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雨穴風お化け屋敷的〇〇村ホラー!?【映画「変な家」レビュー】(一部ネタバレあり)

さーて、ようやく映画「変な家」を観て来たのでレビューしますか!

変な家 文庫版

実はちらっと既に映画を観た人の評価を目にしたのだけど、軒並み低評価が目立っていて「おやおや…?」と不穏な気持ちになったので、(本当は原作を読まずに観ようと思っていたが)原作を全部読んでから鑑賞しました。

ちなみに今回は間宮さんに興味を持ち始めたうちの母親と共に鑑賞しました。どうやら私が知らない間に昨年放送されたドラマ「真夏のシンデレラ」を見ていたようで、CMも含めて彼の男前ぶりに関心を持ったみたいです。別に私が布教したとかそんなんじゃなくですよ。

 

(以下、原作含む映画本編について若干のネタバレあり)

 

作品概要

今回の映画は性別不詳の覆面作家・雨穴氏が2021年に刊行した小説「変な家」が原作になっているが、この小説の始まりは2020年10月までさかのぼる。

 

omocoro.jp

www.youtube.com

ウェブライターとしても活動している雨穴氏はオモコロに投稿した記事を自身の YouTube チャンネルで動画化、その評判を受けて2021年には新たなエピソード・間取りが追加された完全版として書籍化され、2023年に漫画版が発売された。

 

変な家: 1 (HOWLコミックス)

発端となった記事投稿から映画公開に至るまで何と丸4年も経っていないのだから、メディアミックスとしては異常なまでの急発展を遂げた作品と言えるだろう。

 

本作は家の間取りから「その家で何が行われていたのか」を推理するというホラーミステリーであり、従来のホラー及びミステリーでは重視されなかった間取りをお題にした作品という所に新奇性があって、なおかつ妙なリアリティがある。これが本作の魅力と言うべきポイントだ。

 

一応ここで解説すると、従来のミステリー作品においては間取りはメインではなく例えば犯人特定の手がかりだったり、現実世界からかけ離れた異様な世界観を構築する材料という、言うなれば主役ではなく脇役的な扱いが多かった。綾辻行人氏の〈館〉シリーズや島田荘司氏の『斜め屋敷の犯罪』を読めば、ミステリー小説における間取りがどのように扱われているのかわかるし、間取りはあくまでも意外なトリック・意外な犯人を支える部品の一つという感じなのだ。

 

そんな脇役を主役として描いたことが珍しかったのと同時に、本格ミステリー小説にありがちな浮世離れした世界の話ではなく、モキュメンタリー形式で描いたこともこの作品の優れたポイントで、日常の隣にある、でも外からは容易にうかがい知ることの出来ない家の中の闇を間取りという観点から紐解くという所に、単なるフィクションでは味わえない不気味さがある。去年ホラー好き界隈で話題になった『近畿地方のある場所について』もモキュメンタリー形式で書かれた小説だから、モキュメンタリーは日常のすぐそばにある恐怖を描く上で実に有効であり、普段読書をしない若者にも取っつき易かったのもヒットに影響していると考えられるだろう。

 

今回の映画は原作者の雨穴氏に相当する〈雨男〉こと雨宮が主人公で、最近ユーチューバーとして活動がマンネリ化しているという映画オリジナルの設定が用意されている。また、事件の発端となった「変な間取り」を紹介した柳岡も原作では単なる知人だったのに対し、映画では雨宮のマネージャーという形で改変された。他にも改変ポイントは色々とあるがそれについてはこの後の項で語りたい。

 

低評価の理由

さて、まずは何故低評価の意見が多いのかについて私なりに述べようと思うが、率直に言って今回の映画からは原作特有の「らしさ」が感じられないというのが最大の原因だろう。上に掲載した雨穴氏の動画を見ればその「らしさ」がよくわかるのだが、雨穴氏はあまりホラー演出に趣向を凝らすタイプではなく、実に淡々と物語を語るストーリーテラーなのだ。それに雨穴氏はホラー作家という枠組みだけで語れるような人ではなくて、自分で創作したオリジナルのキモい海洋生物を紹介したり、毎年変なおせちアイテム(?)を購入して頭を悩ませたりと、かなり独特というかキワモノ的な世界観を持つクリエイターだから、そういうテイストを期待していたファンも少なからずいたと思う。

しかし、雨穴氏に相当する雨宮にはそういった独特さがまるで皆無であり、「スランプ気味でバズるネタを求めて事件に深入りしてしまうユーチューバー」という凡庸なキャラ設定にされているのだから、真っ先にそこで不満を抱いた人がいても不思議ではない。

