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シリーズ初のリメイク「学園七不思議殺人事件」はどうだったか?(五代目「金田一少年の事件簿」#1)

今シーズン最注目のドラマ、五代目「金田一少年の事件簿」がスタートしました。徹底的に解説していきますよー!

 

(以下、原作ほか初代ドラマ版も含めた事件のネタバレあり)

※一部内容に誤りがあったので訂正しました。(2022.04.25)

※加筆しました。(2022.05.11)

 

File.1「学園七不思議殺人事件」

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五代目金田一の初回を飾るエピソードは1993年の6月から8月にかけて『週刊少年マガジン』で連載された「学園七不思議殺人事件」。言わずもがな、記念すべき初代・堂本版で初めてドラマ化されたエピソードであり、アニメ版の初回も「学園七不思議」から始まる。正に金田一少年を語る上で避けては通れない必読のエピソードであり、30年近く経った今となっては古典ミステリとしての趣さえ感じられる名作だ。

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歴代金田一少年の動画配信時に行った振り返り企画で既に感想を語っているので、一部内容に重複があることを承知の上で読んでいただけるとありがたいが、本作の魅力の一つには、作品が連載されていた当時全国的に流行っていた学校の怪談ネタの一つである「七不思議」を取り入れ、ホラーミステリとしての世界観を作り出していることが挙げられる。特に初代のドラマでは、ホルマリン漬けの生首がカッと目を見開く場面や、怪人放課後の魔術師の仮面にトラウマを抱いた視聴者も多く、それゆえ印象に残っている人もいるのではないだろうか。

 

原作の事件解説(金田一少年の世界ではレアな犯行動機)

まず、原作をフーダニット・ハウダニットホワイダニットの三点で要約すると以下のようになる。

Who:的場勇一郎

How:を利用した死体及び犯人消失トリック

Why:高畑製薬が過去に起こした死亡事件+青山ちひろの殺害を隠蔽するため(自己保身のための殺人)

金田一少年ファンならわかってもらえると思うが、本作は(発表当時はそうでもなかったが)怪人による犯行だと決めつけ恐れる男性(通称「〇〇の仕業だおじさん」)が犯人であり、シリーズ全体を通して見ると珍しい部類に入る。

というのも、金田一少年で「○○の仕業だ!」とか「〇〇の呪いよ…」と言って恐れおののく人は、メタ的な意味で作品のホラー的な世界観を盛り上げる役どころであり、よって犯人ではないという暗黙のお約束があるのだ。怪力乱神を語る昔ならともかく、科学的・合理的精神が一般的な現代でオカルトの仕業による殺人を説いても大多数は信じない(=ミスリードとして効果的ではない)ので、そういう点から見ても作中(劇中)でオカルトの仕業を提唱する人物はまず犯人候補から除外して良いのだ。

では何故的場先生は「放課後の魔術師」に関する嘘の噂をはじめ・美雪に語ったのか、と考えると、やはり完全にはじめを一生徒としてしか見ていなかったが故の慢心だと言わざるを得ない。ビビらせるような恐ろしい話を語ったら事件のことを深追いしないとタカをくくっていたのだろうが、まさかはじめが捜査を担当した剣持警部とつながっており、美雪が搬送された病院に神保博士のことを知っている人物がいるとは想像出来なかっただろう。これは金田一はじめを見くびったがゆえのミスであり、裏付け調査をすれば一発でバレてしまう大ボラを吹くなんて墓穴掘りも良い所である。

 

メイントリックは鏡を利用することで犯行現場を開かずの生物室だと誤認させる※1というかなりシンプルなものだが、ワイヤーを使って窓の鍵を施錠するという偽のトリックを仕込むことで、犯行可能な人物が特定されないよう細工をしているのが地味ながらも優れたポイント。特に桜樹殺しは計画的な犯行ではなく突発的に起こった殺人のため、偽装工作として手間をかけられなかった部分も多いので、まだミステリとしてはわかりやすかったのではないだろうか?

