鬼太郎6期も一年目が終了。ここで、一度脚本家別に1~49話を分類し、各脚本家の特色を中心に語ってみようかと思う。
各脚本家担当回一覧
(以下、紫字は「西洋妖怪編」、赤字は「名無し最終決戦編」)
大野木寛 氏
1話「妖怪が目覚めた日」
2話「戦慄! 見上げ入道」
4話「不思議の森の禁忌」
11話「日本征服! 八百八狸軍団」
12話「首都壊滅! 恐怖の妖怪獣」
19話「復活妖怪!? おばけの学校」
25話「くびれ鬼の呪詛」
35話「運命の魔女たち」
36話「日本全妖怪化計画」
37話「決戦!! バックベアード」
42話「百々爺の姦計 妖怪大裁判」
43話「永遠の命 おどろおどろ」※
48話「絶望と漆黒の虚無」
49話「名無しと真名」
吉野弘幸 氏
3話「たんたん坊の妖怪城」
7話「幽霊電車」
14話「まくら返しと幻の夢」
20話「妖花の記憶」
33話「狐の嫁入りと白山坊」
47話「赤子さらいの姑獲鳥」
金月龍之介 氏
5話「電気妖怪の災厄」
23話「妖怪アパート秘話」
24話「ねずみ男失踪!? 石妖の罠」
27話「襲来! バックベアード軍団」
28話「妖怪大戦争」
30話「吸血鬼のハロウィンパーティー」
34話「帝王バックベアード」
井上亜樹子 氏
6話「厄運のすねこすり」
8話「驚異! 鏡じじいの計略」
15話「ずんべら霊形手術」
18話「かわうそのウソ」
26話「蠱惑 麗しの画皮」
31話「小豆洗い小豆はかり小豆婆」
39話「雪女純白恋愛白書」
44話「なりすましのっぺらぼう」
46話「呪いのひな祭 麻桶毛」
横谷昌宏 氏
9話「河童の働き方改革」
10話「消滅! 学校の七不思議」
17話「蟹坊主と古の謎」
38話「新春食人奇譚火車」
野村祐一 氏
13話「欲望の金剛石! 輪入道の罠」
16話「潮の怪! 海座頭」
22話「暴走!! 最恐妖怪牛鬼」
29話「狂気のフランケンシュタイン」
32話「悪魔ベリアル百年の怨嗟」
43話「永遠の命 おどろおどろ」※
伊達さん 氏
21話「炎上! たくろう火の孤独」
40話「終極の譚歌 さら小僧」
41話「怪事! 化け草履の乱」
45話「真相は万年竹の藪の中」
※43話はダブル脚本
「名無し」で連続モノとして6期を牽引(大野木氏)
まずはシリーズ構成の大野木氏。上記一覧を見てわかるように、名無しが関係する回を主に担当している。名無しという新たな妖怪の発明によって、これまでの鬼太郎シリーズにないドキドキ感や、先を読ませない展開を作り上げた点は一つの功績と言って良いだろう。
基本これまでの鬼太郎シリーズは単発が基本で1話完結が主流だった。勿論6期も1話完結の話はあるが、1年をかけて妖怪の暗躍から決着を描いたのは今期が初。途中参戦の視聴者にはわからない連続長期アニメとしての面白さを突き詰めた所は他期との差別化を図る目的もあっただろうが、大いに成功していると言えよう。
一方、奇をてらい過ぎてマイナスになった回があるのも確か。原作の鬼太郎作品の面白さを失くしてしまった点で「西洋妖怪編」の決着と「妖怪大裁判」の回は褒められる出来とは言えない。
個人的な大野木氏ベスト脚本は11話・12話。本当は49話が相応しいのだろうが、原作ありの脚本としてはやはり狸軍団回が秀でた出来栄え。
大胆なアレンジが光る名脚本(吉野氏)
現段階でハズレ無しの作品ばかり輩出しているのが、吉野氏だ。時代に沿った大胆なアレンジを施しながらも、決して徒に盛り上げようとしている訳ではなく、全て理に適っているのが凄い。
3話の妖怪城は都市部に妖怪城が現れ、たんたん坊にコンクリートを操る能力がある理由を、東京五輪の会場設営と結びつけているのが巧い。
14話の枕返し回で大いに話題をかっさらった目玉おやじのイケメン化も良い意味で視聴者の意表を突いたと同時に、原作ファンの盲点を突いたアレンジと言えるだろう。
