ハムラアキラで節約していた声量と表情筋、距離感の近さをここぞとばかりに発散させた間宮さんでした。#アリバイ崩し承ります
— タリホー@サラリーマン山田 (@sshorii10281) 2020年3月7日
先日はハムラアキラ、そして今日はアリバイ崩し。ハードボイルド系探偵物語とロジック・トリック重視の本格ミステリドラマに連続して間宮さんが出るなんて、本格ミステリと間宮さんのファンである私、限界突破レベルに嬉しさがこみ上げてますよ~♡
しかも映画や大河ドラマ出演が決まっているし、もうどんだけ喜ばせるつもりですか~♡
何はともあれ、間宮さんが忙しくなっても体調を崩さないことを祈るばかりです。崩すのはアリバイだけでたくさん。
(以下、原作・ドラマのネタバレあり)
「時計屋探偵と凶器のアリバイ」
今回は原作の2話「時計屋探偵と凶器のアリバイ」。ドラマは3話から5話にかけてアリバイ探しにフーダニット、脆弱なアリバイと変化球的な話が続いていたが、今回はオーソドックスなアリバイ崩しものになっている。
事件概要と話の展開はこれまたほぼ原作通りだが、今回ゲストキャラとして登場した組織犯罪対策課(通称「組対」或いは「マル暴」)の二人、真壁剛士と村木キャサリンが異彩を放つ。
木村カエラさん演じる村木はドラマオリジナルキャラで、僅かな出演ながらも忖度と脱力感はびこる捜査一課の空気をピリリと引き締めた。
そして間宮さんが演じる真壁は原作にも同名の人物が登場するが、原作の真壁は牧村警部と同期で、ビジュアルも1メートル80センチの長身にブルドック顔のパンチパーマだから全く別物と言って良い。
ドラマでは成田さん演じる渡海の同期で親友という設定になっており、外見とは裏腹に組対の仕事に対して不安感を抱えている。外面を取り繕っている点で言えば、察時と全く同じという訳だ。
成田さんと間宮さんはドラマの設定通り公私共に付き合いのある親友であり、今回のドラマに間宮さんが出演したのも俗な言い方をすればバーターというやつであろう。
ただファンとして一言言わせてもらうが、この「凶器のアリバイ」に間宮さんがバーターで出演したのは大いに意義があるというか、興趣的なものさえ感じる。何故なら、間宮さんはここ数年で拳銃が絡むドラマや映画に多数出演しているからだ。
【我が推し、間宮祥太朗さんの“拳銃との絡み”経歴】
ドラマ
「僕たちがやりました」4話(ただし、拳銃にみせかけた水鉄砲)
「今からあなたを脅迫します」最終回(ただし、撃たれる側)
「僕はどこから」9話
「ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~」最終回
映画
「全員死刑」
赤字になっているのは、間宮さんがヤクザの役を演じた作品。特に今期は「僕はどこから」と「ハムラアキラ」で拳銃を使用しており、片方はヤクザの組長、もう片方はエリート警視だ。そして今回のアリバイ崩しでは警察とヤクザの間のマル暴の刑事を演じている。
偶然なのか制作陣が狙っていたのかは分からないが、間宮さんをこの時期にこの役で起用したのは大正解であり、「全員死刑」「僕はどこから」でヤクザと拳銃使用の実績がある彼にピッタリ。間宮さんと同年代で他に最適な俳優さんはいないはずだし、正にこれ以上ない最高のバーター出演なのだ!
キャストについてはここまでにして、事件のアリバイトリックを解説していこう。
間宮さんはインタビュー記事で「第6話のトリックは結構難しい」と言及しているが、ミステリの玄人としては、劇中で二つの拳銃が出てきた時点で「片方の拳銃にアリバイがあるなら、もう片方の拳銃で布田を殺したのだな」と見抜くことは出来る。問題は、原作者の大山先生が仕組んだ企みをどこまで見抜けるかにかかる。
FNブローニングM1910が殺害当日午後3時に郵便ポストから発見された以上、平根がそれを用いてアリバイのない午後3時以降に被害者を殺すのは不可能だが、そうなると別の拳銃(ワルサーPPK)が用いられたと考えるのは当然の理。ドラマでは解決場面で二つの拳銃が同じ32口径だと明かされているが、原作では事件概要の下りでさり気なくその点について書かれている。
しかし、そうなると被害者の右大腿部と床に残った銃弾がクセモノ。両者がFNブローニングM1910で撃たれていることと、被害者が別の拳銃で殺害されていることが噛み合わなくなる。この障壁を打ち破る手がかりとして、容疑者の平根がモルヒネを横流ししていた疑惑が重要となる。
モルヒネの薬品効果と二つの拳銃を利用したアリバイトリックの目的は、右大腿部への銃撃と口腔内への銃撃がほぼ同じ時刻に行われたと見せかけること、殺害に用いた第二の拳銃から発射された第三の銃弾を隠蔽することが最大のポイントと言えるだろう。
第一の銃弾は右大腿部に、第二の銃弾は現場の床に残すが、殺害に用いた第三の銃弾は何としても回収しないといけないし、その痕跡を誤魔化さなくてはならない。そのため砂袋を回収の道具に利用し、床に残った第二の銃弾と第三の銃弾で空いたマットの穴を合わせて辻褄を合わせた。そして辻褄を合わせるのがほぼ不可能な被害者の頭部に空いた貫通痕は被害者を横向きにすることで誤魔化したという訳だ。
