タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

大穴候補「金田一少年の殺人」がまさかのリメイク!(五代目「金田一少年の事件簿」#6)

いつもブログを書く時は1話完結の場合、前以て原作の事件解説を下書きしておくのだが、今回も1話完結だとばかり思っていたので先に下書きしておいたのですよ。だから正直修正とかめんどいので公式は予告の段階で今回が「前編」だと言っておいて欲しかったな…。

 

(以下、ドラマと原作のネタバレあり。ただし今回は前編のため真犯人やトリックについての言及はしないのでご安心を)

※記事内容に誤りがあったので訂正しました。(2022.06.07)

 

File.5「金田一少年の殺人」(前編)

金田一少年の事件簿 File(10) 金田一少年の事件簿 File (週刊少年マガジンコミックス)

初回「学園七不思議殺人事件」に次いで今回リメイクされたのは、1994年の11月から翌年の3月にかけて連載された「金田一少年の殺人」。ノンフィクション作家・橘五柳の新作の出版権を賭けた「暗号解読ゲーム」の助っ人として、はじめと美雪は軽井沢にある橘の別荘へ赴くが、その日の夜、橘が何者かに殺害され、殺害現場の状況からはじめが犯人として警察に疑われることになる。こうしてはじめは警察の捜査の目をかいくぐりながら、いつき陽介らの協力を得て真犯人「見えざる敵」を探すことになる…というのが大まかなあらすじだ。

 

素人探偵のはじめが殺人犯として警察から追われるサスペンス性に富んだ展開と、暗号解読ゲーム絡みの連続殺人を組み合わせた本作は、金田一少年シリーズを語る上では外せないエピソードなのだが、正直五代目でリメイクされるとは思っていなかった。

何故なら五代目が公式HPで提唱しているホラー・怪奇要素が本作にはあまり無いし、準レギュラーのいつき陽介や明智警視が初登場する「悲恋湖伝説」「雪夜叉伝説」をすっ飛ばしていきなり「金田一少年の殺人」をやると、初見の人にキャラの魅力が伝わらないと思ったからだ。

また、「金田一少年シリーズを語る上で外せないエピソード」と先ほど言ったが、初代・堂本版では1話完結で放送されたこともあってか、ドラマシリーズとしてはあまり印象に残るエピソードになっておらず、そういった諸々の理由から本作のリメイクはまずあり得ないのではないかと予想していたのだ。

 

結局予想に反して今回新たにリメイクされることになったが、まぁ金田一少年の決定版」という点では確かにマストエピソードではあるので、リメイク予想から完全に除外した私も予想を絞り過ぎたのかもしれないが、それはさておき。放送前の段階でわかった原作との相違点は以下の通りになる。

 

〇原作との相違点

フリーライターのいつき陽介が音原出版のライターとして変更。

・橘殺害後に登場した剣持が、いつきの伝手で暗号解読ゲームに参加している。

・落語家の桂横平がグラビアアイドルの桂木優里奈に変更。

・橘家使用人のお菊さんが菊蔵※1という男性に変更。

・都築哲雄が50過ぎの中年男性から30代の若きテレビディレクターに変更。

・鴨下、針生、花村姉妹、明智警視、長島警部がカットされ、高林登というオリジナルの刑事がはじめを追い詰める役を担う。

 

花村姉妹がカットされたのは初代ドラマ版と同じだが、今回の五代目では初代で登場した鴨下と針生までカットされたため、より容疑者が限定されている。これに関しては原作自体フーダニットよりもハウダニットの方がメインなので大きな問題かというとそうではないのだが、こんなにカットして大丈夫なのかとやや不安ではある。

また、一番気になる改変としては、都築が中年から30代の若者になったことが挙げられる。今回都築を演じるのは道枝さんや岩崎さんと同じジャニーズ事務所に所属する戸塚祥太さんだが、この改変がどういう効果をもたらすのかが視聴前の最大の注目ポイントだった。

 

※1:菊蔵を演じた半海一晃さんは四代目・山田版にも出演しており、「香港九龍財宝」では冒頭のナレーション部分を担当し、「金田一少年の決死行」では狩谷教授を演じている。

 

そしていざ実際に本編を視聴したが、今回の五代目におけるリメイクは改変ポイントを除けば大よそ原作の展開に則っている。初代では1話完結にしたためカットされた時任が鉄パイプの下敷きになって死ぬ下りは原作とほぼ同じ展開だし(原作は鉄骨の下敷き)、大村は撲殺、桂木は刺殺と殺害手段がそれぞれ異なるのも原作通りだ。その分初代におけるトラウマシーン――カッターナイフによる頸動脈切断、被害者の返り血がウサギの着ぐるみを着た犯人にかかる――に相当する場面がかなり穏当な描写になっているのは、放送倫理的な問題もあるだろうから、強烈な殺害シーンまでドラマ制作陣に求めるのは酷な話だろう。

 

また今回のリメイクにおいて気がかりだったのは、いつきや明智警視といった過去作に登場したキャラクターの扱いだ。カットされた明智警視はともかく、いつきは「悲恋湖伝説」の事件を経てはじめと親しくなった間柄であり、原作では「悲恋湖」ではじめの人柄に触れたことで、はじめの無実を証明しようとライター仲間に懇願する。本作ではいつき陽介の漢気が物語を魅力的にしている部分もあり、そういった前情報もなしにいきなりドラマでいつきを登場させるのは改悪になるのではないかと懸念していた。

今回のリメイク版ではいつきとはじめが初対面のため、原作至上主義の人からしたら「悲恋湖」をやらずに本作をいきなり映像化していつきを出すなど言語道断と主張する方もいるとは思うが、剣持といつきが旧知の間柄という設定は改変の舵取りとして良かったのではないかと思う。※2

いつきとはじめが初対面である以上、原作のようにはじめの無実証明に動いてくれる人は実質ゼロな訳であり、そこで協力を要請してくれる人となると剣持くらいしかいない。原作通り美雪にお願いさせる手もあるが、いつきや都築らからしてみれば一高校生の懇願で動く動機はないため、今回の改変は妥当であると同時に、いつき陽介の株を落とさないという点でもクリアしていた。原作ファンから総スカンを喰らうかもしれない、薄氷を踏む危なっかしい改変であることに変わりはないが、本作をリメイクするにあたって、いつきや都築が協力する動機を違和感なく成立させているのは十分評価に値する。

 

また原作と違って現代は携帯のGPS機能から居場所を特定出来るため、電話連絡によりはじめが大村や時任の場所を知ることが出来なくなったため、名刺でその問題をクリアしているのも地味ながらナイスな改変だ。

大村がはじめに名刺を渡した下りは大の大人が高校生に名刺を渡すという点ではおかしいと言えばおかしいのだが、そもそも大作家の暗号解読パーティーに高校生が参加していること自体おかしな話であり、この違和感を大村は目ざとく見つけて「ははあ、こいつはタダの高校生やないな」とにらんで名刺を渡したと考えられる。だから描写としては心理的に決しておかしい訳ではないし、大村の商売人としてのガメツさや目ざとさを端的に示した場面だったのではないだろうか?

 

※2:剣持が当初から暗号解読ゲームに参加していることで、橘殺害後すぐに警察が来ず、それによってはじめが逃げられるようになっているのも自然な改変だった。なおかつ、橘の殺害後に早々に殺される大村や時任らが殺害現場を検証することで、彼らに見せ場が出来ているのも上手い改変と言えるだろう。

 

さいごに(後編の注目ポイント)

前編の段階での注目ポイントや感想は以上となるが、初代と異なり原作に沿った展開にしながらも、トラックの荷台に挟まれた警官を助けるという初代でもあった場面を取り入れており、リスペクトをもって作られていることは間違いない。改変も今の所理に適っているので不満はないが、前後編にするならば鴨下や針生も登場させた方が良かった気がするのも確かで、これだと容疑者として残る人物が二人しかおらず、後編は実質二択状態のフーダニットになる。まぁそこは本作がリメイクであり、犯人を知っている視聴者が圧倒的に多いこともあるので、作り手としてあまり気にしなかったのかもしれないが…。

次回放送される後編の注目ポイントを挙げると、まず第一に原作の明智警視がとった「ある行動」について。これは初代と同様剣持が担うのだろうが、原作で使われたあのアイテムが使えないため、どうするかが気になる所だ。

そして前編でほとんど傍観者だった美雪をどのように物語に絡ませていくか。原作では当初からはじめと一緒にいた分、ドラマは出番が減っているため印象的な場面作りをしないと比肩しないのではないかと思う。

あと最も気になるのが犯人の動機。原作で犯人の動機の要となる「ある人物」が登場していないため、今回のリメイクでは当然犯行動機も変更されている可能性は高いが、あの動機も物語の質を高めることに貢献しているから、浅い犯行動機として改変されてないことを祈りたい。

「探偵が早すぎる」シーズン2感想 #8(革靴みたいなチキン)

あのチキンどこで買ったのだろう。スーパーとかだと普通切り身で売るだろうし。

 

(以下、ドラマのネタバレあり)

 

8話感想(刺客、続々)

