タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

「探偵が早すぎる」シーズン2感想 #6(トリックは金をかけたもん勝ち)

「トリックって金がかかる・・・・!!」

©船津紳平「金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿」 より

 

(以下、ドラマのネタバレあり)

 

6話感想(美津山四兄妹との決着)

前回まさかの復活を遂げた美津山四兄妹。そして突然の急死を遂げた秋菜未亡人。これによって一華らは秋菜の葬儀が行われる葬儀場で美津山四兄妹と直接対決することになる…というのが今回のあらすじ。

もう後に引けなくなった四兄妹が今回用いたトリックは3つ。一つ目は順三郎考案のコンバラトキシンを用いた毒殺トリック。劇中でも説明があったように、スズランに含有されている毒で、スズランを生けた水を飲んでも中毒症状で死亡するというから結構危険な毒だ。この毒を湯呑みに塗って毒殺しようとしたが、これは初手からバレバレだったのであえなく失敗。そもそも、どう転んでもスズランの水を誤飲するなんてあり得ないしね。

 

とはいえ、この毒殺トリックは捨てトリックであり、障害となる千曲川を仕留めるためのエサとして用いられたもの。二郎はオレアンドリン入りの抹香で末弟の順三郎もろとも千曲川を病院送りにして、メインとなる一華・宗介・葉子の抹殺へと取り掛かる。

(ちなみに、オレアンドリンは夾竹桃に含まれている毒。夾竹桃はシーズン1でも用いられた毒なので覚えている人もいるだろう)

 

残りの三人の殺害は棺にメタンガスを放出する装置を仕込み、棺に釘を打つ石にニトログリセリンをこっそり塗って、喪主の宗介がその石で釘を打ったら発火して棺に充満したメタンガスに引火、棺の中の秋菜未亡人もろとも爆破という爆殺トリックで仕留めようとした。

ただ一応言っておくと副葬品には不燃物を入れてはいけない決まりがあり、いくら爆発物をカモフラージュするためとはいえロボットのおもちゃを棺に入れるというのは現実的にはあり得ないし、実際は側にいる葬祭スタッフが止めていたはずだ。だからあくまでもフィクションのトリックとして理解しなければならないことをここで断っておく。

 

千曲川不在であわや四兄妹の目論見は達成されるのか…と思いきやそこは全て千曲川の計算の内。というか初手から美津山四兄妹は母親の秋菜の手の平の上で踊らされていたに過ぎなかったのだ。

前回の冒頭で千曲川と秋菜が密談を交わしていたから、秋菜未亡人の死は偽装されたものだというのはまぁ予想の範囲内だったが、病院を買収したのはまだしも、あの死体が人形ではなくアンドロイドだったとはね。動く必要がないのだからアンドロイドにする必要ある?と思うけど、宮崎美子さんがアンドロイド役も兼ねて棺の中で奇声を発していたのは面白かったので良しとしましょう(何様)。

個人的には「若真口」が千曲川の逆さ読みだということをスルーしちゃったのが悔しいな。そこは先に気付いておきたかった。

 

そんな訳で、母親からも完全に縁を切られ、千曲川&橋田のトリック返しによって美津山四兄妹は全滅。毒でも復活したから爆破ぐらい何てことなさそうな気もするが、これで決着はついたみたいなので、良かったですね。

やっぱり美津山四兄妹は元本がない分、大陀羅一族よりトリックもその出来も小粒レベルだったし、資金面をケチって毒とか爆薬で済ますとダメなんですよ結局。どんなことにも当てはまるが、手間をかけるか金をかけるかどちらか最低限満たしてないとクオリティの高いものって作れないし、そういう点でも秋菜未亡人は圧倒的に有利だったという話だ。

 

次回からは、影で一華殺害を目論む犯人を追う「黒幕編」が始まるが、いや~、正直安心した。先週の段階では黒幕なしで四兄妹との戦いで1クールもたせるつもりなのかと嫌な予感がしていたので、ちゃんと黒幕がいて安心した。これで私の黒幕予想も無駄にならなかったという訳だ。黒幕に関してはまた次回の様子を見て再考出来れば良いかなと思うので、今回はこれにて。

ナンバMG5ざっくり感想 #5(不良界のトリックスター)

ナンバMG5も(恐らく)残り5話。前に原作のお試し無料版を読んでからだいぶ日が経ってきたので、もう次回以降はほぼほぼ初見と同じ状態です。既読の楽しみもあるが、当然未読・初見が一番面白いことは間違いないので、引き続き楽しみに視聴していこうかと。

 

5話感想

ナンバMG5(10) (少年チャンピオン・コミックス)

今回は原作10巻所収の陣内のエピソードと吟子のエピソード(こっちは読んだことないから13巻以降のエピソードかな?)。これまでは剛と伍代といった友情の物語がメインで描かれていたが、今回は難破一家という家族の物語として、前回の感動とはまた違うハートフルな、ある種の懐かしささえ感じるホームドラマだったなというのが率直な感想だ。

 

吟子のエピソードは後ほど感想を述べるとして、まず市松のトップである陣内のエピソードについて言及していきたい。

原作を読んだ際、やはりこの陣内という男は不良界のトリックスター的存在だという点で他の不良たちとは異質なキャラクターとして描かれていた。それは「OL5人を彼女にしている」とか「株で一千万儲けた」とか「餃子150個を食べた大食漢」といった断片的な情報からでも十分わかることではあるが、ドラマでも描かれていたように難破一家や白百合高校といった相手の懐にスッと入り込む能力があるのが、相手に警戒心を抱かれがちな不良とはまた違う彼の性質を物語っていて、そこに異質さというかある種の妖怪じみた不気味さを感じてしまう。

この不気味さを醸し出す要因として私は彼に歴史がないというのも挙げられるのではないかと思っていて、他のキャラクターは生い立ちだったり境遇だったり多かれ少なかれ言動の裏付けになるような歴史・背景描写が描かれているが、陣内に関しては先ほど挙げた断片的な情報と、これまで何でも人並み以上にこなせた分、退屈で歯ごたえのない人生を送ってきたという情報くらいしかない。言い換えれば自分が「これだ!」と執着するようなものがない、というのが陣内のパーソナリティーなんじゃないかと私は考えている。

今回は猛という自分の人生の中で容易に超えられない壁を見つけたから彼に(一時的ではあるが)依存し、劇中で描かれた非情な手段を以て目的を果たそうとした。この辺りの目的のためなら手段を選ばない性格も彼の恐ろしい所と言えるだろう。先ほど挙げた相手の懐に入る能力と合わせて陣内の性格を一言で例えるなら「生来の詐欺師」とでも言うべきで、彼が悪の道へ進んだら相手をマインドコントロールで支配したりする、かなり悪質な犯罪人になるんじゃないかな。

幸いにも剛とのタイマンを果たしたことで悪い方向に走ることなく、自分が執着出来るものを探しに外の世界へ目を向けることが出来たが(本人自身の自浄作用もあるだろうから決して陣内が根っからの悪だとは言わないよ?)、この時「人が人を好きになるのって、楽しいことなのか?」って聞いていることを思うと、やはりOL5人との交際は「好き」とか「楽しい」といった感情で付き合っていたのではないのだろう。

 

陣内に関してすっごいネガティブなことばかり書いちゃったけど、これは裏を返せば彼の性格って凄いカリスマ性を秘めているということでもあり、他者の人生を変えるエネルギーを持った存在でもあるってことなんだよね。だからそこが魅力的という点で原作を読んだ時の陣内の印象と、栁俊太郎さんが演じた陣内は全く同じだった。

 

吟子のエピソードから見る難破家の家族観

吟子のエピソードでは難破家が吟子のためにいわゆるシャバい家族を演じるというコミカルな一幕があった。娘のためにあれだけ変装までして佐藤君を歓待するって普通はなかなか出来ないだけに、家族愛というかハートフルというか、令和ではすっかり見かけなくなったホームドラマ臭溢れる展開だったと改めて見て思う。

この内容だけ見ると、「あれ?剛も正直に言ったらシャバい高校生活許してもらえるんじゃないの?」と思った方もいるのではないかと思うが、吟子と違って剛には全国制覇という難破一家が決めたレールが横たわっているため、そこの家族価値というか掟みたいなものを壊すのは容易でないはずだ。

私の印象として難破家は女性の方が開放的というか自由主義的な感じはするけど、男性の方は生まれた時から生き様――世の不良共を制圧し、ある種の「百獣の王」として君臨する――を決められているという不自由さがある。そこら辺が差別的というか、ある意味歌舞伎みたいにその家の伝統芸能として継承されなければならないものとして固定化しているというか、文化継承としての不良とその実践(つまり全国制覇)が根底にあるという感覚だろう。

