タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

黒幕もプロメテウスも読めなかった先、「IP~サイバー捜査班」9話視聴(ネタバレあり)

最終回ですね。前回は間が空いたので今回は間を空けずに書こうと思います。

 

第9話(最終回)あらすじ

 ついに最終回!京都府警・サイバー総合事犯係主任・安洛一誠(佐々木蔵之介は、“ディープフェイク動画大量流出事件”の首謀者・永尾享二(波岡一喜の最期をとらえた動画が拡散されている状況に、りつ然とする…。永尾が“殉教者”となったこの動画によって、人々の内なる悪意が刺激され、ディープフェイクがさらに氾濫することを危惧したのだ。警察庁から出向してきたキャリア・桐子香澄(内山理名も、事の重大さに絶句。メディアアーティスト・西堂牧彦(大東駿介もまた、「ディープフェイクは新たなプロメテウスの火だ」と警鐘を鳴らす。
 そんな中、永尾のパソコンを調べた安洛は、あらかじめ彼の死が何者かによって計画されていたことに気づき、永尾の最期の動画もディープフェイク映像だったことを突き止める。おそらく真犯人は、警察が踏み込むことを察知した上で永尾を巧みに誘導して毒を飲ませたに違いない。永尾を操り、彼を殉教者に仕立て上げたのは誰なのか!? やがて、その疑惑の目は、“氷の美女”桐子警視正に向けられ…!?

 ところがその後、安洛に宣戦布告した“ある人物”が、古宮山絆(福原遥)を狙う事態が発生! 絆の窮地を知った安洛は、ある“決意”を固めるが――!? 一方、多和田昭平(間宮祥太朗は、安洛の警察庁への引き抜きを画策する父・楡井文則(升毅真の目的を知り、行動を起こして…!?

 サイバー総合事犯係が総力を結集して最後に挑む難事件、その恐るべき真相とは!? そして“親子かもしれない2人”安洛と絆は、どんな結末を迎えるのか…!?

(あらすじは公式サイトより引用)

最終回は前回に引き続き“ディープフェイク動画大量流出事件”の黒幕を追う流れだが、同様に今までグレー状態でほっておかれていた安洛と古宮山の親子関係の真相や、審議官・楡井の安洛引き抜きの真の思惑など、今までばらまいた諸要素を回収した物語となった。

 

作中で登場したプロメテウスの火という用語について、安洛は「争いや苦難をもたらし人類を滅ぼす力」とごく簡単な説明をしたが、説明として不十分なので一応補足しておく。

プロメテウスはギリシャ神話の神様で「先見の明」という意味の名を持つ。(経緯は省略するが)大神ゼウスはとある事情により人類から火を取り上げ、人類は自然の脅威と寒さに震えることになったが、それを哀れんだプロメテウスは火を地上に持ってきて人類に渡した。その結果、人類は文明や技術を発展させることが出来たが同時に武器が開発され戦争を起こす切っ掛けになってしまった。ゼウスはこれに怒ってプロメテウスをカウカーソス山の山頂に磔にし、鷲に肝臓をついばませた。プロメテウスは不死のため生きながら肝臓をついばまれても夜中に肝臓は再生し、結局ヘラクレスに助けられるまでその拷問は3万年続いたと言われている。

この神話は本編に直接関係しないが、この神話をもとに人間では制御出来ない強大でリスクの高い科学技術を「プロメテウスの火」と暗喩した。個人的には諸刃の剣の方がワードとしては馴染み深かったが閑話休題

 

雑感

・スマートなのに蓋然性の低い犯罪

黒幕は前回予想した通り西堂で、ディープフェイク動画の拡散は犯罪インフラによる利益を得るためだったが、やっていることは兵器を売るため戦争を後押しする昔の軍需産業人と同じだったから科学技術は進歩しても人間の頭は一向に進歩しない面が如実に表れた犯人像だった。