今回は引き続き黒幕編の物語となるが、前回の小火騒ぎと2話で順三郎が仕掛けたトリックが原因で一華は会社の所長からあらぬ疑いをかけられ、自主休職という形で一旦会社を去る羽目になる。正直何故会社は今まであの千曲川をスルーしてきて今頃になって問題視したのかとツッコミたいのだが、これも後で言及する刺客の仕業っぽいので一応説明がつくようにはなっているみたいだ。

葉子が襲われたことによって、失踪中の父・宗太の黒幕疑惑が浮上。海外企業から賄賂を受け取り、新事業を立ち上げようとしていた事実も発覚したので彼も怪しいのだが、橋田が指摘したように、わざわざ失踪して遺産相続候補者を殺さずとも順当にいけば自分に遺産が渡る立場の人間のため、黒幕として断定するには微妙な所。そもそも黒幕だったら美津山四兄妹の計画が失敗したことも知っているはずだし、それがわかっているのなら、わざわざ一華を狙う必要もないはずだが…。

 

初回から怪しさ満点の宗介にしても、ダークウェブをのぞいていたり誰かと電話をしたりと不審な行動をとってはいるが、彼が黒幕というのは安直過ぎるというか意外性に欠けるので、断定しかねるが黒幕の可能性は薄いかな、という感じ。

刺客の仕業で鉛中毒にかかったのだから被害者と言えば被害者だが、前回の感想でも述べたように加害者が被害者を装うのはよくあることなので、鉛中毒でやられたという事実だけでは彼を黒幕と否定出来ない。

 

さて、今回は刺客が二人も登場したが、一人目の計画は会社を半ばクビになった一華が失望のあまり自殺したと見せかけるため、彼女が外出中に家に侵入し、帰ってきた所を不意打ちで襲い首吊り自殺に見せかける…という正直トリックとは言えないシロモノ。そもそも自殺でなく他殺で首を絞められた場合、紐が喉に食い込まないよう必死に抵抗するため、首に吉川線と呼ばれる爪痕が残るから、どっちにしろあれでは自殺に偽装出来ないのよね。

 

そして二人目の刺客は、宗介のバーに清掃業者として潜り込み、ワインセラーのワインに鉛成分を混入、宗介を鉛中毒で前後不覚の状態にして炭酸水入りのペットボトルを奪い、そのペットボトルにドライアイスを入れる。これはよくペットボトル爆弾として実際に悪質なイタズラとして用いられたケースがあるが、今回はこのペットボトル爆弾を即席の銃として利用し、銃弾に500円玉を使って一華を射殺するというのが第二の刺客の計画だ。

正直言うと500円玉だと表面積が大きいから、パチンコ玉みたいに小さい玉の方が殺傷力も高そうに思うのだが、今回のトリックはこれまでと違って実行・再現が可能なため、万が一現実で今回のトリックをマネする馬鹿が出る危険を考慮して殺傷力の低い500円玉にしたのかな~と推察した。

 

一華は守られたものの、宗介は鉛中毒の影響か意識不明のまま病院送りとなり、それが原因で千曲川との契約を一華は解消する。何かシーズン1でも似たようなことで険悪ムードになった記憶があるのだが、一華は相変わらずこういう所が短絡的というか、感情的に動いてしまう性格だよな。千曲川もそこはわかっているのだろうが、何はともあれ次回で黒幕が明らかとなるため、一華や千曲川がどう動くか引き続き注目していきたい。

(個人的には大谷か葉子が黒幕だったら面白くなりそうだと思うが…)

ナンバMG5ざっくり感想 #7(戦いは新たなフェーズへ)

生徒会長選挙というと間宮さんが帝一の國で氷室ローランドを演じていたことを思い出すが、あの時のローランドのポスターと今回の剛のポスターを比べると、ローランドがめっちゃアホの子に見えてきておかしかったよ。

 

7話感想

ナンバデッドエンド(1) (少年チャンピオン・コミックス)

今回からは「ナンバMG5」の続編「ナンバデッドエンド」に移る。「MG5」まではまだギャグ漫画的なおかしさというか、シリアスな展開もあるけど安心して見ていられる部分が多かったのだが、「デッドエンド」は剛の二重生活にとうとう破綻が訪れるということもあって、割かしシリアスめな展開が多くなってくる。

今回はその第一段階として、妹の吟子が白百合に入学したことで、彼女に二重生活がバレてしまったが、まぁこれはまだ序の口で、これから剛にもっと大きな試練が待ち受けるのだが、それはまたおいおい話していくとして7話の感想をば。

 

ドラマは早いもので生徒会長選挙の時期になり、選挙活動をしながらも他県から特服制覇にやってくる不良共をやっつけるという慌ただしい日々を剛は過ごしていた。喧嘩三昧の日々が嫌で白百合に入ったのに結局責任感から喧嘩を買わざるを得ないという皮肉な話になっているが、そこが剛の良い所だと思うし、特服の影武者を作って白百合との生活を両立させようなんて考えは、真っ当な生き方をしたい彼には到底思いつかないというか、許せない考えなのだろう。

よその学校がどうなのかわからないが、少なくとも私タリホーが通っていた高校は生徒会の選挙はあっても実に形式的というか、元々生徒会に所属していた人が繰り上がりで就任するのが定石だったので、ドラマのように候補者が5人もいるような状況ではなかったから、ここまで学内政治がしっかりしているというか、生徒が生徒会に関心を向けているってだけでも十分意識は高いなと思いながら見ていた。

 

そんな学校に新たに赴任してきた校長と生徒指導の教諭が「デッドエンド」編における新たな敵なのだが、これまでとは明らかにタイプの違う敵であり、剛の戦いも新たなフェーズに来たなという感じだ。

これまではぶっちゃけ拳でわからせる手法が通用する相手だったから良かったものの、流石に校長や学校の先生を殴る訳にはいかないし、相手もそこは頭を使って窮地に追い込むことだろうから、伍代や大丸といった少数精鋭では通用しない、もっと多くの人々を味方につけないと、この新たな戦いには勝利出来ない。そこがこの「デッドエンド」編の特色と言えるだろう。

 

多くの味方をつけないと勝利出来ないとはいったが、そこは剛の人柄というか、彼の熱意が伝播して他の生徒を動かしているのがまた凄い所で、こういう場面を見ると結局最後は自分に正直な生き方をした人が他人の運命を動かす人間になるのかもしれない、という考えに思い至る。この「自分に正直」というのは、善性だと剛みたいな存在になるし、悪性だと出世のために人を支配する今回の校長みたいな人間になってしまうので、一概に「自分に正直になれ!」とは言えないけど、一つのメッセージには間違いなくなっていたと思う。

 

※正直な所、校長の一存で学力UPのために学力テストを実施するのはあり得るとして、赤点の生徒が3割以上の部活を活動停止にするという暴挙は現実的には無理じゃないかなと思う。流石にPTAとか保護者会だってそれを聞いたら黙っているはずがないだろうし、ここはドラマだから通用する展開と考えた方が良い。

 

今回のハイライトにあたる、吟子に二重生活がバレる下りは少なからず複雑な感情を抱く場面ではあったが、吟子にとって自分の兄が軟派者として生活していたというのはショックだっただろうし、それが自分や自分の家族のことを兄は内心軽蔑していたのではないか?という疑念にもつながるから、素直に事情を尋ねられないのには自己基盤(自分や家族の生き方)を否定されるような怖さや怒りもあったのではないかと思う。

最終的には自分や弥生の危機を剛が助けてくれたことでヒビの入った関係は修復されたが、ここで特服ではなく白百合の制服で助けたというのが良いよね。あそこでもし特服で助けたら、剛の行動に偽善性というか欺瞞が垣間見えて恐らく吟子との関係は修復されなかっただろうし、白百合の時のままで駆け付けてくれたってことが本当に自分の身の危険を案じて飛んできたことをダイレクトに伝える形になっている。

 

白百合の制服のままチンピラ共を殴り倒すって、平穏な学生生活を願う剛にとっては非常にリスキーな行為だけど、だからこそ吟子に剛の誠実さが伝わった訳だし、剛が白百合に入学したのも、決して世間体を考えてとか難破一家の家風が嫌になったとかではなく、「自分のやりたいことがあったから入学したのだ」とあの瞬間吟子は腑に落ちたに違いない。ここまで具体的に吟子が思考したかはともかく、口で言われるよりもスッと理解出来たんじゃないかな?

 

吟子がチンピラにさらわれる下りは原作を読んでいないので何とも言えないが、ドラマとしてはやや取って付けた感じがする展開だったにもかかわらずちゃんと名場面になっていたし、元々大好きだった間宮さんが更に好きになるというね。

既に推しの私がこう言うのだから、初見の方なんかもっと好きになったんじゃないの?

