タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

ドラマシリーズ初の短編「トイレの花子さん殺人事件」(五代目「金田一少年の事件簿」#5)

私も中学の時は卓球部に所属していたけど、しんどい記憶が強かったから高校は文芸部にしたな。

 

(以下、ドラマと原作のネタバレあり)

 

File.4「トイレの花子さん殺人事件」

画像

今回の原作は1999年の8月から9月にかけて連載された「亡霊学校殺人事件」。これまでドラマ金田一少年シリーズは一貫して長編作を映像化してきたが、今回は初の短編作品の映像化となる。確かに五代目金田一は日本的ホラーを取り入れたエピソードを映像化すると言ってはいたものの、今までの傾向からてっきり長編作だけに絞って映像化すると予想していたので、このエピソードチョイスには正直虚をつかれた。

ちなみに、原作のタイトルを変えての映像化は、初代・堂本版の「首無し村殺人事件」に次いで本作が二度目となる。Twitter の方では今回の原作のタイトルとよく似た「亡霊校舎の殺人」も挙がっていたが、これはRシリーズの長編作で今回の物語とは一切関係ない事件なので、混乱しないために一応ここに書いておく。(「亡霊校舎」も映像化するかもと予想していた人がいたけど、個人的にはないんじゃないかな…?)

 

原作では「血染めプール」の事件で美雪が容疑者として疑われ嫌な思いをしたため、気分転換を図ってはじめと美雪は友人の村上草太と共に彼の地元である千葉の海岸へ遊びに行く。宿泊先の民宿「なぎさ荘」で出会った山科大附属高校の美術部と共に、民宿裏の墓地に佇む廃校を利用した肝試しに参加するが、美術部員の一人が肝試しの途中で行方不明になり、翌朝トイレの花子さん」の怪談さながらの死体となって発見される…というのが事件のあらすじだ。

 

今回も初の映像化作品のため、例によって事件関係者の一覧を以下に記しておこう。

 

〈山科大付属高校・美術部〉

伊能耕平:3年、自分勝手な性格で周りに迷惑をかけている。

国枝真紀:3年、芸大の日本画科を志望している女学生。

獅子島隆:2年、四人のうち(恐らく)一番のビビり。

鳴沢研太:2年、伊能に迷惑をかけられた「被害者」の一人。

 

〈不動高校〉

村上草太:2年、ミステリー研究会所属。はじめ・美雪の友人であり、今回は自身の地元である千葉の海岸へはじめ達と訪れることに。

 

ドラマは佐木が村上の代わりに登場するが、これはアニメ版と同じ。そして美術部の面々は山科芸術大学の学生※1として改変されており、若干年齢が上がっている。そして獅子島が2年から3年になったことで、鳴沢が唯一の後輩になっているのも注目すべきポイントだ。また、高校生から大学生になったこともあってか、原作以上に鳴沢を除いた三人の容貌が個性的というか、ちょっとガラの悪い学生になっているのもドラマならではの味付けとして目を引く所である。特に被害者の伊能は原作以上に偉そうな性格として描かれているのが目立っており、元カノの国枝とよりを戻そうとしていたことで今彼の獅子島と三角関係になっていたという設定が追加されている。

肝試しの舞台となる場所は、廃校から廃病院へと変更されているが、これは恐らく初回の「学園七不思議殺人事件」で旧校舎を舞台にした殺人を既にやったため、同じようなネタにならないよう舞台を病院に変えたと思われる。今回のタイトルが「トイレの花子さん殺人事件」に変わったのもその影響によるものだろう。

 

※1:ちなみに伊能を演じた中川大輔さんは実際に美大生だった方で、2020年3月に武蔵野美術大学造形学部建築学科を卒業している。

 

原作の事件解説(秀逸な心理トリックと隙の無い推理)

Who:くじ引きの順番、ピンポン玉の指紋

How:偽の便器による現場誤認&自動殺人トリック、くじ引きのマジシャンズセレクト

Why:妹を弄び自殺に追いやったことに対する復讐

短編だけあって本作のトリックは実にシンプル。石膏で作った偽の便器と廃校に元々あった便器の蓋を利用して用具入れを即席の偽トイレとして作り上げ、そこにターゲットの伊能をおびき寄せて毒針付きのピンポン玉※2を握らせ毒殺するという流れだ。

