タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

岡田警視が大好きな〈ホン・コンおばさんシリーズ〉『案外まともな犯罪』を読んでみた

案外まともな犯罪―ホン・コンおばさんシリーズ (Hayakawa pocket mystery books)

明日最終回を迎える「ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~」。その5話で間宮さん演じる岡田警視が〈ホン・コンおばさんシリーズ〉を求めて葉村が勤める書店横の階段に横たわって待っているという非常に可愛らしい場面があった。

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私もミステリ小説を読んでいると、好きな探偵の出て来るシリーズは追っかけたくなるのだが、好きになるにはそれなりに理由があって、「探偵が抱く価値観が素敵」とか「こういう生き方に憧れる」みたいな理由が挙げられる。

岡田警視はドラマオリジナルのキャラクターなので、原作に登場するキャラクターと比べると明らかに情報が少ない。それ故にミステリアスな雰囲気を醸し出すキャラクターとなっているが、そんな数少ない彼に関する情報の中で「ホン・コンおばさんが好き」という情報、実は岡田警視の境遇が反映された嗜好なのではないだろうか?

そう思って興味がわいたので、ネットで本書『案外まともな犯罪』を購入し読了した。

 

多分、間宮さんは読んでいないだろうからこんなツイートをするのはちょっと筋違いな気もするが、ミステリ好きの性質と間宮さんファンとしての熱がない交ぜになった結果なので許せ。

 

『案外まともな犯罪』

あらすじは以下の通り。

町の鼻つまみ者ホン・コンおばさんが新設したコニー相談所に大方の予想に反し、一人の客が訪れた。その婦人は、警察が自殺とした息子の死が、他殺であることを証明してほしいと依頼したのだ。息子を天国に、という切なる親心にほだされたホン・コンはさっそく警察に赴き、部長を恐喝して調査記録をせしめた。だが、なんと少年は天国どころか、教会冒瀆、銀行強盗など前科数犯のとんでもない悪だったのだ。(後略)

(裏表紙から引用)

 貴族出身のホン・コンは、ノブレス・オブリージュ(貴族たる者の務め)」を果たそうと慈善団体や組織・委員会に入ろうとするが、口が悪く頑固で妄信的な性格が災いして除名される始末。ホン・コンが相談所を新設したのも、町に元々あった市民相談所をクビになったことが原因なのだ。

そんな彼女の相談所に来た初めての客の依頼を受けてホン・コンは調査に乗り出すのだが、実は裏表紙にある「息子を天国に、という切なる親心にほだされた」というのは動機の半分に過ぎずもう半分は「自分をコケにしてクビにしやがった市民相談所の連中を見返す」ためであり、割と結構不純な動機で調査に乗り出しているのだよな…ww。

 

とまぁ、なかなかにアクの強いキャラクターのホン・コンおばさんだが、調査で出会う人々もかなりクセの強い連中ばかり。被害者の死体が発見されたスナックには町に独自の情報網を張っているティーンエイジャーの不良どもがたむろしているし、被害者の保護観察司をしていた男はホン・コンから「狂っている」と評されるレベル。更にはホン・コンと昵懇の間柄であるホテルの支配人ホモセクシュアルな嗜好の持ち主ときている。

本作が発表されたのは1970年。同性愛者への理解は日本に比べて進んでいた(…多分)とはいえ、まだ偏見もキツかったであろう時代にこういったキャラクターを小説に出して英国の読者はどんな感想を抱いたのか、ちょっと気になる。

 

依頼者の息子の死の真相を暴くというプロットは、P・D・ジェイムズ『女には向かない職業』と同じなのだが、あちらは細かすぎるほどの情景描写とコーデリア・グレイの初々しさが印象的なのに対して、こちらは情緒も何もあったものではない。全体的に不潔な世界観と猪突猛進・唯我独尊状態のホン・コンを約200頁にわたって見届けることになる。

最後にようやく『案外まともな犯罪』という題名の意味がわかるのだが、そもそもまともな犯罪をまともでない様相にしていたのがホン・コン自身にあるという点に苦笑を禁じ得ない。本末転倒な結末も含めて、かき乱すだけかき乱して終わった読後感となった。

 

人間的なものへの憧れ

さて、こうやって読んでみるとドラマ「ハムラアキラ」の岡田警視が何故こんなクソみたいなおばさん(失礼)に惹かれるのだろうとちょっと頭を抱えてしまいそうになったが、物語における岡田警視のこれまでの立ち位置から考えてみると、ホン・コンの余りにも人間的なキャラクターに惹かれたのではないかと思っている。これまで当ブログでも言及してきたが、岡田警視はマレビト的存在として葉村の推理を整理したり、誤った推理を軌道修正させたり、彼岸に行きかけた葉村を此岸へ戻すといった役回りをしており、人ならざる者としての面が強かった。

明日の最終回で岡田警視がそういう立ち位置でいる理由みたいなものが明かされるのかどうか不明だが、陰にこもった所がある彼にとって(良くも悪くも)陽的キャラのホン・コンが憧れというか「好き」だと感じる対象になっているのは別に不自然ではないと思う。自分に欠如したものに対する憧れは普遍的な感情だからね。

 

最終回の岡田警視が事件の真相にどう対処するか、そして彼の経歴がホン・コンおばさんに憧れを抱く思いとつながっているのか注目したい。