タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

ナンバMG5ざっくり感想 #9(消化出来ない怒りに彼らは向き合えるのか?)

前回の予告でもありましたが、今回は色々と試練です。それだけに心苦しさも過去一だけど、言いたいことは一杯あるので感想をば。

 

9話感想

ナンバデッドエンド(7) (少年チャンピオン・コミックス)

さて、今回は遂に剛の二重生活が兄・猛や両親に発覚し勘当されてしまう。そんな最悪のタイミングで猛がボコボコにしたグレ・グラの不良コンビが逆恨みで剛のいる白百合高校に襲撃してきて警察沙汰に発展…という具合に今回は実家と学校という剛にとって大事な居場所が同時期に壊れてしまったため、正に泣きっ面に蜂というか踏んだり蹴ったりなことこの上ない。

二重生活に関しては、今までのツケが回ったということである意味自業自得な話ではあるが、そういった次元の感想を今回は話していきたい訳ではなく、何故ここまでの衝突に悪化してしまったのか、という点を私なりに深掘りしていこうかなと思ったのだ。

 

以前、京極夏彦先生の小説に書いてあった気がするが、家族というものは日常性を担保出来なければ壊れてしまう。「外の世界がどんなに殺伐としていても家庭は平穏であってほしい」という思いがあり、その幻想を共有することで家族・家庭は成り立つという穿った見方だが、本作の難破一家の場合それは剛の全国制覇に集約されていたと思われる。そして家族は以心伝心で通じ合えるものであり、そこに大きな隠し事はないという幻想を共有していたから難破一家は今まで崩壊しなかったとそう私は思うのだ。

しかし、今回の剛の告白で彼らの一致団結した思いがまやかしであったことが露わになり、そこに激しい怒りを覚えたのではないだろうか。兄や両親が剛を責める時も、二重生活を送っていたこと以上に「何故自分たちに嘘をついたのだ」嘘をついたこと自体に怒りを覚えていたのが印象的だったが、あそこまで怒るってことは家庭内の一致団結感が両親にとっての誇りというか、よその家庭と比べても自慢できるポイントとしてその連帯感を意識していたからこそ、幻想をぶち壊して台無しにした剛が許せなかったのかな?と私は分析したのだ。特に難破一家は理性よりも野性の勘で動いている所があるから、そんな野性的な一家の中に打算で動いている人間がいたということに拒絶感を示した部分もあったのではないだろうか。

 

理性的に落ち着いて考えれば「自分たちにも落ち度はあったのかな?」とか「親のエゴを子供に押し付けてしまったのだろうか…」と省みることが出来るのかもしれないが、実際そこまで自分のことを俯瞰的に考えられる親っていないと思うし、あそこで衝動的に怒って突き放してしまうのがリアルな反応だと思う。

 

ちょっと話がそれるかもしれないが、以前「世界まる見えテレビ」でとある黒人男性が母親や姉に内緒で白人女性と結婚しようとしていた話があって、その際に母親と姉は「何で隠していたの?」と問い詰めた。男性は「母親や姉は黒人であることにコンプレックスがあるから言い出せなかった」と言ったのだが、その時母親と姉は「私たちのことをそんな風に見てたの?」と更に男性を責め立てたのだ。

 

今回の剛の二重生活の発覚を見てこの黒人男性の話を思い出したのだが、子供の側からしてみれば家族を傷つけたくない、或いは自分が親から見捨てられたくないから、隠し事だったり嘘をついたりするのだけど、嘘をつかれた親の側から見ると、子供が嘘をついたということは、自分に本当のことを言っても理解してもらえない《心の狭い親》だと思われた、と受け止める。本当は子供の意見や希望を受け入れられるほど寛容でなかったとしても、「子供の方が私のことを狭量な人間だと見ていた」として非難することは往々にしてあるのではないかと思うのだが、どうだろうか?

人はなかなか自分が加害者的振る舞いをしていると気づけないし、自分が加害者だったことに向き合うのって、なかなか勇気がいることだからね。そういう点では、剛だけでなく猛や両親も今回は試練だったのじゃないかな。

 

三者から見れば、難破一家のように勝手な理想を押し付けてくる毒親からはさっさと離れて独立すべきという意見もあるだろうし、それ自体間違った意見ではないと思うが、なかなかそう簡単に割り切れないのがまた厄介な話なんだよな。

ドラマは20代後半の間宮さんが剛を演じているから失念してしまいがちだけど、18歳の高校生と言えば(個人差は勿論あるかもしれないが)まだ親を頼りたい年頃だし、帰属する場所は実家と相場が決まっている。自立するだけの金も持ち合わせてないし、自立するとなると家事全般こなさないといけないから、そういった面でも家族に依存しないとまだ生きていけない時期かなと思っている。

だから、たとえ勝手な理想を押し付けてくる親でも逆らってまで自分の居場所となる家庭を壊したいとは思わないし、剛の場合自分が今強く逞しくいられるのは親のおかげだとわかっているから余計に自分自身の思いが伝えられなかったんだよね。こういう親に対する報恩・孝行の精神が妨げとなって自分の意思が伝えられなかったり、親の言いなりになってしまう子供はやっぱりいると、そう思うのだ。

 

両親や兄との衝突は不可避だったとはいえ、まだ剛には人生の選択肢がいくつかあるから救いはあるのだけど、兄や両親の方は剛のことに対するムカムカとした感情を昇華させないと、自分たちの首が絞まってしまう。「自分が間違っていた」と自省までしなくて良いから、少なくとも「剛が自分たち一家を傷つけたくなかったから嘘をついていた」という理屈・知恵が彼らに降りて来て、この消化不良なモヤモヤとした感情が取り払われることを祈ろう。

 

そう、消化不良と言えば、白百合を襲撃したグレ・グラ率いる不良グループも消化不良を抱えていると言える。

誰しも消化出来ずに心にムカムカとした感情や思い出・記憶を多かれ少なかれ抱えて生きていると思うが、ああいった不良はムカムカした感情を抱え込めない。しかもそれをじわじわ発散させるのではなく、一気に解消しようとするから、長い目で見たら人生を棒にふるような行為を短絡的にとってしまうのかな~と思って見ていた。(そう思うと消化不良な感情を抱えながら文句一つ言わずに生活出来る人ってエライよね?)

それにヤクザとか不良って結構メンツを大事にするから、メンツを潰した奴には容赦がないんだよね。メンツがある意味彼らの居場所を作る土台になる訳で、それがないと根無し草になってしまうのだから。

 

 

という訳で、剛のカッコよくも哀しき二重生活は、運命のいたずらや白百合の校長の思惑によってズタズタにされてしまったが、最終回はどうなるのか。心して視聴したい。