ドラマシリーズ初の短編「トイレの花子さん殺人事件」(五代目「金田一少年の事件簿」#5)

私も中学の時は卓球部に所属していたけど、しんどい記憶が強かったから高校は文芸部にしたな。

 

(以下、ドラマと原作のネタバレあり)

 

File.4「トイレの花子さん殺人事件」

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今回の原作は1999年の8月から9月にかけて連載された「亡霊学校殺人事件」。これまでドラマ金田一少年シリーズは一貫して長編作を映像化してきたが、今回は初の短編作品の映像化となる。確かに五代目金田一は日本的ホラーを取り入れたエピソードを映像化すると言ってはいたものの、今までの傾向からてっきり長編作だけに絞って映像化すると予想していたので、このエピソードチョイスには正直虚をつかれた。

ちなみに、原作のタイトルを変えての映像化は、初代・堂本版の「首無し村殺人事件」に次いで本作が二度目となる。Twitter の方では今回の原作のタイトルとよく似た「亡霊校舎の殺人」も挙がっていたが、これはRシリーズの長編作で今回の物語とは一切関係ない事件なので、混乱しないために一応ここに書いておく。(「亡霊校舎」も映像化するかもと予想していた人がいたけど、個人的にはないんじゃないかな…?)

 

原作では「血染めプール」の事件で美雪が容疑者として疑われ嫌な思いをしたため、気分転換を図ってはじめと美雪は友人の村上草太と共に彼の地元である千葉の海岸へ遊びに行く。宿泊先の民宿「なぎさ荘」で出会った山科大附属高校の美術部と共に、民宿裏の墓地に佇む廃校を利用した肝試しに参加するが、美術部員の一人が肝試しの途中で行方不明になり、翌朝トイレの花子さん」の怪談さながらの死体となって発見される…というのが事件のあらすじだ。

 

今回も初の映像化作品のため、例によって事件関係者の一覧を以下に記しておこう。

 

〈山科大付属高校・美術部〉

伊能耕平:3年、自分勝手な性格で周りに迷惑をかけている。

国枝真紀:3年、芸大の日本画科を志望している女学生。

獅子島隆:2年、四人のうち(恐らく)一番のビビり。

鳴沢研太:2年、伊能に迷惑をかけられた「被害者」の一人。

 

〈不動高校〉

村上草太:2年、ミステリー研究会所属。はじめ・美雪の友人であり、今回は自身の地元である千葉の海岸へはじめ達と訪れることに。

 

ドラマは佐木が村上の代わりに登場するが、これはアニメ版と同じ。そして美術部の面々は山科芸術大学の学生※1として改変されており、若干年齢が上がっている。そして獅子島が2年から3年になったことで、鳴沢が唯一の後輩になっているのも注目すべきポイントだ。また、高校生から大学生になったこともあってか、原作以上に鳴沢を除いた三人の容貌が個性的というか、ちょっとガラの悪い学生になっているのもドラマならではの味付けとして目を引く所である。特に被害者の伊能は原作以上に偉そうな性格として描かれているのが目立っており、元カノの国枝とよりを戻そうとしていたことで今彼の獅子島と三角関係になっていたという設定が追加されている。

肝試しの舞台となる場所は、廃校から廃病院へと変更されているが、これは恐らく初回の「学園七不思議殺人事件」で旧校舎を舞台にした殺人を既にやったため、同じようなネタにならないよう舞台を病院に変えたと思われる。今回のタイトルが「トイレの花子さん殺人事件」に変わったのもその影響によるものだろう。

 

※1:ちなみに伊能を演じた中川大輔さんは実際に美大生だった方で、2020年3月に武蔵野美術大学造形学部建築学科を卒業している。

 

原作の事件解説(秀逸な心理トリックと隙の無い推理)

Who:くじ引きの順番、ピンポン玉の指紋

How:偽の便器による現場誤認&自動殺人トリック、くじ引きのマジシャンズセレクト

Why:妹を弄び自殺に追いやったことに対する復讐

短編だけあって本作のトリックは実にシンプル。石膏で作った偽の便器と廃校に元々あった便器の蓋を利用して用具入れを即席の偽トイレとして作り上げ、そこにターゲットの伊能をおびき寄せて毒針付きのピンポン玉※2を握らせ毒殺するという流れだ。

これだけを見ると実にチープなトリックなのだが、この物理トリックに加えて肝試しという状況を活かした心理トリックを組み込んでいるのが本作の秀逸な所。廃校のトイレという場所そのものが、偽のトイレだとターゲットにバレないための演出的効果になっていたことも勿論挙げられるが、他の肝試しの参加者たちに個室の一番奥が用具入れだと確認させることで、伊能が行方不明の時に用具入れを改めて確認させないようにしているのも巧妙。なおかつ現場には血に見せかけたインクという嘘くさい恐怖演出を盛り込むことで、常日頃から周りを困らせては喜ぶ被害者の仕業だと思い込ませ、他の美術部員がこれ以上トイレをくまなく調べないよう誘導しているのも見事というほかない。

ハウダニットを推理する手がかりとしては、トイレ入り口の壁に残った石膏の線もさることながら、容疑者3人が美術部員であることもヒントになっており、技術的に偽のトイレの作成が可能であることがフェアな形で提示されていたと思う。

 

偽トイレのトリックを成功させるためには、伊能が最後にトイレを訪れ、その前に犯人がトリックを準備しなければならないため、くじ引きの順番で最後の7番目に伊能が来て、その前の6番目に犯人がくるよう細工をする必要があるが、この細工も心理トリックという点で実に巧妙な出来になっている。

最初にはじめ達5人にくじを引かせて1~5番の紙を全部引かせて箱を空にし、犯人がくじを引くふりをして6・7番の紙を入れる。この際、ターゲットの伊能が真っ先にくじを引かないよう携帯電話を鳴らすことでその場から離脱させ、最後に伊能が7番の紙を引くよう操作しているのがこのくじ引きのトリックだ。※3これに関してはメタ的に考えればくじを作って他の人に引かせていた鳴沢が一番怪しいので、フーダニットという点ではある意味わかりやすいのかもしれないが、本作の容疑者は3人しかいないので、メタ的推理で犯人を当てた所で作者としては痛くもかゆくもないと言った感じだろう。

 

前述したメタ推理で犯人が鳴沢だと特定することも出来るが、勿論作中ではちゃんと理詰めではじめは犯人を追及しており、くじ引きの順番から伊能の前に廃校のトイレへ行った鳴沢が犯人と指摘し、そこから肝試しに使われたピンポン玉の指紋を元にした推理が展開されるのが本作のミステリとしてのクオリティの高さを物語っている。

犯人が予期していなかった美雪とはじめの行動――美雪が怖がってトイレに行かず、はじめがピンポン玉を便器の中に落としてマイボールを代わりに缶の中にいれたこと――によって、犯人が保険として伊能に持たせたピンポン玉が動かぬ物的証拠となったが、本来ならばこのピンポン玉が伊能が肝試しの後に殺害されたという状況を補強する材料になるはずだったのに、よりにもよって卓球に参加出来なかったはじめが唯一触れたピンポン玉をアリバイ偽装に用いてしまったのだから、今回の犯人は実に運が悪いというか何というか。念には念を入れて出来るだけ参加者が多く触れた玉をチョイスしたことが完全に裏目に出たのだからね。

 

こうして全ての謎が解かれたかのように思えたが、最後に鳴沢は死体のシャツに赤インクで「赤いちゃんちゃんこ」を施したのは自分ではないと告白。物語は一つの謎を残して終わるというオカルトめいた結末※4で締めくくられる。これがまた本作をより印象深いものにしており、短編ながらトリックの秀逸さと推理のロジカルさ、物語のホラー性の全てが申し分ない一作になっている。

 

※2:使用された毒物は不明だが、エラリー・クイーン『Xの悲劇』でも本作と同様の凶器(毒針の刺さったコルク玉)が使われており、そこではニコチンが毒物として用いられていたから、恐らく本作でピンポン玉に仕込まれた毒もニコチンだと思われる。

※3:同著者の「銀幕の殺人鬼」でも、今回のくじ引きのトリックに類似したトリックが出て来る。

※4:ここで一応伊能自身がドッキリのためシャツに「赤いちゃんちゃんこ」を施した可能性はないか考察しておこう。伊能がそれを行えるのは当然偽トイレのトリックで殺害される前になるから、死亡した段階でシャツに「赤いちゃんちゃんこ」の装飾がされていないとおかしい。しかし、それならば鳴沢が死体を移動した際シャツのインクを目にしているはずで、前後の状況と被害者の性格から伊能自身がやったことだとすぐ見抜けるはずだ。にもかかわらず鳴沢があのような告白をしたということは、死体を移動した時点では「赤いちゃんちゃんこ」は付いておらず、移動した後に誰かによって施されたものと考えるべきだろう。

 

ドラマの事件解説

今回は短編の映像化だったため、比較的大きな改変はなかったが一応詳しく解説しておこう。

 

偽トイレのトリックは原作と同じだが、現場に残った白い線について一言いっておくと、原作は舞台が学校なので一見するとチョークで引かれた線にも見えるが、病院でチョークは使われないので、ドラマは石膏の線※5がやや原作以上に目立つ手がかりになっている。

そして参加者たちをトイレから遠ざけるために用いられた赤いインクの血痕はドラマでは花子の墓まで続いており、原作以上にインクが犯行現場からはじめ達を遠ざける役割を果たすよう用いられているのが改変としては良い感じになっていた。

 

