の障害という事実が明かされ、詩の本当の意味(楽譜の隠し場所を示す暗号)を知った紅は、ようやく今回の一連の犯行が御堂の愛情を信じ切れなかったが故の自身の愚かさから来るものだと悟り、最終的に警察によって逮捕された。これがドラマ版の動機に関する内容だ。

 

一方アニメ版はというと、紅は御堂の隠し子であり、かつて音楽家として大成するため妻と娘を捨てアメリカへ渡ったと劇中で語られる。そのため、表立って父親として名乗りを上げられず、一音楽家として紅に厳しく接するようになった。この厳しさが紅を誤解させる切っ掛けとしてアニメでは描写されており、「悪魔組曲」も彼の厳格で冷酷な性格による産物だと紅は思い込んでいた。しかし実際は三つの詩の最初の一文字目を合わせると紅の下の名の「ありさ」になることや、執事の椿を通して紅に資金援助していたことが明らかとなる。曲自体も、ピアノ演奏だと重苦しい曲調になるがバイオリン演奏の部分は転調によって希望ある天使の歌として変化するよう作曲されていた。悪魔の顔の裏に隠された御堂の愛情深い一面を表す曲として音楽面に力を入れているのがアニメ版の特徴と言えるだろう。※2

 

※1:今回の事件は計画的なものではなく突発的に起こったのため、あの不気味な仮面や衣装は犯人が用意したものではなく、御堂の山荘に元々あったものを利用したと考えるのが自然だろう。そう考えれば、優歌の部屋で仮面が見つかった際、田村に問い詰められても彼女が何も言わなかった理由も何となく想像がつく。元々所有していたのだからそれを元に責められたら言い逃れは難しいしね。

※2:しかし、ドラマ版と違って楽譜は屋敷内に普通に隠されており、他の弟子は自分名義でこの「悪魔組曲」を発表しようとしていたことを思うと、下手をすれば娘に捧げるための曲が蹂躙されていた可能性も十分あったのだ。その点アニメ版の御堂は詰めが甘いと思ってしまうが、御堂本人としては詩に娘の名前を刻んだのだから、曲が誰のものになろうと娘に捧げたことに変わりはないと思っていたのかもしれない。

 

さいごに

以上、ドラマ版とアニメ版を比較してみたが、個人的な好みとしては謎解きや伏線描写に力の入ったドラマ版に軍配を上げたいと思う。アニメ版はダイイングメッセージ一本で犯人を特定していることや、紅が御堂の娘であるという推理が御堂の写真が彼女と似ていたという勘に近い推理で当てた点から見ても、あまり謎解きを意識して作られた作品とは思えない。最後に自殺しようと崖へ行く下りを見ても、本作が御堂や椿執事の思いの深さにスポットライトを当てていることがわかるし、やはりアニメ版は愛情劇としての「悪魔組曲として描かれたことがわかる。そう思うと、アニメ版で明智警視が登場したのは、はじめの人情深さを強調させるための引き立て役だった気がしてならない。

「探偵が早すぎる」シーズン2感想 #3(二重のトリック返し in キャンプ場)

特にここ数年の連続ドラマ内におけるキャンプ場の登場率は格段に高まってますよね。

 

(以下、ドラマのネタバレあり)

 

3話感想(「屋根裏の散歩者」風毒殺)

今回はキャンプ回ということで、一華の会社の同僚に加えて宗介・葉子兄妹、更には橋田に千曲川まで参加し、ちょっぴりカオスなキャンプ体験となったが、当然美津山四兄妹の暗殺計画も進行し、今回は次女の明日香が仕掛けることに。

 

明日香の仕掛けたトリックは、毒キノコを煮詰めた毒液を一華らがいない間にテントの内側に塗布、夜になって彼女らが就寝する頃を見計らってキャンプ場の職員に扮してストーブと水入りの薬缶を設置し、テントの上部(一華の寝床の頭上付近)に切り込みを入れる。そして薬缶の水が水蒸気となってテントの内側に水滴となって付くことで再び毒液になり、切込みを入れた部分に溜まった毒の水滴が一華の口へと落ちる…というもの。

頭上から毒液を垂らしてターゲットを毒殺に至らしめるのは、かの江戸川乱歩の名作「屋根裏の散歩者」を彷彿とさせる。前回の順三郎のトリックと比べてもユニークで面白いと思うが、それでも事故に見せかけられているかというとちょっと厳しい。ソロキャンプならともかく、あれだけの人数で活動していながら一人だけ毒キノコで中毒死というのは不自然だし、テントに塗った毒液の痕跡を明日香は処理出来ないのでそこが完全犯罪という点では達成出来ていないポイントだ。

まぁ、中毒死に関しては一華が単独行動していた瞬間もあるので、その分殺人として捜査される可能性は低まると思うし、仮に殺人事件として捜査されたとしても、最悪一華に絡んで来た三人組の男に罪を擦り付けることも出来た訳だから、その点明日香はラッキーだったと思う。(ナンパを拒絶された腹いせという犯行動機が成り立つ)

 

で、今回の千曲川によるトリック返しは前回が凝っていた分シンプルだったが、千曲川のトリック返しが明日香だけでなく一華に対しても行われていたというのが今回の脚本として優れた所。序盤に一華が千曲川の食べるナポリタンに激辛デスソースを振りかけていたことが伏線として活かされていたこともさることながら、シーズン1から作り上げて来た一華と千曲川犬猿の仲とでも言うべき関係性が有効活用されているのも素晴らしい。原作の一華は割と普通の女の子だし、千曲川と派手に喧嘩するようなこともないので、今回の二重のトリック返しは、原作通りのキャラ設定で脚本を作り上げていたら生まれなかった名場面だと言えるだろう。

 

シーズン2に入ってからはトリック返しの趣向も面白い仕上がりになっているが、オリジナル脚本ということもあって、やはり原作小説を土台にしたシーズン1と比べると、千曲川がトリックを見抜く下りが雑になっているのは否めない。単純にトリックの痕跡を見つけて推理しているだけなので、シーズン1の時みたいに心理的矛盾や現場の違和感を突いてトリックを見抜く構成がとれていたらよりミステリとしての質は上がるだろう。元々原作小説も一種の倒叙ミステリなので、贅沢な要求になるがそういった点も留意してストーリー作りをしていって欲しいなと願う。

 

ドラマとして気になっている所といえば、やはり宗介の存在が非常にミステリアスで、彼の行動に一貫性が見られない。だから何が目的で一華のキャンプに同行しようとしたのか気になるし、敵側であるはずの明日香を助けようとする素振りまで見せた彼の行動原理も謎に包まれている。「一華に惚れたから」という説明ではつかない所もあるしね。

一応現段階で宗介の行為を合理的に説明しようとするなら、宗介は「弱者やいじめられている者に対しては、敵味方関係なく助ける」という宗介独自の行動理念・ルールがあるのではないだろうか?勿論まだ彼の過去や心理的背景が劇中で多く明かされていないので私の先入観が多分に混じった解釈なのだが、彼の父親である宗太の失踪が宗介の行動に影響しているような気がしてならない。

五代目「金田一少年の事件簿」、今後放送されるエピソードを予想してみた

TwitterYouTube といった各方面で既に行われているが、私もこの五代目で放送されるであろうエピソードを予想してみようと思う。

 

旧作(リメイク)予想

予想するにあたって手がかりとなるのは、公式HPのイントロダクション。そこで記されている情報によると、

新旧の傑作エピソードが集結する(金田一少年の決定版)

日本ならではの呪いや怪談を題材にしたミステリーをシリーズ史上最大のスケールで贈る

この二点をふまえて、それに合致するエピソードを挙げるとすると、まず既に映像化された旧作品は以下の通り。(学園七不思議は当然除く)

 

異人館村・悲恋湖・オペラ座館・秘宝島・首吊り学園・首なし村(飛騨からくり屋敷)・蝋人形城・雪夜叉・悪魔組曲・タロット山荘・金田一少年の殺人・怪盗紳士・異人館ホテル・墓場島・上海魚人伝説/魔術列車・幽霊客船・仏蘭西銀貨・黒死蝶・速水玲香誘拐・魔犬の森・露西亜人形/吸血鬼伝説/香港九龍財宝・獄門塾・銀幕の殺人鬼・ゲームの館・鬼火島・金田一少年の決死行・雪影村・薔薇十字館

(計・31エピソード)

 

この中で欠番となった「異人館村」、そして四代目山田版で放送されたエピソードと映画の「上海魚人伝説」はほぼ間違いなくリメイクされないだろうから除外して、残りの21エピソード中、呪いや怪談といった日本的ホラー要素が強いエピソードは、首なし村(飛騨からくり屋敷)・雪夜叉・墓場島・黒死蝶に絞られる。ただし、今回の五代目がシリーズの決定版として放送されることを考えると、原作の記念すべき一作目となるオペラ座館や因縁の宿敵・地獄の傀儡師が初登場する「魔術列車」も候補に入れて良いと思う。

以上6つのエピソードに絞ったが、「雪夜叉」は冬の事件だし「黒死蝶」は「悲恋湖」とリンクする所があるエピソードなので、今回リメイクされるとは考えにくい。また、「墓場島」は今回映像化された新作「聖恋島」と同じ孤島モノのミステリであり、1クールの連続ドラマで孤島モノのエピソードを二つもやるのはちょっと考えられない(描かれるテーマも似通った所があるので)。

そんな訳で旧作からリメイクされる作品で有力なのは「首なし村」「オペラ座館」「魔術列車」だと予想する。

 

新作予想

続いて新作として映像化されるエピソードを予想するが、短編をいれると数が膨大になるので、長編に絞って考えていきたい。まだドラマ化されていない長編は以下の通りとなる。

 

漫画:魔神遺跡・天草財宝伝説・怪奇サーカス・オペラ座館第三の殺人・雪霊伝説・黒魔術・剣持警部の殺人・錬金術・人喰い研究所・雪鬼伝説・亡霊校舎・狐火流し・蟻地獄壕・吸血桜・人形島・黒霊ホテル・白蛇蔵金田一二三誘拐・八咫烏

(計・19エピソード)

小説:オペラ座館新たなる殺人・電脳山荘・雷祭・殺戮のディープブルー・邪宗

(計・5エピソード)

 

以上の24エピソードのうち、冬の事件と特にボリュームが大きい「殺戮のディープブルー」は除き、孤島モノも前述した理由から除けば、魔神遺跡・天草財宝・怪奇サーカス・黒魔術・剣持警部の殺人・人喰い研究所・亡霊校舎・狐火流し・蟻地獄壕・吸血桜・黒霊ホテル・白蛇蔵金田一二三誘拐・八咫烏村・雷祭・邪宗館の16エピソードまで絞られる。

このうち、日本的な要素が強いのは魔神遺跡・天草財宝・人喰い研究所・亡霊校舎・狐火流し・吸血桜・白蛇蔵金田一二三誘拐・八咫烏村・雷祭の10エピソード。ただ、「八咫烏村」は現在連載中のエピソードなので流石に今映像化しないだろうし、「吸血桜」は放送するには少々時期外れなのでこれも考えにくい(個人的には一番映像化して欲しいエピソードだけどね)。また、「金田一二三誘拐」は新選組を題材にしているとはいえ、日本の路線を利用したミステリというマニアックな内容なので海外配信向けではないかと思う。「人喰い研究所」はノスタルジックな日本の村が舞台とはいえメインとなる舞台は研究所内なのでこれも除外して良いと思う。そして「亡霊校舎」は地獄の傀儡師絡みではあるが舞台が廃校という点で「学園七不思議」と少しダブるのでこれも映像化されないだろう。