これだけを見ると実にチープなトリックなのだが、この物理トリックに加えて肝試しという状況を活かした心理トリックを組み込んでいるのが本作の秀逸な所。廃校のトイレという場所そのものが、偽のトイレだとターゲットにバレないための演出的効果になっていたことも勿論挙げられるが、他の肝試しの参加者たちに個室の一番奥が用具入れだと確認させることで、伊能が行方不明の時に用具入れを改めて確認させないようにしているのも巧妙。なおかつ現場には血に見せかけたインクという嘘くさい恐怖演出を盛り込むことで、常日頃から周りを困らせては喜ぶ被害者の仕業だと思い込ませ、他の美術部員がこれ以上トイレをくまなく調べないよう誘導しているのも見事というほかない。

ハウダニットを推理する手がかりとしては、トイレ入り口の壁に残った石膏の線もさることながら、容疑者3人が美術部員であることもヒントになっており、技術的に偽のトイレの作成が可能であることがフェアな形で提示されていたと思う。

 

偽トイレのトリックを成功させるためには、伊能が最後にトイレを訪れ、その前に犯人がトリックを準備しなければならないため、くじ引きの順番で最後の7番目に伊能が来て、その前の6番目に犯人がくるよう細工をする必要があるが、この細工も心理トリックという点で実に巧妙な出来になっている。

最初にはじめ達5人にくじを引かせて1~5番の紙を全部引かせて箱を空にし、犯人がくじを引くふりをして6・7番の紙を入れる。この際、ターゲットの伊能が真っ先にくじを引かないよう携帯電話を鳴らすことでその場から離脱させ、最後に伊能が7番の紙を引くよう操作しているのがこのくじ引きのトリックだ。※3これに関してはメタ的に考えればくじを作って他の人に引かせていた鳴沢が一番怪しいので、フーダニットという点ではある意味わかりやすいのかもしれないが、本作の容疑者は3人しかいないので、メタ的推理で犯人を当てた所で作者としては痛くもかゆくもないと言った感じだろう。

 

前述したメタ推理で犯人が鳴沢だと特定することも出来るが、勿論作中ではちゃんと理詰めではじめは犯人を追及しており、くじ引きの順番から伊能の前に廃校のトイレへ行った鳴沢が犯人と指摘し、そこから肝試しに使われたピンポン玉の指紋を元にした推理が展開されるのが本作のミステリとしてのクオリティの高さを物語っている。

犯人が予期していなかった美雪とはじめの行動――美雪が怖がってトイレに行かず、はじめがピンポン玉を便器の中に落としてマイボールを代わりに缶の中にいれたこと――によって、犯人が保険として伊能に持たせたピンポン玉が動かぬ物的証拠となったが、本来ならばこのピンポン玉が伊能が肝試しの後に殺害されたという状況を補強する材料になるはずだったのに、よりにもよって卓球に参加出来なかったはじめが唯一触れたピンポン玉をアリバイ偽装に用いてしまったのだから、今回の犯人は実に運が悪いというか何というか。念には念を入れて出来るだけ参加者が多く触れた玉をチョイスしたことが完全に裏目に出たのだからね。

 

こうして全ての謎が解かれたかのように思えたが、最後に鳴沢は死体のシャツに赤インクで「赤いちゃんちゃんこ」を施したのは自分ではないと告白。物語は一つの謎を残して終わるというオカルトめいた結末※4で締めくくられる。これがまた本作をより印象深いものにしており、短編ながらトリックの秀逸さと推理のロジカルさ、物語のホラー性の全てが申し分ない一作になっている。

 

※2:使用された毒物は不明だが、エラリー・クイーン『Xの悲劇』でも本作と同様の凶器(毒針の刺さったコルク玉)が使われており、そこではニコチンが毒物として用いられていたから、恐らく本作でピンポン玉に仕込まれた毒もニコチンだと思われる。

※3:同著者の「銀幕の殺人鬼」でも、今回のくじ引きのトリックに類似したトリックが出て来る。

※4:ここで一応伊能自身がドッキリのためシャツに「赤いちゃんちゃんこ」を施した可能性はないか考察しておこう。伊能がそれを行えるのは当然偽トイレのトリックで殺害される前になるから、死亡した段階でシャツに「赤いちゃんちゃんこ」の装飾がされていないとおかしい。しかし、それならば鳴沢が死体を移動した際シャツのインクを目にしているはずで、前後の状況と被害者の性格から伊能自身がやったことだとすぐ見抜けるはずだ。にもかかわらず鳴沢があのような告白をしたということは、死体を移動した時点では「赤いちゃんちゃんこ」は付いておらず、移動した後に誰かによって施されたものと考えるべきだろう。

 

