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大穴候補「金田一少年の殺人」がまさかのリメイク!(五代目「金田一少年の事件簿」#6)

いつもブログを書く時は1話完結の場合、前以て原作の事件解説を下書きしておくのだが、今回も1話完結だとばかり思っていたので先に下書きしておいたのですよ。だから正直修正とかめんどいので公式は予告の段階で今回が「前編」だと言っておいて欲しかったな…。

 

(以下、ドラマと原作のネタバレあり。ただし今回は前編のため真犯人やトリックについての言及はしないのでご安心を)

※記事内容に誤りがあったので訂正しました。(2022.06.07)

 

File.5「金田一少年の殺人」(前編)

金田一少年の事件簿 File(10) 金田一少年の事件簿 File (週刊少年マガジンコミックス)

初回「学園七不思議殺人事件」に次いで今回リメイクされたのは、1994年の11月から翌年の3月にかけて連載された「金田一少年の殺人」。ノンフィクション作家・橘五柳の新作の出版権を賭けた「暗号解読ゲーム」の助っ人として、はじめと美雪は軽井沢にある橘の別荘へ赴くが、その日の夜、橘が何者かに殺害され、殺害現場の状況からはじめが犯人として警察に疑われることになる。こうしてはじめは警察の捜査の目をかいくぐりながら、いつき陽介らの協力を得て真犯人「見えざる敵」を探すことになる…というのが大まかなあらすじだ。

 

素人探偵のはじめが殺人犯として警察から追われるサスペンス性に富んだ展開と、暗号解読ゲーム絡みの連続殺人を組み合わせた本作は、金田一少年シリーズを語る上では外せないエピソードなのだが、正直五代目でリメイクされるとは思っていなかった。

何故なら五代目が公式HPで提唱しているホラー・怪奇要素が本作にはあまり無いし、準レギュラーのいつき陽介や明智警視が初登場する「悲恋湖伝説」「雪夜叉伝説」をすっ飛ばしていきなり「金田一少年の殺人」をやると、初見の人にキャラの魅力が伝わらないと思ったからだ。

また、「金田一少年シリーズを語る上で外せないエピソード」と先ほど言ったが、初代・堂本版では1話完結で放送されたこともあってか、ドラマシリーズとしてはあまり印象に残るエピソードになっておらず、そういった諸々の理由から本作のリメイクはまずあり得ないのではないかと予想していたのだ。

 

結局予想に反して今回新たにリメイクされることになったが、まぁ金田一少年の決定版」という点では確かにマストエピソードではあるので、リメイク予想から完全に除外した私も予想を絞り過ぎたのかもしれないが、それはさておき。放送前の段階でわかった原作との相違点は以下の通りになる。

 

〇原作との相違点

フリーライターのいつき陽介が音原出版のライターとして変更。

・橘殺害後に登場した剣持が、いつきの伝手で暗号解読ゲームに参加している。

・落語家の桂横平がグラビアアイドルの桂木優里奈に変更。

・橘家使用人のお菊さんが菊蔵※1という男性に変更。

・都築哲雄が50過ぎの中年男性から30代の若きテレビディレクターに変更。

・鴨下、針生、花村姉妹、明智警視、長島警部がカットされ、高林登というオリジナルの刑事がはじめを追い詰める役を担う。

 

花村姉妹がカットされたのは初代ドラマ版と同じだが、今回の五代目では初代で登場した鴨下と針生までカットされたため、より容疑者が限定されている。これに関しては原作自体フーダニットよりもハウダニットの方がメインなので大きな問題かというとそうではないのだが、こんなにカットして大丈夫なのかとやや不安ではある。

また、一番気になる改変としては、都築が中年から30代の若者になったことが挙げられる。今回都築を演じるのは道枝さんや岩崎さんと同じジャニーズ事務所に所属する戸塚祥太さんだが、この改変がどういう効果をもたらすのかが視聴前の最大の注目ポイントだった。

 

※1:菊蔵を演じた半海一晃さんは四代目・山田版にも出演しており、「香港九龍財宝」では冒頭のナレーション部分を担当し、「金田一少年の決死行」では狩谷教授を演じている。

 