そうなると残りは「魔神遺跡」「天草財宝」「狐火流し」「白蛇蔵」「雷祭」の5つになるが、個人的に最も有力だと思うのは既にアニメ化されている「狐火流し」だ。これは四代目で放送された「雪影村」みたいに1話完結でもまとめられる内容になっているし、狐のお面に白無垢といった日本的要素が特に強いエピソードなので、これはほぼ間違いなく放送されるのではないかとにらんでいる。

「白蛇蔵」は予想としては五分五分という感じ。というのも、頭巾で顔を隠した男が登場するという点で「首なし村」と共通するので、もし「首なし村」の放送が決定したら「白蛇蔵」は、まぁ放送されないと見て良い。「雷祭」は日本的要素が強いことと最近講談社文庫から復刊したことも併せて考えれば映像化される可能性は高いと思われるが、セミの抜け殻が作中で使われるので季節的には早すぎるし正直微妙な所。「魔神遺跡」と「天草財宝」はどちらも映像化して欲しい作品ではあるが、初代の作風に寄せるとしたら「魔神遺跡」の方に軍配は上がるし、「天草財宝」は準レギュラーのいつき陽介が登場する作品なので、彼が初登場した「悲恋湖」をやらずにいきなり登場させるとちょっと展開に無理が生じると思う。事件解決後の展開にしても「天草財宝」は冬向きの作品だし、今放送するにはなおのこと不向きだろう。

以上のことを総合して考えると、新作エピソードは「魔神遺跡」「狐火流し」になると予想する。「魔神遺跡」に関しては謎解き部分で原作通りいかない問題が出ると思うが、これは改変でいかようにでもクリア出来るのでチャレンジしてもらいたいエピソードだ。

 

以上、旧作と新作の予想をしてみたが、初代~四代目まで1クールで放送されたエピソード数は6つ程度であり、「聖恋島」が前後編で放送されることが決まった今、残り放送されるエピソード数は多くて4つくらいだろう。だから今回私が予想したエピソード全ては入らないし、もしかすると全く予想していなかったエピソードが放送される可能性だってある。

先日放送された「行列のできる法律相談所」で主演の道枝さんが推していた「悲恋湖」が映像化される可能性もゼロではないし、上で除外した「雷祭」もセミの抜け殻を別のアイテムにしてもミステリとしては十分通用する作品なのだから。何にせよ、今後のラインナップに注目していきたい。

シリーズ初のリメイク「学園七不思議殺人事件」はどうだったか?(五代目「金田一少年の事件簿」#1)

今シーズン最注目のドラマ、五代目「金田一少年の事件簿」がスタートしました。徹底的に解説していきますよー!

 

(以下、原作ほか初代ドラマ版も含めた事件のネタバレあり)

※一部内容に誤りがあったので訂正しました。(2022.04.25)

※加筆しました。(2022.05.11)

 

File.1「学園七不思議殺人事件」

画像

五代目金田一の初回を飾るエピソードは1993年の6月から8月にかけて『週刊少年マガジン』で連載された「学園七不思議殺人事件」。言わずもがな、記念すべき初代・堂本版で初めてドラマ化されたエピソードであり、アニメ版の初回も「学園七不思議」から始まる。正に金田一少年を語る上で避けては通れない必読のエピソードであり、30年近く経った今となっては古典ミステリとしての趣さえ感じられる名作だ。

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歴代金田一少年の動画配信時に行った振り返り企画で既に感想を語っているので、一部内容に重複があることを承知の上で読んでいただけるとありがたいが、本作の魅力の一つには、作品が連載されていた当時全国的に流行っていた学校の怪談ネタの一つである「七不思議」を取り入れ、ホラーミステリとしての世界観を作り出していることが挙げられる。特に初代のドラマでは、ホルマリン漬けの生首がカッと目を見開く場面や、怪人放課後の魔術師の仮面にトラウマを抱いた視聴者も多く、それゆえ印象に残っている人もいるのではないだろうか。

 

原作の事件解説(金田一少年の世界ではレアな犯行動機)

まず、原作をフーダニット・ハウダニットホワイダニットの三点で要約すると以下のようになる。

Who:的場勇一郎

How:を利用した死体及び犯人消失トリック

Why:高畑製薬が過去に起こした死亡事件+青山ちひろの殺害を隠蔽するため(自己保身のための殺人)

金田一少年ファンならわかってもらえると思うが、本作は(発表当時はそうでもなかったが)怪人による犯行だと決めつけ恐れる男性(通称「〇〇の仕業だおじさん」)が犯人であり、シリーズ全体を通して見ると珍しい部類に入る。

というのも、金田一少年で「○○の仕業だ!」とか「〇〇の呪いよ…」と言って恐れおののく人は、メタ的な意味で作品のホラー的な世界観を盛り上げる役どころであり、よって犯人ではないという暗黙のお約束があるのだ。怪力乱神を語る昔ならともかく、科学的・合理的精神が一般的な現代でオカルトの仕業による殺人を説いても大多数は信じない(=ミスリードとして効果的ではない)ので、そういう点から見ても作中(劇中)でオカルトの仕業を提唱する人物はまず犯人候補から除外して良いのだ。

では何故的場先生は「放課後の魔術師」に関する嘘の噂をはじめ・美雪に語ったのか、と考えると、やはり完全にはじめを一生徒としてしか見ていなかったが故の慢心だと言わざるを得ない。ビビらせるような恐ろしい話を語ったら事件のことを深追いしないとタカをくくっていたのだろうが、まさかはじめが捜査を担当した剣持警部とつながっており、美雪が搬送された病院に神保博士のことを知っている人物がいるとは想像出来なかっただろう。これは金田一はじめを見くびったがゆえのミスであり、裏付け調査をすれば一発でバレてしまう大ボラを吹くなんて墓穴掘りも良い所である。

 

メイントリックは鏡を利用することで犯行現場を開かずの生物室だと誤認させる※1というかなりシンプルなものだが、ワイヤーを使って窓の鍵を施錠するという偽のトリックを仕込むことで、犯行可能な人物が特定されないよう細工をしているのが地味ながらも優れたポイント。特に桜樹殺しは計画的な犯行ではなく突発的に起こった殺人のため、偽装工作として手間をかけられなかった部分も多いので、まだミステリとしてはわかりやすかったのではないだろうか?

ただここで問題となるのが、今回の事件はトリックの解明が犯人を特定するための唯一の材料であり、鏡のトリック以外の方法で密室からの死体消失が成立してしまうと的場先生が犯人と断定することが出来なくなる。そのため、尾ノ上の死体から発見された生物室の鍵が使用不可能だったことを証明する必要があるのだが、既に体当たりで打ち破られた生物室の扉の鍵が使えるか証明するのは実質不可能。正に「悪魔の証明」と言うべきこの問題を、はじめは鍵穴にガムを仕掛けて生物室の鍵は使えなかったと偽装することで犯人の自白を導いている。※2

 

※1:旧校舎の廊下が新校舎の廊下より狭いことや、照明にロウソクを用いたことも鏡のトリックが不自然に見えない状況作りに貢献している。

※2:とはいえ、桜樹ではなく尾ノ上の死体が発見された時に鍵が見つかったことを考えると、桜樹殺しのトリックに生物室の鍵が使われなかったことは一応間接的に証明されている。何故なら、もし仮に桜樹殺しの時に鍵を使ったのであれば、その後も鍵を持っておくメリットはほとんどないし、ワイヤーを使って窓の鍵を施錠したという偽トリックを補強する証拠物品になるのだから、むしろ犯行現場に残しておく方が得策なのだ。それなのに犯人は生物室に鍵を置いておかなかった、ということは桜樹殺しのトリックに生物室の鍵は使われておらず、行き当たりばったりの犯行だったと推測出来る。

 

また、動機が過去の事件の隠蔽や自己保身というのもシリーズ全体を通して見ると(意外にも)長編では本作くらいで、基本長編の事件は復讐目的の犯行であることが多い金田一少年シリーズの中では珍しい犯行動機なのがこの「学園七不思議殺人事件」の特徴の一つなのだ。

 

ドラマ(初代・五代目)の事件解説

ドラマ版は初代・五代目共に改変があるが、まず初代の方から始める。

初代は原作が的場先生単独の犯行だったのに対し、的場先生とドラマオリジナルキャラの浅野先生による犯行に改変されていること。これが初代における最大の改変ポイントだ。言うまでもなく、的場先生の犯行は自己保身が目的であり、これをそのまま映像化するとただのクズ野郎になってしまうため、ドラマでは的場先生の元教え子だった浅野先生が共犯となり、愛し合っていた二人がお互いを庇って犯行に及んだというメロドラマ的な動機に改変されている。そのため、浅野先生が原作における桜樹殺しと鏡のトリック、尾ノ上・青山の殺害を行ったのに対し、的場先生は美雪の襲撃と七不思議の拡散という形で分業体制になっている。

分業にした影響で、ドラマは剣持警部が事件の動機部分(的場先生が高畑製薬の元社員であること・隠蔽工作のため七不思議を広めたこと)を解明し、はじめが鏡のトリックと浅野が共犯であることを見抜く結果になった。そのせいか、原作以上に剣持が有能な人物として描かれており、その分はじめの活躍度合いはやや薄まったきらいがあると個人的には思った。

 

そして五代目だが、主な改変ポイントを挙げると、

鷹島友代がカットされ、役割の一部を佐木竜太が担う

ワープロ暗号の内容が変更

③尾ノ上の死体発見現場が変更(場所はアニメ版と同じ)

④犯人(的場)の動機に関する背景が変更

「偽トリック」がカットされている

七不思議の名称及び内容が変更※3

以上の六点となる。

初代と比べると1時間半で完結させたため、キャラ設定等簡素化されている部分はあるが、旧校舎の雰囲気や怪人「放課後の魔術師」による殺害場面など、ホラーとしての空気感・世界観はうまく作られており、そこは普通に楽しんで視聴出来た。

ただ、ミステリとしては無視できない問題点がいくつかあったため手放しに褒められないのも確かだ。

 

その問題点の一つは、本作のメイントリックである鏡を利用した殺害現場の誤認。実は、今回のはじめの推理はドラマ制作陣がやってしまったあるミスによって、厳密には成立しないことになってしまっているのだ。そのミスというのは、今回リメイクするにあたってアレンジした放課後の魔術師の仮面が関わる。※4

画像

画像は、私が描いた歴代の「放課後の魔術師」の仮面だが、原作・アニメと初代は仮面のデザインが左右対称なのに、今回の五代目では右目に穴があいているし所々に傷があったりと左右非対称のデザインとしてアレンジされている。

ここまで言えばピンと来た方もいると思うが、鏡に映った虚像は左右が逆転するから、当然五代目「放課後の魔術師」の仮面は鏡のトリックを実行した場合、左目側に穴があいていないといけない。しかし、ドラマを見たらわかると思うが桜樹殺しで鏡のトリックを実行していた際に映った仮面と、尾ノ上を襲っていた時の仮面は全く同じであり、左右の逆転は起こっていなかった。そうなると、はじめが推理した鏡のトリックが用いられたという推理が間違っている可能性が出て来るのだ。

一応はじめの推理が間違っていないと仮定して、鏡のトリックの時には左右逆転させた「生物室」と書かれた札と同様に、仮面の方も左右逆転させたものを被っていた可能性はあるが、ここで改めて考えてもらいたい。「放課後の魔術師」の存在はあくまでも噂であり、仮面のデザインを具体的に知っている人間が学内にいないことを考えると、わざわざもう一組左右逆転させた仮面を作っておく必要も、それを使い分ける必要もないのだから、やはりはじめの推理と実際に劇中で映った仮面との間に大きな矛盾が生じざるを得ない状況になっているのではないだろうか?