ドラマ版「聖恋島殺人事件」はミステリとしてブラッシュアップされた秀作!(五代目「金田一少年の事件簿」#3)

いきなりですが、ここでトリビアを一つ。

ゲゲゲの鬼太郎 妖怪奇伝・魔笛(エロイムエッサイム)」という約1時間ほどの実写映画なんだけど、多分YouTube で「ゲゲゲの鬼太郎 エロイムエッサイム」で検索したら出て来ると思う。鬼太郎と悪魔くんがコラボした珍しい作品なのでファンとしては一見の価値があると思い紹介することにした。

セイレーンや今回の事件とは直接関係はないけど、水辺に出没する妖怪という点では濡れ女も同類なので、余さんがどんな濡れ女を演じていたのか興味ある方は是非。

 

(以下、ドラマと原作のネタバレあり)

 

File.2「聖恋島殺人事件」(後編)

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前回からの続きとなる後編は、第三の殺人(影尾殺し)と謎解き回。特に影尾殺しは原作で最初に殺された彼が三番目に死んだということもあってそれなりに改変されているが、まずは原作の事件解説をすることでトリックや物語の批評を行い、それを踏まえた上でドラマの改変を評価していこうと思う。

 

原作の事件解説(三種の殺人トリック)

Who:水中ゴーグルの跡、水中銃、指紋のない手紙

How:聖恋島特有の潮流を利用したアリバイトリック(影尾・寒野)、手袋か釣り竿に仕込んだ瞬間接着剤入りカプセルを利用した溺死トリック(潮)

Why:新薬治験の目的で実験体同然の扱いで娘を死なせた医者三人に対する復讐

ドラマ初回の感想記事の末文でも触れたが、この「聖恋島」はハウダニットに力を入れた分、フーダニットは割とわかりやすい作りになっているのが特徴で、潮殺しのトリックに瞬間接着剤入りのカプセルを用いているという時点で犯人が医療や薬品関係の知識がある人物だと推察出来るし、寒野殺しで彼女に睡眠薬を盛っていることから見ても、自然とそれを行えるのは接待係として参加している伊豆丸と鰐瀬くらいしかいないのだから、実質寒野が殺される直前の段階で犯人候補は二者択一状態なのだ。

 

もっとわかりやすいのは、寒野が射殺された直後伊豆丸が言った「水中銃」の失言で、あの状況で水中銃による狙撃だと断定出来ないにも関わらず「水中銃」だと断定した発言をしたので、これが犯人特定の決め手の一つになっている。

ただ、他作品の犯人たちがうっかり漏らした失言と違い、この「水中銃」の失言は言わざるを得なかった失言という方がニュアンスとしては近いのではないかと思っていて、(後述するが)トリックの性質上、矢が撃たれた直後に窓辺やベランダを確認されるとトリックがバレてしまい参加者内部に犯人がいると疑われてしまうため、銃による狙撃を強調してトリックが発覚しないよう時間稼ぎをしている。だからミスであることに変わりはないが、決して犯人がバカだという訳ではない。強いて言うなら「創意工夫がなかった」という感じかな。

 

〇トリックについて

今回のトリックはアリバイトリックと溺死トリックの二種類に大別出来るが、まずは影尾殺しのアリバイトリックについて。

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影尾殺しではセンターコテージ・レストハウス・桟橋小屋の三点とそれを結ぶ渡り廊下を利用して参加者たちの動きを巧みに誘導し、更に犯人自身が影尾の死体に化けることで死体移動のアリバイを確保しているのが巧い所。はじめはこのアリバイトリックをカップ&ボールの手品を使って説明しているが、一度センターコテージに引き返させることで、手品で言う所の「あらため」、つまりセンターコテージに前もって死体が置かれていなかったことを確認させ、影尾の死体が最初から桟橋小屋に置かれていたと印象付けているのが実に巧妙だ。※1

しかも死体移動をより強調するため、「センターコテージ⇄桟橋小屋」側の廊下近くの海に移動する発光体を仕掛けているという徹底ぶり。この発光体の正体はサイリウムで、ウキに結んだ風船にサイリウムを仕掛け、潮流で自動的にセンターコテージに向かって流れるようにしてある。この移動する発光体のトリックに関しては潮流以外のヒントは全くないのだが、メインは死体偽装の方なので大した問題ではないと思う。

移動する発光体のトリックに対して死体偽装のトリックの方は意外にも手がかりは沢山ある。原作を確認してもらうと一目瞭然なのだが、桟橋小屋で発見された死体(犯人の偽装)とセンターコテージで発見された死体(影尾本人)とではモリの刺さった角度が全く違っており、偽装死体の方が垂直気味なのに対し、本物の死体は右に傾いて刺さっていることがわかる。また、はじめたちが桟橋小屋からレストハウス経由でセンターコテージへ戻る一コマ(第3回の5ページ)で、一人だけ集団から遅れてセンターコテージに向かう人影が描かれており、これは犯人が死体偽装を終え桟橋小屋から出たため遅れたことを示す手がかりになっている。

更に、影尾の死体発見直後の剣持による全員点呼の場面では最も重要な手がかりが描かれている。犯人は死体に偽装する際上着のフードを被ってうつ伏せになっていたのだが、全員点呼の際、他の参加者たちのフードは綺麗に収納されているのに、犯人の伊豆丸のフードだけは飛び出しているのだ。これは海星のカメラで撮影されているためはじめも確認しているはずだが、何故か作中ではじめはこの話題に触れることなくスルーして推理をしている。ということは、このフードの手がかりは読者だけに提示された手がかりであるのと同時に、最初の殺人の段階で犯人が特定出来るという意味で実に大胆かつ挑戦的な手がかりであると言えるのだ。こんな手がかりをいれてくるくらいだから、作者はよっぽど今回のトリックに自信があったということだろう。その出来に関しての評価はとりあえず置いておいて、次は潮殺しのトリックに移ろう。

 

潮殺しは前述した通り、手袋か釣り竿に瞬間接着剤入りのカプセルを仕込むことで、釣りで竿を強く握るとカプセルが弾けて釣り竿と手袋が接着されるというシンプルなトリック。※2これにより、海中に潜んだ犯人が釣り糸を引っ張ることでターゲットを釣り竿ごと海中に落とせるようになっているが、勿論これだけではライフジャケットを着用した潮を死に至らしめることは出来ない。犯人が潮の足を直接掴み強力な水中スクーターを使って海中へ引きずり込むことでようやく溺死させられるのだ。

三つの殺人の中で一番残酷な殺し方をしているのがこの潮殺しなのだが、犯人の娘を死に至らしめた主犯格の影尾はともかく、従犯格の潮がこんな形で殺されるのはやや罰として過ぎる気がしないでもない。ただトリックの性質上、殿様気質の影尾には通用せず荒海釣りに自信があり釣り道具も自前のものを準備してくる潮だからこそ成立したトリックのため、これは致し方ないだろう。

 

そして三つ目の寒野殺しは、水中銃を彼女が泊まる水上コテージのベランダに固定し、銃の引き金に手術用の糸を通しボートに結び付ける。そうすることで潮流で海の方へ流れたボートが銃の引き金を引いて自動的に矢が発射されるという自動殺人トリックでアリバイを確保しているのがポイント。

また犯人はアリバイ確保のため偽手紙※3で時間指定をして参加者全員を寒野の部屋に呼び出しているが、潮流は日時や天候によって変化するので本来ならば時間指定をして予告した時刻ちょうどにターゲットを殺害するのは不可能に近い。ただ、聖恋島の潮流の干満は天候に左右されず規則的に起こるものとして設定されているため、犯人が事前に時間を指定した手紙を準備し、時刻通りにターゲットを殺害することが可能だと読者に納得いくよう作られているのはミステリとして良い所だと思う。この潮流の設定がいい加減だと影尾殺しにおける「移動する発光体」のトリックも成立しないし、潮殺しで潮を釣りに行かせるための心理的誘導も行えなかった訳だから、今回の一連の事件において「セイレーンの泣き声」=潮流がトリックの要だと断言して良い。

 

※1:このトリックを成功させるための前提として影尾が集合場所のセンターコテージにいないことを参加者が全員集合した段階で悟られないようにするのが重要だが、ここでイベント担当者の鬼島の心理を利用しているのが犯人のずる賢い所だ。もし鬼島が点呼をとって影尾がいないことを指摘した場合、部下である潮・寒野や接待係の伊豆丸・鰐瀬が彼を失格させまいとゴネてくるだろうし、釣り大会のスケジュールにも支障をきたしてしまう。犯人はそうやって鬼島が揉め事を回避するため影尾の不在を黙認することを見越してトリックを実行し、鬼島に(結果的にだが)犯罪の片棒を担がせていたのだ。上手くいけば影尾の不在を黙っていた鬼島に殺人の疑惑が向いていたのだから、その点も巧妙だと評価出来る。