ただここで問題となるのが、今回の事件はトリックの解明が犯人を特定するための唯一の材料であり、鏡のトリック以外の方法で密室からの死体消失が成立してしまうと的場先生が犯人と断定することが出来なくなる。そのため、尾ノ上の死体から発見された生物室の鍵が使用不可能だったことを証明する必要があるのだが、既に体当たりで打ち破られた生物室の扉の鍵が使えるか証明するのは実質不可能。正に「悪魔の証明」と言うべきこの問題を、はじめは鍵穴にガムを仕掛けて生物室の鍵は使えなかったと偽装することで犯人の自白を導いている。※2

 

※1:旧校舎の廊下が新校舎の廊下より狭いことや、照明にロウソクを用いたことも鏡のトリックが不自然に見えない状況作りに貢献している。

※2:とはいえ、桜樹ではなく尾ノ上の死体が発見された時に鍵が見つかったことを考えると、桜樹殺しのトリックに生物室の鍵が使われなかったことは一応間接的に証明されている。何故なら、もし仮に桜樹殺しの時に鍵を使ったのであれば、その後も鍵を持っておくメリットはほとんどないし、ワイヤーを使って窓の鍵を施錠したという偽トリックを補強する証拠物品になるのだから、むしろ犯行現場に残しておく方が得策なのだ。それなのに犯人は生物室に鍵を置いておかなかった、ということは桜樹殺しのトリックに生物室の鍵は使われておらず、行き当たりばったりの犯行だったと推測出来る。

 

また、動機が過去の事件の隠蔽や自己保身というのもシリーズ全体を通して見ると(意外にも)長編では本作くらいで、基本長編の事件は復讐目的の犯行であることが多い金田一少年シリーズの中では珍しい犯行動機なのがこの「学園七不思議殺人事件」の特徴の一つなのだ。

 

ドラマ(初代・五代目)の事件解説

ドラマ版は初代・五代目共に改変があるが、まず初代の方から始める。

初代は原作が的場先生単独の犯行だったのに対し、的場先生とドラマオリジナルキャラの浅野先生による犯行に改変されていること。これが初代における最大の改変ポイントだ。言うまでもなく、的場先生の犯行は自己保身が目的であり、これをそのまま映像化するとただのクズ野郎になってしまうため、ドラマでは的場先生の元教え子だった浅野先生が共犯となり、愛し合っていた二人がお互いを庇って犯行に及んだというメロドラマ的な動機に改変されている。そのため、浅野先生が原作における桜樹殺しと鏡のトリック、尾ノ上・青山の殺害を行ったのに対し、的場先生は美雪の襲撃と七不思議の拡散という形で分業体制になっている。

分業にした影響で、ドラマは剣持警部が事件の動機部分(的場先生が高畑製薬の元社員であること・隠蔽工作のため七不思議を広めたこと)を解明し、はじめが鏡のトリックと浅野が共犯であることを見抜く結果になった。そのせいか、原作以上に剣持が有能な人物として描かれており、その分はじめの活躍度合いはやや薄まったきらいがあると個人的には思った。

 

そして五代目だが、主な改変ポイントを挙げると、

鷹島友代がカットされ、役割の一部を佐木竜太が担う

ワープロ暗号の内容が変更

③尾ノ上の死体発見現場が変更(場所はアニメ版と同じ)

④犯人(的場)の動機に関する背景が変更

「偽トリック」がカットされている

七不思議の名称及び内容が変更※3

以上の六点となる。

初代と比べると1時間半で完結させたため、キャラ設定等簡素化されている部分はあるが、旧校舎の雰囲気や怪人「放課後の魔術師」による殺害場面など、ホラーとしての空気感・世界観はうまく作られており、そこは普通に楽しんで視聴出来た。

ただ、ミステリとしては無視できない問題点がいくつかあったため手放しに褒められないのも確かだ。

 

その問題点の一つは、本作のメイントリックである鏡を利用した殺害現場の誤認。実は、今回のはじめの推理はドラマ制作陣がやってしまったあるミスによって、厳密には成立しないことになってしまっているのだ。そのミスというのは、今回リメイクするにあたってアレンジした放課後の魔術師の仮面が関わる。※4

画像

画像は、私が描いた歴代の「放課後の魔術師」の仮面だが、原作・アニメと初代は仮面のデザインが左右対称なのに、今回の五代目では右目に穴があいているし所々に傷があったりと左右非対称のデザインとしてアレンジされている。