更に、今回のドラマでは原作で的場先生が仕掛けた「ワイヤーを使って窓の鍵を閉める」偽トリックを配置していないため、はじめが行ったトリックの別解潰しが為されておらず、「鏡のトリックを使った人物が犯人」だと断定出来ない状況になっているのも非常にマズい点だ。原作は別のトリックが使われた可能性を否定しているからこそ、犯人当てミステリとしてロジックによる推理が可能だったのに、今回は鏡のトリックに矛盾点があり、トリックの別解も潰されていないのだから、実質動機のみで犯人を追い詰めたも同然。これでは予告や公式HPで冠した「本格ミステリ」とは言い難い。

 

あとこれは好みの問題もあるから一概に否定してはいけないことかもしれないが、桜樹が残した暗号も、原作では「かな文字→ローマ字」変換による暗号で、ワープロという機器に書かれていたことが解読のヒントとなっていたのに、今回は緯度・経度から国名を導き出すという暗号で、専門的な知識・情報が必要な上にドラマで提示する暗号として適切でないタイプ(調べるのに時間がかかる、ドラマを見ながら考えられない)だったので、この改変も好意的に受け取れなかった。せめて緯度・経度だとわかるヒントがあればまだ納得がいったのだけどね。※5

 

※桜樹の暗号のヒントについて。改めてドラマを見たところ、パソコンのちょうど左横に地球儀が置かれていたので、恐らくそれが暗号解読のヒントだったと思われる。

(2022.04.25 追記)

 

謎解きの面に関しては以上のように不満点が多くあるが、動機面は初代と同様に今回も同情の余地がある設定に変更されている。また今回は製薬会社から建設会社に変更したこともあって、死体を旧校舎に埋めて隠蔽する工作が今までバレなかったことが自然に説明付けられていたのは何気にうまい改変だったと思う。隠蔽工作をしたのが旧校舎を建てた建設会社そのものなのだから、そりゃバレにくいわな。※6

それから、青山ちひろ明確な意志をもって殺害しているのも原作や初代ドラマとはまた違う犯人像として印象的だった。悪いことをしていることに変わりはないが、原作の小心者であるが故の犯行と違って、今回の的場先生は悪行でもちゃんと責任を持って行っており、その辺りの潔さがあるからか、原作の的場先生よりかはクズ度合いは低かったかなと思う。あと、放課後の魔術師に関する「一世一代の大ボラ」を吹かなかったのも賢明な判断だったね。

 

※3:原作は「魔の十三階段」「あかずの生物室」「血に染まる井戸」「知恵の女神」「首吊り大イチョウ」「手首のはい回る部屋」「呪われた楽器室」の七つ。そして今回のドラマでは「知恵の女神」が「死を刻む大時計」、「首吊り大イチョウ」が「底なしプール」、「呪われた楽器室」が「赤い音楽室」として変更されている。

※4:推測に過ぎないが、五代目の「放課後の魔術師」の仮面のモデルは、映画学校の怪談2でボスキャラとして登場したからくり人形ではないかと思われる。

※5:例えば、暗号のタイトルを「ななのなぞ」ではなく「井戸・時計 どの暗号」にしておけば、一見すると七不思議の「血に染まった井戸」か「死を刻む大時計」に関する内容だと思わせられるし、続けて読めば「緯度と経度の暗号」になるから、暗号解読のヒントにもミスリードにもなる、ダブルミーニングのタイトルとしてピッタリではないだろうか?

※6:ただし、青山の死体を除いた六体の死体はバラバラの場所ではなく一箇所にまとめて埋められていたため、原作のようにわざわざ死体の埋められた場所に合わせた七不思議を的場先生は広めておらず、教師として潜入する以前から不動高校に伝わっていた六不思議を利用したということになっている。

 

※(2022.05.11 追記)

先日Twitter の方でフォロワーさんからDMをいただき、放課後の魔術師」の仮面とそのトリックに関する仮説について意見を頂戴した。それが実に興味深いというか面白い仮説だったのでここで紹介しつつ、私の考察も含めて再検討したいと思う。

フォロワーさんの仮説によると、はじめが剣持らの前で犯人のトリックを実演した際に利用した仮面と衣装は、(映像や状況から見て)犯人が隠していたものをはじめが見つけて利用したと考えられる。ということは、犯人は重要な証拠物件を雑に隠していたということであり、雑に隠していたということは、警察に見つかっても問題ない、いやむしろ犯人は「放課後の魔術師」の仮面が見つかる可能性を見越して今回のトリックを仕掛けたのではないか?…というのがフォロワーさんの仮説である。

 

つまり何が言いたいかというと、的場先生は通常の仮面(以下、仮面A)とは別に、鏡のトリック用に左右を反転させた仮面(以下、仮面B)をもう一組用意しており、桜樹殺しで鏡のトリックをはじめたちの前で見せた時は仮面Bを用いた。そして仮面Bは見つからないようどこかに隠して、仮面Aをわざとわかりやすい場所に隠しておく。そうしておけば、警察が仮面Aを発見し鏡のトリックを見破ったとしても、仮面が左右逆転していなかったことを論点にして自分に鏡のトリックは使えなかったと反論することが出来るのだ。

 

しかし「劇中の的場先生は反論していないじゃないか」と突っ込む人がいるだろう。それも当然、仮面が左右逆転してなかったことを示す客観的証拠(映像及び写真)がなかったからだ。

恐らく的場先生は佐木が撮影オタクであることを知っており、彼の趣味・性格をトリックに利用しようとしたのではないだろうか?※7ミス研の全員を呼び出せば、佐木も当然呼び出しに応じるし、開かずの生物室の一幕もキチンと撮影・録画してくれるとにらんだからこそ、上記の計画を考案し実行に移したと考えられる。ところが、的場先生の期待に反して佐木は宿直室に待機しており、実際に開かずの生物室の一幕を目撃したのは立花・美雪・はじめの三人だけだった。それで結局客観的証拠となるはずだった佐木の撮影映像が残らなくなり、的場先生は反論出来なくなってしまった。そう考えられないだろうか?

 

はじめの推理では、今回の桜樹殺しは突発的な殺人だと言っていたが、以上の仮説を踏まえると、実ははじめの推理は間違っていたのではないかと私は思っていて、桜樹を殺した後に急ごしらえで考えたトリックなのに鏡文字の生物室のプレートを用意していたというのは余りにも準備が良すぎると思うし、桜樹を殺した時に的場先生は放課後の魔術師に変装していたのだから、やはり突発的とは考えにくい。※8

これについて私が推理するなら、実は鏡のトリックは桜樹殺害前、少なくとも佐木がミス研に入部した頃には完成していたのではないかと思っている。原作の的場先生と違い、今回のドラマにおける的場先生は死体隠蔽のため容赦なく青山を殺した男だ。それくらいの覚悟がある彼なら、将来第二・第三の青山が現れることを見据えて殺害後のアリバイトリックを予め考えておいたとしてもおかしくはない。桜樹に関しても殺害当日以前からマークしていたと考えた方が自然なので、今回のリメイク版に関しては突発的な犯行でもアドリブで考えたトリックでもなく、ある程度の計画性をもって行われた犯行だと推理する。

 

という訳で、フォロワーさんからいただいた仮説に私の推理も加えてドラマの「別解」を考察したが、実をいうとはじめが剣持らの前で実演したトリックでも鏡に映った虚像の仮面は左右逆転していないので、厳密には上記の仮説も成り立たない(=単なるドラマ制作陣のミス)のだが、本格ミステリにおいて別解を考察・推理することは大事だしミステリ好きとしてはこれも楽しみの一つなので、紹介させていただいた。

 

※7:真壁のゴーストライターの件で佐木が的場先生に相談に行ったことからしても、両者の関係が疎遠でなかったことが推察されるし、的場先生も佐木の趣味について知っていたと考えるのは不自然なことではないと思う。

※8:鏡文字の生物室のプレートは、生物室のプレートを写真撮影し、そのデータをパソコンで読み込んだ後に鏡文字として左右逆転させたものをプリンターでプリントアウトすれば作れるので、桜樹殺害後に準備しようと思えば出来るのだが、美雪たちが到着するまでにそれが準備出来たか考えてみたい。

桜樹が真壁と別れた時にミス研の部室の時計は午後6時50分を指し示していたから、桜樹が青山の白骨を発見し暗号を作成した後に殺されたことから見て、死亡したのは少なくとも午後7時半前後ではないだろうか。10時にトリックを実行することを考えると、ざっと2時間半以内にトリックの準備が出来ていないといけない(ちなみに、美雪たちがミス研の部室に到着したのが午後9時50分頃)。それだけあれば儀式に必要な道具の準備と鏡文字の「生物室」プレートの印刷は可能だが、左右逆転させた仮面は2時間半で複製出来るとは思えないので、結局仮面の存在が鏡のトリックのアドリブ説を妨げるのだ。元から左右逆転させた仮面があったという可能性もゼロではないが、それを言ったら何でもアリになるような気がするので、私はあくまでもアドリブ説は否定するつもりだ。

 

さいごに

五代目の初回を飾った「学園七不思議殺人事件」は(前述した通り)世界観や旧校舎の空気感といった面では非常によく作りこまれていた一方、ミステリとして矛盾点や問題点が多く、30分拡大の1時間半で放送するのではなく、SPドラマとして2時間くらいの尺で映像化していればキャラ設定の描写も充実したものになっていただろうし、ミステリとしても上手く出来ていたのではないかと思ってしまう。海外へ配信するドラマであり、過去シリーズの集大成・決定版として制作することをアピールしたのだから、そこはドラマとしてもミステリとしても質の高い作品を期待していたし、今後の課題点としてやはり甘く評価する訳にはいかなかった。ご容赦願いたい。

 

まだ初回なので道枝さん演じる金田一はじめや他レギュラー陣の特色は見いだせなかったが、これはこの先注目していきたい所として今回はあまり触れないことにする。

ただ今回の「学園七不思議」だけの話になるが、はじめの感情のベクトルは殺された桜樹先輩や襲われた美雪よりも、警備員の立花に向かっている部分が多い印象を受けた。原作では桜樹先輩とはじめは言葉を交わしており、自分のことを評価してくれた彼女が殺されたことに加え美雪が瀕死の重傷を負った。そのことにはじめはショックを受けたと同時に犯人に対して怒りを覚え、犯人とそのトリックを暴いている。

しかし、今回のドラマでは桜樹先輩とはじめとの間に接点がなく、美雪も襲われたとはいえ早々に回復したため、ショックは多少なりとも受けていただろうが原作ほどではなかったと思う。むしろ、日ごろから親のように自分のことを叱ってくれたツンデレ気質の立花が実は娘の失踪の真相を知るため学園に警備員として潜入し、敵討ちの機会をうかがっていたという彼の知られざる顔に強いショックを覚えたのではないだろうか。

原作のはじめは真相を皆の前で語るより前に立花が青山ちひろの父親であることを薄々勘付いていたのに対し、ドラマのはじめは犯人とトリックの推理に意識が向いていて立花は完全にノーマークだったから、よりその衝撃も強かったと思われる。今回のドラマが原作ともアニメとも、そして初代とも違うのは、尺の問題もあるがはじめの感情のベクトルの向かう方向や大きさだったり、何にどれだけショックを受けたかという違いも大きく影響していると私は考えている。

 

 

さて、次回はリメイクではなく新作「聖恋島殺人事件」が2週にわたって放送される。既に原作は読んでいるが、「聖恋島」はハウダニット、つまりトリックに力の入った作品であり、フーダニット(犯人当て)に関しては比較的わかりやすい作品なので、未読の方はドラマを見て推理するのが良いかもしれない。

「探偵が早すぎる」シーズン2感想 #2(事故死に見せかける気あるのか順三郎ォ!!)