※2:(釣りに関して詳しくないので指摘として的外れかもしれないが)釣り竿にカプセルを仕掛けた場合、握る場所が少しでもズレたらカプセルが潰れないか、或いは潰れてもうまく手袋と接着しない可能性があると思うので、個人的には手袋にカプセルが仕掛けられていたと推理するのが妥当だと思う。

※3:偽手紙の文が女性の手で書かれたものであることからはじめは「多分アルバイトとか言って見知らぬ女性に書かせた」と推測しているが、時間指定をした手紙を何通も書くような怪しいバイトをする女性が果たしているのだろうか…ww。個人的には伊豆丸の妻が娘の死の真相を知って偽手紙の執筆に協力してくれたという設定にした方が物語としてキレイだったのではと思う。

 

〇原作の不満ポイント

以上のように、ハウダニットに関してはかなり考えられて構築されているのだが、フーダニットは(前述した通り)一人だけ飛び出した上着のフードや水中ゴーグルの跡(第9回の19ページ)、水中銃の失言とかなりわかりやすい手がかりが配置されているのが勿体ない所で、犯人の伊豆丸を追い詰める物的証拠も指紋の付いていない手紙(=手紙の内容を確認せず集合場所に来られるのは犯人のみ)の一点だけというのも正直決め手としては弱すぎる。※4

また、ミスリードも雑で効果的でないのが目立っており、幼少期の鰐瀬が母親と一緒に海岸を背景に写っている写真(第7回の10ページ)や水中スクーター・水中銃を使って魚を獲る霧声(第7回の17ページ)、潮の死体発見後の鬼島の「これで三人目」発言(第9回の19ページ)※5、古い小冊子を見てフッと息を漏らす鬼島(第10回の12ページ)など、伏線なのか手がかりなのか意味不明な描写や、あからさま過ぎてミスリードにすらなっていない描写が多く、それが物語の雑味となっているのが非常に残念。せっかくトリックが良くてもこういった夾雑物が有効活用されていないと作品全体の質を下げてしまうことになるので、もう少し何とかならなかったのだろうかと思う。

どうせミスリードを作るのなら、全員怪しい状態にするのではなく、特定の人物に容疑を向けさせた方がスッキリとした構成になったと思うし、ミスリードも効果的になったのではないだろうか。特に今回の事件では大会運営者の鬼島がミスリード要員として最適な人物だったから、彼に殺人の動機を持たせて容疑を濃くした方が良かったと私は思うのだ。

 

あとこれは大した問題ではないが現場検証や参加者の取り調べの描写をもう少し入れて欲しかった。というのも、最初の影尾殺しでは桟橋小屋が施錠されていたが、桟橋小屋の鍵はどこに保管されていたのか、そしてそれは誰でも持ち出し可能だったのかは一応調査・言及しておくべき情報だし、解決編(第14回の12ページ)ではじめが言及した桟橋小屋の照明のリモコンは、問題編の段階で描写しておくべきアイテムだった。勿論、こういった情報がなくても推理には何ら支障を来さないが、フェアな謎解きミステリを求める読者としてはこういった描写も疎かにせず描いて欲しかったはずだ。

それからはじめと剣持は犯人が潮流を利用したトリックを用いたことから聖恋島の出身者が犯人ではないかと推理しそれに該当する参加者の検証※6を行っているが、個人的にはもっと直接的な部分、つまり被害者三人と過去に接点があった人物被害者が勤務していた病院に入院もしくは通院していた人物がいたかどうかも検証・取り調べすべき点だったと思う。少なくとも剣持は警察の人間としてそれを真っ先に調べないといけないし、仮にミステリとして蛇足だったとしても形式的な取り調べをしたということは多少なりとも読者に提示すべきである。

 

※4:何故なら、手紙を読まなくとも「水上コテージの外が騒がしくなったので読む前に様子を見て外に出た。手紙の内容は参加者の会話から察せられたのだ」と説明出来るので、やはり指紋がついてない手紙は決め手としては弱い。どうせなら影尾殺しで死体に偽装したことを突いて、「桟橋小屋に指紋や毛髪、皮膚片が残っていた。警察が調べればそこに伊豆丸さんがいたことは証明される」と言った方が効果的だったと私は思う。勿論これは桟橋小屋に一度も伊豆丸をはじめとする参加者が入ったことがないという前提で成立する決め手なので、事件前に桟橋小屋が開放状態だったか或いは参加者がそこに立ち寄れる時間的余裕があると決め手にはならないけどね。

※5:この「三人目」発言について、解決編となる第13回の9ページで鬼島は過去に同様の事故で溺死した人がいたと告白し、それに対してはじめは「まさか――・・」と何か思い至ったような顔をしているが、結局作中でこの意味については言及されていない。

このはじめの気付きを合理的に解釈するなら、今回の連続殺人事件が起こる前に伊豆丸が瞬間接着剤入りカプセルのトリックが自分の思っていた通りに機能するかどうかを検証するために、別の釣り人を聖恋島に誘って予行演習として殺していたという戦慄の真相が浮かび上がってくる。もしこれが本当ならば伊豆丸は「悲恋湖」の犯人並みに狂っているとしか言いようがない狂気の犯人になるが、予行演習で一度聖恋島を訪れていたとしたら当然霧声は伊豆丸のことを知っていないとおかしいのでそこが矛盾してくる。(まぁ、「予行演習の殺人」で来島した際は変装して来ていたと説明がつくので大した矛盾ではないのだが…)

あくまで上記の内容は私の勝手な解釈なので、原作者が何を思って鬼島に「三人目」発言をさせたのかは不明だが、恐らく当初は「予行演習の殺人」という驚愕の真相をメインにするつもりだったのだろう。しかし犯人の動機を描いていくうちに「予行演習の殺人」と娘のために復讐を果たす犯人像が矛盾したため、最終的に「予行演習の殺人」をボツにしたのではないだろうか?そう考えれば鬼島の「三人目」発言は、原作者が思い付いたが捨ててしまった戦慄の真相の残骸部分と言えるかもしれない。

※6:この検証は正直言うとあまり意味がない。というのも、聖恋島の出身でなくても犯人が出身者から話を聞いていたり、犯人自身が以前に釣りで訪れた際に潮流のことを見破っていた可能性もあるので、個人的には蛇足だと思うし、ミスリードにもなっていなかった。

 

ドラマの事件解説

前回の感想記事で原作との相違点を挙げた。

tariho10281.hatenablog.com

そこで原作の磯釣り大会からドラマはフィッシングツアーに変更したことで原作におけるある疑惑について推理を悩ます必要がなくなったと記したが、まずはその疑惑について話していきたい。

 

実は先ほど原作の問題点としてあえて指摘しなかったのだが、計画殺人として偽手紙や瞬間接着剤入りカプセルなど犯人は色々と準備している。しかし、そもそも犯人も含めてターゲットである影尾ら医者三人が決勝戦まで勝ち進み聖恋島へ行かないと、折角準備したトリックも計画も全てが水の泡になる。要は何が言いたいかというと、犯人の伊豆丸がターゲットである医者三人と自分(+鰐瀬)が決勝まで勝ち残るために予選の段階で不正を働いたのではないかという疑惑があるのだ。伊豆丸だけでなく医者三人も不正をした可能性は勿論ゼロではないが、それなりに地位も名誉もある医者が優勝賞金200万円のためにわざわざ不正をするとは考えられないので、やはり伊豆丸が不正をしたと考えるのが自然だ。

伊豆丸が不正をしたとすると、当然イベントを担当した鬼島が彼から賄賂なり何なりを受け取っていた可能性が高いが、もしそうだとするとここで疑問が生じる。伊豆丸のお膳立てで決勝に進んだ三人の医者が殺されたとなると、よっぽどの馬鹿でない限りは伊豆丸がこの島で三人を殺すために賄賂を渡してまで彼らを勝たせようとしたという考えに思い至るはずで、その考えが過った段階で剣持にその疑惑を訴えていないとおかしい。しかし、実際は事件の中で鬼島は伊豆丸を疑っていることを剣持やはじめに一切打ち明けていないのだ。

