タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

1回目はホラー、2回目はシュールギャグ【映画「黒い家」レビュー】

どうも、タリホーです。映画「変な家」、公開されましたね。

もう既に劇場で観た人もいると思うし私も週明けに観に行く予定だが、その前にこっちの家をレビューしておきたい。

 

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それは YouTube の角川シネマコレクションチャンネルで現在期間限定公開(3月29日まで)されている映画「黒い家」だ。原作は貴志祐介氏の同名小説で、第四回日本ホラー小説大賞を受賞している。とはいえ第一回・第三回は大賞受賞作がないため実質的に本作は『パラサイト・イヴ』に次ぐ二番目の大賞作品である。

 

簡単にあらすじを説明すると、本作は保険金詐欺を題材にした作品で、生命保険会社に勤める若槻という社員が、菰田夫妻の子供・和也の首吊り死体を発見する所から物語は始まる。和也には生命保険がかけられており、夫の重徳から保険金の支払いを催促されるのだが、支払いのための調査を進めていると重徳は障害給付金目的で自分の指を切り落とす「指狩り族」の残党であることが判明する。更に調査を進めていくと菰田夫妻には人格的に問題がある疑いも浮上してきて…。

 

とまぁこんな感じで、本作はホラーとしてはサイコスリラーに分類される作品で、私も原作を読んだことがあるが確かに怖い作品だった。今では当たり前になったサイコパスを描いたという点でもエポックメイキングとしての価値があると言えるだろう。

 

(以下、原作を含む映画のネタバレあり)

 

実は原作通りでない

では映画は原作の怖さを再現出来ているのか?という話になるが、正直言うと映画はかなり独特な演出が強いし、脚本も実は原作通りではないため、純粋にホラー映画として評価すると結構微妙に感じるポイントもある。最初に観た時は怖く感じても、二度目に観るとむしろシュールでギャグじゃないのコレ?って思う場面もあるくらいだ。

 

これは脚本を含めた映画の構成の問題だと思うが、原作は当初菰田幸子を夫の重徳の命令で保険金詐欺の片棒を担がされている哀れな女性として見せており、それが実は幸子の方が黒幕でヤバいサイコパスだったというミステリ的などんでん返しがあるのが特徴だった。しかし本作の映画ではあまりそういう趣向は意識されておらず、幸子の方も異常者として最初の登場シーンから描いているから意外性に欠けるし、主犯と思われていた西村雅彦さん演じる重徳も、ヤバい人ではあるけど「怖い人」として描写されているかというとそれは違うかなと思った。知能に問題がある人には見えるけど、誰かをコントロールするようなサイコパス特有のヤバさは感じられないから、やはりその点に関しては原作のどんでん返し的展開を狙った演技プランを監督は求めていなかったと考えるべきだろうか。

 

※中盤の幸子のボウリングの場面を見れば、息子が死んだ直後にボウリングをしている時点でサイコパスであることは明らかなので、やはり監督は原作のサプライズ展開はどうでもよかったんだろうな…。

 

若槻のキャラ設定(演技)に不満あり

これは個人的な不満ポイントだけど、内野聖陽さんが演じた若槻のキャラ設定というか演技プランがホラー作品としては完全に失敗していると感じた。

ホラー作品の主人公は読者や視聴者と同じ立場というか考え方で恐怖に対峙することで、我々も同じ目線・感情で作中・劇中の恐怖を味わえるし、それこそがホラー作品の主人公が果たすべき役割だと思う。でもこの映画における若槻って何か共感しにくいしむしろイラっとさせる要素がある。気弱な性格を表現したつもりかもしれないけど、あのボソボソした話し方は字幕なしだと聞きづらいし、舞台は保険会社なので専門用語とかも当然出て来るのだから、まずこれは内容以前の問題だと思った。

 

あと若槻が水泳をするシーンが途中で何度も入るの、あれも良くないかな。ボウリングをする幸子と対比した演出なのだろうし、ああいうストレスを抱えやすい職業柄スポーツをしてストレスを発散するのは理に適っている。でも、あの場面が入る度に若槻と私との間で心理的距離感が生まれるというか、「運動してリフレッシュ出来ているのだったら、もっと普通にしゃべってよ。台詞が聞き取りにくいんだよ!」って感じたわ。

それから特に酷いのが心理学者の金石と二人きりでストリップ劇場でサイコパスの話をしている場面だな。何だろう、監督としてはサイコパスを異形の人間として語る金石も私たちから見れば十分異常な人間であることを演出で見せたかったのかもしれないけど、あそこで一緒に若槻も踊っているから私は若槻も異常だと感じたし、映画の若槻は私たち観客と同じ感情を共有する主人公ではないと判断した。

 

正直これをホラー映画として、しかもこの後の展開も加味して考えると若槻は観る側が共感・感情移入出来るキャラにしないといけないのに、「若槻も何だかんだ普通じゃないよな」って思わせる演出・キャラ設定にしたから、だから結果的にホラー映画として満足出来ない作品になったと言いたいのである。

 

圧巻の大竹しのぶと家のディティー

以上のように、本作は原作のプロットや主人公の若槻の描写を改変したことでホラー作品として色々難点が生じているのは否めないが、それでも幸子を演じた大竹しのぶさんの怪演は圧巻の一言に尽きる。終盤の若槻との戦闘における「乳しゃぶれぇ!」はまぁ恐怖を通り越してギャグになっていたと思うけど(苦笑)、感情が読めない・理解出来ない人間を見事に演じていたのは流石だ。

 

個人的に幸子に関しては大竹さんの演技もさることながら、菰田夫妻の家からも幸子の異常性が読み取れるのが良いなと思った評価ポイントだ。若槻の恋人である恵がさらわれて若槻が助けに行くシーン(具体的には本編の1時間30分辺り)を見てもらえればわかると思うが、あの家って平屋建ての和風建築なのに、幸子の部屋と思しき和室だけはロイヤル調の椅子や机でレイアウトされているし、棚にはトロフィーが並べられ、天井には小さなシャンデリアが吊るされている。一方それ以外の部屋は廃屋同然の汚さで、床はホコリと新聞にまみれ、風呂場は血がこびりついて黒ずんでいるという具合に、自分の空間だけが綺麗に整理されてそれ以外は無秩序という所に幸子のパーソナリティーがよく表現されていて感心したわ。よく見ると廊下も趣味のボウリングを練習するためのレーンとして細工を凝らしているし、本当に自分本位な性格だったんだなと思わされる。

そういや夫の重徳の服装はボロいというか薄汚さを感じたのに、幸子の服装は一貫して小綺麗だったから、そこからも夫妻の主従関係が読み取れるようになっているよね。

 

さいごに

ということで映画「黒い家」をレビューしてみたが、ホラーとしては良い所も悪い所もあってなかなか評価が難しい作品だと思う。ある意味トラウマを植え付けられた人もいると思うし実際劇中ではエグい描写も散見される。しかし、良くも悪くも完全に肝が冷えるような作品ではないので、案外ホラーが苦手な人にもおススメ出来るかもしれない(まぁ流石に子供には勧めないけど)。

 

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ちなみにこの「黒い家」、2007年に韓国でリメイク化されているが、こちらは結構原作寄りの内容になっていたはずなので、気になる方は是非観てはいかがだろうか?