そういえば昔、電波少年の企画でアンコールワットまでの道を舗装する企画がありましたね。
「だから何だ」って話ですが。
「アンコールワットの亡霊」
今回は2期に放送された「アンコールワットの亡霊」のリメイク。
次回はアンコールワット回。
— k.hisadome (@HisadomeK) 2020年1月26日
第2期「アンコールワットの亡霊」の原作は《世界怪奇シリーズ》の「アンコールワットの女」。この作品の原案を書かれたのは矢野徹さん(坂田治名義)で、後にドイツを舞台として『さまよえる騎士団の伝説』として小説化もされています。#ゲゲゲの鬼太郎 pic.twitter.com/nIsIBdVfPx
原作は鬼太郎が登場しない短編「アンコールワットの女」。原作の方は未読だが、2期のアニメは数年前に視聴している。記憶が確かならば、森本という男性が、ワランという娘の行方を探して欲しいと鬼太郎に依頼する所から始まったと思う。
森本は四年前、アンコールワットの遺跡を調査中にワランと知り合うが、霧の夜にワランは日本人の武者姿の亡霊によって連れ去られてしまい、そのまま行方不明になる。鬼太郎は森本と地元警察の要請によって、亡霊によって連れ去られた女性たちの行方を追う。
アンコールワットに武者姿の亡霊というミスマッチの妙と、亡霊たちの目的を探っていくミステリ仕立ての物語が大変印象深かったが、この話をより楽しむには「江戸時代初期に海外移住した日本人」に関する歴史的背景を知っておかなければならない。2期では一応その背景に触れているが、今期はほとんど言及されなかったので念のため紹介しておくことにしよう。
「江戸時代初期に海外移住した日本人」に関する歴史的背景
時は徳川幕府の時代までさかのぼる。徳川幕府といえば鎖国体制の印象を持っている方もいるだろうが、幕府の初期の外交政策はキリスト教は禁止していたものの、平和的な貿易は奨励するという方針であった。
そのため、日本人の海外進出も盛んであり、ルソン・トンキン・アンナン・カンボジア・タイなどに渡航する商人も多かった。幕府は彼らに海外渡航を許可する朱印状を与え、朱印状をもらった商船は朱印船として貿易を行った(朱印船貿易)。
朱印船貿易が盛んになると、海外移住する日本人も増え、南方の各地に自治制をしいた日本町がつくられた。
その頃に海外移住した日本人の中で最も有名なのが山田長政である。
彼は1612年に朱印船でシャム(現在のタイ)へと渡航。後にアユタヤ朝(タイ)の首都アユタヤの日本町の長となり、リゴール(六昆)の太守(長官)となったが、1630年に政争で毒殺される。
山田長政は出生地や死因について諸説あり、歴史的事実として疑わなければならない部分もあるが、今回はそれがメインではないので割愛。
山田長政にはオインという名の息子がおり、長政の死後はカンボジアへ亡命。しかし、カンボジア国内における王位継承問題に巻き込まれて死亡してしまう。そしてアユタヤにあった日本町も衰退の一途を辿ったそうである。
以上、『詳説日本史 改訂版』(山川出版社)の記述も参照しながら当時の歴史的背景を振り返った。これで、海外で日本人の武者姿の亡霊が出るという原作やアニメの設定が理解出来たのではないだろうか。
アニメでは、長政の息子オインが築き上げた村で起こった悲劇が、亡霊による誘拐騒ぎの発端となる。
カンボジアの敵を東京で討つ
©水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション
今回の脚本は長谷川圭一氏。前半部は2期の展開を踏襲し、後半はオリジナルの展開にしているのは去年放送された「霊障 足跡の怪」と同じ。
人間関係と名称が2期と若干異なっている部分があるのでおさらいしておくと、2期で森本が知り合ったワランは、今期ではソリカという名で登場。また、2期でオインは自分の娘を誤って殺してしまうのだが、今期はオインに誤って殺されてしまう女性は娘ではなくオインの妹に改変されており、ワランという名がついている。この辺り、ややこしいので混同しないように注意。