伊能を7番目にするためのくじ引きのトリックも当然原作と同じだが、実は放送前に携帯電話のことで少し気になることがあった。前述したように原作は1999年の作品のため、携帯も今ほど高機能ではなく、画面を見ただけではすぐに誰から着信があったかわからないのが当たり前だったが、現代のスマホでは着信履歴が残るし、誰から電話があったかも一目瞭然なので、もし原作通り鳴沢が電話をかけたら伊能がスマホを手に取った時点で誰から電話があったかすぐにわかって不信がられるのでないか…?という疑問があった。

で、実際ドラマはその点どうなっていたかというと、鳴沢が電話をかけた際に伊能のスマホには「非通知設定」と表示されていた。普通に考えたら鳴沢の電話番号が非通知に設定されているはずがないのだが、冒頭で伊能が鳴沢をコキ使っており、充電用のバッテリーやケーブルの管理もさせていたことを思うと、鳴沢は伊能のスマホを普段から手にしている人間だった訳であり、事実民宿にある充電器につなぐよう伊能は鳴沢に自分のスマホを手渡しているため、そのタイミングで鳴沢が自分の番号だけ非通知設定でかかるよう設定を変えていたと推測することは可能だ。地味と言えば地味な部分ではあるが、メイントリックを成功させるための第一段階として絶対やっておかなければならないトリックなので、当初気になっていた疑問が解消されて個人的にはスッキリした。

あと伊能のスマホに着信があった際、鳴沢だけ着信音が鳴る直前にポケットに片手を突っ込んでいる様子が映っており、ここで着信の主が鳴沢だとわかるので、ミステリとして実にフェアな作りになっていたことがわかる。

 

犯人にとって予想外だったはじめと美雪の行動だが、ドラマでは逆にはじめがビビり散らかして美雪にあきれられていたのが物語の良いアクセントになっている。道枝さん自身お化け屋敷は得意でない※6ようなので、これは脚本が当て書きした所もあるのだろうが、これにより美雪がピンポン玉を触らなかったという手がかりがカットされ、はじめがピンポン玉を入れ替えたという一点だけで犯人を追い詰めているのがドラマの改変のポイントの一つだ。

そのピンポン玉も、はじめのマイボールではなく佐木のマイボールになっており、佐木の祖父が元オリンピックの選手というオリジナルの設定も加わったことで、五代目の佐木は本人も含めて優秀な家柄として描かれている。覚えていると思うが、五代目の佐木はゴーストライターとはいえミステリ大賞を受賞するだけの作品を執筆する能力があるからね。美雪やはじめへの気配りも含めて歴代一優秀かもしれないよ?

 

解決パートは原作の場合ピンポン玉に残った指紋が犯人を追い詰める物的証拠となったが、ドラマは民宿での卓球の下りがカットされたため、(前述したように)指紋ではなくピンポン玉の入れ替えで生じた矛盾を動かぬ証拠にしている。つまり、5番目にトイレに入ったはじめが佐木のマイボールと入れ替えた以上、6・7番目の鳴沢と伊能は佐木のマイボールを持っていないとおかしいのに、二人とも無地のピンポン玉※7を所持していたことが動かぬ証拠となったのだ。

これによって鳴沢が犯人と確定したが、実際の所肝試しに使ったピンポン玉を翌日までずっと所持しているのはまずあり得ない(民宿のものならまとめて返却しているだろうし、鳴沢たちが持ってきたものなら鳴沢なり誰かがまとめて回収しているはず)ので、引っかかりを覚えた方もいたと思う。とはいえ、ドラマとしては画面に映らない指紋よりも、物理的に映像に映るピンポン玉そのものを決め手にした方が効果的なので、ここら辺は一応映像作品として理に適った改変として許容出来る範囲内だったと評価したい。

まぁ、仮に鳴沢がピンポン玉の入れ替わりに気付いたとしても、辻褄を合わせるには佐木のマイボールを盗む必要があるため、どっちにしろ完全犯罪としては詰んでいたといえば詰んでいたのだが…。

 

鳴沢の犯行動機は原作と同じだが、鳴沢の娘の自殺方法が焼身自殺から道路へ飛び出したことによる轢死へと変更されている。これは前回の「白蛇蔵」で放火による焼死を扱ったこともあって、焼死被りを避けて轢死に変更されたのではないかと思われる。また、原作の伊能は鳴沢がコンクールの入選作品※8を見に来た際にギクっと狼狽える様子があったが、ドラマは(鳴沢の娘の死を知っていなかったとはいえ)鳴沢の前で笑いながら写真のモデルのことを吹聴しており、原作以上にクズな性格になっている。

そりゃー、殺されても文句は言えないよあなた。

 

※5:はじめは剣持に写真を送り、白線が石膏によるものだと情報を入手したが、いくら鑑識がプロとはいえ、写真だけで成分を特定することは不可能だから、実際は写真と撮影場所を剣持に送り、剣持経由で千葉県警の鑑識に調べさせたと考えるべきだろう。

※6:YouTube のなにわ男子公式チャンネルでは、実際に道枝さんがあの有名なお化け屋敷「戦慄迷宮」でビビりまくっている様子が見られます(↓)。

なにわ男子【1泊2日温泉旅行】最恐お化け屋敷で爆笑絶叫!! - YouTube

※7:伊能が持つはずだったピンポン玉を処分したのはまだしも、自分の分のピンポン玉まで便器に捨てる必要はないので、ドラマの鳴沢の行動に合理性がないのが少々問題ではあるが、上述したようにドラマは佐木のマイボールが決め手となるため、その改変の影響で鳴沢は自分が本来持って帰るはずだった佐木のマイボールまで処分したことになったのだろう。

※8:実は国枝がコンクールの入選作品を見に来た回想場面で、初代・堂本版で実際に登場したとある絵画が飾られていたのだが、お気づきになった方はいるだろうか?

 

さいごに

今回はドラマシリーズ初の短編作品の映像化となったが、元の原作がしっかりしたミステリなので、そこまで改変や脚色に困難はなかっただろうし、改変自体も特に大きな問題点はなかったので、今回の映像化は成功していたと言えるのではないだろうか。

ただ一点小言を言わせてもらうとすると、やはり「赤いちゃんちゃんこ」は原作通りオカルト的な落とし方にした方が良かったと思う。五代目は初回の「学園七不思議」で六不思議と旧校舎に隠された死体の数が一致したという奇妙な符号を結末に持ってきていたし、次の「聖恋島」では犯人がトリックに使ったサイリウム入りペットボトルが最後まで見つからなかったという謎を残して物語を終えている。だから今回の「トイレの花子さん」をオカルト的エンドにしても何ら問題はないし、連ドラとしても統一感が出ていたはずだ。

脚本は美雪とはじめの関係性の方を重視したが、道枝さんのファンからして見ればオカルト的エンドよりも今回のエンドの方がキュンとするだろうから、わざわざ喧嘩を売るような古参ファンにはならず、温かい目でこのエンドを受け入れようではないか。

 

さて、ドラマも5話を通過し後半戦に移るが、五代目金田一は人の心の機微には比較的疎いタイプかな~と分析している。「聖恋島」の時は全員にアリバイがあるから犯人はツアー参加者にいると言って鰐瀬を怒らせていたし、今回も肝試しの参加者の中に犯人がいるといって国枝から厳しい目を向けられていた。

言うべきでない所で正論をぶつけて反感を買っているのが五代目金田一探偵としての不完全さの表れであり、初代の堂本版に慣れ親しんでいる人にとっては、この不完全さが苦手だと厳しい評価を下してしまうのも、まぁ無理ないかなとは思う。

前回から今回にかけては犯人に対する訴えかけ、特に犯人の善性を引き出すような訴えかけをしているので、そこは探偵として一歩前進したと言えるが、今回は心の読み取り方を間違ったので、鳴沢には響かなかった模様。流石に私もあそこで怪談話をしたのは伊能を煽ったからであって、別に犯行計画が頓挫すれば…みたいな気持ちで言ったことではないというのはすぐわかったよ。

 

 

次回は旧作のリメイクとなるが、リメイクされるのは初代・堂本版のシーズン2で放送された金田一少年の殺人」。えーと、これも正直リメイクされると思ってなかったわ。その理由についてはまた次回。

「探偵が早すぎる」シーズン2感想 #7(化学に明るいチンピラ)

カブトムシの呼吸が出来るのなら、一華は虫柱なのかしら。

 

(以下、ドラマのネタバレあり)

 

7話感想(黒幕編、スタート)

美津山四兄妹との戦いも終わり、ようやく一華にも平穏な日々が舞い戻ったかと思いきや、会社の研究施設で小火騒ぎがあり、一華が消火しようと持って来た消火器に毒ガス「ホスゲン」が仕込まれていたことが判明。ダークウェブ上では彼女の暗殺に一千万円の賞金がかけられており、またしても一華は命を狙われることになる。

という訳で、今回から黒幕編がスタートしたが、これまでと違い敵が表立って姿を現していないのが不気味であり、黒幕探しというフーダニットの要素も入ってくるので、原作にはないサスペンス性のある物語になっていくと予想される。

また、今回から宗介の許嫁である奈々が登場。このいかにもお嬢様的性格な奈々も含めて、一華・奈々・宗介・大谷の四角関係が構築されているのも注目すべきポイントで、これが黒幕予想を更に混迷化させているのが実に憎らしい構成だ。

 