前回もツッコミ所はあったけど、今回はもっとツッコミ所満載なのでバンバンツッコミます。でも、酷評とかではないよ?面白いことは面白いから。

 

(以下、ドラマのネタバレあり)

 

2話感想(エタノール発火)

今回は一華が勤める化粧品会社に潜入した美津山四兄妹の三男坊・順三郎が暗殺計画を仕掛ける。順三郎は四兄妹の中でもバカにされ見下されるキャラであり、そんな彼が兄・姉たちを見返そうと発起したがやはりバカが考える計画だな~と思ったよ。

 

順三郎の計画は、一華が仕事で着ている白衣に多量のエタノールを噴霧し、可燃性の衣類として下準備しておく。そうして清掃業者として侵入し、一華がこれまた身に着けている天然水晶のブレスレットを火打石として利用することで、白衣に着火させ焼死させるという計画だった。※

ドラマ本編を見た方ならおわかりだと思うが、火災が起こっていないエントランスホールでいきなり人体発火が起こり人が死んだらどう見ても事故には見えない。この時点で「事故に見せかけて殺す」という前提を無視した計画なのがもうバカ過ぎるっ!

それにね、エタノールって揮発性が高い液体から前日の間に会社に潜入して白衣にいくら噴霧した所で、翌日にはほとんど揮発して白衣に残っていないはずだから焼死させるレベルまで燃えるとは思わないんだよね。

(一応これでもタリホーは前勤めていた会社でエタノールを扱ったことあるから取り扱いとか特性は知っているよ)

劇中で「特殊なエタノール」と言っていたから、多少加工して揮発性を弱くした可能性はあるだろうが、それでも臭いの問題はクリア出来ない。エタノールは無臭の薬品ではないし、焼死させるために多量に使えばそれだけ臭いも目立つから、その点もガン無視で計画しているのが何だかな~って思った。

 

※今回のように水晶をはじめとする物質に圧力を加えると圧力に比例した分極が現れる現象を圧電効果と呼ぶ。ちなみに、千曲川ピエゾ効果と言っていたが、別名であるだけで内容自体は同じ。

(2022.04.28 追記)

 

千曲川のトリック返しについては、噴水に大量のウォッカを流し、水だと思い込んでウォッカ浸し状態になった順三郎に火を放つというもの。ウォッカも酒だから臭いはあるのでは?と思ったが、基本的にウォッカは無味無臭でクリアな味わいらしいので、順三郎が油断して引っかかったのも別にドラマの都合でそうなった訳ではなさそうだ。

liquorpage.com

それに、低温でもアルコール度数が高ければ発火はするので、その点でもウォッカを利用した千曲川の方が一枚上手だったと言えるだろう。

 

タリホーならこうして暗殺する

今回の暗殺計画は問題点がいくつかあったが、ポイントとしては

①人目の問題(大勢の人の前でいきなり人体発火は不自然)

エタノールの揮発性の問題(前日に白衣に噴霧しても揮発して意味がない)

エタノールの臭いの問題(殺傷するだけの量を使えばそれだけ臭いも目立つ)

と、主に3つの問題が挙げられる。

この問題点をクリアして、なおかつ順三郎と同様にエタノールを利用した暗殺をするならどうするか。

 

まず私なら、化粧品会社を舞台にせず、一華が通勤していた公園沿いの道路を舞台にする。そして肝心なのは大雨が降った翌日に実行することだ。

何故大雨の翌日に実行かと言うと、雨の日の翌日には道に水たまりが出来るでしょ?その水たまりをエタノールが溜まった水たまりにするのだ。勿論、揮発性のことも考えて、一華の通勤(或いは退勤)時間からそう遠くない時刻にエタノールの水たまりを作っておく。この時、水たまりを一華が避けないよう水たまりのサイズや深さに注意して作る。(当然作る所を見られないように!)

そうして作ったエタノールの水たまりに一華が入った所で燃えたもの、例えば吸いかけのタバコなんかを放りこめば一気に水たまりは火の海となり燃え上がるのだ。

ただ、服にまで引火させるのは難しいと思うから事前に靴や衣類を引火性の素材にすり替える(または引火性の衣類を着させる)といった細工も必要となる。また、事故死に見せかけなければならないので、不法投棄に見せかけてエタノールの容器をそばに転がしておくことも必要だろう。

 

あと臭いの問題はどうするかと言うと、これは化粧品会社で異臭騒ぎを起こせばクリア出来ると思う。今回の順三郎のように会社に潜入して異臭を放つもの(出来るだけエタノールに近い臭いのものが良い)を置いておき、暗殺を決行する当日に一華の身体にその異臭がかかるようにする。そうしておけば、退勤時エタノールの水たまりの近くまで来たとしてもその臭いが自分の身体に染み付いた臭いだと誤解してそのまま水たまりに入るだろうしね。

 

以上の暗殺計画を要約すると、

①場所は一華が通勤する公園沿いの道路

②日時は大雨の降った翌日、一華の退勤時を狙う

③事前準備として会社内で異臭騒ぎを起こし、一華に引火性の衣類を着用させる

④退勤前にエタノールの水たまりを用意し、一華が水たまりに入った所で吸いかけのタバコを放り込む

→一気に水たまりが火の海となり焼死。不法投棄されたエタノールがこぼれ、運悪くタバコが引火したことによる事故として処理される

完璧ではないにせよ、これなら順三郎の計画よりはボロが少ないと思うが、どうだろうか?

「探偵が早すぎる」シーズン2感想 #1(完全オリジナル新作で帰ってきた探偵)

2018年に連ドラシーズン1、2019年にSPドラマが放送された井上真偽原作の「探偵が早すぎる」がまさかの連ドラとして帰ってきた。しかも今回のシーズン2はドラマオリジナル脚本の完全新作であり、主人公・十川一華が美津山財閥の遺産2000億円を相続することで、またしても命を狙われる。

 

ドラマオリジナルの演出や脚本が功を奏してシリーズ化するというのはライアーゲームをはじめとする過去のドラマでもよくあることなので特別おかしいことではないが、今回のシーズン2を見るうえで注目しておきたいポイントや、初回の感想をまず語っていこうと思う。

 

(以下、ドラマのネタバレあり)

 

1話感想(敵陣営にボスがいない?)

シーズン1は5兆円の遺産相続により一華が父親の親族である大陀羅一族から命を狙われるという話だった。今回も前シーズンのプロットは踏襲しているが、一族全体から狙われるのではなく、財閥のトップである秋菜の子供(二郎・純三郎・成美・明日香)たちに狙われるというのが前とは違う部分だ。

tariho10281.hatenablog.com

個人的に気になるのは、前シーズンのようなボス的存在が敵陣営(美津山四兄妹)にいないこと。前シーズンでは片平なぎささん演じる朱鳥といった明確なボスがいたのだが、今回の敵陣営は母親から勘当同然の扱いを受けている四兄妹。しかも性格はヒステリックでおよそ知的には見えないから、これだけを見ると原作や前シーズンの大陀羅一族と比べてスケールダウンしている。

流石に最終回までこの四兄妹との戦いを描くだけでは安直過ぎるのであり得ないと思うが、そうなると考えられるのは四兄妹はシーズン2における敵陣営の四天王で、本当の大ボスが裏に潜んでいるのではないかという可能性だ。四兄妹を噛ませ犬として利用し、その裏で自分の計画を徐々に遂行していくという、そんなボスがね。

で、そんなボスが隠れていると仮定したらやはり一番怪しいのは秋菜の孫にあたる宗介・葉子の兄妹。父親の宗太が行方不明という訳あり事情を抱えているから変に勘ぐっている所はあるが、シーズン1でも味方側だと思った人が大陀羅一族に買収されて一華の命を狙った展開があったので、この兄妹も単なる良い人で終わるとは到底思えない。行方不明の宗太が裏で兄妹を操っている可能性もあるが、とりあえず次回以降は宗介・葉子の兄妹の動向に注目していきたい。

 

話は変わって初回で実行された暗殺計画について。

今回は美津山四兄妹の次男坊・二郎が考案した暗殺トリックが2つあり、1つは母親を燐中毒で毒殺するトリック、もう1つは車に仕掛けた装置で宗介もろとも一華を事故死に見せかけ殺害するトリックが実行された。勿論例によって千曲川によってトリック返しを喰らっているが、後者の事故死に偽装するトリックに関しては、車に細工の痕跡が残るという点であまりクレバーなやり方ではない。劇中で詳しく解説されていないが、恐らくブレーキの油圧回路の機能を停止させる装置を仕掛け、車が計画通り事故を起こしたら通報者を装い警察が到着するまでの間に仕掛けた装置を車から取り除く…という段取りだったと思う。

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本来ならば、千曲川がいつどのように二郎の計画を見抜いたのか知りたいし、これが小説ならそこもちゃんと描かないと作品としての価値が損なわれるのだが、初回なのでこれくらいは文句を言うレベルではないだろう。このブレーキの仕掛けは二郎が化学・物理系統に詳しい人物であることを示すためのトリックとして評価しておく。

 

そして最初の燐中毒の毒殺トリックだが、屋外に敷かれた屋敷の配線にスプリンクラーの水をかけて漏電を引き起こし停電させ、秋菜に黄燐マッチを使わせることで燐を含んだ煙を吸って死亡させる…というのが計画の全容だ。

黄燐自体は珍しい物質ではないが、一般的に発売されている赤燐マッチと違い毒性が強く、1922年に国際的に完全に製造が禁止される前は、黄燐による中毒で死亡する幼児や黄燐を含んだ蒸気を吸い続けたことで顎が壊死する人がいたという。今回は1830年代に製造されたスウェーデン産の黄燐マッチに更に黄燐を厚塗りすることでターゲットを確実に殺す手法がとられている。

