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前代未聞の30分で「犬神家の一族」チャレンジ!?(シリーズ「横溝正史短編集Ⅱ」)

金田一耕助ファイル5 犬神家の一族 (角川文庫)

第三週目は過去最大の問題作、約30分で長編犬神家の一族を描く前代未聞の試み。これを正しく評価するには、まず原作の要点を振り返るしかないよね。

 

(以下、原作・ドラマのネタバレあり)

 

犬神家の一族』、各章のおさらい

原作は発端から大団円まで計38章から成る。

 

1・発端

犬神佐兵衛の生い立ち。佐兵衛の臨終。

2・絶世の美人

金田一那須に到着。珠世を目撃。

3・寝室の蝮

珠世のボートに穴。過去二度にわたる奇禍。若林死亡

4・古舘弁護士

古舘登場。遺言状が誰かに読まれた形跡あり。

5・佐清帰る

佐清の復員。珠世に対する疑惑。

6・斧・琴・菊

金田一、犬神邸に赴き遺言状公開の席に坐す。仮面の佐清

7・血を吹く遺言状

遺言状の読み上げ、珠世との結婚に関する相続条件。青沼静馬の存在。

8・犬神系図

犬神家の家系について。静馬の経歴。

9・疑問の猿蔵

猿蔵の生い立ちについて。

10・奉納手型

奉納手型による指紋照合の提案。

11・凶報至る

松子、手型比べを拒絶。

12・菊畑

佐武の死体(頭部)発見

13・菊花のブローチ

犯行現場(展望台)の検証。珠世のブローチを発見。

14・指紋のある時計

珠世、前夜佐武と会ったことを告白。佐武の乱暴。

15・捨て小舟

佐清の手型比べ。死体を運んだボートの発見。柏屋の証言。

16・疑問のX

復員兵Xの存在。珠世と猿蔵に対する疑惑。

17・琴の師匠

香琴師匠の登場。松子夫人に尋問。

18・珠世沈黙す

佐武の死体(胴体)発見。珠世の「手型比べ」の教唆。佐清の指紋一致。何かを言おうとする珠世。

19・唐櫃の中

佐兵衛翁の秘密(衆道の契り)。

20・柘榴

佐武の通夜。復員兵X、珠世の寝室に潜伏。佐清、襲撃される。

21・佐智爪を磨ぐ

復員兵X、消息不明になる。佐智、珠世を昏睡させる。

22・影の人

佐智、豊畑村の空き屋敷へ珠世を運ぶ。佐智、「影の人」の襲撃に遭う。猿蔵に電話。

23・琴の糸

珠世、犬神邸に戻る。猿蔵、珠世発見の経緯を語る。佐智の死体発見

24・傷ましき小夜子

佐智の死体検分。復員兵Xの痕跡。小夜子の発狂。

25・人差指の血

梅子の松子に対する怒り。琴糸の心当たり。松子、指にケガ。香琴の一言と松子の視線。

26・噫無残!

犬神三姉妹の過去(菊乃への襲撃、斧・琴・菊の呪い)。

27・珠世の素姓

静馬の消息。消えた佐智のボタン。大山神主の暴露。

28・奇怪な判じ物

事件の整理。佐兵衛翁の秘密。佐清の死体発見

29・血染めのボタン

珠世、佐清の死体の指紋照合を依頼。佐智のボタンが発見される。判じ物の意味が判明。

30・運命の母子

香琴=青沼菊乃だと判明。

31・三つの手型

佐清と静馬の相似。菊乃の証言(松子の嘘)。佐清の死体と奉納手型の指紋不一致。

32・雪の雪ヶ峰

本物の佐清、珠世を襲撃。佐清、雪ヶ峰へ逃走するが逮捕される。

33・わが告白

佐清の告白書。金田一佐清に尋問。

34・静馬と佐清

金田一、真犯人を松子と指摘。松子、認める。金田一、事件の経緯を語る。

35・恐ろしき偶然

金田一の事件経緯の解説と佐清の告白(佐武殺しまで)。

36・悲しき放浪者

佐智殺しに至る真相の告白。

37・静馬のジレンマ

松子、一連の殺人に関する告白。静馬のジレンマ。

38・大団円

松子、一族に後事を託し自殺

 