黒幕予想は後回しにして、今回の刺客とトリックをざっと説明すると、刺客はダークウェブの募集に乗った林田・森本(公式Twitterでは「純悪」コンビと呼ばれてた)。林田が一華の研究施設の消火器に毒ガスを仕込んだが未遂に終わったため、次なる手をと彼が考案したのは、地下駐車場を利用した窒息死トリック。

大谷の車のマフラー下に生石灰とアルミ粉の入った筒を用意、これが即席の発煙筒となり、マフラーから垂れた水滴によって化学反応を起こした発煙筒が煙を放出、火災報知器が作動し地下駐車場は防火シャッターで閉ざされ密閉空間となる。こうして一華・大谷が脱出不能状態になった所で消火用の二酸化炭素ガスが放出され、二人は酸欠状態となり窒息死に至る…というのが林田の計画だった。

CO2ガスを密閉空間に放出し自殺もしくは事故に見せかけるというのはミステリ作品でもよく使われる手なので凡庸と言えば凡庸なのだが、これまでの美津山四兄妹がバカの一つ覚えみたいに毒殺トリックを考案していたことを思えば、まだ創意工夫があるトリックだと思うし、ただのチンピラ風情にしてはやけに化学に明るいのもおかしさがある。

 

千曲川自動ブレーキ機能のある車が出合い頭の事故を起こしたという矛盾からトリックを見抜いたが、そこは原作小説と違って視聴者も見抜けるよう作られてはいないので、やはりシーズン2は黒幕編に入ってもトリックの解明が物語のミソとはならないようだ。

 

こうして新たなる刺客や正体不明の見えざる黒幕の存在が発覚し、次回以降は本格的に黒幕探しが始まっていくが、今回の流れを見て、やはり大谷も黒幕として考えるべきではないかな~と思うようになってきた。

というのも、ここに来て彼は一華の婚約相手になる可能性の高い人物として急浮上しており、当然婚約すれば一華が死亡した場合、彼女の資産5兆円は大谷のものになる。となると、婚約前に自分も死にそうになったことをアピールしておけば黒幕と疑われにくくなるし、ドライブに誘ったのは他ならぬ彼なのだから、「純悪」コンビのトリックのお膳立てだって自由に行える。

加害者が被害者を装うというのはミステリではよくある話だが、これは大谷に限らず今回の終盤、何者かによって階段から突き落とされた葉子も同じく疑わしい。本当は誰にも落とされず自分からわざと転落した可能性だってあるし、今の所劇中で一番怪しくない存在であるから、逆に彼女が黒幕なのではないかとも思えてくる。

 

そして今回から登場した奈々も、宗介が一華に気があることを知っており、彼女を疎ましく思っているという点では一華殺害の動機を持った人間の一人ではあるが、正直黒幕候補の中では大穴に近いかな。単なる恋敵ってだけで懸賞金をつけて暗殺を募集するとはちょっと考えられないし、一華の近辺を調べて暗殺募集のサイトに掲載していたことから見てもつい最近まで海外にいた彼女にそれが行えるとは思えない(誰かに委託していたら話は別だが)。

 

相対的に宗介が黒幕の可能性は低くなってはいるが、だとしても彼は物語の序盤から怪しい動きが多いし、今回だって一華の自宅にまで来て様子を見ているというストーカーじみたことをやっているから、怪しいと言えば怪しいのよね。

…いや、でも単に変人なだけで意外と純粋に一華のことを思っているだけかもしれない。そもそも一華って橋田といい千曲川といい、周囲に変人を引き寄せてしまうタイプの女性だからね。あと殺した所で彼女の財産を赤の他人の宗介が受け取れるはずがないから、その点から見ても黒幕である可能性は低くなっている。

宗介黒幕説が弱まっているのは他にも理由があって、それは秋菜未亡人に関係がある。秋菜は一華に報恩の精神を持っており、遺産という形で報いようとしている一方、一華はそれを断っている。となると、直接遺産を渡せないので間接的な贈与、つまり宗介と一華が婚約すれば、宗介経由で結果的に遺産を一華に贈与することが出来るのだ。プロット的に考えても宗介と一華の婚約エンドは十分あり得るし、このまま秋菜未亡人が何もせず一華のお断りを受け入れるとは到底思えないので、メタ的な観点で黒幕予想をしていくと宗介は黒幕でなさそうだし、逆に一華の真の婚約相手になりそうな予感さえする。

 

以上、黒幕予想をしたが、大谷・葉子の二者がまず黒幕の本命枠として先陣を切り、逆に宗介は大きく引き下がって黒幕ではなく一華の真の婚約相手の可能性が出て来たという感じだ。奈々は、う~ん、彼らの引き立て役になりそうかも。

ナンバMG5ざっくり感想 #6(執着する男・執着を断つ女たち)

今回のロケ地、間宮さんの地元だそうですね。しかも1月期のドラマ「ファイトソング」でムササビを披露した場所みたいですから、黒ムササビが赤特服となって舞い戻る、何ともカオスな話になったようです。

 

6話感想

ナンバMG5(16) (少年チャンピオン・コミックス)

今回は原作未読で感想を語っていくが、調べた所によると15巻から描かれる横浜魔苦須編を映像化したようで、ドラマは1話で解決したものの、原作はなかなか苦戦する展開になっているようだ(剛がビルから落とされるとか書いてあったし)。敵役の加納光一もドラマでは「101匹わんちゃん」のクルエラみたいな男だったのに対し、原作の加納は上の画像のような拳闘士ばりの筋骨隆々の男だ。そりゃ苦戦するのも無理はないな。

あとドラマは千葉制覇の下りがあっさり描かれているが、原作は千葉制覇に至る前に芹沢という男と色々あったようなので、もし気になる方は原作を読んでみてはいかがだろうか。

 

さて、横浜での写生大会で剛は横浜のレディース集団「横浜魔苦須」と「ケルベロス」との抗争に巻き込まれ、はからずも横浜魔苦須から特服先生と呼ばれ助太刀する羽目になる。火中の栗を拾うのはいつものことだが、今回は「執着」が一つのテーマだった気がする。

恋愛ドラマなんかだと女性の方が一人の男性に未練たらたらでストーカーまがいのことをするといった定番の流れがあるが、現実では男性の執着だって馬鹿にならないくらいあるし、DVやストーカー殺人は力のある男性が引き起こす事件だ。彼らは「愛」とキレイに言おうとするが、大抵それは執着だったり支配願望の裏返しに過ぎない。

特に今回は加納が執着の鬼として描かれ、元カノの牧野を引き戻そうと暴力をはたらいた。そして加納の執着と対比的に横浜魔苦須の解散が描かれたことで、執着する男と執着を断つ女という構図が生まれ、物語の構成としてうまい着地をしていたのではないかと思う。バトル描写が簡素化されても物語のテーマ性が損なわれないという点でこれはホントに賢明な判断だったと評価したい。

 

執着というのは加納に限らず、誰だって多かれ少なかれ持っているものであり、それすらないと前回の陣内みたいな人間になってしまう。かと言って執着し過ぎるのも良くないのは大体の人ならわかることで、それこそ横浜魔苦須のように落ちぶれることもないが進展もない、ずーっと同じ状態がループするような日々を繰り返し続けた挙句、時代の流れから取り残された廃墟のような存在と化してしまう羽目になる。

何にこだわり何を断ち切るか判断することの必要さと難しさもこの物語では描かれているし、他ならぬ剛の兄・猛も執着という点ではどの登場人物よりも自分の喧嘩人生に執着している男だ。今回横浜で剛の話を盗み聞きしてしまった猛にとって、剛の言葉は自分の執着するものを否定する言葉ともとれるし、現に猛は仕事に就かず人生としては関東制覇から時間が止まった状態なのだから、全くの的外れな言葉ではない。それだけに猛にとってはショックな一言だったに違いないと思う。

まぁ、剛にしてみれば別に兄の生き様を否定するつもりは当然ないが、短絡的に捉えれば否定されたと受け止められるし社会的に見たら兄の生き方の方が問題アリなのだから。そこは仏教にもあるように諸行無常を受け入れるしかない、ということだろう。

 

ただ、「諸行無常」は剛だって同じこと。悪いことがずっと続かないように、良いこともずっとは続かない。剛の二重生活もこれまでは何とかなったけど、次回からは原作「ナンバデッドエンド」に移り、剛の二重生活に大きなヒビが入ってくる。前に無料お試し版で読んだけど、半分近くは忘れているので次回以降どうなるか、楽しみである。

モヤモヤポイント満載の「白蛇蔵殺人事件」はどう料理されたか?(五代目「金田一少年の事件簿」#4)

白蛇村はイモトアヤコが絶対に行きたくない村、第一位だと思う。

 

(以下、ドラマと原作のネタバレあり)

※白蛇村の所在地に関することを加筆しました。(2022.05.29)

 

File.3「白蛇蔵殺人事件」

金田一少年の事件簿R(11) (週刊少年マガジンコミックス)

今回のエピソードは2016年の6月から9月にかけて連載された「白蛇蔵殺人事件」。原作では「聖恋島」の前に起こった事件として描かれており、老舗酒造会社の「白神屋白蛇酒造」を舞台に連続殺人が勃発する。