ここまで言えばピンと来た方もいると思うが、鏡に映った虚像は左右が逆転するから、当然五代目「放課後の魔術師」の仮面は鏡のトリックを実行した場合、左目側に穴があいていないといけない。しかし、ドラマを見たらわかると思うが桜樹殺しで鏡のトリックを実行していた際に映った仮面と、尾ノ上を襲っていた時の仮面は全く同じであり、左右の逆転は起こっていなかった。そうなると、はじめが推理した鏡のトリックが用いられたという推理が間違っている可能性が出て来るのだ。

一応はじめの推理が間違っていないと仮定して、鏡のトリックの時には左右逆転させた「生物室」と書かれた札と同様に、仮面の方も左右逆転させたものを被っていた可能性はあるが、ここで改めて考えてもらいたい。「放課後の魔術師」の存在はあくまでも噂であり、仮面のデザインを具体的に知っている人間が学内にいないことを考えると、わざわざもう一組左右逆転させた仮面を作っておく必要も、それを使い分ける必要もないのだから、やはりはじめの推理と実際に劇中で映った仮面との間に大きな矛盾が生じざるを得ない状況になっているのではないだろうか?

更に、今回のドラマでは原作で的場先生が仕掛けた「ワイヤーを使って窓の鍵を閉める」偽トリックを配置していないため、はじめが行ったトリックの別解潰しが為されておらず、「鏡のトリックを使った人物が犯人」だと断定出来ない状況になっているのも非常にマズい点だ。原作は別のトリックが使われた可能性を否定しているからこそ、犯人当てミステリとしてロジックによる推理が可能だったのに、今回は鏡のトリックに矛盾点があり、トリックの別解も潰されていないのだから、実質動機のみで犯人を追い詰めたも同然。これでは予告や公式HPで冠した「本格ミステリ」とは言い難い。

 

あとこれは好みの問題もあるから一概に否定してはいけないことかもしれないが、桜樹が残した暗号も、原作では「かな文字→ローマ字」変換による暗号で、ワープロという機器に書かれていたことが解読のヒントとなっていたのに、今回は緯度・経度から国名を導き出すという暗号で、専門的な知識・情報が必要な上にドラマで提示する暗号として適切でないタイプ(調べるのに時間がかかる、ドラマを見ながら考えられない)だったので、この改変も好意的に受け取れなかった。せめて緯度・経度だとわかるヒントがあればまだ納得がいったのだけどね。※5

 

※桜樹の暗号のヒントについて。改めてドラマを見たところ、パソコンのちょうど左横に地球儀が置かれていたので、恐らくそれが暗号解読のヒントだったと思われる。

(2022.04.25 追記)

 

謎解きの面に関しては以上のように不満点が多くあるが、動機面は初代と同様に今回も同情の余地がある設定に変更されている。また今回は製薬会社から建設会社に変更したこともあって、死体を旧校舎に埋めて隠蔽する工作が今までバレなかったことが自然に説明付けられていたのは何気にうまい改変だったと思う。隠蔽工作をしたのが旧校舎を建てた建設会社そのものなのだから、そりゃバレにくいわな。※6

それから、青山ちひろ明確な意志をもって殺害しているのも原作や初代ドラマとはまた違う犯人像として印象的だった。悪いことをしていることに変わりはないが、原作の小心者であるが故の犯行と違って、今回の的場先生は悪行でもちゃんと責任を持って行っており、その辺りの潔さがあるからか、原作の的場先生よりかはクズ度合いは低かったかなと思う。あと、放課後の魔術師に関する「一世一代の大ボラ」を吹かなかったのも賢明な判断だったね。

 

※3:原作は「魔の十三階段」「あかずの生物室」「血に染まる井戸」「知恵の女神」「首吊り大イチョウ」「手首のはい回る部屋」「呪われた楽器室」の七つ。そして今回のドラマでは「知恵の女神」が「死を刻む大時計」、「首吊り大イチョウ」が「底なしプール」、「呪われた楽器室」が「赤い音楽室」として変更されている。

※4:推測に過ぎないが、五代目の「放課後の魔術師」の仮面のモデルは、映画学校の怪談2でボスキャラとして登場したからくり人形ではないかと思われる。

※5:例えば、暗号のタイトルを「ななのなぞ」ではなく「井戸・時計 どの暗号」にしておけば、一見すると七不思議の「血に染まった井戸」か「死を刻む大時計」に関する内容だと思わせられるし、続けて読めば「緯度と経度の暗号」になるから、暗号解読のヒントにもミスリードにもなる、ダブルミーニングのタイトルとしてピッタリではないだろうか?