2期と共通しているのは、戦乱が原因でオインが身内を誤って殺したこと、その身内の魂を見つけるために四年に一度の2月29日に亡霊たちが女性を連れ去っていたこと。それ以外は別の展開となっている。
2期では(一応伏せ字)山田長政によって国の乗っ取りを阻止され滅ぼされた子孫の霊が、長政の息子オインに逆恨みをして、オインの娘の魂を井戸に隠し、オインたちが成仏出来ないようにしていた(伏せ字ここまで)という真相が終盤で明らかとなる。戦争の絶えなかった時代における「憎悪の連鎖」が生み出した事件と言えるだろう。
そして今期は、腑に落ちない発言や行動を伏線として配置し、ミステリ形式の謎解きにすることで、「オインの遠大な復讐」を明らかにしている。
(以下、アニメのネタバレあり)
1968年2月29日、新婚旅行でカンボジアを訪れた本郷柊作とその妻沙羅。その日の夜に沙羅は亡霊に連れ去られ、オインの元に辿り着く。ここでオインは、沙羅が妹ワランの生まれ変わりだと気づくが、同時にオインは悲劇の発端がワランの恋人ケムラによる裏切り行為だと知り、更にケムラの生まれ変わりが沙羅の夫である本郷だということも知る。(この場面で沙羅が鬼太郎の方を指さすが、実際に示したのは本郷=ケムラだった)
ここでオインは思いつく。このまま成仏するのは癪だ。愛する者を失う悲しみをケムラ(=本郷)にわからせてやる。その復讐として、まず沙羅と他の女性を解放した。
そして1972年2月29日、沙羅のたっての希望通り、舞台「アンコールワットの霧の夜」が開演。沙羅は服毒自殺を遂げる。そして本郷は、今際の際に沙羅が言った「霧の夜を思い出して」を聞く。(実際には「裏切りの夜を思い出して」と言った)
それから48年後の2020年2月。末期の肺ガンで余命いくばくもない本郷は、最後にもう一度「アンコールワットの霧の夜」を開演。過去を再現することによって、妻が何故死んだのか、その真相を掴もうと足掻く。
今期のオインの復讐には二つの目的がある。一つは、愛する者を失うことの苦しみを味わわせること。そしてもう一つは、「何故愛する者が死ななければならなかったのか」という「不条理な死」に対する答えが見つからない苦しみを味わわせること。オインは52年の歳月をかけて、本郷(=ケムラ)に自分が味わった二重の苦しみを与えたのである。
日本のことわざに「江戸の敵を長崎で討つ」という言葉がある。意外な場所や筋違いなことで、以前受けた恨みの仕返しをすることを例えたことわざだが、今回の場合はさしずめ「カンボジアの敵を東京で討つ」と言うべきだろうか。
愛する妹を殺してしまった無念と恨みから、生まれ変わったケムラの魂に対して復讐を遂げるオイン。ワランだけでも助かって欲しいと密約を交わすケムラ。オインもケムラも(行動の是非は抜きにして)愛する者のためにとった行動なのだから、「当時の戦乱が悪かったのだ」と割り切り赦せれば良かったのだが、そう単純に割り切れないのが人間の性なのだよな。
©水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション
「ケムラの業」は死後の世界で清算されることなく、生まれ変わった本郷の魂に持ち越され、最後は本郷の死によって清算された。何とも気の長~い因果応報譚である。
蛇足
・今回の脚本には「歪んだ憎悪」(ほうこう)や本人に落ち度のない「呪縛」(足跡の怪)、愛する者の死に関する「因果応報」(魍魎)といった、これまで長谷川氏が担当した脚本回の諸要素が詰まっている。そういう意味で、今回の脚本は長谷川氏の集大成だったと考えて良いのかもしれない。
・終盤、沙羅(=ワラン)の魂がまなに乗り移って真実を述べた。ここに来て名無しの回や伊吹丸の回で言及された、拝み屋の家系で憑坐体質の設定が活かされたのは良かったと思う。まながこの事件に関わったことも運命のいたずらだったのかもしれない…。
次回登場するのは天邪鬼。事前情報で脚本を担当するのは伊達さんだと聞いたが、天邪鬼回は4期という名作があるからな。この原作に挑戦するのは結構ハードル高いよ。