実際、1830年代にはフランスで黄燐マッチが開発されているから何気にこの辺りの設定は適当に考えたのではなくちゃんと調べていることがわかるし、オリジナル製造の黄燐マッチではなくアンティークものの黄燐マッチを利用している所に芸の細かさを感じる。ちなみに、スウェーデンでは1855年に赤燐を使った「安全マッチ」が発売されているので、もし劇中の黄燐マッチが1850年代製造だったら齟齬をきたしていたのだが、そこもちゃんと調べていたのか、齟齬の無いよう作られている。

 

地味ながらも黄燐マッチ毒殺のトリックは以上で述べたように黄燐マッチのことを調べたうえで書かれた脚本だということがわかったし、しかも燐を用いた毒殺と配線を漏電させ停電を起こすトリックは、かのアガサ・クリスティの小説でも用いられている脚本の宇田学氏がクリスティの作品を読んで今回のトリックを思いついたのかどうかはわからないにせよ、クリスティ好きとしてなかなか良い合わせ技のトリックだったと思う。

 

※具体的には燐を用いた毒殺は『もの言えぬ証人』、配線に水をかけ停電を起こすトリックは『予告殺人』で使われている。もっと言うと、一華が千曲川が仕掛けた紐に引っかかって転ぶ場面があったが、『もの言えぬ証人』で被害者が階段に張られたワイヤーに足が引っかかって転倒する場面を想起させるという点で、実はあの場面もクリスティ作品のことが意識下にあったから生まれた場面なのだろうかと勘ぐってしまう。

 

まだ初回ということもあり小粒なトリックだったが、この度のシーズン2は「春のトリック返し祭り」という副題を冠しているので、次回以降は暗殺トリックの量は当然ながら質の方も前シーズンと比肩するレベルのものを期待したい。コメディパートばかり増強して肝心のトリックを疎かにしているようでは本末転倒だし、原作のタイトル・設定を借りて完全オリジナルの新作を作っているのだから、原作者の井上氏をリスペクトしたドラマ作りが為されることを願う。

新作放送記念、ドラマ「金田一少年の事件簿」を語っていこう(第四回:初代・堂本剛版)

4月から放送される道枝駿佑版・五代目金田一による新作ドラマも放送まで二週間をきった。第四回目、つまり歴代金田一の振り返り企画もこれで最後になるが、最後は初代・堂本剛版の感想をお送りしよう。

初回放送から20年以上経った今でも金田一少年といえば堂本剛!」と主張する人が大勢いるほどの根強い人気を誇る初代は放送当時も高視聴率を記録し、特別番組や映画化と、金田一少年の映像化では過去一のメディア展開を広げた。この人気の理由を私がここで説明する必要は今更ないと思うが、改めて初代の魅力や(特別番組を除く)各エピソードの特徴を語っていきたい。

 

SPドラマ1:「学園七不思議殺人事件」

記念すべきドラマ金田一少年の始まりは1995年4月に放送された「学園七不思議殺人事件」。原作の第一作目は「オペラ座館」だが、はじめのホームグラウンドである不動高校を舞台にした本作をドラマの一作目にしたのは賢明な判断だった(アニメの1話も「学園七不思議」から始まる)。学校は誰もが知っている場で「オペラ座館」と違って専門的な文学知識も必要ないから、初見の視聴者でも取っつき易いという理由もあるが、1990年代と言えば学校の怪談が全国的にブームになった頃であり、そういう当時のトレンドに乗っかって「学校の七不思議」をモチーフにした本作をドラマ一作目として起用したのかもしれない(ちなみに映画「学校の怪談」が公開されたのは3ヶ月後の7月)。そのせいかわからないが、ホルマリン漬けの生首がカッと目を見開くといった、ホラー演出に気合いが入っているのがドラマの特徴の一つである。

当時弱冠15歳だった堂本さんがはじめを演じているのは言うまでもないが、物語の最初ははじめが自転車で転校先の不動高校に向かうシーンから始まる。この時のブレーキが壊れた自転車というのは本家・金田一耕助のドラマでは定番のアイテムで、石坂浩二さんが金田一を演じた映画「悪魔の手毬唄」や、古谷一行さん主演のドラマ「犬神家の一族」でも同様のシーンで自転車から転げ落ちる金田一が見られる。序盤からこのような場面があるのは、本家ジッチャンに対するリスペクトが感じられて良かったと思う。

肝心の事件についてはトリックこそ原作と同じだが、事件の構図にはドラマオリジナルの部分があり、はじめの推理も実は事件全体の半分くらいしか解いていない。では残りの半分は誰が解いたのかというとあの剣持警部なのだ。初代の剣持はかなり紳士的な性格で、原作で初登場した「オペラ座館」の時の横柄で短絡的な剣持とは全然違う。しかも剣持が解いた半分というのは原作の犯人の犯行動機であり、はじめが解いた半分はトリックとドラマオリジナルの犯行動機だから、はじめが単独で解いたというより剣持と合同で事件を解決した印象が強い。

そういう訳で、推理面に関してははじめの推理だけが一際輝いているという感じはなく、犯人に対する説得や訴えかけみたいな場面もなかったので、一作目から初代金田一の魅力が十全に発揮されていた訳ではない、ということが今回改めて見てわかった。

あとこれは既に知っていると思うが、五代目・道枝版金田一の初回が本作「学園七不思議」に決定した。過去エピソードのリメイクはこれまでにない試みなので、令和版の「学園七不思議」はどういう脚色になるのか、また放送後に感想をUPするつもりだ。

(ここからネタバレ感想)原作は的場先生単独の犯行によるものだったが、ドラマは学園七不思議の成立と美雪の襲撃は的場先生の仕業で、それ以外の青山を含めた殺人はドラマオリジナルキャラの浅野先生による犯行として改変された。これは原作通りやると単なる自己保身のための殺人であり、ドラマとして余りにもあっけないというか、犯人がただのクズ野郎という感想しか心に残らない可能性があったため、教師と元教え子が恋愛感情を抱きお互いに庇い合っていたという、メロドラマ的な動機でカバーしたと思われる。(ネタバレ感想ここまで)

 

 

連ドラシーズン1

SPドラマから約3ヶ月後に放送されたシーズン1は、最終エピソードを除き1話完結の構成。長編エピソードのため本来なら前後編でゆっくり世界観を描くべき所をあえてスピーディーかつテンポ良く、それでいて原作の骨となるトリックはキチンと押さえて描いているのがシーズン1最大の特徴だ。

 

1話:「異人館村殺人事件」(欠番)

「学園七不思議」から約三か月後に放送が始まったシーズン1初回のエピソードは「異人館村殺人事件」。だが、本作は使用されたトリックが島田荘司氏の『占星術殺人事件』のトリックを丸パクリしたということで原作が発表された当時島田氏本人から抗議を受け、現在でもドラマは欠番扱いとなっており、原作でも『占星術殺人事件』のトリックを使用したという注意書きがある。当然ながらアニメ化には至っていない。

そういうこともあって、この初回は幻の回でもあるが、一部動画サイトでは欠番となった初回の内容がアップロードされており、全く見れない訳ではない。勿論この方法は邪道なので視聴は個人の責任でお願いするが、見ない選択をとる方のために一応原作との違いを言っておくと、原作では村の名称が六角村で6軒の異人館があったのに対しドラマは尺の都合で十文字村に変更され、名家の数も時田家・兜家・風祭家・冬木家の四家に減っている。それ以外は大体原作通りで、今では考えられない衝撃的かつ猟奇的な殺人模様を目の当たりにするだろう。

(ここからネタバレ感想)丸パクリで問題となったトリックは、切断したミイラのパーツを入れ替えてミイラの数を本来の数から一体増やすというもの。パクってしまったこと自体問題ではあるが、本作では身体のパーツが一部欠けていることに対する理由付けが「まるで悪魔に持ち去られた」という漠然としたもので、島田氏の作品で用いられた理由付けに比べると余りにも改悪に近い用いられ方をしているのが残念なポイントだ。また、このパーツ入れ替えのトリックが島田氏の作品ではフーダニット+意外な犯人につながっているのに対し、本作では真犯人を特定する材料に全くなっていないというのも輪をかけて悪い点と言えるだろう。しかも、最初の時田若葉殺しにおけるベッドの吊り上げトリックも、実は島田氏の同作品からパクったものだから、そりゃ苦情も来るわな、と納得せざるを得ない。

トリックの盗用に関しては抗議を受けて当然だが、意外にもファンの間では人気のあるエピソードで、犯人の猟奇性と狂暴性がシリーズ史上トップクラスということもあって私もかなり印象に残っている。「悪名は無名に勝る」とはよく言ったものだ。(ネタバレ感想ここまで)

 

2話:「悲恋湖殺人事件」

1話が欠番扱いとなり事実上の初回となった2話は、原作でも犯人の動機が(ある意味)シリーズ中最高レベルに狂っていることでお馴染みの「悲恋湖殺人事件」。1話完結のため倉田壮一と河西さゆりがカットされているが、あとは大体原作通り。後にシーズン2でも登場するフリーライターのいつき陽介は本作が初登場となる。「13日の金曜日」に出てくる殺人鬼・ジェイソンをモデルにしたこともあって猟奇度もシリーズ中なかなかのレベルだが、ちゃんと本格ミステリとして秀逸な部分もあるので、金田一少年を始めて知った人にまずおススメしたいエピソードだ。

(ここからネタバレ感想)本作はミステリとしては「顔のない死体」に分類される内容で、被害者と加害者の入れ替わりというオーソドックスな手法がとられている。それでもミステリとして秀逸なのは、被害者の顔が潰されているにも関わらず身元がはっきりしている(=顔を潰す合理的なメリットが一見するとない)ことや、橘川が舞台となる悲恋湖にいないことが「被害者と加害者の入れ替わり」という真相を見えにくくさせているからだ。また、美雪が負傷したことに対する負い目から率先してボートに乗り、結果犯人に殺されるという「悲劇の人物」としての演出が真犯人の計画・動機を巧妙にカモフラージュしている所がまた凄い。

ミステリとしての巧妙さもさることながら、やはり「S・K皆殺し」という衝撃の動機が強烈。あれだけ巧妙に橘川を殺して入れ替われたのだから、もうちょっと知恵を働かせたらターゲットを絞れたのではないかと正直思わないでもないが、やはりこの狂気の動機あってこその「悲恋湖」だと思う。(ネタバレ感想ここまで)

 

3話「オペラ座館殺人事件」

オペラ座館殺人事件」は原作の記念すべき最初のエピソード。歌島のオペラ座館は後に二度も(37歳の事件簿も含めると三度)殺人が起こる呪われた土地であり、正に金田一少年シリーズの原点とでも言うべき作品だ。

アニメ版の「オペラ座館」はかなり気合を入れて作られており、犯人や設定など改変・脚色されているが、このドラマ版も同じく大幅な改変がされており、演劇部員の早乙女・仙道・神矢がミス研部員の鷹島・真壁・佐木に置き換えられている、演劇部顧問の緒方先生がカットされている等の変更がある。特にドラマ版の鷹島は本作に加えてシーズン2の「墓場島」でも重要な役を担っており、原作で潔癖症の地味キャラという印象しかなかった鷹島の設定がいじられているのが初代金田一少年を語る上で外せないポイントと言えるだろう。ネタバレになるので詳しくは言えないが、ドラマ版の鷹島は何というか、二重底かと思ったら三重底だったという感じの闇の深い女なのだ。