そしていざ実際に本編を視聴したが、今回の五代目におけるリメイクは改変ポイントを除けば大よそ原作の展開に則っている。初代では1話完結にしたためカットされた時任が鉄パイプの下敷きになって死ぬ下りは原作とほぼ同じ展開だし(原作は鉄骨の下敷き)、大村は撲殺、桂木は刺殺と殺害手段がそれぞれ異なるのも原作通りだ。その分初代におけるトラウマシーン――カッターナイフによる頸動脈切断、被害者の返り血がウサギの着ぐるみを着た犯人にかかる――に相当する場面がかなり穏当な描写になっているのは、放送倫理的な問題もあるだろうから、強烈な殺害シーンまでドラマ制作陣に求めるのは酷な話だろう。

 

また今回のリメイクにおいて気がかりだったのは、いつきや明智警視といった過去作に登場したキャラクターの扱いだ。カットされた明智警視はともかく、いつきは「悲恋湖伝説」の事件を経てはじめと親しくなった間柄であり、原作では「悲恋湖」ではじめの人柄に触れたことで、はじめの無実を証明しようとライター仲間に懇願する。本作ではいつき陽介の漢気が物語を魅力的にしている部分もあり、そういった前情報もなしにいきなりドラマでいつきを登場させるのは改悪になるのではないかと懸念していた。

今回のリメイク版ではいつきとはじめが初対面のため、原作至上主義の人からしたら「悲恋湖」をやらずに本作をいきなり映像化していつきを出すなど言語道断と主張する方もいるとは思うが、剣持といつきが旧知の間柄という設定は改変の舵取りとして良かったのではないかと思う。※2

いつきとはじめが初対面である以上、原作のようにはじめの無実証明に動いてくれる人は実質ゼロな訳であり、そこで協力を要請してくれる人となると剣持くらいしかいない。原作通り美雪にお願いさせる手もあるが、いつきや都築らからしてみれば一高校生の懇願で動く動機はないため、今回の改変は妥当であると同時に、いつき陽介の株を落とさないという点でもクリアしていた。原作ファンから総スカンを喰らうかもしれない、薄氷を踏む危なっかしい改変であることに変わりはないが、本作をリメイクするにあたって、いつきや都築が協力する動機を違和感なく成立させているのは十分評価に値する。

 

また原作と違って現代は携帯のGPS機能から居場所を特定出来るため、電話連絡によりはじめが大村や時任の場所を知ることが出来なくなったため、名刺でその問題をクリアしているのも地味ながらナイスな改変だ。

大村がはじめに名刺を渡した下りは大の大人が高校生に名刺を渡すという点ではおかしいと言えばおかしいのだが、そもそも大作家の暗号解読パーティーに高校生が参加していること自体おかしな話であり、この違和感を大村は目ざとく見つけて「ははあ、こいつはタダの高校生やないな」とにらんで名刺を渡したと考えられる。だから描写としては心理的に決しておかしい訳ではないし、大村の商売人としてのガメツさや目ざとさを端的に示した場面だったのではないだろうか?

 

※2:剣持が当初から暗号解読ゲームに参加していることで、橘殺害後すぐに警察が来ず、それによってはじめが逃げられるようになっているのも自然な改変だった。なおかつ、橘の殺害後に早々に殺される大村や時任らが殺害現場を検証することで、彼らに見せ場が出来ているのも上手い改変と言えるだろう。

 

さいごに(後編の注目ポイント)

前編の段階での注目ポイントや感想は以上となるが、初代と異なり原作に沿った展開にしながらも、トラックの荷台に挟まれた警官を助けるという初代でもあった場面を取り入れており、リスペクトをもって作られていることは間違いない。改変も今の所理に適っているので不満はないが、前後編にするならば鴨下や針生も登場させた方が良かった気がするのも確かで、これだと容疑者として残る人物が二人しかおらず、後編は実質二択状態のフーダニットになる。まぁそこは本作がリメイクであり、犯人を知っている視聴者が圧倒的に多いこともあるので、作り手としてあまり気にしなかったのかもしれないが…。

次回放送される後編の注目ポイントを挙げると、まず第一に原作の明智警視がとった「ある行動」について。これは初代と同様剣持が担うのだろうが、原作で使われたあのアイテムが使えないため、どうするかが気になる所だ。

そして前編でほとんど傍観者だった美雪をどのように物語に絡ませていくか。原作では当初からはじめと一緒にいた分、ドラマは出番が減っているため印象的な場面作りをしないと比肩しないのではないかと思う。

あと最も気になるのが犯人の動機。原作で犯人の動機の要となる「ある人物」が登場していないため、今回のリメイクでは当然犯行動機も変更されている可能性は高いが、あの動機も物語の質を高めることに貢献しているから、浅い犯行動機として改変されてないことを祈りたい。