一応サイバー犯罪を武器とした犯人だけあって最終回っぽく爆弾を持ち出したもののそれを爆発せず高飛びの時間稼ぎに利用する辺り、まぁスマートな犯人だったのかもしれないが、結局自身がばら撒いたディープフェイク作成アプリに足をすくわれる結果に。

 

色々ツッコミ所のある犯人であるが特に気になったのは永尾のディープフェイクを利用した映像のトリックについて。リアルタイムで映像を加工した後永尾を誘導して毒薬を飲ませ自殺に見せかけたが、よく考えなくても警察が来るかもしれない状況でいきなり西堂との通信が絶え、通信が復活したら「薬でも飲んで落ち着け」って。

疑え、永尾!!

スマートな犯罪のくせにこういう所で蓋然性の低いトリックを使うから(西堂も永尾も)何か詰めが甘いしちょっとアホに見えちゃうんだよね。もっと言えば今回西堂は古宮山が単独で行動していたから簡単に拉致出来たものの、基本古宮山は多和田とコンビで行動することの方が多かったのだから、これもまた蓋然性の低さを無視した計画だったと思う。

 

・何故パソコンをレンジに?

川瀬がハッキングされた桐子警視正のパソコンをレンジに入れる描写があった。何故だろうと思い一応調べてみたが、恐らくレンジに電磁波を遮断する効果があるからだろう。実際に調べてみた訳でないから確かなことは言えないが、WiFiルーターを炊飯器や電子レンジに入れて効果を実験した記事があったので以下に紹介する。

【WiFiの電波実験】WiFi電波は電子レンジで遮れる! 本当かどうかやってみた! | WiFiストア

これを裏付けるかどうかはわからないが、以前福山雅治さん主演の映画真夏の方程式で携帯電話をアルミホイルに包んで電波を遮断する方法がとられていたから、恐らくパソコンも電子レンジに入るのならば、電波を遮断することは可能だと思う。

 

・混沌でも矯正でもなく

犯罪という混沌を未然に防ぎ回避する手段の一つとして監視体制を敷くというやり方がある。これは正に劇中で楡井が計画していた警察官の犯罪による不祥事を防ぐため警察官の日常まで監視する徹底した管理システムを構築する計画なのだが、徹底的な監視体制が後々マズい結果になることは過去の歴史的事実や海外の事例などを見ても明らか。特に監視体制の権限が一極に集中した場合は独裁的な形で運用される危険性がある。監視社会を手放しで容認出来ないのには単にプライバシーの侵害だけでなくディストピア的な社会、互いが互いを監視し疑う殺伐とした組織を生み出すことにつながりかねないからだ。

安洛が以上のことを考えたかどうかはわからないが、結局異動を断ってサイバー総合事犯係として犯罪を潰す中庸的立場をとったのは賢明だったと思う。

 

総評 ~絆を受け入れることを恐れた安洛~

最後にドラマの総評・考察を。木曜20時台の刑事ドラマの形式を踏襲しながらサイバー犯罪という現代的な要素を取り入れたこの度のドラマは正直まだまだ改善というか面白くなる余地があると思われる。

特に今後の課題(もし続編があるならば…だけど)となるのは捜査過程。「科捜研の女」は科学捜査の過程が映像映えする要素が多いため、事件自体が凡庸でも捜査過程に面白さがあるのだが、サイバー捜査となるとパソコンをカチカチ打って画面に映すくらいのことしか出来ないので、捜査におけるガジェットにはなってもドラマとしての面白さに欠けるのは否めない。初回と最終回はそのガジェットが犯罪者の逃亡の阻止に利用されていたのでまだ良かったが、それ以外は隠された事実を明かす以上のことにしか用いられていないため、このサイバー捜査をもっと面白く見せる手法があれば「科捜研の女」に負けないドラマになると思う。

 