ドラマの見所としては、当然ながら怪人「歌月」の暗躍と、オペラ座館のオーナー・黒沢を演じた夏八木勲さんの存在感ある演技だろうか。正直な所ドラマ「オペラ座館」は若い俳優が大半を占めており演技的な面では拙い部分やたどたどしい部分が目立っているのだが、夏八木さんの名演のおかげで特に終盤の展開はキリっと締まった感じがしたと思う。

(ここからネタバレ感想)本作のトリックの一部は『オペラ座の怪人』の作者、ガストン・ルルー『黄色い部屋の謎』からとってきたもので、ルルーの小説の方では廊下で犯人が消えるという謎として提示されたのに対し、本作では犯人が窓から海へ飛び降り自殺したように偽装するためのトリックとして利用されている。トリックは同じながら見せ方が違っているので丸パクリでないことだけは弁護しておきたい。

個人的にちょっと気になるのは二番目の桐生殺しのトリック。窓枠に沿って輪っか状にワイヤーを張り、ターゲットが窓から首を出した所を見計らって真上の部屋から引き上げ吊るすというトリックだが、滑車もなしに窓枠を支点として女性一人を吊るし上げるってかなりの腕力というか筋力がないと出来ないのでは?吊るされる本人も必死で抵抗することを思うと下から上へ引き上げる力よりも上から下へ引き下ろす力の方が強くなると思うから、実際にはあんなにうまくいかないはずだ。

原作では犯人が仕掛けておいたボウガンの矢を外しておかなかったため、犯人をみすみす自殺させてしまう大失態を犯したはじめだが、ドラマでは矢を外していたためその点は良かったと思う(結局自殺することに変わりはないけど…)。また、黒沢が月島に演技指導をしていたという改変のおかげでドラマは1話完結ながらも物語として深みが出ていたのも評価ポイントの一つである。(ネタバレ感想ここまで)

 

4話「秘宝島殺人事件」

「秘宝島殺人事件」は財宝が隠された島で起こる連続殺人で、殺人が起こる度に人形が減るというのはアガサ・クリスティそして誰もいなくなったをオマージュしたもの。

島に置かれている石像や、死体をバラバラにするという犯人の猟奇さから本作の怪人を「山童(やまわら)」だと思っている方もいると思うが、原作含めて本作の怪人の正式名は「招かれざる客」であり、犯人の正体も物語の中盤である程度は限定されてくる。特にドラマ版はツアー参加者の火村康平、茅杏子がカットされているため、より犯人が限定されてわかりやすい作りになっている。

内容は大体原作通りだが、真相判明後は原作と真逆の結末を迎えており、原作とはまた違うドラマチックな展開と演技が見所の一つだ。あとクリス・アインシュタインを当時14歳の金子ノブアキ(当時は「金子信昭」名義で活動)さんが演じていたのは小ネタとして挙げておく。

(ここからネタバレ感想)アニメ版を見た時はあまり気にしてなかったが、今回の怪人を「山童」ではなく「招かれざる客」にしたのは招待客の中に犯人=佐伯航一郎がいると読者(視聴者)にミスリードさせ、ホスト役の美作碧を容疑者圏外におくという狙いがあったと思われる。招待客に注意を向けさせる他にも、死体をバラバラにする(ドラマは胴体部分から真っ二つに切断)行為がある種の目くらましになっているのもミステリとして巧妙な部分だ。死体をバラバラにするというのは猟奇的だが、合理的に考えれば死体の運搬を容易にするためであり、そこから殺害現場誤認のトリックも導き出せるし、犯人が力のある成人男性よりも非力な女性や未成年者に絞られる。

はじめはトイレの中蓋から航一郎の変装を見破ったが、改めて見るとこれだけで碧が男性ではないかと疑うのはちょっと無理があるかな…ww。あの状況では彼女(彼)が必ずしも用足しをしていたと断定は出来ないからね。(ネタバレ感想ここまで)

 

5話「首吊り学園殺人事件」

5話は「首吊り学園殺人事件」。原作初期のエピソードで「異人館村」と並んでアニメ化されていない話だが、これはトリックの問題ではなく、物語の背景となるいじめ描写がかなり陰惨で、被害者も胸糞の悪い人物だったことも含めてアニメに向いてなかったからではないかと思う。ただ、ミステリとしては、はじめを途中まで完全に騙したという点でシリーズトップクラスの知能犯であり、犯人自体は犯行計画において全くミスをしていなかったというのもそれを裏付けている。

原作は四ノ倉学園という予備校を舞台にしているが、ドラマは不動高校の特別クラスで起こった事件に改変されている。つまり、「学園七不思議」に次いで起こった学内の連続殺人という点で原作以上に不動高校は魔所となっているんだよね…ww。まぁそもそも原作も本作含めて、不動高校の教師や生徒が殺人をやらかすヤバい学校なので、どっちにしろヤバいことに変わりはないのだが。

他にも登場人物が一部変更されたり被害者の殺害順が原作と異なっていたりと色々改変されているが、メイントリックや殺害動機、そしてはじめが犯人特定に至った手がかりなどは原作準拠だ。

ドラマの見所としては、原作にあったニワトリの首吊りというショッキングな情景の映像化や、髪がのびる絵というオカルト要素などあるが、個人的に犯人の必殺仕事人みたいな殺害シーンにはちょっと笑ってしまった。三味線屋の勇次とか組紐屋の竜を彷彿とさせるよアレは。

(ここからネタバレ感想)殺害の順番を誤認させることでアリバイを確保するトリックはミステリ小説では前例がいくつもあるが、教師という立場を利用してターゲットにのみ別時限のテストを受けさせたり、わざと重要容疑者として勾留されることでアリバイを確保したり、更には犯人の障害となる探偵を逆に利用しているのが歴代一の賢さと言われる所以だ。カンニングと筆圧の手がかりさえなければ、完全犯罪は達成していたに違いない。

ドラマは深町が描いた絵の女性の髪が何故伸びるようになったか説明されてなかったが、これは上から塗った水彩絵の具が劣化により少しずつ剥がれていった結果、髪がのびて見えるようになったとのこと。

あとこれは余談だが、本作は後に四代目でドラマ化した「獄門塾殺人事件」と少々プロットが似通っている。予備校を舞台にした殺人・いじめが殺害動機の背景・教師の立場を利用したアリバイ工作といった共通項があり、レギュラーメンバーの真壁が犯人に殺されるのではないかと怯える下りは、四代目の佐木からも見受けられた。(ネタバレ感想ここまで)

 

6話「首無し村殺人事件」

6話は横溝正史テイストが横溢する「首無し村殺人事件」。原作は「飛騨からくり屋敷殺人事件」というタイトルだが、ドラマの舞台は宮城県のためタイトルが変更されている。とはいえ、作品全体を見るとからくり要素は巽家の合わせ扉の間くらいしかないので、タイトルとしては「首無し村」の方がピッタリな気がする。また本作は剣持とはじめがお互いに「はじめ」「オッサン」と呼び合う間柄になる切っ掛けとなった事件であり、そういう意味では(事件の真相も含めて)剣持警部にとって特別な事件だったと言えるだろう。

遺産相続による家庭内の波乱や落ち武者の祟りなど「犬神家の一族」「八つ墓村」といった横溝正史の代表作を物語に取り入れているほか、顔のない死体をテーマにしているのも本作をより横溝らしくしている一因だと思う。横溝も自身の小説で顔のない死体をテーマにした作品をいくつも発表しているが、本作では顔のない死体に密室殺人を掛け合わせているのがポイントで、それがミステリとしての面白さになっているのと同時に、犯人特定の手がかりにもなっているのが優れた所だ。

あとこれは個人的には注目ポイントと言うほどでもないが、ゲスト出演として現在は政治家として活動している山本太郎氏が巽龍之介役で出演している。

(ここからネタバレ感想)一体の死体の首と胴体を切り分け二体の死体として偽装するのが本作のメイントリックだが、そこに嬰児交換猿彦というスケープゴートが組み合わさることで真相が見えにくくなっているのが巧妙。実の子供に遺産相続させるため、何十年も手をかけて育てた子供を殺すという信じがたい犯行動機もトリックに一役買っていると言えるだろう。鬼畜と言えば鬼畜な犯人だが、原作・アニメでは征丸が遺産相続人だと判明した時の彼の顔に、昔紫乃をいじめ抜いた同級生・綾子の面影があったことが描かれており、綾子本人に復讐出来なかった鬱憤をその子供に向けたという点に関しては、悪いことに変わりはないが1ミリくらいなら同情の余地があると思う。

はじめが指摘した猟銃を征丸に向けた龍之介に対する紫乃の態度だが、正直これはどっちともとれる態度であり、龍之介を助けるための行為ともとれるし、征丸を助けるためにも見える。要はダブルミーニングとして意味がある場面なのだが、実際銃が暴発して龍之介が死ぬ可能性があったとしても、それが実の息子かどうか関係なく普通は止めるだろうから、これで紫乃を犯人と推理するのは論理的に弱い。(ネタバレ感想ここまで)

 

7・8話「蝋人形城殺人事件」

シーズン1最後のエピソードは「蝋人形城殺人事件」。シーズン1で唯一前後編として放送された本作は、クローズドサークル内で推理作家・探偵・刑事といった殺人に関連した職業の人々が招待され、城主・Mr.レッドラムによって招待客が次々と殺される。正に王道のプロットでありシーズン1の最終回に相応しい内容だ。また、アイアンメイデンを用いた殺人や首切断など、トラウマ級の名場面も原作以上に盛り沢山なのがドラマ版「蝋人形城」の特徴と言えるだろう。

原作との違いは、まず明智警視が登場しない代わりに剣持が参加する。そして明智から剣持になったことにより、明智の代わりにはじめと推理を戦わせる役どころとして銭形ケンタロウというドラマオリジナルの登場人物が追加された。彼はあの銭形平次の子孫であり、これによって金田一 VS 銭形による子孫同士の推理対決が展開されるのが本作の見所である。また、弁護士・山田隆明も同じくドラマオリジナルの登場人物だが、彼は原作の坂東九三郎の役割を一部継承する。

また、本作では芸術犯罪・完全犯罪についても語られており、それに対するはじめや剣持の怒り、感情の吐露は視聴者の心を打つ名シーンであった。同じ芸術犯罪を目論む「魔術列車殺人事件」の犯人と違って、本作の犯人は壮絶な過去を負っているため、その犯人に対するはじめの訴えかけがちゃんとドラマとして成立しているのも素晴らしい点ではないだろうか。

(ここからネタバレ感想)蝋人形を利用したアリバイトリックは、換気扇のトラブルがなく、人形に打ち込むための杭を別で用意しておけば、ほぼ完璧だったと思う。あとは指輪を暖炉に誤って放り込んでしまったのも良くなかったが、指輪ってそうそう簡単に指から外れなさそうだから、これはフーダニットとしてダメ押しで加えられた手がかりと考えるべきだろう。原作では3番目に死ぬはずだった坂東はドラマだと落ちて来た鉄の十字架が身体を貫通したことで死亡するが、刺さるなんてレベルではなく背骨も貫通してたからね…ww。ちょっとあり得ない感じはするが、ある意味オカルトというか因果応報的なオチだからあれくらいでちょうど良いのかもしれない。(ネタバレ感想ここまで)

