タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

犯人大健闘の「オペラ座館・第三の殺人」が映像化!(五代目「金田一少年の事件簿」#9)

オペラ座の怪人といえばこのテーマソングですよね。


www.youtube.com

 

(以下、ドラマと原作のネタバレあり。ただし今回は前編のため真犯人やトリックについての言及はしないのでご安心を)

 

File.7「オペラ座館 ファントムの殺人」(前編)

金田一少年の事件簿 File(28) 金田一少年の事件簿 File (週刊少年マガジンコミックス)

五代目金田一の最終エピソードは2005年の9月から12月にかけて連載された「オペラ座館・第三の殺人」。「金田一少年の決死行」の事件を解決後、とある事情全国行脚の旅に出ていたはじめが、美雪・剣持と数年ぶりに再会した頃に起こった事件であり、シリーズ第一作目となるオペラ座館殺人事件」と同じ、歌島のオペラ座館を舞台にした三度目の連続殺人が描かれている。

 

オペラ座館は1992年発表の記念すべき第一作目「オペラ座館殺人事件」で不動高校の演劇部が殺害される事件が発生し、2年後の1994年ではオペラ座館・新たなる殺人」として漫画ではなく小説で発表されている。この第二の事件ではオペラ座館オーナー・黒沢和馬の門下生である劇団「幻想」のメンバーが殺害された。

そして本作「第三の殺人」では黒沢が死亡後のオペラ座館二代目オーナー・響静歌が、オペラ座館を取り壊す前にお別れ公演として劇団「遊民蜂起」による舞台「オペラ座の怪人」を開演、その招待客としてはじめ達が呼ばれた所から物語は始まる。

 

1992年の事件と94年の小説版の事件、そして本作の事件の3つを合わせてオペラ座館三部作とファンの間では称されており、一作目は粗削りで不完全な部分も多いが、「新たなる殺人」「第三の殺人」はそれぞれトリックも物語も非常に凝った作りになっていておススメ出来る作品となっている。出来れば一作目から読んで欲しいが、勿論いきなり「第三の殺人」から読んでも問題ない中身になっているので、順番にこだわらず手に取れる範囲からで読んでみてもらいたい。

ちなみに、新シリーズ「金田一37歳の事件簿」の第一作目も歌島が殺人の舞台となっており、こちらではオペラ座館倒壊後に歌島がリゾート地として再開発され、そこで開催される婚活イベントのコンダクターとしてはじめが訪れる展開になっている。当然ながら四度目の殺人が起こるが、オペラ座館三部作と異なり、かなり異色な事件となっているので、興味ある方は是非一読を。

 

三部作にはそれぞれ特色があり、前二作の事件ではガストン・ルルーの小説『オペラ座の怪人』に見立てた連続殺人だった。しかし本作「第三の殺人」では最初のシャンデリアによる殺人を除くと見立て殺人になっておらず、前二作の予定調和を壊した連続殺人になっているのが特色の一つとして挙げられる。

また、剣持警部が犯人に襲われ行方不明になったり、はじめとルポライターの白神による推理対決があったりと、これまでにない趣向が盛り込まれているのも注目ポイントだ。

 

ドラマ化は初となるが、2007年にスペシャル版としてアニメ化しており、その際のタイトルは「オペラ座館最後の殺人」となっている。放送時間は50分ほどで、その尺にまとめたため内容も大幅にカット・変更されている。特に原作における第二の殺人は丸ごとカットされなかったことになっており、今見ても無理に1時間枠で放送せず原作通りやってほしかったと思うばかりだ。

 

例によって初のドラマ化となるので、原作の登場人物をおさらいして簡単に注目ポイントを挙げていこう。

 

〇登場人物一覧(括弧内は年齢)

オペラ座館

響静歌(50):二代目オーナー。元作曲家。

響美土里(17):静歌の娘。母親とはあまり仲が良くない。

 

劇団「遊民蜂起」

城龍也(28):劇団員。舞台で怪人ファントムを演じる

三鬼谷巧(22):劇団員。レオナにぞっこん。

絵門いずみ(25):劇団員。舞台でカルロッタを演じる。

湖月レオナ(20):劇団員。舞台でクリスティーヌを演じる。

影島十三(45):演出家。黒沢の一番弟子。

 

氷森冬彦(20):元劇団員で招待客の一人。

白神海人(28):ミステリールポライター。本作の「もう一人の探偵役」

 

霧生鋭治:新人俳優。軽井沢の合宿中の火事で顔に火傷を負う。

黒沢和馬:故人。オペラ座館の元オーナーで崖から車ごと海に転落し死亡。

 

アニメ版は尺の都合で響美土里・三鬼谷巧・白神海人がカットされているが、今回のドラマは美土里以外は全員登場しており、追加メンバーとして佐木が参加している。そして殺人の舞台となるオペラ座館は原作と異なり、ロープウェイに乗っていかなければならない山の高所に建つ館として改変されている。ということで絶海の孤島ならぬ陸の孤島で事件が起こるが、一応相違点について指摘しておこう。

 

ご承知の通り、今回のドラマは過去に殺人が起こっていないオペラ座館のため、剣持と黒沢が友人だったというオリジナルの設定が追加され、親友のよしみで黒沢の追悼公演に招待されたという流れになっている。それにしても五代目の剣持はジャーナリストや旧家の後妻、更には有名演出家と、実に人脈が幅広い

剣持と同様に他の登場人物のキャラ設定も一部変更されており、白神がオペラ座館の元所有者一族の人間である情報もカットされているし、湖月レオナは原作と比べてつんけんした感じの女性になっている。つんけんしてはいるが、原作同様氷森や三鬼谷に言い寄られる魔性の女として描かれている点は同じだ。

 

次に事件の改変について。今回注目すべきは時系列だが、原作の第二の殺人・三鬼谷殺しは、剣持が襲撃されてから約2時間後に起こった事件だった。しかしドラマでは剣持襲撃の翌朝に起こったため、夜間ではなく午前中の出来事として描かれている。そのため、雨が降るなか窓の外からレオナの部屋を襲撃するファントム…という雰囲気ある原作の描写と比べると、やや味気なさを感じてしまった。また、三鬼谷の死体発見と「ファントム事件」のあらましが語られる場面が前後逆になっているのも変更ポイントの一つとして挙げられる。

前編の終盤、はじめ達が地下迷宮を見つける下りがあったが、これも原作と時系列が異なっており、原作では第三の殺人が起こった際に地下迷宮の道を発見する流れになっている。これは原作通りやると前編が中途半端な形で終わってしまうため、前編の締めとして地下迷宮の場面を持ってきたのだろうが、これによって地下迷宮発見の切っ掛けが離れの塔で発見した霧生の日記に変えられている。この日記は原作だと普通に開けられるのだが、ドラマでは鍵付きの日記となっており、その開錠を佐木がやることとなった。ホント、五代目の佐木は有能だよ。

 

他にも離れの塔の明かりが消えた時の状況や、シャンデリア落下時の状況など細かい差異が見られるが、これは事件のネタバレになるため次回の事件解説で述べたいと思う。

 

さいごに

ドラマの最終エピソードとしてチョイスされた本作は、正に最終エピソードに相応しいトリックであり、犯人もある一点を除いてミスをしておらず、その健闘ぶりは船津紳平「金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿」でも言及されている。前編の段階では時系列の入れ替え程度で特に大きな改変はしていないため、最終回は安心して見られそうだ。

結局予想していた「狐火流し」や「魔神遺跡」は今回の五代目で映像化されなかったけど、原作者の天樹征丸氏が続編をにおわすようなツイートをしているから期待していいのかな…?