 

しかも本作はミステリーよりもホラー演出に気合いの入った作品なので、元の動画のような淡々と恐い事実が明るみになるという感じではなく、いきなりドーン!と音がなったりビクッ!となる演出、要はジャンプスケア系のホラー演出があるため、「雨穴さんの作品だからホラー苦手でも大丈夫だよね~♪」と軽い気持ちで観に行ったら心底怖い思いをする羽目になるだろう。そういう点でも悪い意味で裏切られたと受け取った人がいたと思う。

 

そして本作は「ゾクッとミステリー」という謳い文句で宣伝されていたので、じゃあ肝心のミステリー要素はどうだったかというと、第一の間取りと第二の間取りは(カットされた説明はあったが)大体原作通りでこの辺りまではまずまずといった感じなのだが、映画の後半、つまり第三の間取りに関しては原作で起こった不可解な事故死が完全にカットされて栗原が(ネタバレなので一応伏せ字)仏壇裏の隠し通路(伏せ字ここまで)を見つける下りが推理というより当てずっぽうに近いことになっていたのが個人的には不満だったかな。事件の元凶となったある出来事についてもかなり簡略化されて描かれていたし、そこも本作が凡庸なホラーミステリーになった原因の一つだと思う。

 

では原作通りやれば良かったのか?

低評価の原因について一通り語った所で、じゃあ原作に忠実に映像化していたら面白くなったのかと言うと、私は全くそう思わない

 

原作は大きく四つの章から成っており、第一章から第三章までは間取りから「この家で何が行われたのか?」を推理するパート、そして結末部の第四章で「何故このような行為が行われたのか?」という事件の遠因となる出来事、つまり事件の動機が関係者の口から語られるのだ。

この構成を見てもわかるように、本作は謎解きにおけるカタルシスを重視した作風ではないし、部分的に見れば間取りをテーマにした斬新なミステリー小説だと思うだろうが、総合的に見ると原作「変な家」は江戸川乱歩横溝正史といった昭和の古典ミステリーに近い作品なのだ。だから私のようなミステリーマニアにとっては新進気鋭のミステリーという感じではなく、シャーロック・ホームズが登場する『緋色の研究』や明智小五郎が活躍する『D坂の殺人事件』という古典的名作を読んだ感覚に近い。今現在本格ミステリー作家として第一線で活躍している青崎有吾氏や今村昌弘氏・阿津川辰海氏といった作者の作品と比べるまでもなく、トリックも作品としてのクオリティも古典的というかクラシックな感じなのだ。

 

古典的・クラシックと言うと聞こえは良いが、悪く言うとミステリーとしてはツッコミ所や穴があると言える。今回の映画でミステリー面に不満を持った方が多くいたと思うが、実際の所原作も栗原の推理には結構飛躍的な発想が見られるし、最後の四章で語られた「ある人物の計画」に関してもちょっと都合の良さを感じるポイントがあって手放しで褒められる出来とは言い難い。事件の元凶となった出来事に関する部分も、原作はもっと複雑で複数の思惑が混じっているから、スッキリ謎が解明されないし理解するのにちょっと時間が要ったかな。

 

そもそも今回の「変な家」に限った話ではないが、ミステリー作品を映像化、特に映画化するのは他のジャンルに比べてかなり難しい。映画はドラマや配信動画と違って間にCMが挿まれないし一時停止することも出来ないから、視聴者が劇中の手がかりだったり事件を考える余地が全然ないし、探偵がスラスラ推理を披露してもそれを視聴者が理解する間がないと折角トリックが優れていても意味がない!

それに推理パートは基本これまで起こったことを説明するだけだから、物語として動きがなく下手な監督が撮ると単調な展開になってしまう。トリックを複雑にすると説明が多くなる上に視聴者がついていけなくなるし、かと言って単純にすると面白みに欠けてつまらなくなるのだから、ミステリーの映画化はデメリットが圧倒的に多い。故に、ミステリーを原作通り映像化することは、私に言わせてみれば無理難題・不可能事だと思うし、改変はあって当然だと思う。

 

今回の映画では後半をミステリーではなく〇〇村ホラーとしてかなり大胆な脚色をしているが、これ自体は全然問題ではないし映画としては大きな見せ場になっていて原作では味わえないカタストロフィ(大破局)もあって良かったと思っている。

では「ミステリーとしてイマイチでもホラーとしては良かったのか?」という疑問について答えてみよう。

 

