タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

ボス恋総括 ~リアルを殺したおとぎ話のラブコメ~

ドラマ「オー!マイ・ボス!恋は別冊で」が昨日最終回を迎えた。

 

先に言っておくが、私は恋愛ドラマは全く興味ない人種である。そんな私が最終回までドラマを追ったのは推しである間宮祥太朗さんが出演していたから。ただそれだけの話。

故に、「今回のドラマが恋愛ドラマとして王道か邪道か」とか、「これまでの恋愛ドラマとどう違うか」といった内容の論は書かないし書けない。せいぜい前クール日テレで放送されていた「リモラブ」を持ち出すことしか出来ないもの。

 

ということで、ざっくりながらボス恋の総括(雑感に近いけど)をする。正直「リモラブ」の方が作品としての質は高かったのでそちらを優先して本来は書くべき所だが、悲しいかな、出来がイマイチな作品の方がツッコミどころが多く書きやすいのである。

 

恋愛もお仕事もファンタジー

ドラマを見てない人のためにざっくり内容説明すると、本作は熊本から幼馴染の恋人を追って上京してきた主人公・鈴木奈未が、突如ファッション雑誌の編集部に雑用係として就職。鬼上司で編集長の宝来麗子に振り回されながら仕事と恋に奔走する物語だ。

「普通・人並みの生活が一番」という母親の教えを受け継いだ主人公が普通とは真逆のファッション業界の仕事を通じて成長していく、というのが恋愛劇と並行して描かれるのだけど、初回から3話を見た段階で正直真っ当なお仕事ドラマとしては乱暴な筋運びだと感じた。

特にドラマの1・3話で起こった仕事のトラブルは編集長の麗子の報連相が出来ていないことが原因なのに何故か劇中だと「厳しいけど先を考えて行動する有能な上司」みたいなポジションにいるのが気に食わない。1話の発注ミスとか、ちゃんと和泉に薔薇の使用用途を伝えておいたらあんな凡ミスはなかったはずだし、3話の場合柔道家の記事掲載の取り下げ目的を中沢に言うなり仄めかすなりしておいたら、面倒なボイコット騒ぎなど起こらなかったのだ。

せめて序盤で「キツイことを言っているがやり方はこの業界として見れば正当なのだろう」と思える描写があれば良かったのだが、自分の独断でトラブルが起こっているにも関わらず、奈未に講釈たれているから「何じゃコイツ」って思いながら見ていた。

最終回に向かうにつれて麗子のパーソナルな部分や苦労の描写が見えてきたことで、ようやく序盤の独裁的な判断も、彼女の行動原理としてある程度は理解出来たのだけど、私自身結構根に持つタイプの人間なので「それで今までのことがチャラになると思うな(怨)」と感じたね。

 

仕事面の描写(特にトラブルの原因と解決)がダメなのもさることながら、本作の奈未の恋人であり、麗子の弟・宝来潤之介も個人的に物語にのめり込めなかった原因の一つだと思っている。

姉の麗子も大概だが、潤之介も現実からほど遠い、「どこにこんな奴おるねん」みたいな設定を詰め込んだキャラクターである。実家が一流企業の金持ち御曹司なのはまだしも、びっくりしたのは性格の面での描写。1話で会って二度目の奈未をバイクに乗せて海に連れていったのは流石に草。

まぁ後々潤之介の博愛精神(誰にでも優しい)が明らかになったとはいえよ?相手のこともまだよく知らない段階でいきなり海に連れていくって。「え、金持ちのおぼっちゃまだからなのかな?」って混乱するくらいあそこはツッコミまくった場面だった。

潤之介のファンタジックな面はこれだけに止まらない。特に物語の序盤で顕著だったけど、ことあるごとに奈未の前にタイミングよく現れる。もうストーカーでもしてるんじゃない?ってくらいタイミングよく奈未が坂でこぼしたレモンを拾ったり、バカップルに絡まれた奈未をお助けする。

 

結局これってファンが期待する「アイドルにこんな風にされたい」という願望を具現化した程度の話で、本筋と直接絡むようなトキメキ描写じゃないから、最後の最後まで私は潤之介=「おとぎ話の王子様」であり、奈未とのハッピーエンドにしても「まぁ良かったんじゃないの?」という感想なんだよね。せめて序盤の付き合いのきっかけとか、好きになる理由を明確化していたら良かったけど、何か漠然と彼の優しさに触れて好きになっちゃったみたいな描き方をしているからイマイチハマれなかったんだよね。

 

あと冷静になって考えれば一目瞭然だけど、劇中で潤之介がやってきた諸々の行為はドラマで潤之介を演じた玉森裕太さんだから許されることであって、これが例えば安田大サーカスのクロちゃんが同じことをしてもあなたたち視聴者はトキめいていたのかって話ですよ!