ちなみに、ドラマでは殺害現場に砂が残っていたり、マットの上に載っていた椅子が動かされた形跡があるが、原作の事件概要の下りでは刑事の口からそのことは語られず(というか、現場にそんな痕跡が無かったから時乃に話していない)、時乃が「犯人はおそらく砂袋を用いたのだ」と推測しているに過ぎない。
実際はドラマのように砂袋の砂が飛散して現場に痕跡が残ってしまうし、鑑識がそれを見逃すはずはないから、今回の事件は別に刑事が頭を悩ませずとも科捜研辺りに頑張ってもらえば解決したと思う※。が、原作とドラマはあくまでも本格ミステリなので、科学捜査に頼らず与えられた手がかりとロジックを駆使して謎を解かねばならない。これが那野県警の管轄だからともかく、京都府警だったら間違いなく榊マリコの面目躍如になっていたに違いない。
※更に言えば、劇中の通り平根が第二の銃弾を立った状態で撃ったとすると、死体の口腔内の貫通痕から導き出される入射角と現場床に残った銃弾から導き出される入射角に違いが生じ、そこから第三の銃弾の存在が浮かび上がってしまう。
この違いを誤魔化すには、第二の銃弾を床に残す時に口腔内を撃つ時と同じように屈んで撃たなければならないが、平根がそうしていなかったとすると、やはり今回の事件は科捜研なら容易に解決出来た案件ということになる。
(2020.03.08追記)
今までは比較的ワン・アイデア型のアリバイトリックであまり込み入った細工をしていないが、今回は凝りに凝ったタイプのトリック。ただ、現場に残った砂からもわかるように、凝ったトリックほどバレた時は証拠が続々と出がち。その辺りミステリの玄人は弁えているので、素晴らしいアリバイトリックを思いついたとしても、それを犯罪には使わないのである。
それにしても、今回ばかりは時乃と察時の「アリバイ崩しの関係」が渡海にバレると思っていたが、渡海が疑っていたのは恋愛的な関係だったというまさかの番狂わせ。もうここまで来たら最終回もバレないだろうな…。
「アリバイ崩し」ミステリの紹介(拳銃が使われたアリバイ)
銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)によって拳銃の所持が禁止された日本において、国内を舞台に拳銃を殺害方法として利用した本格ミステリ小説は限られており、そこから更にアリバイ崩しをテーマにしたミステリを探すとなるとこれがなかなか難しい。
そんな中でも日本国内で拳銃を殺害方法に利用し、なおかつアリバイ崩しものとして描かれた秀作があるので紹介しよう。
泡坂妻夫「花火と銃声」(『奇術探偵 曾我佳城全集 下』所収)
曾我佳城は、泡坂妻夫が生み出した美貌の奇術師で、彼女が活躍する『奇術探偵 曾我佳城全集』は現在創元推理文庫から上下巻で発売されている。
探偵役が奇術師ということもあって、収録作のほとんどが奇術絡みの事件。トランクに入っていた人形が石に変わったり、マジックショーの最中に殺人犯が舞台上から消えてしまう、というような摩訶不思議な事件の数々が収録されているのだが、この「花火と銃声」は珍しいことに奇術絡みの事件ではなく、マンションの一室で起こった射殺事件を担当していた刑事が曾我佳城に相談をするという形式の物語。
死体が発見されたマンションは防音設備が施されていないため、本来なら住人の誰かが銃声を聞いていたはずだが、折しも殺害のあった晩は隅田川で花火大会が開催されており、マンション屋上ではビアガーデンが開かれていたため見慣れぬ人が多数出入りしていた。つまり、誰にも見咎められずにターゲットを射殺するにはもってこいの夜だったのだ。
ここから話は進んで警察はある人物に疑いを向けるが、その人物は花火大会の夜ずっと接待係として屋形船の上にいたというアリバイがあった。マンションから屋形船まで目と鼻の先とはいえ、一方は陸、もう一方は川の上だから抜け出すとなると人に絶対見られるし、泳いで行くなんて論外。正に奇術のトリックでも使わないと出来ないような不可能状況が謎として立ちはだかる。
この作品の面白いところは、刑事が疑っている人物の名前を言う前に佳城がその人物を当ててしまう趣向が盛り込まれている点。勿論それは当て推量などではなく、刑事との会話で聞き出した情報から推理した実にフェアなもの。そしてメインとなるアリバイトリックも、犯人にとって致命傷となるモノを逆用した実にユニークなトリックになっている。
アリバイ崩しものではないが、泡坂先生は他にも銃による不可能犯罪を扱った「掌上の黄金仮面」(『亜愛一郎の狼狽』所収)を発表している。こちらも面白いので読んでみてね。
ちなみに、このシリーズに登場する探偵役の亜愛一郎は、以前から間宮さんに演じてもらいたいと思っているキャラクターなので、蛇足ながら宣伝を込めて以前書いたこの記事を貼って文の終わりとする。