結局従来のB級ホラー映画に

「変な家」に連なる家にまつわるホラー映画として思い出すのは2015年に公開された小野不由美氏原作の残穢 ―住んではいけない部屋―」だ。

残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―

残穢」は家とその土地がテーマの作品で、ざっくり言うと心霊ホラーなのだが、従来のような幽霊がバァ!と驚かす感じの怖さではなく、点と点がつながっていくミステリー的な怖さが味わえる作品だ。そういう点では「変な家」の先輩的作品と言えるかもしれないが、この映画では結局最後の最後で目立った怪奇現象によるホラー演出で締めくくったのでB級ホラーになったというのが個人的な感想だ。

 

基本的にホラー映画は全てスッキリ解決するのではなく最後に何かしら不穏なものを残して終わるというのが王道のオチであり、今回の映画も従来のホラー映画同様そういう不穏な結末で締めている。あ、別にそういうベタなオチがダメだとかそういうことを言いたいのではなく、物語の着地の仕方として中途半端な感じがしたんだよね。

あの最後のオチは原作を読んで原作で説明された登場人物の因果関係を知っていたら何となく意図する所は理解出来るのだけど、原作未読の人にとっては意味がわからないし、ホラーとしてもミステリーとしても、もうちょっと補足説明が必要だったと思うポイントだ。

 

それからネタバレになるけどこの映画、最後に黒板を爪でひっかくような音が結構な音量で流れるのだけど、あれは本っ当に最悪だったわ。この映画を撮った石川淳一監督には届かないと思うけどさ、本当に上質なホラーには恐怖だけが必要なのであって不快感は極力排除すべきものなんだよ。特に本作はミステリーとして銘打っているのだから、ただでさえ観客は騙し討ちを喰らったようなものなのに、最後の最後であの不快な「キィ~」って音を大音量で聞かされたらそら文句の一つも言いたくなるってもんですよ?家のテレビと違って音量調節が出来ないのだからその辺りもっと配慮してもらいたかったですねぇ…。うちの母も「うるさかった」って文句言ってましたよ。

 

さいごに

ということで映画「変な家」はホラーとしてもミステリーとしてもツッコミ所満載でお世辞にも映画化として大成功した作品とは言えないだろう。とはいえ、ミステリーをホラーとして映画化するというのは、松竹で制作された映画「八つ墓村」という前例作品があるし、あの「八つ墓村」に比べたら本作は十分ミステリーとしての面白さはあったと思う。

 

パンフレットによると石川監督は大のホラー映画好きとのことで、自分の好きなものを詰め込んだという情熱は少なくとも伝わって来た。某有名ホラー映画をオマージュしたシーンもあったし、かつて金田一耕助として一世を風靡した石坂浩二さんにあんな役を演じさせたのも、一人の横溝正史ファンとして感慨深いものを感じた。

あと美術スタッフの仕事が本当に見事だった!古い家の床板とか壁の質感がリアルで、主観視点の撮影手法とあいまって圧倒的な没入感があったのもこの映画の評価ポイントだ。間宮さんがインタビューで「この映画はアトラクションみたい」だと言っていたのも納得だし、映画の後半は遊園地のお化け屋敷に入ったようなドキドキに満ちていた。っていうか、折角だしお化け屋敷としてUSJのハロウィンの時期にアトラクションとしてオープンしたら良いんじゃないですかね?

 

そうそう、日本では厳しい評価で迎えられたが、ポルトガルで開催された第44回ポルト国際映画祭で審査員特別賞を受賞していることに触れておかないといけないな。

この評価の違いは何だろうと私なりに考えてみたけど、一番は情報量の差だと思う。ポルトガルの人は原作小説の内容とか、そもそも原作者がどういう人物なのか知らない、前知識の無いまっさらな状態で映画を見て「面白い!」と感じたと推察されるし、日本ではすっかり定番ネタになった土着的なホラーが海外の人にはきっと新鮮に映ったことは想像に難くない。

 

そう考えると、今の日本人って純粋に映画を楽しめない環境に追い込まれているって感じがして、何と言うか映画を観る側も作る側もつくづく損な感じになっていると思わされる。特に今年の1月は「セクシー田中さん」の原作者の自殺が大きな問題として世間を騒がせたし、その影響で原作の改変に関して敏感になっている時期だからまだその風潮が抜けてない時期に映画を公開したことも、本作の低評価につながっているんじゃないかな?と考えた訳だ。

そういう訳だから、今は低評価が目立つ本作も時間が経てばワインのように味わい深い作品として再評価される時が来るだろう。少なくとも私はそれくらいの資質はあったと断言したい。