あと6話だったかな、潤之介が無断で奈未の部屋に荷物入れて来たけど、私だったらぶん殴りますよ!!

 

奈未も大概である

宝来姉弟がいかにまともでない、ファンタジックな人間だったかは上で述べた通りだが、主人公の奈未も人並みを理想としておきながら平均以上そして平均以下という意味で人並みでないキャラクターである。

まず物語序盤の段階で情報収集が異様に下手くそな人間として描かれている。受付に聞けばわかることをユースケ・サンタマリアさん演じる副社長に聞いたり、スマホとか使って調べれば最低限でもわかりそうなことを中沢に聞いたりと、(偏見かもしれないが)本屋の娘の割には情報収集が上手でない描かれ方をしている。

これは本作が奈未の成長を描くための物語でもあるから、最初から平均的なことが出来ては物語として成立しない部分もあるので仕方ないのかもしれないが、それでも彼女の人並みでない部分は回を重ねるごとに露わになる。

そう、奈未は神経極太女なのだ。

彼女が鬼上司にパワハラまがいの命令をされて毎回けろっとしていられるのも、4話で麗子の元上司から麗子の粗探しのネタを得ようとしたのも、臆さずに取引相手にもの申す所も、全てが彼女の異様なまでの神経の図太さを表しているのだ。

当初(放送前)私はこのドラマを平均的で凡庸な女性がファッショナブルな業界の洗礼や恋愛を通して一歩抜きんでた大人として成長するラブコメとして捉え、主人公の奈未も女性をはじめとする視聴者が感情移入しやすいキャラなのかなーと思ってた。

でもそれは違っていた。人並みがどうとか言っていた奈未自身が始めから色んな意味で人並みでない人間だったし、金持ち御曹司とのお付き合いがうまくいって「ようやく人並みの幸せが~」とか言ってるような人なので、私が感情移入出来ないのも当然である。人並みの幸福レベルで金持ち御曹司と交際出来るかっつーの。

 

途中で足を浮かされた男・中沢

主人公は神経極太女、その恋人はおとぎ話の王子様、そして報連相すらマトモにせず独断で仕事を切り開くカリスマ編集長と、リアルに考えてあり得ないような人々がいるドラマの中でほぼ唯一と言って良いほど地に足のついたキャラクターであり立派な聖人君子だったのが、間宮さん演じる中沢涼太である。

その聖人君子ぶりは私がここで筆を費やすよりは以下の記事を読んでいただいた方が理解出来るし面白いので掲載する。

www.kansou-blog.jp

www.kansou-blog.jp

www.kansou-blog.jp

始めは中沢を地に足のついたキャラだと思っていたが、この方の記事を読んで気づいた。どうも後半の奈未に告白した下りから怪しくなった気がする。脚本という名の神によって5ミリほど地上から浮かされた感じと言えば良いかな?

 

※かんそう氏のブログがまさかの本人巡回済みでワロタ。

(2021.03.19追記)

 

よく考えなくてもそもそも中沢が奈未に惚れた理由がわからない。まぁ3話の下りで奈未の魅力的に感じる部分はあったと思うが、それは人としての魅力程度で恋愛につながるような要素は薄かったと思う。そのせいか、例の告白も奈未が泣いていたからというより、女性が泣いていたという理由による所が大きいのではないかな。9話の「お前がまた泣いている気がして」という下りにしてもそうだ。

折角地に足のついた人間だと思っていたのに、脚本の意図的な操作によって中沢は「女の涙という蜜に寄る蜂男」になってしまったとさえ思う。それほどこのドラマはリアルというものを引きずり下ろし、最終的にはファンタジーな世界とおとぎ話の住民で構成した物語にしてしまったのだ。

職場内で奈未と潤之介が公開イチャイチャし、中沢さんの語録が日めくりカレンダー化したのが正にその証拠(最終回)。普通ならあり得ないことが実現するのがファンタジーなのだから。

 

さいごに ~イイ人だらけだとファンタジーになる~

このファンタジーまみれとでも言うべきキャラ設定・ドラマ展開にしたのは何故なのだろうと思っていたが、これは結果的に主要人物たちをみんなイイ人にしたからではないかと思っている(唯一奈未の幼馴染が最後までクズキャラだったが)。物語として「みんな幸せのめでたしエンド」を成立させるために、中沢が当て馬(そもそも当て馬でもなかったのだが…)として現れても恋人の潤之介は嫉妬もしないし、中沢も横取りを一切目論まずアッサリ引き下がる。嫉妬やエゴイスティックな企みは全員ハッピーエンドに繋がらないからだ

この度の中沢を演じたことで今まで以上に間宮さんの認知度は広まったし「間宮祥太朗ってこんなにカッコイイのか!」と開眼した方も多いと思うが、キャラは記憶に残っても、この物語そのものがどこまで人々の記憶に残るのか、疑わしい限りである。