賄賂や不正の発覚を恐れて口を閉ざしていたと説明することも出来るが、ローカル局で放送される程度の磯釣り大会の不正が刑事罰の対象になる可能性はかなり低いと思うし、そもそも参加者を半ば騙して悪天候の島に招待する悪知恵がはたらく男なのだから、それしきでビビるようなタマではないと思う。第一、伊豆丸がターゲットを殺すために大会で不正を働いたことを鬼島がバラさないよう、伊豆丸が鬼島を口封じのため殺す可能性もあった訳だから、やはり黙っているより話した方が鬼島としては安全だったはずだ。

にも関わらず鬼島は伊豆丸に対する疑惑を作中で一言も言っていなかった。ということは、やはり大会で不正は行われておらず、伊豆丸も影尾らも実力で決勝に進んだ…と考えるべきだが、あれだけ手の込んだトリックを考案し準備もしておきながら、肝心の磯釣り大会の方は実質運任せというのは犯人の性格から考えても何か矛盾しているしモヤモヤさせられる。潮は自前の釣り道具を持っているくらいだからともかく、あとの影尾・寒野・鰐瀬は作中で特別釣りが得意だと描写されていなかったから、どっちにしろスッキリしない。

長くなったが、結局不正があったとしてもなかったとしても疑問点が出たり納得のいかないモヤモヤ感が残るという点で磯釣り大会と計画犯罪との相性は最悪なのだ。しかも物語序盤で不正があったことを匂わせておいて、結局あったかどうか言及することなく物語を終えているのだから、これも上で指摘した回収されない伏線・手がかりの一つだと言える。

 

以上のことを踏まえると、磯釣り大会からフィッシングツアーに変えただけで、上記の問題点は一挙に霧散しているのだから、もうこの段階でドラマの脚本に関しては天晴上出来だと太鼓判を押したいが、他にも改変ポイントはいくつもあるのでそれらについても言及していきたい。

 

〇改変ポイントの考察と評価

何といっても特筆すべきは原作の殺害順「影尾→潮→寒野」の1番目と3番目を入れ替えている点だが、この改変によって原作とは異なる推理の別解が生じているのが面白い所。

まずドラマは寒野殺しから始まるが、殺害現場が寒野の泊まっている部屋からコテージのサロン室になっており、偽手紙が手書き文字でなくパソコン入力の文章なのも原作からの改変ポイントとなっている。これはドラマという限られた尺の都合もあり、出来るだけ煩雑な推理にならないよう考えてカットされたと思われるし、公共のスペースを殺害現場にしたことで、遠隔殺人のトリックを用いれば誰でも彼女を殺害することが可能な状況に設定されている。原作通り寒野の部屋で殺害されたとすると、やはり部屋割りを考えた凪田が状況的に最も怪しくなるのだが、この段階で怪しい人物を絞らせるのではなく、全員怪しい状況にしているのは個人的にミステリの序盤の展開として賢明なやり方だと思う。勿論、伊豆丸の「水中銃」の失言があるので(論理的にもメタ的にも)伊豆丸が怪しくなっているのは否めないが、これに関してはこの後右竜が言った「ある推測」によって、必ずしも犯人=伊豆丸と言い切れないのが巧妙なポイントだ。

その推測というのは寒野がとある秘密を暴露しそうになったので、「セイレーン」が口封じのため殺害した…という、正直ふざけているとしか思えない推測だ。しかしこの「セイレーン」を影尾もしくは潮に置き換えれば、寒野が影尾・潮の不祥事を暴露しようとしたので二人が先手を打って口封じに殺したという仮説が成り立つのだ。※7そして伊豆丸の失言については、契約打ち切りをちらつかせて彼にわざと失言をさせることで容疑の矛先を彼に向けようとしたという「伊豆丸スケープゴート説」も一応成り立つのがドラマの改変の優れた所ではないだろうか?

トリックは原作とほぼ同じだが、使われた糸が手術用の糸から釣り糸になっていることと、安全ピンで留められた糸の目的が原作と異なっている。原作ではじめは手術用の「溶ける糸」が水で溶けて水中銃が海中に落ちたと言っていたが、実際手術用の糸が溶けるには最低でも2か月以上はかかる(新私たちの暮らしと医療機器 を参照)らしいので、リアリティの問題から釣り糸に変えたと思われる。また、原作では安全ピンは寒野の部屋のドア前にいた犯人に銃が撃たれるタイミングを知らせる役割として用いられていたが、ドラマでは何かの弾みで予定時刻より前に銃が発射されないよう安全装置として引き金を固定する役割を果たしていたという違いがあった。

 

ここで比較のために原作の第一の殺人、つまり原作における影尾殺しの段階でどれだけの推理・仮説が成り立つか考えてみたい。

前述したように死体偽装がトリックの要なので、この段階でまず女性陣は容疑者から外しても良いと思う。いくら死体に偽装していても、男性の体型と女性の体型を見間違えることはないと思うので、(伊豆丸のフードに気が付かなくても)この段階で容疑者は潮・鰐瀬・伊豆丸・奥ノ木・鬼島・凪田・海星に絞られるが、海星はカメラマンなので死体偽装のトリックは実行出来ないし(途中でカメラ撮影を代わってくれる共犯者がいたら話は別だが…)、奥ノ木は右竜の付き添い兼話し相手として来ているため、途中で姿が見えなくなったら彼女に不審がられる恐れがある。ということで、海星・奥ノ木を除いた5名が最初の殺人の段階での容疑者候補と推理出来る。動機に関しては、ドラマの寒野のように口封じ目的の殺人という仮説は成り立たないかな?被害者の性格が性格なだけに怨恨・復讐目的の殺人として考えるのが自然だろう。

 

続いて潮殺しに移るが、原作で死亡していた影尾がドラマだとまだ生きているので、彼が率先して食料のない状況に不平不満をもらしているのが注目すべきポイントだ。この後の展開も含めて、影尾の暴君的性格が原作以上に強調されている場面ではあるが、一方で見方を変えると伊豆丸や潮を釣りに行かせるためにわざと騒ぎ立てているようにも見えるので、寒野に続いて潮殺しの容疑者として影尾が疑わしい状況になっているのはドラマならではの別解として優れている点と言えるだろう。

特に金田一少年シリーズでは一見悪党としか思えない人間が実は復讐のため悪党を装っていた善人というケースがいくつもあるので、少なくとも前編までは影尾犯人説も十分成り立つ展開になっている。

しかし!映像をよく見れば、この段階で影尾が犯人であることを論理的に否定することは可能なのだ。実は原作でも同じことが言えるのだが、そもそも潮やはじめ・剣持がどこで釣りをするか知っていないとその場に行ってトリックを実行することが出来ない。言い換えれば、潮がコテージで釣り場を決めた際にその場にいた人間が犯人ということになるのだ。※8そのため、ボウズで帰ってきた伊豆丸・鰐瀬に憤慨してエントランスを後にした影尾は潮がちとせ岩で釣りをすることを聞いていないのだから、当然犯人ではあり得ないし、反対にすぐ部屋に戻らず潮がどこで釣りをするのか聞いていた鰐瀬と伊豆丸が最有力の容疑者となるのだ。更に寒野殺しにおける「水中銃」の失言と合わせれば、もうこの段階で犯人=伊豆丸と断定出来る。

ただ、原作ではまだ寒野が殺されていないため、潮が殺害された時点で伊豆丸を犯人と断定するのは難しいだろう。一応影尾殺しにおけるフードの手がかりはあるが、証拠として弱すぎるので原作の方は寒野が殺される第8回目でやっと断定出来るといった感じだろうか。

 

そしてドラマ後編の影尾殺しになるが、原作では最初に殺された人物を最後に殺すことになったため、状況設定等様々な改変がなされている。

原作では事件が起こっていないこともあり早朝の釣りで参加者はセンターコテージへと集まったが、ドラマは影尾が行方不明になったことで皆が捜索をしたら桟橋小屋に明かりが点いていたため全員で桟橋小屋に向かうという流れになっている。※9

原作の「移動する発光体」も空中ではなく海中を移動するものとして改変されているが、これは現代の撮影技術では空中に漂う発光体にするとトリックがカメラに映ってしまうためにやむなく海中を移動させたのだろうが、結果的にウキとなるペットボトル+サイリウムという簡単な道具でトリックが可能になり、原作以上にリアリティのあるトリックになっているのが個人的には好感触だった。

また、「海中を移動する発光体」がセイレーンらしい幻想味につながっているのも素敵なポイント。原作の方の発光体は空中を移動しているため、現実的に犯人が持っていたライトだと解釈するのが普通だし、その点ドラマは第一の寒野殺し・第二の潮殺しと合わせて一貫してセイレーンによる殺人が演出されているのがドラマの小粋な部分ではないだろうか。(寒野殺しについては微妙な所だけど)

