タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

「アリバイ崩し承ります」特別編(ネタバレあり)

アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

最終回を過ぎて、名残惜しさを感じるあなた。AbemaTV で配信されている特別編の存在を見逃してはいませんか?

※2021年現在、配信は終了してます。

 

 

(以下、原作・ドラマのネタバレあり)

 

「時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ」

特別編は原作の5話「時計屋探偵とお祖父さんのアリバイ」。現在公開されている9編の中でも本作は時乃のアリバイ崩し稼業のルーツに迫ったスピンオフ的な物語で、本筋に絡められない分、無料配信ドラマとして公開したのは理にかなっているといえる。

とはいえ「スピンオフなら、トリックもそんなに難しくないでしょ~?」と思ったら大間違い。本作で扱われるトリックは犯罪事件に利用するのは到底不可能だが、ユニークさにかけてはシリーズ随一のクオリティだ。逆に言えば、犯罪事件という制約さえなければ、こんなユニークなアリバイトリックだって出来ることを読者や視聴者に示した好例として、この「お祖父さんのアリバイ」は非常に価値があると思う。

 

そんなユニークなアリバイトリックを実演したのは時乃の祖父でありアリバイ崩しの師匠でもあった美谷時生(原作は名前が不詳)。森本レオさんがお祖父さん役をやると聞いた時はこの「お祖父さんのアリバイ」も間違いなく映像化されるだろうと期待しており、配信ドラマが決定した時は嬉しかったが、その反面「この素敵なトリックを見る人が限定されるのはちょっと勿体ない気が…」という思いもあった。

まぁでも目にする人が限定化される分、特別感が増してそれはそれで良いと思うので目くじらは立てないよ。

 

ちなみに、ドラマで時乃の祖父がトリックを実演してみせたのは時乃が中学一年の頃になっているが、原作は時乃が小学四年の頃に実演されている。浜辺美波さんを子役で代替させることなく時を戻せるギリギリが中学一年ということだったのだろう。

 

ストーリーとアリバイトリックは原作通り。このトリックに関しては映像を見てもらう方が分かりやすいので、今回は解説を割愛。トリックを明かすだけでなく、別解潰しやトリックに気づく部分も忠実に映像化されていて良かった。いや~TVで流せないのが惜しいね。

違う所といえば、ドラマオリジナルキャラクターの渡海雄馬が時乃と出会った始まりを描いている点くらいだろうか。ドラマ本編でも色々ズレてた子だったけど正義感があるボンボンだからまた続編があったら出てきて欲しいね。

 

ところで、ドラマを視聴している原作既読者はご承知だと思うが、原作の時乃は安楽椅子探偵で、自分から出向いて捜査情報を集めるマネはしていないが、ドラマはそれだと時乃の出番が少なくなるため活発に捜査情報や事件に首を突っ込んでくる。好意的に見ればお転婆と言えるが、悪く言うと職業倫理が半ば抜け落ちたアリバイ崩し中毒のヤベェ女なのだよな…ww。

察時にアリバイ崩しの依頼をさせるよう誘導してくるわ、アリバイ工作のニオイをかぎつけて捜査会議の情報を盗み聞きするわ、アリバイ崩しが絡むと一気にコンプライアンスの精神が崩壊するのだもん、ヤバいよ。

しかも先日の最終回なんて平然と焼死体の現場を覗き見してたんだよ。

おい警察、仕事しろ!!

っていうかお祖父さん、あなたのお孫さん相当ヤバいことになってますよ!職業倫理の方をもっと叩き込んでおくべきでしたね!

 

「アリバイ崩し」ミステリの紹介(時を動かすアリバイトリック)

本作で時乃の祖父が用いたのは写真を利用したアリバイトリックだったので、当初は写真を利用した他のアリバイ崩しミステリを紹介しようかと思ったが、本作の劇中で検討された諸々のアレコレがトリックに使われている作品が多く、そんな作品を紹介したところで「お祖父さんのアリバイ」に比肩すると思わなかったので、ポイントを変えて「時を動かす」という観点からこの作品を紹介する。

 

ミステリークロック

貴志祐介「ミステリークロック」(『ミステリークロック』所収)

本書は月9ドラマ「鍵のかかった部屋」でお馴染み〈防犯探偵・榎本シリーズ〉の最新作で、密室殺人事件を扱ったシリーズの中で唯一アリバイ崩しものとして書かれたイレギュラーな物語だ。

 

舞台は盛岡市郊外の山荘。そこでは女流ミステリ作家・森玲子の作家生活三十周年記念の晩餐会が開かれていた。榎本や弁護士の青砥、編集者に年老いたミステリ作家らが客として集まり、山荘に置かれた数多くの時計コレクションを鑑賞し、その価格の順位当てに興じていた。

そんな折、書斎で仕事をしていたはずの玲子が服毒死体となって発見される。自殺をするような気配もなければ外部から誰かに毒を盛られた可能性もない。ならば、この中に犯人がいる。そう思った玲子の夫が猟銃を携え招待客たちに銃口を向けた。こうして榎本たちは、半ば強制的に犯人捜しをする羽目になった…というのがあらすじ。

 

読み進めていけば、「犯人が誰か」という点についてはほとんどの人がわかると思うが、問題は犯人が仕掛けたアリバイトリック。

本作は以前ブログでも紹介した鮎川哲也氏の「五つの時計」のように、犯人が時間操作をしてアリバイを構築するタイプのトリックだが、そのアリバイトリックの複雑さはこれまで紹介してきたトリックなど比べ物にならない。私が読んだアリバイ崩し作品の中で史上最高難易度だ。道具と舞台さえ揃えられれば現実世界でも実行出来そうなレベルで微に入り細を穿った設定は分かりやすさを度外視していて初読時は頭が痛くなったほどだが、理解できると「すっごい…!!」となること間違いなし。

 

ちなみに、この「ミステリークロック」は時計に関する知識が謎を解くカギになる。美谷時乃はアリバイ崩しを得意とする時計屋さんだが、彼女が実在したらこの作品をすすめて、犯人が作り上げたアリバイを崩せるかどうか見てみたいものである。