あとこれはドラマの縦軸かどうかわからないが、矢鱈に親子・兄妹といった肉親関係をテーマにした話が多く、それがあまり上手く活用された感じがしないのが難点。安洛と古宮山の二人は主軸になるからともかく、最終章で明かされた楡井と多和田の親子関係については蛇足だった。「ハムラアキラ」みたいに明確な確執でもあるのならドラマとして盛り上がりポイントになったのかもしれないが、そこまで熟考された感じもなく追加された設定のため蛇足と感じたのだ。

それぞれの事件で親子関係をテーマにした話やその関係が丸くおさまる結末にしたのは後味の良い結末でないと視聴者も見ていられないというのもあるだろうし、そういったある種のお約束を作ることが木曜20時台の刑事ドラマの定石なのだろうが、サイバー犯罪という新たな風を入れるのならば、そこら辺の予定調和を思いっきり壊すような回があっても良かったのではないだろうか?

 

批判はこれくらいにして、主軸となった安洛と古宮山の親子関係について触れたい。最終回で明かされたのは古宮山の母が何故安洛と別れ姿を消したのか、という点について。真相は災害医療の勉強のため海外に行ったという至極単純な答えであり、物語序盤で保留されていた安洛が古宮山の実父なのかという疑問も安洛が父親として古宮山を助けたのであっさりと解消してしまった。

この辺りは縦軸としては弱いので変に引き延ばしたり思わせぶりな表現を入れず最終回ですぱっと明かしたのはある意味正解だったと思うが、このあっさり開陳されてしまった安洛と古宮山の母の過去を深掘りすると、安洛が劇中で古宮山を避けたり「人の情」から距離をとった動機が何かわかって来た感じがする。

 

恐らくだが、安洛は古宮山の母が(手紙を残したとはいえ)いきなりいなくなったことには怒っていなかったし、彼女の事情を真摯に受け止めていたと思う。海外で妻が災害医療という専門分野に専心しているからこそ、安洛自身も負けじと才能を磨き、サイバー捜査に秀でた人間になれたと思う。

両者の間で安定した距離感が構築されており、少なくとも安洛はその距離感が精神の指標となっていたが、そこに古宮山絆という娘の存在が投入されたことで彼の中で安定していた夫婦という一直線の関係に娘という点が加わり、一直線が三角形に変化してしまった。しかもそれは綺麗なトライアングルではなく歪な不等辺三角形的関係になるから、安洛は絆を受け入れることにためらいが生じたのだと考えている。

そのためらいは絆を受け入れることで自身の武器であるサイバー捜査の能力が鈍ってしまうことへの不安もあったと思うが、もっと深読みするとここで絆を受け入れてしまうことは、娘と距離をおき単身で海外へ行った妻に対する不義理、自分だけが娘を独占しているという罪悪感、そういったものが心の中にあって、それが拒絶だったり距離をおく態度として表れたのではないだろうか。

これまで頑ななまでに安洛は人との間に壁を作ったが、人間嫌いではなく遠くにいる妻への義理立てで作った壁であり、それは余りにも潔癖な愛の表れだったのかもしれない。そして「時間の無駄」という口癖は相手に対して放つ言葉である一方自分に対する戒め――妻を差し置いて自分だけが人と必要以上に関わってはいけない――になっていたのだろう。

 

劇中で漠然と描かれていた娘を受け入れることへの葛藤、自身の武器が“なまくら刀”になってしまうことへの恐れ、それが事件を通して軟化していきこの最終回で受け入れられるようになった。

事件解決後、安洛がいつもいる茶室のブラインドが開放されていたと思うが、これこそ彼がようやく自身が勝手に作り上げた妻の呪縛から解放されたことを示しているのではないだろうか?

 

 

以上、タリホーの感想・評価・考察でした。続編はそれなりに期待しておくが、テレ朝は時々別のドラマ同士のコラボとかもやるので、もしかしたら京都府警繋がりで「科捜研の女」にサイバー総合事犯係が登場するなんてこともあるかもしれないので、情報を逃さないよう気を付けねば。