奢侈淫佚(しゃしいんいつ)…ぜいたくにふけり、みだらな楽しみや遊興にふけるさま。
待ちに待った第二週目は「華やかな野獣」。原作本は手元になく、電子書籍もやっておらず、古書店巡りもしなかったので、今回に限っては原作未読で楽しませてもらった(物語のざっくりとした粗筋は事前にちょっとだけ調べたけど)。
(以下、原作・ドラマのネタバレあり)
「華やかな野獣」
神奈川の本牧にある臨海荘では、月に一回館の女主人高杉奈々子によって会員制のパーティーが催されていた。パーティーの参加者は広いホールで相手を見つけると、各々客室へと引き上げて情事に及ぶことが出来た。これは、違法行為や不正は許さないが、性の享楽には寛大であった奈々子が設けたルールであった。
そんな折、部屋から奈々子がなかなか出てこないことを不審に思った太田寅蔵(奈々子の父の元水先案内人)・葛城京子(奈々子の父の妾)が部屋を見に行くと、そこには殺された奈々子の死体があった…というのが物語の始まり。
とある目的でボーイとして潜入していた金田一が登場することと、死体と死体現場に残された様々な痕跡を辿って「情痴の犯罪」と思しき殺人事件の謎を解くのが本作の見所。
男装の麗人たちによる殺人喜劇
今回の演出は佐藤佐吉氏によるもの。前シーズンでは「殺人鬼」を、江戸川乱歩短編集では「心理試験」「何者」「お勢登場」を担当している。
これまでの映像作品を見ていて、佐藤氏の演出は人のいやらしさというか露悪的な面をビジュアル化するのが巧いなと思っていたが、今回の「華やかな野獣」においてもそういう人間の一面を描きながらも、ある時はコミカル、またある時は洒脱に、所によっては卑俗な味付けを以て謎解きミステリ以上の映像効果をあげている。
昭和歌謡を随所に流す演出は従来と同じだが、今回特に私が気になった演出は以下の通り。
②パーティーにおける参加者の鼻マスク。
③リピートされる言葉。
④踊る金田一と謎解きのMV的演出。
⑤情交の演出及び性的オブジェクトとしての風船。
①については物語の演出でいくらかはカモフラージュ出来るものの、男性を起用するとどうしても性的な描写がドギツくなってしまう可能性があったため、金田一以外の登場人物を全て女性にしたと思われる。流石に「女性からみた男性のいやらしさを表現するため」などという高尚な試みはなされていない…はず。
②は大体の人ならわかると思うが、性的営みは動物全てが行なうものであり、性的享楽にふけるパーティーは動物たちの交尾も同然という一種の皮肉なのだろう。パーティー会場の一幕はちょっぴり「時計じかけのオレンジ」っぽさも感じた。
そして③について。個人的にこの演出はどう解釈したら良いのか悩む。単に尺稼ぎなのか、重要な部分だから強調の意味も込めてリピートを繰り返しているのか。あ、でも神尾警部補がダイイングメッセージの「トラ」の意味に気づく場面。あそこの金田一は可愛かったな。萌えポイントだよ。
④は本作最大の評価ポイント。俗的な犯行に至るまでの犯人の描写が軽妙洒脱なMVとして描かれている。人によって好みが分かれるかもしれないが、麻薬密輸の秘密を暴こうとする者が自分の間近で性への快楽に耽っていることに対する犯人の焦燥や怒りが殺人喜劇として描かれているのが面白いのだ。
「こちとら麻薬密輸の秘密がバレるかもしれないってのにあいつらは楽しくS〇Xなんかしやがって…!!」というデスパレートさは本来見るに堪えないもの。そういう醜悪さもMVにしてしまえば鑑賞に堪えうるものになるのだというのが、今回の収穫。
⑤は犯人が聞いた奈々子と白いセーターの男との情交場面のこと。過去に「百日紅の下にて」で食事風景のバックで乱舞する布団という独特の情交描写があったが、今回は歌の応酬によってそれが為されているのがポイント。猛々しい軍歌と喜びの歌、そしてアンミカさんの「モウレツにやっとるねぇ~」が強烈で、「百日紅の下にて」と比べると直接的で下品に思える所はあるが、これはこれで屈指の名場面だと思う。
謎解きに関しては最早言うまでもない。鮮やかな消去法による犯人当てになっているし、臨海荘の立地条件が犯人特定のロジックにつながっているのも面白かった。
※今回のテーマ曲「ひと夏の経験」、物語の始まりとして印象に残る曲なので紹介。他にもタイガーマスクのテーマとか「あざみの如く棘あれば」「涙のtake a chance」など耳に残る曲があるが、それは各自ググるなり近くの年配の紳士淑女に聞くなりして調べてみてね。
…と思ったら佐藤氏本人がドラマで使用した曲のタイトルを公開してくれたよ!!
『#華やかな野獣』で最も多く寄せられた質問がドラマの中で使われていた曲のタイトルを教えてほしいということでしたので全曲紹介させていただきます。長谷川きよしの『別れのサンバ』は特にオススメ😉#池松壮亮#金田一耕助#横溝正史 pic.twitter.com/bKWHFQVuvn
— 佐藤佐吉 Sakichi Sato (@sakichisato) 2020年1月26日
(2020.01.26追記)
今回もヤバかったが、問題は来週なんだよな。#華やかな野獣#横溝正史短編集
— タリホー@サラリーマン山田 (@sshorii10281) 2020年1月25日
さて、来週はいよいよ問題作「犬神家の一族」。最早短編でもない長編作を30分間でどう描くのか?前代未聞の試みは歴史的快挙となるか、はたまた歴史的愚挙となるか?