タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

夏休み期間中の今推したい名作ドラマ「のんのんばあとオレ」

今年は水木先生の生誕100周年、ということで何かそれに関することを当ブログで言及したいと思ったので、今回はかつてNHKで放送されていたドラマのんのんばあとオレを紹介しよう。

 

「のんのんばあとオレ」「続・のんのんばあとオレ」2巻セット

のんのんばあとオレ」は1977年に筑摩書房から発刊された水木氏による自伝的エッセイで、漫画版は講談社から刊行されている。ドラマは1991年に放送され、翌年に続編となる「続・のんのんばあとオレ」が放送された。

ドラマは漫画が原作となっており、内容はほぼ原作準拠。劇中では「小豆はかり」や「べとべとさん」といった様々な妖怪が登場するのだが、実写ドラマにアニメの妖怪が合成されるという今ではちょっと珍しい手法がとられており、そこが他のドラマにはない独特の味わいがあって面白い。

妖怪が登場するので当然本作はフィクションであるが、主人公の村木茂は幼少期の水木氏だし、のんのんばあこと景山ふさも実在していた人物だ。だから本作はフィクションとノンフィクションが混じった物語ということで、これも本作の独自性の一つといえるだろう。

 

ストーリーは村木少年の日常という形で進んでいくため、実に色んなことが起こる。隣町のガキ軍団との抗争があったり、銀行員の父親が副業で映画館を始めたり、また細かい所ではドーナツを買いに隣町へ歩いて行ったりと日常のちょっとした出来事やイベント、更には大小様々なハプニング・トラブルが起こる。また都市部では見かけない地方ならではの風習なんかも作中では出て来るので、そういう民俗学的な面白さもある。

一応縦軸となる物語はあって、一つは病気の療養で境港にやって来た千草という女性との出会いと別れ、そして「続」の方では石や草木と会話が出来る不思議な少女・美和との出会いと別れが縦軸として描かれる。どちらも一人の女性と出会い、そして別れてしまうため悲しいといえば悲しい話ではあるが、悲しみの中にもわずかながらに希望というか去り行く者への祈りが込められていて、決して悲しいだけの物語ではない。

 

見所は人によって違うだろうが、今私が人におススメするとするならば茂の父親・望が登場するシーンは是非とも見てもらいたい。必要以上に子供を押さえつけない寛大さがありながらも、知性のある諭し方を心得た茂の父親の人柄は正に理想の父親だし、こんな名言メーカーみたいな人が実際いたのかと思うと驚くばかりだ。水木先生も勿論凄い人だけど、父親も凄い人だったから大成することが出来たのだと思うし、幼少期の教育や環境の大切さが窺える。

寛大な父親と武士の家系でしっかり者として育った母親・道という村木夫妻のバランスの良さは原作でも描かれているが、ドラマではオリジナルの追加シーンがあってそれがより補強されているのがまた良い所だ。それを示す場面はいくつもあるが、一例として印象的だった場面を挙げてみよう。

 

それは、望が銀行の宿直を朝の7時までいなければならないのに、怖くて早引きしてしまい銀行をクビになるという場面だが、それを知った望の父(茂の祖父)が怒って村木の家に乗り込んで来る。望の方は生来「なんとかなる」精神の人間なのでクビになったことは仕方ないとして流そうとするが祖父は当然カンカンで道に対しても夫の躾がなってないからこうなったと責めるのだが、「夫が臆病なのは本人だけのせいではない」と言い、「このくらいのことでクビにする支店長は上司としてはちょっとねぇ」と平然と返す。この平然と切り返す道の豪胆さが小気味良くて、望と相まって夫婦として抜群だなと思った。

 

他にも面白いポイントや語りたい所は色々あるが、くどくど述べるよりまずは見てもらいたい。原作へのリスペクトが感じられる秀逸な映像作品だ。

 

※2022.08.27 追記

漫画版をドラマ化したものと思っていましたが、漫画版はドラマを元に制作されたものです。NHKで放送された「100分de水木しげる」で知ったので、お詫びして訂正いたします。