ドラマの事件解説

今回は短編の映像化だったため、比較的大きな改変はなかったが一応詳しく解説しておこう。

 

偽トイレのトリックは原作と同じだが、現場に残った白い線について一言いっておくと、原作は舞台が学校なので一見するとチョークで引かれた線にも見えるが、病院でチョークは使われないので、ドラマは石膏の線※5がやや原作以上に目立つ手がかりになっている。

そして参加者たちをトイレから遠ざけるために用いられた赤いインクの血痕はドラマでは花子の墓まで続いており、原作以上にインクが犯行現場からはじめ達を遠ざける役割を果たすよう用いられているのが改変としては良い感じになっていた。

 

伊能を7番目にするためのくじ引きのトリックも当然原作と同じだが、実は放送前に携帯電話のことで少し気になることがあった。前述したように原作は1999年の作品のため、携帯も今ほど高機能ではなく、画面を見ただけではすぐに誰から着信があったかわからないのが当たり前だったが、現代のスマホでは着信履歴が残るし、誰から電話があったかも一目瞭然なので、もし原作通り鳴沢が電話をかけたら伊能がスマホを手に取った時点で誰から電話があったかすぐにわかって不信がられるのでないか…?という疑問があった。

で、実際ドラマはその点どうなっていたかというと、鳴沢が電話をかけた際に伊能のスマホには「非通知設定」と表示されていた。普通に考えたら鳴沢の電話番号が非通知に設定されているはずがないのだが、冒頭で伊能が鳴沢をコキ使っており、充電用のバッテリーやケーブルの管理もさせていたことを思うと、鳴沢は伊能のスマホを普段から手にしている人間だった訳であり、事実民宿にある充電器につなぐよう伊能は鳴沢に自分のスマホを手渡しているため、そのタイミングで鳴沢が自分の番号だけ非通知設定でかかるよう設定を変えていたと推測することは可能だ。地味と言えば地味な部分ではあるが、メイントリックを成功させるための第一段階として絶対やっておかなければならないトリックなので、当初気になっていた疑問が解消されて個人的にはスッキリした。

あと伊能のスマホに着信があった際、鳴沢だけ着信音が鳴る直前にポケットに片手を突っ込んでいる様子が映っており、ここで着信の主が鳴沢だとわかるので、ミステリとして実にフェアな作りになっていたことがわかる。

 

犯人にとって予想外だったはじめと美雪の行動だが、ドラマでは逆にはじめがビビり散らかして美雪にあきれられていたのが物語の良いアクセントになっている。道枝さん自身お化け屋敷は得意でない※6ようなので、これは脚本が当て書きした所もあるのだろうが、これにより美雪がピンポン玉を触らなかったという手がかりがカットされ、はじめがピンポン玉を入れ替えたという一点だけで犯人を追い詰めているのがドラマの改変のポイントの一つだ。

そのピンポン玉も、はじめのマイボールではなく佐木のマイボールになっており、佐木の祖父が元オリンピックの選手というオリジナルの設定も加わったことで、五代目の佐木は本人も含めて優秀な家柄として描かれている。覚えていると思うが、五代目の佐木はゴーストライターとはいえミステリ大賞を受賞するだけの作品を執筆する能力があるからね。美雪やはじめへの気配りも含めて歴代一優秀かもしれないよ?

 

解決パートは原作の場合ピンポン玉に残った指紋が犯人を追い詰める物的証拠となったが、ドラマは民宿での卓球の下りがカットされたため、(前述したように)指紋ではなくピンポン玉の入れ替えで生じた矛盾を動かぬ証拠にしている。つまり、5番目にトイレに入ったはじめが佐木のマイボールと入れ替えた以上、6・7番目の鳴沢と伊能は佐木のマイボールを持っていないとおかしいのに、二人とも無地のピンポン玉※7を所持していたことが動かぬ証拠となったのだ。

これによって鳴沢が犯人と確定したが、実際の所肝試しに使ったピンポン玉を翌日までずっと所持しているのはまずあり得ない(民宿のものならまとめて返却しているだろうし、鳴沢たちが持ってきたものなら鳴沢なり誰かがまとめて回収しているはず)ので、引っかかりを覚えた方もいたと思う。とはいえ、ドラマとしては画面に映らない指紋よりも、物理的に映像に映るピンポン玉そのものを決め手にした方が効果的なので、ここら辺は一応映像作品として理に適った改変として許容出来る範囲内だったと評価したい。