超高速!犬神家

今回は30分という制約があったため、舞台は犬神家の広間を中心に展開。過去回想以外は全て広間で進む一幕ものとして描かれている。そのため、犬神家の一族以外の関係者は広間に来て話をするという、一種の出前形式になっているのが面白い所の一つ。

 

そして、肝心な物語の展開は以下の通り。()内は上記の章ナンバー。

若林死亡(3)

→佐兵衛の臨終(1)

→仮面の佐清(6)

→遺言状の読み上げ、珠世との結婚に関する相続条件。青沼静馬の存在(7)

→犬神家の家系について。静馬の経歴(8)

→猿蔵の生い立ちについて(9)

→奉納手型による指紋照合の提案(10)

→松子、手型比べを拒絶(11)

佐武の死体(頭部)発見(12)

佐清の手型比べ。柏屋の証言(15)

佐清の指紋一致。何かを言おうとする珠世(18)

→佐智、珠世を昏睡させる(21)

→猿蔵に電話(22)

→猿蔵、珠世発見の経緯を語る。佐智の死体発見(23)

→梅子の松子に対する怒り。琴糸の心当たり(25)

→犬神三姉妹の過去(菊乃への襲撃、斧・琴・菊の呪い)(26)

→大山神主の暴露(27)

佐清の死体発見(28)

判じ物の意味が判明(29)

佐清の死体と奉納手型の指紋不一致(31

→本物の佐清、珠世を襲撃(32)

佐清の告白書(33)

金田一、真犯人を松子と指摘。松子、認める。金田一、事件の経緯を語る(34)

金田一の事件経緯の解説と佐清の告白(佐武殺しまで)(35)

→佐智殺しに至る真相の告白(36)

→松子、一連の殺人に関する告白。静馬のジレンマ(37)

松子、一族に後事を託し自殺(38)

 こうやって整理してみると、序盤(1~5章)こそ思い切った省略や順番の入れ替えをしているものの、それ以降は各章のキーポイントを押さえて映像化しており、確かに原作に忠実だったなと思う

懐中時計やブローチ、佐智のボタンといった小物は謎解きの手がかりとして登場するが、今回は謎解きに特化していないため、省略したのは妥当と言えるだろう。ただ、よく見たら佐智死亡後、小夜子が指先でボタンらしきものをいじっていた描写があったので完全に小物となる手がかりを省略した訳ではなさそうだ。

 

個人的に感心したのは今までの映像化作品で省略されていた「斧・琴・菊自体に価値はない」点や、大山神主の暴露による静馬のジレンマが省略されずに描かれたこと。また、開幕時に若林が遺言状を握りながら死亡していたが、これが後に明かされる「松子夫人が若林を買収して遺言状の写しをとらせていた」という事実の伏線になっているのも巧い演出と言えるだろう。

 

神話となった「犬神家の一族

今回の演出は渋江修平氏。前シーズンでは「百日紅の下にて」、江戸川乱歩短編集では「屋根裏の散歩者」「人間椅子」「人でなしの恋」を担当している。色彩の鮮やかさと独特な演出技法によって、強烈なビジュアルを視聴者の脳裏に焼き付けさせる方だが、今回もその技量を遺憾なく発揮していたと思う。

(何気に調べてみたら、過去にKing & PrinceのMVも担当されていた方で驚いた!)

 

犬神家の一族』を象徴する「湖に逆立ちした足」をタライの中に表現したり、大山神主に阿部祐二リポーターを起用したり、佐清野々村議員並みの心情吐露をさせたりと、一つ一つは突拍子がなく荒唐無稽に見える演出を一つの作品としてまとめ上げたのも凄いが、これによって旧来の映像化における「地方財閥の一族内で起こった連続殺人」という一種の俗っぽさを霧散させ、神話の域に昇華させたのは一つの偉業と言って良いのではないだろうか。

 恐らく神話として演出する目的はなかったのかもしれないが、30分という制約によって原作における「財閥」「復員」要素が薄まり、結果的に「忠誠心」「親子愛」といった普遍的な部分が前面に出ることになって神話の域に昇華されたと考えるべきだろう。

 

先々週の「貸しボート十三号」もそうだったが、横溝ミステリは時代性を排除しても何ら遜色のない普遍性を備えている。だからこそ、今日まで読み継がれ何度も映像化されてきたのだ、ということを改めて実感出来たような気がする。