当然ながらトリックは原作と同じだが、唯一違う点は薬で眠らせた影尾をコテージの階段下に隠していたという点。しかも猿ぐつわを噛ませて悲鳴や声を絶対に出させないようしていたのも実は原作のトリックの穴をクリアしていると言える。原作はセンターコテージという室内で刺したとはいえ、影尾が声を出さずに死んだから良かったものの、最期の断末魔を発した可能性も十分あった訳で、もし影尾が最後の力を振り絞って叫んでいたら、最初の段階で殺人計画は失敗していたかもしれない。

謎解きに関しては、影尾の衣装と伊豆丸の衣装が似ていることもあり、死体偽装のトリックに思い至るのは原作よりも簡単になっているし、着脱の問題も合わせて伊豆丸が犯人だと推理するのはたやすいと思う。その点はマイナスポイントと言えばマイナスポイントなのかもしれないが、原作でアンフェアだった照明の消灯方法が切れた電線という形で解決パート前に提示されていたのはナイスだった。これにより、窓から死角となる手元を動かし、所持していたニッパーで電線を切断したという推理が可能なのだから。

 

※他の方の感想を見ていたら「途中で集団から離れてコテージに引き返したらいないことがバレるのではないか?」という意見がいくつかあった。確かに原作は海星のカメラ用の照明が犯人によって盗まれ、桟橋周辺は真っ暗闇だったことがトリック成功の鍵になっていたのに対し、ドラマはコテージ前に外灯があることや霧声が懐中電灯を持っていたので完全な暗闇でなかった。その点については原作よりもトリックが露見しやすいという指摘は正しいと思うし、ドラマは参加者の人数が減っているため原作よりも気づかれやすい状況だったのは間違いない。

(2022.05.17 追記)

 

原作で三番目に殺された寒野については、これは前述した「水中銃」の失言もさることながら、偽手紙で「遅れても早くても何も話しません。この時間でなければダメなんです」と書かれていることもあり、犯人が時限装置式の殺人トリックを仕掛けてアリバイを確保したと考えるのは簡単だ。その点ドラマは「時間厳守」と簡潔な文言にしている分、手紙の内容からトリックを察しにくいようになっていると同時に、殺害順の改変で(上で説明した)別の推理が出来るようになっているのがやはり素晴らしい点ではないだろうか。

 

※7:寒野殺害直前の場面では、影尾がかつての仕事仲間の凪田にセクハラを仕掛けており、そのことから見ても彼が清廉潔白でない人物なのは明らかだし、寒野も仕事の付き合いで仕方なくツアーに参加したことが言及されているので、寒野が影尾の不祥事・秘密を暴露しようとしたという仮説が直前の場面によって補強されているのも見逃せないポイントだ。

※8:勿論、潮らがどこで釣りをするか知らなくても大よその目星をつけて岩場に行くことは出来るかもしれないが、悪天候の海にいること自体それなりにリスクはあるだろうし、あまり長時間コテージにいないと自分だけアリバイがないという最悪の状況になる恐れもあるので、最短時間でターゲットを殺してコテージに戻るためにも、やはり犯人は潮らがどこで釣りを行うか聞いた上でその岩場まで行って潜伏していたと推理するべきだろう。

※9:この際、影尾から送られてきたメール(実際は犯人自身が影尾のスマホを使って送信したメール)で影尾が外にいると思わせ、なおかつ(これまでの殺人のことを考えて)出来るだけ全員で固まって動くようさり気なく誘導しているのが巧妙。

 

以上、原作との殺害順と比較しながら改変ポイント等を検証・考察・評価していったが、それをまとめると以下のようになる。

〈原作〉

第一の殺人の段階で考えられること

・犯人の死体偽装によるアリバイトリック→犯人は男性陣の誰か

(共犯者はいないという条件でのみ)女性陣(+海星、奥ノ木)は容疑者から除外可能

・伊豆丸のフードだけ飛び出してる→断定は出来ないが、伊豆丸が犯人?

・動機:被害者の性格から考えて、怨恨もしくは復讐目的の殺人?

 

第二の殺人の段階で考えられること

・潮が釣りをする場所を知っていたのは(はじめ・剣持・美雪を除いて)伊豆丸・鰐瀬・寒野の三人→伊豆丸・鰐瀬のどちらかが犯人(寒野は第一の殺人の件で除外)

・霧声が犯人の可能性→第一の殺人で考えた条件により容疑者から除外可能

 

第三の殺人の段階で考えられること

・「水中銃の失言」→第一・第二の殺人の件も合わせて、伊豆丸が犯人と断定可能

・動機:医者三人に対する復讐

 

〈ドラマ〉

第一の殺人の段階で考えられること

・自動殺人トリック→現場にいた全員に仕掛けることは可能

・右竜の推測→影尾、或いは潮が寒野を口封じのため殺したか?

・「水中銃」の失言→伊豆丸が犯人?或いは影尾・潮のスケープゴート

 

第二の殺人の段階で考えられること

・(第一の殺人の件から)影尾が寒野に続いて潮も口封じ目的で殺した可能性

潮が釣りに行く場所を知らないため、容疑者から除外可能

・霧声が犯人の可能性→ハウダニットに関しては黒に近いが動機はない

影尾と同じ理由で、容疑者から除外可能

・凪田と医者三人に接点あり→凪田が寒野・潮を殺した可能性

ツアーには病欠した担当者の代理で来ているため容疑者から除外可能(影尾と同じ理由でも除外可能)※10

・潮が釣りをする場所を知っていたのは(はじめ・剣持・美雪・佐木を除いて)伊豆丸・鰐瀬の二人→第一の件と合わせて、伊豆丸が犯人と断定可能

 

第三の殺人の段階で考えられること

・影尾の衣装と伊豆丸の衣装が似ている→伊豆丸が犯人と断定可能

・動機:医者三人に対する復讐

 

以上の内容を改めて見ると、実は原作よりドラマの方が潮殺しの段階で犯人を断定出来る作りになっているのだが、影尾や凪田といった他の登場人物も犯人として仮説がそれなりに成り立つよう動機や状況が設定されているため、ドラマの各シーンを逐一チェックしながら推理をするガチのミステリオタクでない限りは、伊豆丸以外の登場人物も容疑者として怪しみながら見られるようになっていたのが個人的にドラマの良い点だったと評価したい。

登場人物の改変の影響で容疑者の数は第三の殺人の段階で伊豆丸・鰐瀬・右竜・凪田・霧声の五名と(原作と比べて)三人も減っているためわかりやすくなっているという意見もあるかもしれないが、ドラマでカットされた海星はカメラマンという映像証拠を残す人物であることと、解決編前に事件の動機について語った唯一の人間ということから見ても100%犯人たり得ない人物だし、奥ノ木は特別怪しい動きも発言もなかったため、正直いなくても問題ない人物なのだ。原作の凪田も奥ノ木同様特別怪しい言動はなかったため、鬼島と統合してドラマ版凪田として改変したのは良かったと思う。

 

ドラマ版の他の容疑者(右竜・凪田・鰐瀬・霧声)についてもう少し言及しておくと、右竜は原作・ドラマ共に犯人という点では全く怪しくなかったが、ドラマの右竜は影尾を煽るようなことを言ったり霧声からセイレーンの正体を探ろうとしたりと、「悲恋湖」におけるいつき陽介的ポジションとして、ある時は場をかき乱し、ある時は状況が膠着しないよう事件を展開させる役割を果たしていた。その点は原作より能動的に物語において機能していたと言えるだろう。

霧声はトリック面では犯行に有利な立場の人間なので、動機のある凪田と共犯で計画を実行したという仮説がそれなりに成り立つようドラマは設定されているし、鰐瀬も医者三人の悪行を知っており、嫌々接待役をやっているという点では原作の鰐瀬よりも怪しさは出ていたのではないかと思う。ミスリード要員としては全体的に弱いかもしれないが、少なくとも原作で意味ありげな描写をいくつも入れていたことを思えば、ドラマはスッキリとした構成になっていたし、だいぶ改善されたと好意的に評価したい。

 

※10:これは凪田自身が言ったことなので嘘の可能性もあるが、後々警察に調べられたら担当者の病欠が本当かどうか一発でわかってしまうので、そんなすぐバレる嘘をつくはずがないという点で彼女を白と推理することは十分可能だ。

 

さいごに

色々と比較してしまったためかなり長くなったが、ドラマ版「聖恋島」は原作のトリックのポイントを押さえながら問題点となった設定等を改善しており、間違いなくミステリとしてブラシュアップされた秀作だと評価出来る(メタ的な推理で犯人がわかってしまうが、それはしゃーない)

