タリホーです。

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映画「屍人荘の殺人」を今更レビュー(ネタバレあり)

屍人荘の殺人

そういう訳で約2年以上もお蔵入り状態だった映画「屍人荘の殺人」をようやく見た。私が前の職場を辞めた2019年に発表された作品だったのだな~と振り返りつつ特典のメイキング映像やらビジュアルコメンタリーやらもちゃんと視聴したよ。

 

tariho10281.hatenablog.com

以前映画館で見た時の感想もあるけど、今回はネタバレありの感想ということで。

 

(以下、原作を含む映画のネタバレあり)

 

早速批評に入ろうと思うが、まずは登場人物について。原作では神紅大学の大学生だけなのに対し、映画では原作の一部登場人物の設定を変えて部外者を介入させているのが特徴の一つとして挙げられる。それに伴って展開も一部変更されているが、部分的な改変とはいえ一応理に適った改変になっている。

その改変というのは、序盤から最初の進藤殺しにおける流れだが、原作であった腕時計の盗難エピソードがカットされている。これは本作のワトソン役である葉村のパーソナリティーと密接に関わる出来事だが、映画だと尺に収まらないこともあってカットされ、それによって連鎖的に展開が改変されているのが面白くも良く出来た所だったのではないかと思う。連鎖反応の影響で当然明智の役割も原作と違っている部分はあるが、個人的には映画版の明智の方が印象に残りやすい脚本になっていたかなと評価しているのだ。

 

勿論全て良かった訳ではなく、原作の被害者(特に立浪)の過去に関する描写がカットされて単なるクズになっていたのは残念なポイントだし、最後の剣崎の「あげない」の下りも原作と比べて不自然な流れになっているのは否めない(車に乗ってた自衛隊員が気付かない訳がないでしょ!)。とはいえ、映画という限られた時間枠の中で、それも犯人当てのミステリとして制作された映画として十分面白い出来になっているし、木村ひさし監督のプロレスネタだったり剣崎の雲竜型といった謎の追加演出・設定といった夾雑物も気にしなければどうということはない。

 

あと映画館で見た時の感想とかぶるけど、やっぱり本作とTRICKシリーズって関連する所があって、そこの親和性が自分には心地よかったかな。原作を重点的に支持するならあの極限状況下でふざけたような行動をとったり感情が緩むような場面があるのは容認出来ない演出だけど、エンタメ作品と割り切ってしまえる範囲内ではあるし、シリアスとのメリハリは一応ついているので、好みの問題として私はOKだったと評価したい。

続編となる「魔眼の匣」や「兇人邸」も映像化してもらいと思う一方、前者は映像映えしない作品だし、後者は映像映えするけどスプラッター要素が強いから、う~ん。正直映像化しない方が賢明だと今は思う。改変次第ではどうにかなるかもしれないが。

 

(ここから事件のネタバレになるため一応伏せ字)出目による腕時計の盗難エピソードをカットした分、映画では出目を部外者として登場させているが、出目を進藤殺しにおけるスリードのゾンビとして配置しているのが巧い所で、劇中でも出目が進藤を襲っていないことが論理的に説明されている。

そして盗難エピソードがカットされてしまったため、明智の探偵としての推理力を披露する場もなくなってしまうのかと思いきや、静原が犯人であることを事件が起こる前に見抜いていたという展開を追加し、明智が「迷」ではない名探偵だったことが示され面目が保たれているのが素敵だったな。特に序盤の大学の場面で「迷」の部分が強調されていた分、余計に引き立っていた感じがする。

原作でミスリードとして配置されていた葉村の嘘に関しては、正直小説を読んだ時どうもあざといというか、腕時計を取り戻しにいったことを隠す必要があまりないように思ったので、そこがカットされた件については別に問題ないかなと思った(元々一種の叙述トリックだから、どっちにしろ映像化は難しい部分だけど)。(伏せ字ここまで)