※6:ただし、青山の死体を除いた六体の死体はバラバラの場所ではなく一箇所にまとめて埋められていたため、原作のようにわざわざ死体の埋められた場所に合わせた七不思議を的場先生は広めておらず、教師として潜入する以前から不動高校に伝わっていた六不思議を利用したということになっている。

 

※(2022.05.11 追記)

先日Twitter の方でフォロワーさんからDMをいただき、放課後の魔術師」の仮面とそのトリックに関する仮説について意見を頂戴した。それが実に興味深いというか面白い仮説だったのでここで紹介しつつ、私の考察も含めて再検討したいと思う。

フォロワーさんの仮説によると、はじめが剣持らの前で犯人のトリックを実演した際に利用した仮面と衣装は、(映像や状況から見て)犯人が隠していたものをはじめが見つけて利用したと考えられる。ということは、犯人は重要な証拠物件を雑に隠していたということであり、雑に隠していたということは、警察に見つかっても問題ない、いやむしろ犯人は「放課後の魔術師」の仮面が見つかる可能性を見越して今回のトリックを仕掛けたのではないか?…というのがフォロワーさんの仮説である。

 

つまり何が言いたいかというと、的場先生は通常の仮面(以下、仮面A)とは別に、鏡のトリック用に左右を反転させた仮面(以下、仮面B)をもう一組用意しており、桜樹殺しで鏡のトリックをはじめたちの前で見せた時は仮面Bを用いた。そして仮面Bは見つからないようどこかに隠して、仮面Aをわざとわかりやすい場所に隠しておく。そうしておけば、警察が仮面Aを発見し鏡のトリックを見破ったとしても、仮面が左右逆転していなかったことを論点にして自分に鏡のトリックは使えなかったと反論することが出来るのだ。

 

しかし「劇中の的場先生は反論していないじゃないか」と突っ込む人がいるだろう。それも当然、仮面が左右逆転してなかったことを示す客観的証拠(映像及び写真)がなかったからだ。

恐らく的場先生は佐木が撮影オタクであることを知っており、彼の趣味・性格をトリックに利用しようとしたのではないだろうか?※7ミス研の全員を呼び出せば、佐木も当然呼び出しに応じるし、開かずの生物室の一幕もキチンと撮影・録画してくれるとにらんだからこそ、上記の計画を考案し実行に移したと考えられる。ところが、的場先生の期待に反して佐木は宿直室に待機しており、実際に開かずの生物室の一幕を目撃したのは立花・美雪・はじめの三人だけだった。それで結局客観的証拠となるはずだった佐木の撮影映像が残らなくなり、的場先生は反論出来なくなってしまった。そう考えられないだろうか?

 

はじめの推理では、今回の桜樹殺しは突発的な殺人だと言っていたが、以上の仮説を踏まえると、実ははじめの推理は間違っていたのではないかと私は思っていて、桜樹を殺した後に急ごしらえで考えたトリックなのに鏡文字の生物室のプレートを用意していたというのは余りにも準備が良すぎると思うし、桜樹を殺した時に的場先生は放課後の魔術師に変装していたのだから、やはり突発的とは考えにくい。※8

これについて私が推理するなら、実は鏡のトリックは桜樹殺害前、少なくとも佐木がミス研に入部した頃には完成していたのではないかと思っている。原作の的場先生と違い、今回のドラマにおける的場先生は死体隠蔽のため容赦なく青山を殺した男だ。それくらいの覚悟がある彼なら、将来第二・第三の青山が現れることを見据えて殺害後のアリバイトリックを予め考えておいたとしてもおかしくはない。桜樹に関しても殺害当日以前からマークしていたと考えた方が自然なので、今回のリメイク版に関しては突発的な犯行でもアドリブで考えたトリックでもなく、ある程度の計画性をもって行われた犯行だと推理する。

 

という訳で、フォロワーさんからいただいた仮説に私の推理も加えてドラマの「別解」を考察したが、実をいうとはじめが剣持らの前で実演したトリックでも鏡に映った虚像の仮面は左右逆転していないので、厳密には上記の仮説も成り立たない(=単なるドラマ制作陣のミス)のだが、本格ミステリにおいて別解を考察・推理することは大事だしミステリ好きとしてはこれも楽しみの一つなので、紹介させていただいた。