また、新薬治験の主犯格だった影尾が三番目に殺されたことで、原作以上に復讐計画として効果的になっているのもドラマの優れた所だ。原作の影尾は自分が何故殺されるのかわからないまま真っ先に死んでいるため、正直復讐として効果的でないと思っていた。それだけに、今回のドラマは自分に殺される可能性があるとわからせた上で殺しているのが効果的なのだ。

(劇中では描かれていないが、もしかすると伊豆丸は影尾を薬で眠らせる前に自分が犯人であることや動機も語っていたかもしれない)

そして脚本だけでなくトリック再現のため一からコテージのセットを組み、海岸に桟橋を設置したりと、セットの作り上げや「セイレーンの泣き声」の演出も合わせて作中の世界観をオリジナルで構築している点も普通に偉業と言えるクオリティだった。

 

ところで、一見すると聖恋島の舞台背景(特攻の島、人間魚雷)と今回の連続殺人にこれといった関連性はないように思うが、大義のために人の命を道具として扱うという点では過去の戦争犯罪人と今回の医者三人は共通していると言える訳であり、かつて人命が道具として扱われた島で人命を道具として扱った医者たちを殺す…というのは単に地理的・トリック的に有利だったからというだけの話ではないように思える。特に今回のドラマでは凪田が病院から追放されたエピソードが追加されたことで、より影尾らが患者の命を道具としか見ていないことが強調されていた。この改変も犯人の動機の正当性を補強していると言えるだろう。

 

今回は、はじめと剣持が互いに「オッサン」「はじめ」と呼び合う関係に発展した事件として描かれたが、初代ではシーズン1の6話「首無し村殺人事件」でその関係になったことを思うと、五代目は随分駆け足で関係性を発展させたなと思わず苦笑してしまう。まぁ前回の「学園七不思議」の段階で殺害現場にはじめを入れていたことを思うと、剣持的にはフィーリングが合ったということかしら。

あと前回「五代目金田一は食欲特化型かも」と書いたけど、右竜に色気づいていたのでスケベ心が全くないという訳ではなさそうね。そこら辺の性欲的事情も次回以降どうなるか少し気になるかな。

 

原作は犯人がアッサリ自白してめでたしめでたしなのだが、ドラマでは最後に伊豆丸が「俺は気づいた時には大切なものを失くしていた。君も推理にばかり夢中になってると、俺みたいになっちまうぞ…」とはじめに警告めいた一言を放っており、この先の事件における不吉な展開を否応にも感じざるを得ないが果たしてどうなることやら。

 

 

さて、次回は今回の「聖恋島」と同様Rシリーズから「白蛇蔵殺人事件」が映像化される。これはちょっと予想外だったが、予告を見る感じ1話完結として放送されるみたいなので、次回は間違いなく改変されるし、改変ポイントも合わせて原作とドラマの評価をしていきたい。(一応先に言っておくと、原作は「聖恋島」以上に問題点だらけだよ)

「探偵が早すぎる」シーズン2感想 #5(生命力がドロンボー並みなんよ)

今回は別の意味でビックリしましたよ。

 

(以下、ドラマのネタバレあり)

 

5話感想(お前ら、人間じゃねぇ)

物語の中盤に差し掛かり、今回は美津山四兄妹の最後の一人、長女の成美が毒殺トリックを仕掛けるが、事態は私も予想していなかった展開へと進む。

成美の計画はサッカーの日本試合の時節を利用し、フェイスペインティング用の塗料に大量の酸化カドミウムを調合、大谷経由で一華の肌に塗られた塗料が乾燥することで、彼女がその粉末を吸引、カドミウム中毒になるという流れだ。

一応カドミウムについて説明しておくと、劇中で述べられたように急性中毒を引き起こした場合間質性肺炎肺気腫によって死亡することもあるが、慢性的な中毒の場合、腎機能に障害を与え腎不全になったり、骨がもろくなって骨折しやすくなるといった症状が出てくる。四大公害病の一つであるイタイイタイ病も原因はこのカドミウムなのだ。

 

例によって今回も計画は失敗に終わるが、何と今回は一華がトリックを見破ってしまうという、シーズン1でもなかった展開になっていたのでこれはちょっと予想外だった。前回大谷が刺客かもしれない疑惑千曲川に植え付けられていたからいち早く気づけたのもあるが、日光にかざすと黒く変色する特性を一華が知っていたのがやはり大きい。一華は化粧品会社の研究員として働いているので、薬品・化学物質の知識があるのは当然だし、これまでの経験から直接肌に触れるモノに何か毒が入っているのではないかと疑うのもこれまた当然のことだ。

実をいうと公式HPでは成美も化粧品会社に勤務していることが記されている。つまり、一華と成美は同業者だったのだから、そりゃトリックも見抜かれる訳であり、成美も同じ専門分野のトリックを使うなよとツッコミたい。このバカさ加減は金田一少年の「黒死蝶殺人事件」に登場した犯人と同じレベルだと思ったよ。

 

毒入りペイント塗料を持ってきたことにより大谷は橋田から尋問されることになったが、それによって大谷の刺客疑惑はなくなり、前回の金の受け渡しも江本の金銭事情を支援したというだけの話だった。

そうだよね、前回の記事でも指摘したけど暗殺の報酬にしては封筒が薄い=金額が少ないし、そんなヤバい金を会社の廊下で渡すとは思えなかったので、これに関して美津山四兄妹に雇われた刺客でないという私の予想は当たっていた(黒幕の刺客という線は外れたけど)。

 

そして、まさかの美津山四兄妹完全復活(成美は病み上がりかな?)

いやいや…えーと確か次男(二郎)は硫化水素ガスを吸って病院送りになったし、三男(順三郎)はウォッカの噴水で全身やけどを負い、長女(成美)は急性カドミウム中毒で病院送りになり、次女(明日香)は毒キノコ+毒草を配合した毒液を飲まされ病院送りになったのに?特に大きな後遺症とかもなく復活?

おまえらドロンボーかよ。

順三郎とか全身やけどのはずなのに肌ツヤツヤだったし、二郎も明日香も呼吸器とか他の臓器にダメージがあってもおかしくないのに、何でそんなピンピンしてるの?ホントに人間なのかお前らは。

結局四人が復活した上に、秋菜未亡人が急死。遺産の行方が一華ではなく当初の予定通り宗介・葉子兄妹に渡ることを知った四兄妹は、遺産目的+口封じのため宗介・葉子・一華・千曲川の四人を暗殺することを決意。ということで、次回以降はこれまでの個人戦ではなく4対4の団体戦な展開になると予想されるが、ここで疑問点を挙げておきたい。

 

①ホントに秋菜は死んだのか?

正直これは鵜呑みに出来ないポイントだ。今回の冒頭で千曲川と何か密談を交わしていたことから見ても、偽装死の可能性は高いし本当に死んだとしても何も後事を託さず死亡したとは思えない。次回は千曲川がトリックに引っかかって病院送りみたいな予告があったけど、これも含めて美津山四兄妹を油断させようとしている意図があるようにしか思えない(計画の全容までは流石にわからないけど)。

 

②結局黒幕はいないのか?(敵は美津山四兄妹だけなのか?)

美津山四兄妹の復活により前回の黒幕宗太説や宗介説がだいぶ揺らいできたが、初回から何度も言っているように、敵として美津山四兄妹はシーズン1の大陀羅一族よりも明らかにスケールダウンしているし、これまで仕掛けたトリックもあまり巧妙さを感じられない。明日香は良い線を行っていたけど、二郎は微妙な所も多いし、順三郎と成美に至っては事故死に見せかけられてないわトリック見破られているわで散々な出来栄え。これで後半戦リベンジマッチだと言われてもトリック的にも物語的にもシーズン1の大陀羅一族を超えられるのか、正直疑わしい。

これでこのまま最終回まで美津山四兄妹が敵だとしたら、ドラマとしては面白いがミステリとしては明らかに質が下がったと評価せざるを得ないのだが…。

 

③宗介のこれまでの怪しい動きに意味はあったのか?