 

 

SPドラマ2:「雪夜叉伝説殺人事件」

SPドラマ2本目は「雪夜叉伝説殺人事件」。金田一少年では冬の雪山を舞台にした事件がいくつもあるが、意外にも原作通り冬に起こった事件を扱ったのは本作くらいで、撮影時期に合わせて冬設定だった原作を夏の時期に変更している事件がこの後放送される第二シーズンにはある。そもそも、本作は冬でないと成立しないトリックを用いているので、季節をいじる訳にはいかないのだけど。

怪人「雪夜叉」による殺人シーンが冒頭から描かれているが、本作はドラマ撮影ではじめと剣持が背氷村に訪れているという設定で、冒頭の雪夜叉による殺戮シーンもドラマ撮影のものだったという劇中劇の構成がドラマに良いアクセントを与えている。

そして今回から明智警視が登場。当初は噛ませ犬的な扱われ方であまり良い役どころではなかったが、後にはじめと良きライバルとして関係を育む眉目秀麗な刑事である。だが、ドラマで明智警視が登場するのは初代のみで、原作の明智が持つ嫌味要素をより強調させた性格の悪い刑事として描かれている。彼の性格は後に登場する「金田一少年の殺人」でも変わらず、ドラマの明智は最後まで噛ませ犬だった。本作では、そんな性格最悪の明智警視(+真壁) VS はじめ(+剣持)」の推理対決が物語の見所の一つになっている。

原作との主な変更点は、比留田の性別が男性から女性に変更され、比留田の役割を高田洋一というドラマオリジナルの人物が担うこと。事件の元凶となった飛行機事故がバス事故に変更されたこと。鬼火の証言をした老人がより重要な登場人物になったこと、この三点くらいだろうか。他にも一部登場人物がカットされている等細かい改変が見られる。

それから、物語の最後に堂本光一さん演じる銀狼怪奇ファイル」の主人公・不破耕助がはじめと会話を交わしているが、次クール放送するドラマの主人公が前クールのドラマの主人公と絡むのは、日テレドラマ定番の演出である。

(ここからネタバレ感想)犯人の殺害動機――母親を見殺しにしたテレビクルー達への復讐――は、雪夜叉が生まれることになった元の伝承をなぞったような動機だが、ドラマでは綾辻親子が背氷村の出身で、そもそも親子がバスに乗ったのは綾辻の祖父に追い返されたことが原因だった。その追い返した祖父が鬼火を目撃した老人だったという、より因縁めいた物語としてドラマは描かれている。原作で殺された比留田は死ぬことはなく、バス事故当時も足を負傷して綾辻親子のことは全く知らなかったので、原作に比べればまだ同情の余地があると言えるだろう。

メイントリックの氷橋作りは、言うまでもなく極寒の中一人で作らなければならない体力と気力が求められる作業だが、この後に明石を殺して雪だるまに埋め、それから加納を殺しに行ったのだから、物凄いスタミナと精神力の持ち主だったんだなと驚くばかりだ。(ネタバレ感想ここまで)

 

 

連ドラシーズン2

はじめの引っ越しというエンディングでしばしの別れを告げたシーズン1から、年末の「雪夜叉伝説」を挟んで約1年後にシーズン2が放送された。シーズン2は前後編のエピソードが3つもあり、より作品としての厚みが出て来たのがシーズン2の大まかな特色と言えるだろう。また、CM明けに容疑者一覧が追加され、死亡した人物の写真には「DEAD」の表記が付くようになった。

 

1話:「悪魔組曲殺人事件」

シーズン2の初回となるエピソードは「悪魔組曲殺人事件」。原作は漫画ではなくドラマCDで、トリックも画ではなく音がポイントとなっているのが本作の特徴だ。悪魔組曲はドラマ版とアニメ版があるが、どちらも登場人物の変更や設定の改変が為されており、同じエピソードでも味わいは全く違い、推理のプロセスも全く違っている。劇中で流れる悪魔組曲も当然ながら違うので、聞き比べてみるのも一興ではないだろうか。

シーズン2の初回ということもあってか、ドラマ映えする派手な演出もあり、特に冒頭の雷鳴轟くなかでの「悪魔組曲」の演奏シーンや、最初の事件の悪魔のステンドグラスなどは印象的な場面だったと思う。普通に考えたらあり得ないドラマ的演出も当然あるが、そんな演出に紛れ込んだ伏線の秀逸さもミステリドラマとして私は評価している。

ドラマで御堂周一郎を演じたのは寺田稔さんだが、彼は市川崑監督の「犬神家の一族」で猿蔵を演じており、本作でもまたアクの強い役を演じることになった。

(ここからネタバレ感想)原作とアニメでは、最初の被害者が握っていた鍵が容疑者の名前そのものを指し示すダイイングメッセージだったのに対し、ドラマはもみ合いでたまたま被害者が犯人の首に下がっていた鍵を握り死亡したということになっている。鍵の本当の意味を隠すため見立て殺人を演出した点は同じだが、ドラマは鍵をバイオリンケースの鍵にしたため、それが犯人特定の材料になっているのも良い改変だと思う。

紅が御堂を誤解することになった耳の障害は、調律されていないピアノだけでなく、冒頭の雷鳴轟くなかでの演奏シーンにも伏線が張られているのが何気に凄い所である。よく見たら御堂は弟子の質問には一切答えていないことがわかるし、木やピアノに雷が落ちたのにも関わらず全く驚くどころか、反応すらしていないのだから。(ネタバレ感想ここまで)

 

2・3話「タロット山荘殺人事件」

「タロット山荘殺人事件」は「雪夜叉伝説」でも登場した速水玲香が再登場。玲香の父が経営する山荘を舞台にタロットカードに見立てた殺人事件が起こる。「雪夜叉伝説」では容疑者の一人にしか過ぎなかった玲香が今回は事件の重要人物であると同時に、彼女の数奇な運命が明らかとなるという点で非常にドラマチックなエピソードと言えるだろう。

初代における定番の怪人も登場せず、残虐的なトラウマシーンもないが、それでも十分面白いのは玲香が物語の軸として機能していることや、事件自体の複雑性・トリックの秀逸さが映像として表現されていることも大きい。特に素晴らしかったのは解決部で犯人が実行したアリバイトリックの説明。その場面は山荘内部のセットを俯瞰視点で撮影し、犯人を含めた事件関係者がどのように動いていたか一目瞭然となっているので、わかりやすいのと同時に、ドールハウスの中にいる人形が動いているような不思議な感覚があって、ミステリドラマの演出として唯一無二だと思う。

(ここからネタバレ感想)原作は冬の時期に起こった事件のため、はじめはリフトの動かない風車山に置き去りにされあわや凍死寸前の所を驚異的な知恵で見事山荘まで戻って来ている。ドラマは夏の設定で、ダム近くの川に落とされ急流に流されそうだったが、持っていたロケット花火を打ち上げ、捜索に来た美雪たちに気付いて救助してもらっている。比較的ドラマの方が現実味のある助かり方だった。

最初の伊丹殺しの時の話になるが、原作の風車と比べるとドラマの風車は小型のため、原作と比べるとだいぶ楽に見立てが出来たのではないかと思う。

そして問題の雄一郎殺しのアリバイトリックは、実際に映像で見てみると、雄一郎の部屋に行く時は美雪が戻ってくる前に美雪の部屋を通過しないといけないし、自室に戻る時は美雪がドアをノックするまでに戻らないといけない(自室から電話したことになっているからノックしてすぐ出ないとおかしい)から、結構忙しいし時間的にもギリギリだったことがよくわかる。(ネタバレ感想ここまで)

 

4話「金田一少年の殺人」

4話はシリーズ中はじめが殺人犯として追われる「金田一少年の殺人」。以前「水曜日のダウンタウン」で本作のメイントリックが検証されており、そちらから知った人も多いと思う。

有名作家の誕生日パーティーで開催された暗号解読ゲームが事件の鍵となる本作は、原作通りやると1話で収まらないため、暗号の内容と答えが改変されており(解読のプロセスは同じ)、それに伴い一部事件関係者の名前や職業が変わっている。

いつきや明智警視といった過去エピソードからの登場人物がいるが、双子のメイドや原作ではじめを犯人として追いかけた長島警部はおらず、その役割を明智警視が引き継ぐ。そういうこともあって今回も明智警視は憎まれ役を演じることになり、原作で明智警視がとった「ある行動」は、剣持が代わりにやることとなった。

他の作品と違い表立って犯人が怪人として現れることはないが、大量の血が流される殺人シーンはある意味トラウマもので、特にウサギの着ぐるみ(犯人)に大量の返り血がかかる場面は子供だけでなく大人にも強烈なシーンだったのではないだろうか。

また、本作で都築哲雄の娘・瑞穂を演じた鈴木杏さんは後に二代目美雪を演じることになった。

(ここからネタバレ感想)ドアからドアへと渡って移動し、地面に足跡を残さず本館に戻るトリックは、高校生のはじめならともかく、中年男性がやるにはかなりハードな気がする。あとドアノブに体重がかかるから体重が重いとドアノブが壊れる恐れもあっただろう。それに、使用人のお菊さんが本館のドアを全開にしなかったら最後のドアに届かなかった可能性もあるので、やはりそこは事前に計画したトリックとは違う即席ならではの危なっかしさがあった(でもそれが面白い!)。

原作の暗号とは違って大時計ではなく石仏の中フロッピーディスクを隠しているのがドラマ版のアレンジだが、石仏を壊さないと見つからない=偶然見つかる可能性がほぼ0という点で原作より難易度が高く、そういう所にドラマの橘五柳の性根の悪さが垣間見えると思うのは考えすぎだろうか?(ネタバレ感想ここまで)

 

5・6話「怪盗紳士の殺人」

犯人が事件当時世間を騒がせていた「怪盗紳士」をスケープゴートに利用しようとした本作は、原作とドラマでは大きな違いがある。原作でははじめ・美雪・剣持というお馴染みの三人で蒲生の別荘に赴くが、ドラマは美雪が沖縄旅行に行くため、代わりに真壁が参加することになる。更にドラマオリジナルキャラとして、真壁の弟の実(みのる)が登場。兄の下の名前「誠」と合わせてはじめから誠実コンビと呼ばれ、兄・誠の一途な恋模様と弟・実のおませさんな性格がドラマを彩る。

他にも、一部登場人物がカットされていたり殺害人数が増えていたりと様々な改変があるものの、基本的なトリック・プロットは原作準拠。ドラマの見所としては、前述した真壁兄弟や犯人の壮絶な過去がやはり印象に残る。

(ここからネタバレ感想)本作のフーダニットは、蒲生殺しのアリバイトリックがわかれば芋づる式にわかるという点でシンプルかつ意外性があり、犯人の殺害動機の壮絶さ――実父が蒲生に利用された挙句薬漬けにされて殺された――に胸を打たれた視聴者も多かっただろう。最後に死にかけの犯人をラベンダー畑へ連れて行くシーンがあったが、流石に担架とかに乗せて運んであげて欲しかったな…。いくら両肩を支えていても胸にナイフ刺さっている人を歩かせたらダメでしょ…ww。