頭巾で顔を隠した男や酒造タンクで発見される死体など、随所に横溝正史のテイスト(『犬神家の一族』『悪魔の手毬唄』etc.)があり、そういった点から同著者の「飛騨からくり屋敷殺人事件」を思い出した方もいたのではないかと思う。今回も「飛騨からくり屋敷」と同様、仮面の男の正体について疑念が湧いて出たり、酒造経営に関する白神一族内の諍いが事件の重要なポイントとなってくるが、それは事件解説の項で詳しく述べるとして、まずは原作の登場人物をおさらいしつつ、簡単に改変ポイント・注目ポイントを挙げていこう。

 

〇登場人物一覧(括弧内は年齢)

〈白蛇旅館〉(白蛇酒造が経営する旅館)

姫小路鏡花(42):旅館の女将。音松とは内縁関係。

姫小路蒼葉(17):鏡花の娘で仲居。

 

〈白神家〉

白神音松(65):「白神屋白蛇酒造」社長。鏡花とは内縁関係。

白神左紺(38):「白神屋白蛇酒造」杜氏。音松の長男で前妻・天音との間に出来た子。

白神蓮月(?):5年前の火事で死亡したと思われた音松の次男。頭巾を被っている。後妻・鞠乃との間に出来た子。

白神黄介(?):音松の三男で後妻・鞠乃との間に出来た子。5年前の火事以来行方不明。

白神天音:音松の一番目の妻。蛇毒が原因で病死。

白神鞠乃:音松の二番目の妻。酒造所で事故死。

 

〈白神屋白蛇酒造〉

鷺森弦(28):若き杜氏見習い。

黒鷹銀三(52):ベテラン社員。

 

鬼門影臣(?):逃走中の殺人犯

 

原作は逃亡中の殺人犯を追って剣持と(捜査協力で付いて来た)はじめ・美雪が白蛇村を訪れる所から始まるが、ドラマのはじめと美雪は家族ぐるみの旅行で白蛇村を訪れていた所、たまたま殺人犯を追っていた剣持と遭遇するという流れになっている。流石にドラマの剣持は二度しか出会ってない高校生二人と一緒に殺人犯を追ってもらうという暴挙には出なかったがそれはともかく。

ドラマは1話完結の物語ということもあって、鏡花の娘・蒼葉※1と音松の後妻・鞠乃がカットされており、音松の息子たちが腹違いの兄弟でなくなっている。そして死亡した前妻・天音が琴音という名に変更されているが、これは出演者の中に岡山天音※2さんがいるため、混乱を避けるべく改名したと考えるべきだろう。

 

横溝の『犬神家』の要素を元々含んだ原作ではあるが、ドラマは更に『犬神家』のテイストが強くなっており、〈蓮月〉が白い頭巾ではなく黒いゴムマスクをしていることや、白神家を原作では「しらかみ」と読むのに対しドラマは「しらがみ」と濁っていることからもそれはうかがえる。白蛇信仰という本作の設定は原作の『犬神家』に同様のものはないが、市川崑監督の映画では松子夫人が犬神を信仰している場面があるため、個人的にはそういった面でも本作は『犬神家』とリンクする所があって面白さを感じられる。

他にも、ドラマでは屋号が「白神屋」から「白神屋」に変更している等の違いがある。白蛇村の所在地は原作・ドラマ共に不明だが、劇中で黒鷹ら酒造会社の社員が唄っていた「庭に松竹 白蛇様も 黄金銚子は…」という唄の内容から見て、ドラマ版の白蛇村は秋田県にあるのではないかと思われる、というのも秋田県の民謡・喜代節には「庭に松竹 鶴と亀」「黄金銚子に 泉酒」といった歌詞があり、今回のドラマで唄われた歌詞と符号する部分があるからだ。勿論、ドラマ版の民謡はオリジナル曲ではあるが、喜代節を意識していることは間違いなさそうだし、秋田県は有数の米どころなのだから、ドラマ制作陣が白蛇村の所在地に秋田県を選んだとしてもおかしくない。

 

そして公式HPを見た原作既読者ならわかると思うが、原作で用いられた「あるトリック」が果たして可能なのか?と放送前の時点で疑問を抱いた方がいたのではないかと思う。この「あるトリック」については後ほど詳しく解説していくが、原作を読んだ時ですら無理ではないかと思ったトリックを、ドラマはどう映像化するのか、或いは全く違うアプローチで魅せてくるのか、ここが放送前の注目ポイントだった。

 

※1:Twitterの方では蒼葉のカットに対して不満の声が多数上がったが、蒼葉のモデルは『艦これ』の青葉と言われており、それを考えるとドラマで出すには色々厄介なような気が…(単に尺の問題でカットしただけかもしれんが)。

※2:ちなみに岡山さんは四代目・山田版の連ドラ初回「銀幕の殺人鬼」で第一の被害者・泉谷シゲキを演じている。この回は遊佐チエミを演じた上白石萌歌さんも出演しており、鷺森を演じた岡山さんと美雪を演じた上白石さんは約8年ぶりの共演を果たしたことになる。

 

原作の事件解説(難あり・モヤモヤありの事件)

Who:長男と三男の相似、鞄の持ち方、鞠乃の事故現場、完璧すぎる片付け

How:左紺との入れ替わり・二重底の酒造タンクによるアリバイトリック

Why:「白蛇酒造」存続の障害となる人物の抹殺と復讐

本作は頭巾で顔を隠した男〈蓮月〉がいることで、否応にも(過去作の真相も踏まえて)仮面の中の人間の入れ替わり、つまり被害者と加害者の入れ替わりを疑ってしまうが、〈蓮月〉に注目させておいて実際は左紺と鷺森が入れ替わっていたというのが今回の事件の重要ポイント。特に本作では逃亡中の殺人犯・鬼門や行方不明の三男・黄介といった入れ替わり可能な人物が配置されていることもあって、より頭巾の男の方にミスリードされやすい作りになっているのがミステリとしてうまい手と言えるだろう。

しかし、左紺と鷺森(=黄介)の入れ替わりに関しては正直無理があるように見え、あまり良い意味で騙された気がしないのも確か。作中では4話の黒鷹との会話で左紺と黄介が「若い頃の音松さんにそっくり」と言われていることから、長男と三男が似ていた※3ということは一応手がかりとして提示されてはいるものの、一卵性双生児でもないし腹違いの兄弟なのだから(体格や背格好はまだしも)声質まで同じというのは流石にあり得ないと思うし、黄介は整形手術で鷺森に化けていたことから考えて目元も当然左紺と違っていたはずだから、眼鏡を外したくらいでベテラン社員の黒鷹を騙せるとは到底思えないのだ。剣持は「顔形が似てれば声帯とかの形も似てくる場合もある」と言っているが、二人の生育環境(特に行方不明後の黄介の境遇)が違っていることを加味するとちょっとこの剣持の意見は作者の自己弁護のように聞こえてしまう。

酒蔵で作業するための白色の作業服・帽子・マスクを着用していることもあって、パッと見にはわからなかったとしても、声の抑揚や歩き方といった些細な点一つ違うだけで違和感は出て来るし、特に入れ替わり後に鷺森は左紺のふりをしながら黒鷹と会話をしているため、よっぽど演技力がないと成功しないと思われる。これはあくまで私個人のトリックとしての好みもあるので客観的に評価出来ない部分もあることは承知の上で言わせてもらうが、やはり本作の入れ替わりトリックには無理があるという評価を下さざるを得ない。

 

※3:ここの相似の下りは横溝正史悪魔が来りて笛を吹く』の代数の定理「a=x,b=x,すなわち a=b」を彷彿とさせる。

 

入れ替わりトリックはともかく、アリバイ作りのため酒米貯蔵用の桶の蓋を利用して酒造タンクを二重底にするトリックは面白いしユニークな出来栄えだと思う。特にもろみ酒が桶の蓋のカモフラージュとして作用していることや、酒造会社の特性を活かして他のタンク(=左紺が隠されたタンク)を調べさせないよう状況が作られているのが秀逸な部分ではないだろうか。

ただ、左紺をタンクに入れて蓋をし、上からカモフラージュ用のもろみ酒を入れたとなると、プラスチック製のタンク内は空気穴のない密閉空間だった訳であり、いくら昏睡状態とはいえ左紺は酸素欠乏症を発症し窒息死していたのではないかという疑問が出て来る。すぐに溺死させた〈蓮月〉はともかく、約半日もの間左紺はタンク内で眠っていたのだからどうしてもそこは気になる点だ。

www.suvtech.kohal.net

上の記事で酸素欠乏症に至るまでの目安時間(体重・呼吸量・部屋の空気の体積等)が言及されているので、それを読んでいただければより明確にわかると思うが、仮にタンクの容量を7000リットル※4と見積もっても、酸素欠乏症にならない時間はせいぜい6時間程度だ。左紺がタンクに入れられたのは殺害前日の午後7時45分~午後8時45分の間なので、翌日の午前3時以降には間違いなく酸素欠乏症の徴候が出ていたはずだ。そして、死亡推定時刻が死体発見の1時間~2時間前(5話)という検死結果と4話の黒鷹の言葉――「朝には(酒が)ちゃんと入って」いた(=朝の時点ではまだ隠されていた)――を合わせて考えれば、折れた櫂棒で左紺を刺した時には少なくとも酸素欠乏症で瀕死かあるいは死亡していなければおかしい。当然死体を検めれば窒息の状況等はすぐにわかってしまうので、やはり死因や検死結果に矛盾が生じてしまう。