他の視聴者もそれなりに疑っていると思うし、これから彼の行動の真意みたいなものが明かされていくのかもしれないが、敵側であるはずの明日香を介抱しようとしたり、一華が拒否したフェイスペイントを何故かわざわざ進んで塗ってくれと言ってきたり、彼の行為には不可解というか納得のいかない部分が多い。

単にミスリード要員かもしれないし、一華・大谷・宗介の三角関係を成立させるためのキャラとして配置されているだけなのかもしれないが、この辺りの疑問に対するアンサーがこの先描かれるのかどうか気になる所だ。

ナンバMG5ざっくり感想 #4(残酷なシャバい世界で輝く友情)

「ごくせん」は第一から第三シーズンまでキッチリ見ていた人間なので、今回は特に胸熱な展開でしたね。

 

4話感想

ナンバMG5(9) (少年チャンピオン・コミックス)

今回は原作の8巻と9巻のエピソード。市松と千鳥商の上級生の策謀によって伍代と大丸が喧嘩をして結果的に剛も入れて三人が友達になる展開や、剛の二重生活を後押ししてくれた恩人・関口との熱い友情が描かれる。どちらのエピソードでも、権謀術策をめぐらす性根の腐った悪党が登場し、それに打ち克つ友情や絆の強さを描いた回として感動的な内容だった。正直これはくどくど感想など書かずに「とりあえず見逃し配信でも良いから見ろ!」と言いたいのだが、一応感想は書くよ。

 

やはり今回見ていて思ったのはヤンキー・不良の世界より難破家でいう所の「シャバい」人間社会の方がずっと差別的で恐ろしい世界だということが表現されていたような気がする。不良の社会も熾烈な上下関係はあるし権謀術策も当然渦巻くことはあるが、それは目に見えることが多く策をめぐらすと言っても三手・四手先まで考えた計画を立てられる人物はそうそういない。だから暴力が比較的目に見えやすいという点でわかりやすさはあるし、乱暴なことを言うと強ければ大抵の問題は解消されてしまうので、ヤンキー・不良の世界は単純といえば単純な世界観と言えるかもしれない。

しかし、シャバい現実社会は暴力が見えにくい。今回のミツオらいじめグループのように人を雇って自分の手を汚さず邪魔な人間を排除する奴だっているし、底辺にいる人間が成り上がることを快く思わない人間だっている。自分が今いる地盤の安寧と優越感に浸る目的で他者をいじめ蹴落としたり、かりそめの万能感を得るために人を支配する人間だっている。難破家ではよく「気合い」が多用されるが、力や気合いで太刀打ち出来ないのがシャバい現実の恐ろしい所なのだ。

だからある意味今回のエピソードは、関東最強とも言える難破一家が、実は社会という大きな枠の中では一番淘汰されやすいタイプの一家であることを表した回でもあったんじゃないかな?今は全員の圧の強さで周囲を圧倒しているからまだ社会の中で生きていけてるけど、環境の変化に適応出来なさそう(特に兄の猛が!)なので、その点から考えても剛の存在は難破家において非常に重要な、命綱的存在と言えるだろう。

 

そんな生き馬の目を抜くような社会において友情を育むこと、もっと言うと誰かの精神的な拠り所として支えたり反対に支えられたりする関係を築くことがいかに難しいことか、今回の物語では思い知らされる。

いっそ執着し過ぎるか、反対に全くの無関心を決め込みがちな現代において、当人がその場にいなくても、「心の中にその人がいる」という安心感で勇気づけられるって本当に素敵なことだよ。例えるなら、真っ暗な海上を漂っている途中で見つける灯台の明かりという感じだろうか。直接灯台が助けてくれる訳ではないけど、それがあるから心が落ち着き、先に希望が持てるという、そんな感覚だ。

関口も、そんな精神の拠り所というか安心感が根底にあったから、暴力と辱めに耐え抜くことが出来たのではないかな。反対にミツオのような人間はそんな灯台のような存在がないから、他者を陥れてその魂をむさぼり喰うような人でなし、海の怪物的存在にならざるを得なかったのではないだろうか。

 

以上で4話の感想を終えるが、今回の剛は流血・上半身裸・金髪の三点が揃ったので否応なく映画「全員死刑」のタカノリを思い出した次第。勿論内容は「全員死刑」とは真逆の物語で、どちらかというと「ごくせん」的な王道の不良物語というのが「ナンバMG5」の個人的な評価だ。ただし、「ごくせん」の主人公であるヤンクミは先生としての仕事を実家から認められ応援されているのに対し、本作の剛は両親や兄妹に秘密で二重生活を送っているので、その点に関しては剛の方がハードモードと言えるし、そこに本作の独自性がある。

何か一部ネット記事で「『今日から俺は!』の二番煎じ」だとか言っている奴がいたけど、そんな表層的な部分をなぞって作品を評価・視聴している人はかなり損しているというか勿体ない見方をしている。ホントは「そんな表層的なものの見方しか出来ない人間はバカだ」と言いたい所だが、ドラマ視聴の態度は各個人の自由だし、表面をなぞるだけの視聴スタイルもあって然るべきだと思うので、これに関してはあまり差別的にならないよう気を付けたい。

 

ちなみに私、「今日から俺は」のドラマも一応初回から最終回まで見ていた一人なのだが、あの作品は思春期の葛藤云々以前に、ヤンキー・不良の世界にシャバい悪知恵を持った人間が介入することで生まれる面白さが売りだと思っているので、そこら辺が通常のヤンキーものとは違う独自性なんじゃないかな、と評価しているつもりだ。

新作「聖恋島殺人事件」開幕!(五代目「金田一少年の事件簿」#2)

はじめちゃんの「やる気スイッチ」は死体とか殺人じゃないの?

 

(以下、ドラマと原作のネタバレあり。ただし今回は前編のため真犯人やトリックについての言及はしないのでご安心を)

 

File.2「聖恋島殺人事件」(前編)

金田一少年の事件簿R 聖恋島殺人事件 (講談社プラチナコミックス)

今回のエピソードは、2016年の12月から翌年の4月にかけて連載された「聖恋島殺人事件」。はじめと美雪が剣持警部と共に磯釣り大会に参加し、決勝戦の会場となる聖恋島へ向かうが、その島は「セイレーンの泣き声」と呼ばれる不可解な怪奇現象が起こる曰く付きの土地であり、「墓標の島」という不吉な名でも呼ばれている。本作は聖恋島を舞台に大会参加者が次々と殺される物語で、事件の背後に隠された「セイレーンの泣き声」の正体が、事件解決の重要なポイントとなる。

長編作としては比較的近年に発表されており、分量も全15回と長めでボリュームがある。そして原作では「シリーズ屈指の殺人トリック」という謳い文句があるほどトリックに力の入った作品であり、実際作中で用いられたトリックは(ややわかりやすい所はあるものの)バリエーションに富んだトリックが三種類も用意されている。

今回は初の映像化作品のため、まずは原作の事件関係者を紹介し、現段階での原作との相違点を振り返りたいと思う。

 

※ちなみに、セイレーンはギリシャ神話における半人半鳥の怪物。しかし、後年海の魔物である人魚と混同されるようになり、姿も鳥から魚へと変わるようになった。

 

原作のおさらいと相違点

〇本作の登場人物

まずは大会参加者から。(括弧内は年齢)

潮小次郎(28)

若きイケメン医師。同業者の影尾に頭が上がらない。

 

寒野美火(30)

ツンツンとした性格の女医。同業者の影尾に頭が上がらない。

 

影尾風彦(55)

帝王大学医学部教授。殿様然とした態度で周囲を見下す。

 

鰐瀬たかし(25)

医療機器メーカーの営業マン。取引相手でもある影尾に頭が上がらない。

 

伊豆丸険(50)

ゴマスリ製薬の医療情報担当者。取引相手でもある影尾に頭が上がらない。

 

右竜あかね(42)

女流作家。大会を素材にした小説を書く予定。

 

奥ノ木武蔵(29)

編集者。右竜の取材の付き添いとしても参加している。

 

続いて大会の運営者側の人間を紹介。

鬼島高彦(37)

音羽アイランド広告の社員で大会のイベント担当者。凪田と結託し、派手な展開作りのためわざと悪天候の時を狙い大会を決行した。

 

凪田空也(38)

サウスアイランドケーブルTVのプロデューサー。鬼島と結託し、ド迫力の画を撮影する目的でわざと悪天候の時を狙い大会を決行した。

 

海星終吾(32)

サウスアイランドケーブルTVのカメラマン。地味で大人しい性格。大会参加者のある人物と面識がある。

 

霧声昼子(87)

聖恋島唯一の住人で、大会の世話係を務める。「セイレーンの泣き声」について知っている模様。

 

以上の11人に、はじめ・美雪・剣持のレギュラーメンバーを加えた14人が原作で登場する。

 