 

※7:真壁のゴーストライターの件で佐木が的場先生に相談に行ったことからしても、両者の関係が疎遠でなかったことが推察されるし、的場先生も佐木の趣味について知っていたと考えるのは不自然なことではないと思う。

※8:鏡文字の生物室のプレートは、生物室のプレートを写真撮影し、そのデータをパソコンで読み込んだ後に鏡文字として左右逆転させたものをプリンターでプリントアウトすれば作れるので、桜樹殺害後に準備しようと思えば出来るのだが、美雪たちが到着するまでにそれが準備出来たか考えてみたい。

桜樹が真壁と別れた時にミス研の部室の時計は午後6時50分を指し示していたから、桜樹が青山の白骨を発見し暗号を作成した後に殺されたことから見て、死亡したのは少なくとも午後7時半前後ではないだろうか。10時にトリックを実行することを考えると、ざっと2時間半以内にトリックの準備が出来ていないといけない(ちなみに、美雪たちがミス研の部室に到着したのが午後9時50分頃)。それだけあれば儀式に必要な道具の準備と鏡文字の「生物室」プレートの印刷は可能だが、左右逆転させた仮面は2時間半で複製出来るとは思えないので、結局仮面の存在が鏡のトリックのアドリブ説を妨げるのだ。元から左右逆転させた仮面があったという可能性もゼロではないが、それを言ったら何でもアリになるような気がするので、私はあくまでもアドリブ説は否定するつもりだ。

 

さいごに

五代目の初回を飾った「学園七不思議殺人事件」は(前述した通り)世界観や旧校舎の空気感といった面では非常によく作りこまれていた一方、ミステリとして矛盾点や問題点が多く、30分拡大の1時間半で放送するのではなく、SPドラマとして2時間くらいの尺で映像化していればキャラ設定の描写も充実したものになっていただろうし、ミステリとしても上手く出来ていたのではないかと思ってしまう。海外へ配信するドラマであり、過去シリーズの集大成・決定版として制作することをアピールしたのだから、そこはドラマとしてもミステリとしても質の高い作品を期待していたし、今後の課題点としてやはり甘く評価する訳にはいかなかった。ご容赦願いたい。

 

まだ初回なので道枝さん演じる金田一はじめや他レギュラー陣の特色は見いだせなかったが、これはこの先注目していきたい所として今回はあまり触れないことにする。

ただ今回の「学園七不思議」だけの話になるが、はじめの感情のベクトルは殺された桜樹先輩や襲われた美雪よりも、警備員の立花に向かっている部分が多い印象を受けた。原作では桜樹先輩とはじめは言葉を交わしており、自分のことを評価してくれた彼女が殺されたことに加え美雪が瀕死の重傷を負った。そのことにはじめはショックを受けたと同時に犯人に対して怒りを覚え、犯人とそのトリックを暴いている。

しかし、今回のドラマでは桜樹先輩とはじめとの間に接点がなく、美雪も襲われたとはいえ早々に回復したため、ショックは多少なりとも受けていただろうが原作ほどではなかったと思う。むしろ、日ごろから親のように自分のことを叱ってくれたツンデレ気質の立花が実は娘の失踪の真相を知るため学園に警備員として潜入し、敵討ちの機会をうかがっていたという彼の知られざる顔に強いショックを覚えたのではないだろうか。

原作のはじめは真相を皆の前で語るより前に立花が青山ちひろの父親であることを薄々勘付いていたのに対し、ドラマのはじめは犯人とトリックの推理に意識が向いていて立花は完全にノーマークだったから、よりその衝撃も強かったと思われる。今回のドラマが原作ともアニメとも、そして初代とも違うのは、尺の問題もあるがはじめの感情のベクトルの向かう方向や大きさだったり、何にどれだけショックを受けたかという違いも大きく影響していると私は考えている。

 

 

さて、次回はリメイクではなく新作「聖恋島殺人事件」が2週にわたって放送される。既に原作は読んでいるが、「聖恋島」はハウダニット、つまりトリックに力の入った作品であり、フーダニット(犯人当て)に関しては比較的わかりやすい作品なので、未読の方はドラマを見て推理するのが良いかもしれない。