前述した左紺との入れ替わりトリックも含めて、フィクションとしては面白いし成り立っているものの、現実的に突き詰めて考えていくとおかしい点や無理が生じるのが本作「白蛇蔵」のトリックの難点と言えるだろう。

 

※4:酒蔵にあるタンクの中はどうなっている?─ 現役蔵人が潜入してみました! | 日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」を参照。

 

〇犯人特定の3つの手がかり

はじめが左紺と鷺森の入れ替わり、そして鷺森=黄介を見抜いたポイントは3つあると言っていたが、その一つ目となるのが一番蔵に入る時と出た時の左紺の鞄の持ち方の違い。剣持曰く「フォー・スタンス理論」の観点から見ても、握り方の違いで別人か同一人物か判断するのは可能とのことだが、一応この理論について調べてみた。

ameblo.jp

ameblo.jp

(色々調べてみて ↑ のブログ記事が今回の内容的に一番しっくりきたので紹介しておきます)

 

「フォー・スタンス理論」はスポーツ、特にゴルフなどで用いられるスポーツ理論で、自分に合った体の使い方でスポーツを上達させるのに有用だとされている。電車やバスの吊り革の握り方でも、指だけでゆるく握る人はAタイプ、手のひらでしっかり握る人はBタイプといった具合に分類が可能なようなので、一応説得力ある理論であることは間違いないようだ。

ただ、かなり専門的な知識なので、これを犯人当てミステリの手がかりとして提示したのは少々アンフェアな気がしないでもない。まぁ、問題編(7話)で鞄の持ち手の部分がハッキリ映っていることや、はじめと剣持の会話(「ワイドショーでちらっと観た覚えがある」「警察の中ではよく知られた話」「監視カメラの映像の分析に使われる」)でこの監視カメラの映像が手がかりであることが強調されているため、一応フェアにはなっていると判断して良いが、う~ん…。この手がかりのフェア性については他の方の意見もちょっと聞きたい所ではあるな。

 

二つ目の手がかりは鞠乃の事故現場について。蒼葉や他の従業員は事故現場がタンクの洗浄場であると誤解している、或いは全く知らないのどちらかなのに対し、事故のことを詳しく知らないはずの鷺森が正しい事故現場(取水場)を知っていた。これにより、はじめは鷺森が白神家の身内が化けた者と見抜いたが、この手がかりについて詳しく述べていきたい。

6話の黒鷹の証言から、鞠乃の事故死を直に知っているのは音松・黒鷹・鏡花の三人であり、蒼葉は母親からその事件のことを聞いているため、一見すると蒼葉が言った「事故現場はタンクの洗浄場」という情報の方が正しいように思ってしまうが、実は5話で音松が事故のことを話しており、それによると「警察の見解は水に濡れた渡り廊下から足を滑らせ、咄嗟に掴んだホースが運悪く首に巻きついて首吊り状態になった」と述べている。それを踏まえた上で6話を見ると、事故現場と思しきタンクの洗浄場には手すりがあるのに対し、取水場は手すりがなく「階段が急で渡り廊下が滑る」という状況に加えて鷺森の「昔あそこで人が亡くなる事故」があったという発言まである。

この三者の発言と現場の状況を照らし合わせれば、蒼葉の情報の方が間違いで、音松・鷺森の情報こそが正しい=「実際の事故現場は取水場」と論理的に推理することが可能なのだ。特に音松が言った「水に濡れた渡り廊下」が重要となってくるが、作中でさらっと言われていることもあって、この手がかりはなかなか気づきにくいのではないだろうか。仮に蒼葉と鷺森の矛盾がわかっても、音松の証言と合わせて考えないとこの二つ目の手がかりはアンフェアと判断してしまいそうになる(実際初読の段階ではアンフェアだと思ってました…汗)

 

そして三つ目の手がかりは6話で音松が自宅の居間で暴れた出来事が関わってくる。この時、鷺森は音松が荒らした居間の片付けをしていたが、白神家全員が揃った家族写真と全く同じ状態に家具や調度類が元通り片付けられていた。この完璧すぎる片付けが三つ目にして最大の手がかりだ。

実際記憶だけを頼りに写真の通り家具・調度類を元通り戻せるかというと正直無理ではないかと思うが、身内でない第三者なら尚更トロフィーの位置や帽子がかかっていた場所など知っているはずがないので、この三つ目の手がかりは二つ目以上に鷺森が身内の人間であることを示す手がかりになっている。

この手がかりについて、割と簡単にわかった人もいたと思うが、片付けられた居間と写真を間違い探しのように見てしまうと逆にそれが盲点となってわからなくなってしまうという点では実に絶妙な手がかりではないだろうか?(実は私、その見方をしてまんまと作者の術中にハマってしまいました…orz)

 

以上、3つの手がかりについて言及したが、この3つの手がかりでわかるのは「左紺と犯人の入れ替わり」「鷺森が白神家の人間=蓮月か黄介」の二つであり、ここから「鷺森=黄介」まで推理を進めるとなると、前述した左紺と黄介の相似を材料にしなければならない。が、肝心の入れ替わりトリックに無理があるため、鮮やかな推理としてまとめにくいのが本作のフーダニットとして惜しい点だ。

 

〇犯人の動機と「黒幕」の思惑

本作の犯行動機が左紺への復讐という点についてはこれまでの犯人たちと大体同じだが、鬼門や(この後言及する)黒幕の殺害も含めると「白蛇酒造」存続の障害となる人物の抹殺という、シリーズ中でも珍しい犯行動機となる。特に今回の事件は事業経営の采配による一族内の確執が原因のため、その点から見てもこれまでの事件とは異質な犯行動機だ。これは音松が依怙贔屓的な采配をせず左紺と蓮月の共同経営という形で継がせていれば丸く収まっていた可能性が高かったのだから、そういう意味で本作は旧弊的な一子相伝が仇となった事件と言えるだろう。

 

事件の謎解きは鷺森(黄介)の逮捕という形で終わるが、それで物語は終わらず黒幕の正体とその死が描かれているのが本作のまた異質な所。蓮月・黄介の母親である鞠乃の事故死に関わり、左紺の蓮月殺害を焚きつけたのは姫小路鏡花という「毒蛇」だと明かされる。

蒼葉に嘘の事故現場を教えたことや、最終回前の10話で左紺しか知らないはずの殺害方法――「自分の弟を生きたま火炙り」――を口走っていることから見ても、彼女が黒幕であることはまず間違いないが、問題は彼女の動機。作中では左紺を含めた白神家の跡取り息子三人を排除することが目的とはじめは推測をたてているが、排除して彼女にどういった利益があるかまでは触れられないまま終わったため、その結末にモヤモヤとさせられた読者も多かったのではないかと思う。

 

ここからは鏡花の動機について考えていきたいが、まず白蛇酒造の乗っ取りはあり得ない。経営面に関して口出しは出来たとしても、肝心の酒作りを担う杜氏や後継者が全滅している以上、乗っ取った所で経営が傾くのは必至なので、別の動機があると思う。

個人的に一番有力だと思うのは白神家の財産を狙ったという動機だ。これならば相続の対象となる音松の息子たちを排除したことにも納得がいくし、いわゆる「後妻業の女」として、音松を骨抜きにして殺した挙句遺産を奪い取り、経営が傾いた白蛇酒造は用済みとばかりに切り捨てバイバイキーン…という筋書きが成り立つ。勿論、財産に関しては作中で一切語られていないのであくまでも私タリホーの勝手な推測に過ぎないが、しっくりくる仮説を立てるとしたら、やはり白神家の財産狙いの犯行と考えるべきだろう。

 

鏡花の件以外にも作中で言及されていない謎はもう一つある。他でもない本物の蓮月の死体の行方だ。結局白神家に戻ってきた頭巾の男は蓮月になりすました逃亡中の殺人犯・鬼門であり、火事のあと死体が見つかっていなかったから、蓮月が戻ってきたことを音松が受け入れたとすると、誰が蓮月の遺体を秘密裡に処理したのかが問題となる(火葬場じゃあるまいし、普通遺体は残ってなきゃおかしいよね?)。当然黄介は左紺に殴られた後は全身やけど&記憶喪失でそのまま病院送りとなっているため遺体の処理は不可能だし、左紺は死体を隠す理由がないので彼も除外。音松は尚更隠す必要がないし、従業員の黒鷹も同様の理由であり得ない。となると、やはり怪しくなってくるのは黒幕・鏡花なのだが、彼女に蓮月の死体を隠すことで何かメリットはあるのだろうか?

 

前述したように、蓮月殺害を焚きつけたのは鏡花であり、蓮月が「生きたまま火炙り」になったことも彼女は知っている。左紺がわざわざ蓮月の殺害状況まで鏡花に報告したとは考えにくいので、恐らく事件当時現場には鏡花がいたのではないかと推理するが、さてそうなると鏡花にとって一番困ることは何だろうか?