まぁ、仮に鳴沢がピンポン玉の入れ替わりに気付いたとしても、辻褄を合わせるには佐木のマイボールを盗む必要があるため、どっちにしろ完全犯罪としては詰んでいたといえば詰んでいたのだが…。

 

鳴沢の犯行動機は原作と同じだが、鳴沢の娘の自殺方法が焼身自殺から道路へ飛び出したことによる轢死へと変更されている。これは前回の「白蛇蔵」で放火による焼死を扱ったこともあって、焼死被りを避けて轢死に変更されたのではないかと思われる。また、原作の伊能は鳴沢がコンクールの入選作品※8を見に来た際にギクっと狼狽える様子があったが、ドラマは(鳴沢の娘の死を知っていなかったとはいえ)鳴沢の前で笑いながら写真のモデルのことを吹聴しており、原作以上にクズな性格になっている。

そりゃー、殺されても文句は言えないよあなた。

 

※5:はじめは剣持に写真を送り、白線が石膏によるものだと情報を入手したが、いくら鑑識がプロとはいえ、写真だけで成分を特定することは不可能だから、実際は写真と撮影場所を剣持に送り、剣持経由で千葉県警の鑑識に調べさせたと考えるべきだろう。

※6:YouTube のなにわ男子公式チャンネルでは、実際に道枝さんがあの有名なお化け屋敷「戦慄迷宮」でビビりまくっている様子が見られます(↓)。

なにわ男子【1泊2日温泉旅行】最恐お化け屋敷で爆笑絶叫!! - YouTube

※7:伊能が持つはずだったピンポン玉を処分したのはまだしも、自分の分のピンポン玉まで便器に捨てる必要はないので、ドラマの鳴沢の行動に合理性がないのが少々問題ではあるが、上述したようにドラマは佐木のマイボールが決め手となるため、その改変の影響で鳴沢は自分が本来持って帰るはずだった佐木のマイボールまで処分したことになったのだろう。

※8:実は国枝がコンクールの入選作品を見に来た回想場面で、初代・堂本版で実際に登場したとある絵画が飾られていたのだが、お気づきになった方はいるだろうか?

 

さいごに

今回はドラマシリーズ初の短編作品の映像化となったが、元の原作がしっかりしたミステリなので、そこまで改変や脚色に困難はなかっただろうし、改変自体も特に大きな問題点はなかったので、今回の映像化は成功していたと言えるのではないだろうか。

ただ一点小言を言わせてもらうとすると、やはり「赤いちゃんちゃんこ」は原作通りオカルト的な落とし方にした方が良かったと思う。五代目は初回の「学園七不思議」で六不思議と旧校舎に隠された死体の数が一致したという奇妙な符号を結末に持ってきていたし、次の「聖恋島」では犯人がトリックに使ったサイリウム入りペットボトルが最後まで見つからなかったという謎を残して物語を終えている。だから今回の「トイレの花子さん」をオカルト的エンドにしても何ら問題はないし、連ドラとしても統一感が出ていたはずだ。

脚本は美雪とはじめの関係性の方を重視したが、道枝さんのファンからして見ればオカルト的エンドよりも今回のエンドの方がキュンとするだろうから、わざわざ喧嘩を売るような古参ファンにはならず、温かい目でこのエンドを受け入れようではないか。

 

さて、ドラマも5話を通過し後半戦に移るが、五代目金田一は人の心の機微には比較的疎いタイプかな~と分析している。「聖恋島」の時は全員にアリバイがあるから犯人はツアー参加者にいると言って鰐瀬を怒らせていたし、今回も肝試しの参加者の中に犯人がいるといって国枝から厳しい目を向けられていた。

言うべきでない所で正論をぶつけて反感を買っているのが五代目金田一探偵としての不完全さの表れであり、初代の堂本版に慣れ親しんでいる人にとっては、この不完全さが苦手だと厳しい評価を下してしまうのも、まぁ無理ないかなとは思う。

前回から今回にかけては犯人に対する訴えかけ、特に犯人の善性を引き出すような訴えかけをしているので、そこは探偵として一歩前進したと言えるが、今回は心の読み取り方を間違ったので、鳴沢には響かなかった模様。流石に私もあそこで怪談話をしたのは伊能を煽ったからであって、別に犯行計画が頓挫すれば…みたいな気持ちで言ったことではないというのはすぐわかったよ。

 

 

次回は旧作のリメイクとなるが、リメイクされるのは初代・堂本版のシーズン2で放送された金田一少年の殺人」。えーと、これも正直リメイクされると思ってなかったわ。その理由についてはまた次回。