蒲生殺しのアリバイトリックについてだが、ドラマは完全に目を潰しているのが何気にグロい。ただ、あんなにガッツリ目潰ししたらあまりの痛さで場所の把握なんて出来なさそう。ちなみにアニメ版は粘着テープで目隠しをしているよ。(ネタバレ感想ここまで)

 

7話「異人館ホテル殺人事件」

7話の「異人館ホテル殺人事件」ははじめに代わってヒロインの美雪が事件の推理をするという原作からの大幅な改変が行われた一作であり、前クールに放送されていた「銀狼怪奇ファイル」の天神学園高校新聞部が美雪の助手として登場するという別ドラマとのコラボ回でもあった。そんなある意味スペシャルなこの回は、この前の「怪盗紳士」の事件で2週連続美雪の出番がほぼなかったために、釣り合いをとるため美雪を主人公としたエピソードにしたのだろうが、(その弊害なのか)視聴率はやや下がって19.5%とシーズン2内で最低の数値となった(それでも高いよね)

また、舞台となる異人館ホテルは原作で設定された冬の函館から夏の横浜へと変更。それに伴い怪人「赤髭のサンタクロース」も「冥界の道化師」というピエロの仮面・衣装を身に着けた姿の怪人に変更されている。そして原作ファンなら当然知っているはずだが、原作では〇〇が犯人によって殺されるという衝撃の展開が待ち受けている。幸いにもアニメ版でその人物は一命をとりとめており、ドラマではそもそも登場していないため難を免れている。

大幅な改変と1話完結という構成にしたためか、今回はフーダニット的な面白みが減っており、個性派揃いの劇団員たちが花蓮を除いてほぼモブ扱いになっていたのは少々残念なポイントである。それでも大女優である鰐淵晴子さんを万代役に起用したり、冥界の道化師による豪快な殺人シーンがあったりと、しっかりドラマとして面白い作りになっているのは素直に評価すべきだろう。

(ここからネタバレ感想)クセの強いスプーンの握り方は兵頭(原作は不破)警視と花蓮が双子であることの伏線…というにはあまりにもあからさま過ぎるが、これは原作でもあった描写なので致し方ない所。それにしても花蓮は整形済みの兵頭を見てどうして姉だと気づいたのだろう。確か双子ってシンクロニシティが起こりやすいと言うから動物的直感で見抜いたのだろうか。

それはさておき、意外な犯人を軸に置いていることもあって今回のエピソードにおけるハウダニット自体は実は小粒。万代の毒殺トリックは台本のト書きだし、虹川殺しにおけるアリバイも赤のカラーフィルムを利用した部屋の誤認トリックだから、シリーズ中かなりコスパの良い犯罪計画だったのではないだろうか。ただし、原作は万代殺しの毒殺が失敗した時の保険としてトリカブトを塗った毒の真剣を用意していたので、原作の方がコストはかかっていると思う。(ネタバレ感想ここまで)

 

8・9話「墓場島殺人事件」

シーズン2最後の作品は「墓場島殺人事件」。戦時中多くの兵隊が死んだ島でサバゲ―合宿に来た大学生らと、はじめ達不動高校のメンバーが島に閉じ込められ、そこでサバゲ―のメンバーが次々と殺される。この殺害の場面が本作では特にトラウマレベルのシーンとなっており、爆殺・寝袋で寝るターゲットをメッタ刺しと、今では放送出来ない描写がゴロゴロ出て来る。

原作では玉砕により死んだ「亡霊兵士」が本作の怪人だったが、ドラマは終戦を知らないまま島に潜伏している「生き残り兵士」がはじめ達を脅かす存在となる。以前視聴したアニメ版と比べると、ドラマの方が極限状況下におけるサバイバルという面が強調されており、その状況がストレスとなって真壁が逆上、はじめを逆恨みし、しまいには暴走するというのがドラマ版ならではの見所だ。原作では美雪がいたのだが、ドラマでははじめと美雪が喧嘩したため、はじめは森下・鷹島(彼女も原作には登場せず)・佐木・真壁と共に墓場島へ行くことになる。

不動高校のメンバーだけでなくサバゲ―メンバーの方も変更があり、ケイン・コスギさん演じる岩野は(中の人に合わせて)日系人という設定になった。他にも、殺害の順番やダイイングメッセージの文面等の細かい改変はあるものの、基本的なトリックは原作通りだ。ただし、犯人像は改変によって原作とはかなり違っており、本作だけなら共感出来るが、過去作の「所業」を考えると素直に共感出来ない犯人になっているのがドラマの面白くもやや残念なポイントと言えるだろう。

(ここからネタバレ感想)鷹島を檜山の共犯者にしたことは、原作未読勢にとっては意外な犯人として効果的だったかもしれないが、東京の不動高校へ行ってからの彼女と言えば、

・真壁のゴーストライターとして影に徹し、事件後は真壁をコキ使う(学園七不思議)

・月島冬子の自殺に関わっていたため犯人に殺されかける(オペラ座館

という具合に事件の容疑者や犯人のターゲットになっているため、岩野らサバゲ―メンバーへの復讐を胸に日常を送っていたという設定がちょっとというかだいぶブレてしまっている。特にオペラ座館の事件では冬子を自殺に追い込むことをしておきながら反省もせず役を演劇部のメンバーと取り合っていたという始末だから、岩野たちに復讐する資格は正直ないと思う。それにもしオペラ座館の時に殺されていたら、そもそも今回の計画自体頓挫していただろう(もしかしたら檜山単体で頑張ったかもしれないが)。

鷹島に関しては正直共感性は低くなってしまったが、檜山は原作通りアリバイ作りや共犯関係を隠蔽するため憎まれ役に徹し、最後は鷹島をかばって岩野の凶刃に斃れ帰らぬ人となった。その分岩野は原作以上にクズな形で描かれ、最終的にはじめによる怒りの鉄拳制裁を喰らっている。原作でもはじめを身代わりに利用したりとなかなかのクズではあったが、ドラマは最後の悪あがきで大幅に減点となった感じ。(ネタバレ感想ここまで)

 

 

映画:「上海魚人伝説殺人事件」

初代・金田一少年の最後を飾るのは小説が原作の「上海魚人伝説殺人事件」。最終作ということもあってロケ地はスケールアップ。上海という実在の都市を舞台にし、これまでのフィクションとして作られた世界観とは異なる、リアルな上海の都市模様が写されているのが見所の一つだ。

また、雑技団内で起こった連続殺人がテーマとなる本作は実際に舞台上で雑技団による演戯が行われるほか、オリジナルの魚人遊戯も制作されており、推理モノということを忘れて一つのエンターテイメントショーを見る楽しさがある。勿論、本作で中国の警察から最重要容疑者として疑われる小龍(シャオロン)とはじめの逃避行や怪人による殺人場面、(ジャニーズではお馴染みの)ローラーブレードを駆使したはじめの逃走シーンなど、シリーズ定番の演出や映画らしい派手な展開もある。そんな中にしれっと事件解決のヒントを盛り込んでいるのも心憎い。はじめと美雪が最後にお互いの思いを伝え合って終わるという、シリーズ最終作としてキチンと完結させた内容になっているのも評価すべきポイントだ。

ゲストとして水川あさみさんが雑技団団員の楊蕾麗(ヤン・レイリー)を演じているが、水川さんは本作が映画初出演であり、当然演技も心許ない。しかし、それを物語に上手く組み込んでいる所にキャスティングの妙がある気がする。そして、中尾彬さんが出演しているのも横溝正史のファンとしては見逃せないポイントだ。中尾さんはかつて映画「本陣殺人事件」で金田一耕助を演じたことがあり、そういう意味ではジッチャンと孫のコラボも為されていたということになる。

(ここからネタバレ感想)映画化された作品だからさぞトリックも大がかりで派手なのかと思いきや、本作は凶器消失トリックやアリバイトリックといった細かいトリックを組み合わせているのが特徴。また、連続殺人と見せかけて実は不連続殺人事件(団長は自殺)だったという金田一少年における定型を崩した事件なのも、本作の異色さに影響を及ぼしているのではないだろうか。

前述したキャスティングの妙というのは、まだ演技の拙い水川さんを中国人を装った日本人という役に組み込んだ点であり、その拙さが日本語に慣れていない中国人という形で違和感なく活かされているのが何気に凄かった。このキャスティングと劇中の役の組み合わせの巧さは堤幸彦監督を評価する上で重要なポイントの一つであり、「TRICK劇場版 ラストステージ」で水原希子さんが演じた呪術師・ボノイズンミからも、水川さんの時と同じキャスティングの妙を感じた。(ネタバレ感想ここまで)

 

さいごに

今なお根強い人気を誇る初代金田一少年を改めて見ると、やはり弱冠15歳にして金田一はじめを演じた堂本さんの演技力もさることながら、難解な推理パートの台詞をキチンと覚えて演技しているというのがまた凄いと思う。普通に見てしまうけどよくよく考えたらあの年頃で膨大な台詞を覚えてちゃんと感情表現を演技として魅せるってかなりハードワークだし、今15歳で主演をはれるような人ってまずいないんじゃないかな。

原点回帰をテーマにした四代目もコミカルとシリアスのメリハリがあるという点では初代と同じだが、それでもやはり違いを感じるのは演技面といった違いも勿論あるけど、初代のコミカル部分は当時15歳だった堂本さんの身の丈に合ったゆるさ・初々しさが滲み出ている感じがする。一方の四代目の山田さんは当時20か21歳くらいの時だから、当然バラエティ番組やドラマの経験が豊富であり、それが反映されていることもあって、コミカルな部分も「やり慣れた感」が強い。それに、初代は犯人が自殺するエピソードが多いため、はじめが犯人に怒ったり涙を流して訴えかけたりする場面も多く、そこで堂本さんの演技力が発揮されると同時にはじめの素人探偵としての魅力が引き出されるので、その辺りも初代が人気となった理由の一つではないかと思う。二代目以降は犯人も自殺することがなくなるし、はじめが必死に訴えかけるような場面も自然と減っているので、そういう面でも初代は(難しい部分は多々あったと思うが)エピソード面でのアドバンテージがあったと思われる。

 

主演だけでなく美雪や剣持といったレギュラー陣の関係性も、初代~四代目までを全部見るとやはり初代が一番安定していると思う。二代目・三代目のチャレンジ精神は評価したいが、美雪・剣持の性格・行動のエゴが強くイラっとする所も少なからずあった。初代はどれだけ事件が悲惨でも後味良く物語は終わっているが、そういった夾雑物のないレギュラー陣の好演も影響しているのではないだろうか。

それから準レギュラーとして登場した真壁誠も初代を語る上では外せないポイントだが、本シリーズにおける真壁の扱いはドラえもん」のスネ夫というのが一番ピッタリくる。お坊ちゃま体質で長いものに巻かれ、良い所もあるが基本的にはダメ男というのがドラマオリジナルの真壁像と言えるだろう。

 

以上が初代金田一の総括となる。怪人やトラウマ的な殺人場面が引き合いに出されがちだが、それだけが初代の魅力でないことがわかっていただけたら幸いだ。