それは当然左紺の裏切りだろう。罪悪感に駆られた左紺が殺害を自白し、鏡花に殺害を教唆されたことまでゲロってしまわれたら、それこそ白神家追放どころでは済まなくなる。となると、少なくとも殺害したという最大の証拠=蓮月の死体を自分が隠しておけば、仮に自白されたとしても証拠となる死体は出てこないし、その死体を脅迫材料として左紺を操縦することも可能なのだから、私は蓮月の死体を隠したのは鏡花だという推理を推していきたい。

 

以上のように作中で語られず読者に想像を委ねた点はいくつもあって、ある程度論理的・合理的に仮説を立てられる部分はあるものの、それでも釈然としない点もある。それは鏡花を毒殺するため蒼葉のペットである白蛇をシャワールームに放ったという殺害計画※5のこともあるし、そもそも血清が無い毒蛇をどうやって鏡花が入手し飼育してきたのかも気になる所だ。

 

※5:鏡花を狙ったとしたらシャワールームが彼女専用でない限り、他の人(特に蒼葉)が噛まれて死亡する危険性も十分あったはずで、そうなった場合ターゲットの鏡花が死亡せず鷺森の目論見は失敗に終わってしまう。それに、基本的に蛇は臆病な性格でいきなり人に噛みつかず、まずは威嚇してくるはずだから、蛇を放った所でそもそも噛みついてくれる可能性の方が圧倒的に低い。まぁ、シャワーの水を攻撃と受け取って噛みついてくる可能性はあるかもしれないが、それでも確実性に欠ける。

…っていうか、そもそも鷺森はいつ鏡花が黒幕だと気づいたのだろう。白蛇を仕込むにしてもはじめの解決前じゃないと無理だし…。

 

ドラマの事件解説

ドラマの批評に移る前に、今一度原作のモヤモヤポイントをリストアップしておきたい。

【原作のモヤモヤポイント】

①入れ替わりトリックの問題(実際あれだけうまく入れ替われるのか?)

②「二重底のタンク」トリックにおける酸素欠乏症の問題

③「鷺森=黄介」を推理する材料の脆弱性

④鏡花の思惑・真意は何か?

⑤鏡花殺しのトリックの不確実性

⑥本物の蓮月の死体の行方

④や⑥のように推測がある程度成り立つモヤモヤポイントもあるが、それでも推測の域を出ないため、上記の6つをドラマはどう処理したのかが問題となってくる。

 

まず、左紺との入れ替わりトリックについて。ドラマでは元蔵(原作の一番蔵)が鍵で厳重に管理されておらず、比較的誰でも入りやすい状況※6になっているため、原作よりも「左紺が蓮月と揉めた末の犯行」という仮説が弱まっており、「第三者が鍵を奪い蓮月&左紺を殺害した」仮説に至っては消滅しているのが改変のポイントの一つだ。これは他の関係者も侵入可能にしたことで容疑者の幅を原作以上に広げるねらいがあると思われる。

そして肝心の入れ替わりだが、公式HPの人物相関図を見てもわかるように、ドラマは長男と三男の相似はないため、原作と全く同じ形で左紺になりすまして蔵から出ていくことは当然不可能。そこでドラマは〈蓮月〉の黒マスクを入れ替わりの道具に使っており、最初は〈蓮月〉として侵入し、出る時は左紺の振りをしてそそくさと出ている。当然原作のように黒鷹と会話はしていないため、入れ替わりトリックが現実的に十分可能な出来になっていた。この改変は実にグッドと言えるだろう。

 

そして二点目の二重底の酒造タンクの酸素欠乏症の問題は、プラスチック製のタンクから木桶に変わったことで一応完全な密閉空間になっていないという点ではクリアしているが、蓋も木製(しかも半月状の二枚板)になったので、〈蓮月〉は良いとして左紺に関しては酒が漏れて底に流れ落ちなかったのか気になる所ではある…。まぁ、そこはミリ単位の隙間も許さぬ桶職人の技が凄かったってことで(おいっ)。

酸素欠乏症の問題は木桶に変えただけでなく左紺の殺害方法にもあり、折れた櫂棒による刺殺から首吊りに変えたのは、仮に酸素欠乏症の徴候が殺害直前に出ていても、首吊りによる絞殺である程度はカモフラージュ可能だと犯人が判断したからだろう。

 

以上のように、原作のハウダニットに関してはかなり現実的なトリックとして改変されており、そこは良かったと言えるが、ただドラマは犯人が仕掛けたトリックが何のためのトリックなのかイマイチピンと来ない作りになっていたのが残念。

原作では一番蔵の出入りの状況や死体の死亡推定時刻などから各人物のアリバイが検証されているので、本作のトリックがアリバイトリックだとわかるのだが、ドラマは死亡推定時刻の検証もないし、左紺の失踪もあまり強調されていない、なおかつ元蔵には誰でも出入り可能だったので、アリバイトリックとしてあまり効果的じゃない感じになっていたのが実に勿体ない。これでは何のために仕掛けたトリックなのかわからないし、折角良い形で改変しても結局は相殺されてパァではないかと思うのだ。

せめて〈蓮月〉の死亡推定時刻を言及し、その時刻に元蔵に隠すのが不可能であることを劇中で述べておけば、アリバイトリックとしてトリックの種明かしも効果的なものになったのだが。

 

※6:何せ私服姿のはじめ達が侵入出来るくらいだからね!ちなみに今回はセットだから良かったものの、私服姿で酒蔵に入るなど言語道断酵母の問題以前に異物混入の原因になるよ。

 

原作における犯人特定の3つの手がかりは、鞠乃がカットされたことで二つ目の「事故死の現場」という手がかりもカットされている。一つ目と三つ目は原作と同じだが、一つ目の「鞄の持ち方」の手がかりは監視カメラの映像が引きの映像ということもあって正直わかりにくい。ただ、その分はじめが事件関係者全員に鞄を持ってもらいその姿を撮影してまわる場面が追加されたことで、一応手がかりとして提示された作りにはなっている。

「鷺森=黄介」の推理材料の脆弱性については、長男と三男の相似という設定がなくなったので尚更推理が無理なはずだが、ドラマでは何故か「鷺森=黄介」という推理をはじめはしている。改めて言うが蓮月の生死は不明であり、仮面の男が鬼門であるとわかった以上、鷺森を蓮月か黄介のどちらかだと推理するのは可能だが、彼を黄介と断定する材料は全くない訳で、それをガン無視であれほど断定的に鷺森を黄介と言い切ることは出来ないと思うのだ。

もしかしたら杜氏見習いという彼の職業的状況からはじめは黄介だと推理(杜氏の才がある蓮月が鷺森に化けているのなら、黒鷹や他の社員が彼の才能を見抜いている)したのかもしれないが、入って半年の新人な上に才能は隠そうと思えば隠せるので、正直これでも「鷺森=黄介」と推理するには弱すぎる。

 

そして原作で多くの読者をモヤモヤさせたであろう鏡花の一件に関してはドラマは蛇に噛まれて死亡することなく、過去に起こした連続保険金殺人がバレて逮捕という形で改変された。この「後妻業」設定※7は原作からでも読み取れる設定だし、白蛇を放って殺すという不確実なトリックを描く必要もなくなったので改変としては良かったのだが、モヤモヤポイントの最後の一つ「本物の蓮月の死体の行方」は放置されたまま終わっているので結局キレイにモヤモヤを全滅出来ていないのは詰めが甘いなと思わされる。

しかも鏡花が一連の事件の黒幕として原作で描かれていたからこそ、鏡花が蓮月の死体を隠したという推測が成り立ったのに、ドラマは黒幕として描かれていないため原作でかろうじて推測出来た死体の行方も推測出来ない。この点に関しては原作よりも余計悪いことになっていると言わざるを得ない。

 

※7:原作と比べるとやや唐突な形で明かされた部分ではあるが、問題編の段階で音松と結婚しようと思っていたことは示されているし、〈蓮月〉と左紺が死亡しているのにも関わらず鼻歌交じりで生け花をしていた(はじめが鞄の持ち方の手がかりを集めていた時)ことから、後妻業で音松に取り入っていたと推測は出来る。

 

さいごに

以上、原作のモヤモヤポイントを挙げてドラマの評価を進めたが、モヤモヤポイントの①・②・④・⑤は改良された一方で、③・⑥は逆にその改変の影響で原作以上にマズいことになっており、総合的に見るとモヤモヤ度は原作とあまり変わらない結果になったのが何かな~。

特に今回は1話完結で描く必要があったから「ご苦労様でした」と脚本の苦労を労いたいのだが、「あちらが立てばこちらが立たぬ」という具合に改良した点が別の部分を改悪させているので、非常にジレンマに近いもどかしさがある。原作がもっとモヤモヤポイントを解消しておけばこうはならなかったのだから、今回はドラマ制作陣だけの問題でないということをハッキリ言った上で、ドラマ版「白蛇蔵」は微妙だったと評価を下そう。

 

 

次回はトイレの花子さん殺人事件」。原作は短編「亡霊学校殺人事件」なのだが、流石に短編は予想外だし盲点だったわ。