「幽霊電車」「妖花」といった他期でアニメ化された評判の原作回も、6期ならではの視点でオリジナリティ溢れる名作となった。
アレンジが成功しているのは、原作の読み込みがあってのこと。そういう意味で、最も原作に理解がある脚本家なのかもしれない。(他のアニメではどうなのか知らないが…)
個人的な吉野氏ベスト脚本は7話。
バトルものとしての鬼太郎を継承(金月氏)
6期を見ていて物足りない、と思ってしまう時がある。この原因の一つとしてバトルシーンの簡素化があると以前も述べたことがある。↓
勿論、バトルシーンが簡素でも面白い回はあるのだが、バトルをしなければ鬼太郎の存在意義が薄れてしまいかねない。それでは本末転倒である。
そんな中、昔ながらの、バトル面でも視聴者を満足させる脚本を書いたのが金月氏。西洋妖怪編では全11作中4作を担当し、物語に大きく貢献した。もし金月氏が西洋妖怪編の脚本に一切タッチしていなかったら、西洋妖怪編は更に惨憺たる結果になっていたのではないかと思う。強敵の脅威とそこからの逆転劇の描き方は金月氏が他脚本家から一歩抜き出でている。
個人的な金月氏ベスト脚本は34話。やはりねずみ男はああでないと。
笑いあり、涙ありのハートフルな脚本(井上氏)
井上氏の脚本回の印象は、一言で表すと「ハートフル」。一部例外を除いて基本はハッピーエンドな内容であり、今期の中でダークさが比較的薄いのが井上脚本の特徴だろう。ダークさが比較的薄い、とは言うものの全くない訳ではなく、15話のずんべら回は美醜に振り回される人間がいるし、26話は毒親の束縛を描いている。
そんな井上脚本の中で突出しているのが6話と39話。6話は泣ける名作、39話は笑える怪作として絶大なインパクトを残した。
個人的な井上氏ベスト脚本は勿論6話。
寡作ながらギャグ担当として傑出(横谷氏)
横谷氏担当の脚本は4作。これは伊達氏に並んで現段階で最小の数だ。そのうち3作はギャグ要素の入った回として印象に残っている。
9話はブラック企業に河童の尻子玉取り騒動を加えてコミカルに、10話はシリーズ初の学校七不思議を取り入れ、ストーカー問題をコミカルに描いた。38話では原作の入れ替わりをリレー形式にすることで、原作にないドタバタコメディテイストを出している。
個人的な横谷氏ベスト脚本は39話。先述したギャグ要素は勿論、死体回収業というブラック要素とバトルアクションとのバランスも良く見応えのある一作だ。
ベリアル回を除けば良作揃い(野村氏)
既に別記事でベリアル回の問題点を挙げているので、ここで改めて蒸し返す必要は無い。↓
他の脚本家と比べると、特出した特徴はないものの、6期の作風に沿った人間の闇を描いた輪入道回や、3期を彷彿とさせる人間と協力して妖怪退治する海座頭回、異質なタッチでインパクトを与えた牛鬼回等、良作が多い。
個人的な野村氏ベスト脚本は13話。
話の振り幅の大きさが印象深い(伊達氏)
21話以降、ぷっつりと脚本担当回が無かったので当初は「ゲスト脚本かな?」と思っていたが、名無し最終決戦編で3作も担当。脚本を担当した4作のうち2作はハッピーエンド、2作はバッドエンドという両極端な結末で視聴者の印象に残った。
個人的な伊達氏ベスト脚本は40話。本職のお笑い芸人ならではの視点で、承認欲求中毒の一発屋芸人の哀れな末路を描いたことにより、他期では見られない唯一無二のさら小僧回となった。
来週からの新章は上記の七名の脚本家で進むのか、それともまた新たな脚本家が参戦するのか気になる所。発売が決定した『小説 ゲゲゲの鬼太郎 ~蒼の刻~』では上記の大野木氏・井上氏、プロデューサーの永富氏に加えて山田瑞季氏が参戦する模様だが、アニメの方の脚本もするのだろうか…?