〇原作との相違点

・磯釣り大会 → フィッシングツアーに変更。

・鰐瀬と伊豆丸が同じ医療機器メーカー「トーディインテック」に勤務する営業マンとして変更。

・編集者の奥ノ木とカメラマンの海星がカットされ、海星の代わりに佐木が劇中でカメラマンの役割を果たす。

・右竜の職業が作家から「アスタニッシュ出版」の記者に変更。それに伴い来島の目的も「セイレーンの泣き声」の正体を調査するという形に変更されている。

・鬼島と凪田が統合され、ツアーガイドの凪田夏見という女性に改変されている。

・凪田が元看護師として影尾らの職場で働いていたという設定が追加。

・被害者の殺害順が「影尾→潮→寒野」から「寒野→潮→影尾(後編で殺される予定)」に変更。

寒野の手紙が手書きからパソコン入力の文章に変更。

・参加者がそれぞれ宿泊する水上コテージがなくなり、宿泊施設はメインコテージにまとめられている。その影響で、寒野の殺害現場も彼女が泊まる水上コテージの部屋からメインコテージの一室に変更されている。

・潮を救助するため海に飛び込んだのが剣持からはじめに変更されている。

 

原作で磯釣り大会としてはじめ達は聖恋島を訪れているが、上記の通り剣持の計らいでドラマはフィッシングツアーに参加したことになっている。詳しいことは来週の感想で述べるが、この改変のおかげで原作でモヤモヤとさせられたある疑惑を推理する必要がなくなり、スッキリとした構成になっているのがまずドラマの改変ポイントの上手い所だ。

そして大会からツアーに変更したことで、邪な目的で大会を開催した鬼島と凪田が凪田夏見として統合され、被害者を殺す動機を持った人間の一人として改変されているのも評価したい。原作では鬼島も凪田も容疑者候補としては弱い部分があったので、容疑者数自体は減ったものの、有力容疑者は原作以上に多い状況が作られているのはミステリ的に良いことだと思う。それは、嫌々影尾らの接待をする羽目になった鰐瀬もそうだし、右竜も影尾を煽ったり「セイレーンの泣き声」を調べようと霧声をつついたりと場をかき乱す役割を果たしているので、各登場人物のキャラの濃さが強くなっているのがドラマを見た印象だ。(原作の右竜は奥ノ木がいるせいか、あまり他の人とガツガツ絡んだ感じはなかった)

 

肝心の事件については、やはり被害者の殺害順が入れ替わっているのが注目すべき点だが、個人的にこの変更は犯人の殺害動機を鑑みると、ドラマの方がその目的が効果的に達成されているのではないだろうか。被害者たちが何をやらかしたのかは来週明らかになるので今回は伏せておくが、原作を読んだ時「こいつを一番先に殺したら効果的ではないんじゃ…?」と思ったので、個人的にはドラマの方が犯行動機に適した殺害プランになっていたと評価したい。

 

さいごに(五代目金田一食欲特化型?)

前編を見た様子だと、少なくとも前回の「学園七不思議」のような、ミステリとして砂を噛むような消化不良感はなさそうなので後編の展開に期待しておくが、それはともかく。

道枝さん演じる五代目金田一は、前回と今回を見た様子だと食欲という面が通常モードでは強調されていて、少なくとも原作や初代・四代目で見られたスケベ要素はないみたいだ。やはり、コンプライアンスにうるさい時代だから、ラッキースケベ的なことを期待する主人公を出しづらくなっているということだろうか。それでいて三枚目要素はなくさず探偵モードの時とのギャップを見せないといけないので、意外に難しい注文を要求されているのではないかと思うが、そこは頑張ってもらって五代目独自の色を視聴者に見せつけて欲しいと期待を込めて応援するつもりだ。

特に金田一少年シリーズは、他のミステリ作品と違って身体を張る展開も結構多いし、現に今回は海に飛び込んだり洞窟にすべり落ちたりとフィジカル要素満載だったので、コロナに感染したのもあの場面を見れば無理ないと思う。それだけに、健康面でも問題なく撮影が進むことを祈りたい。また一週間お預けとかあったら嫌だもの。

 

来週は解決編になるが、原作未読の方がいるなら今回の犯人はわかりやすい方なので是非推理してもらいたい。正直メタ的な推理でも当たるよ。

「探偵が早すぎる」シーズン2感想 #4(入浴剤がデカすぎる)

ざっと一週間分くらいはあるデカさでした。

 

(以下、ドラマのネタバレあり)

 

4話感想(二郎のトリック&黒幕予想)

今回は一華の恋愛模様を絡めながら例によって美津山四兄妹の暗殺計画が描かれる。リベンジとばかりに今回は二郎がトリックを考え実行する。

二郎が考案したのはバスボム(入浴剤)に大量の硫黄を配合させ、中心に硫黄と化合すると硫化水素が発生する薬品をカプセル入りにして仕込む。こうしてターゲットの一華が入浴時にそれを利用し硫化水素のガスで中毒死する…という流れだ。

浴室の外にある換気口を塞いで確実に死ぬよう念入りしているが、これだけで事故にみせかけるには不十分。一華だけがバスボムで死亡したら明らかに警察に怪しまれるので、バスボムを二個用意し、一華の同業者である江本という男に商品開発の試供品という名目で手渡させ、一華以外の第三者も犠牲になることで、重大な欠陥のある試供品を使用したことによる事故という形にした。トリック自体はシンプルで面白みはないが、直接ではなく間接的にバスボムを渡していることや、第三者を巻き込みより事故に見せかけようとした点については、一応前の失敗を経て成長していると言えるかもしれない。結局いつものように千曲川によってトリック返しされているのでダメだったのだけどね。っていうか、あんな馬鹿デカい入浴剤にしたらそりゃ怪しまれるよ。

 

一華以外の人間が暗殺トリックの「もらい事故」を受けそうになる展開や、親しくしていた人が刺客として裏切っていることを仄めかす展開など、前シーズンでもあったプロットを今回は踏襲しているが、個人的に一華の会社の先輩・大谷を操っているのは美津山四兄妹だとはちょっと考えにくい。※1この先の展開を考えるとあの四兄妹では悪役として小粒すぎるし、前シーズンの朱鳥のような大ボスが劇中にまだ登場していないことを見ても、今シーズンのボスは黒幕的存在として暗躍していると考えるべきではないだろうか?

 

そうなってくると誰が本作の黒幕なのかという話になってくるが、一番怪しいのは失踪中の美津山家の長男・宗太。彼を演じるのが和田總宏さんであることを見ても、単なる過去回想として出るだけの役ではないと思うし、四兄妹を相続候補から完全に除外し、宗介・葉子に相続させれば、後々戻ってきた際に管財人という形で遺産2000億の恩恵を受けられるのだから、私は彼を黒幕説として推したい。※2

ただここで引っかかるのが一華の介入という点だ。本来なら遺産は宗介と葉子が受け取ることになっていたのだし、そうなると四兄妹たちはその二人を狙いにかかっていたのだから、もし一華が介入しなければ宗介・葉子が死亡し、四兄妹のものになっていた。そうなると宗太が戻った所で遺産は受け取れないし、そもそも実の子供を遺産目当てで犠牲にする親がいるとあまり考えたくない。

だから、一華の介入が秋菜未亡人が独断で判断したことなのか、それとも誰かしらの心理操作・誘導によって一華が介入するようお膳立てされていたのか、そこが問題となってくる。お膳立てされていたとすれば、当然千曲川の介入も視野に入れているはずだし、彼のトリック返しも計算に入れて相続候補者である四兄妹を排除しようとしたという推測が成り立つ。反対に秋菜未亡人の独断で一華が介入したと考えると、宗太黒幕説はだいぶ弱まってしまうし、そうなると結局暗殺計画を立てて得をするのは四兄妹となってしまうのだが…。

 

※1:大谷が江本に封筒を渡していたことから、千曲川は大谷が一華暗殺に一枚噛んでいるのではないかと疑うが、これは正直微妙な所。あの封筒の薄さを見ると札束を渡していたとは思えないし、仮に札が入っていたとしても暗殺計画に関わった報酬にしては少なすぎる(勿論、札ではなく小切手という可能性もあるので現段階では何とも言えないのだが…)。そもそも、金銭の受け渡しを会社内という人目が多い場所で渡すのはリスクが高い。

※2:もっと言うと、宗太が失踪中という設定自体、前シーズンの一華の父親・瑛の設定と似ている所があり、それが逆に宗太黒幕説を後押ししているような気がしてならない。シーズン2で同じような設定の人間をまた物語に登場させている上に、彼を聖人君子的な人物として劇中で説明しているから、視聴者を「宗太=善人」と思い込ませようとしているように見えるし、それが逆に彼を疑う切っ掛けになった。

 

今の所推測としては以上のようになるが、次回は物語の中盤に差し掛かりターニングポイントになりそうな出来事も起こりそうなので、引き続き注目していきたい。

(これでドロンボー一味みたいに二郎・順三郎・明日香が復活したらどうしよう…。前シーズンの壬流古がそうだったから、可能性はゼロじゃないんだよな…)