タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

炎天でも涼やかな間宮さんがいた、「ハムラアキラ~世界で最も不運な探偵~」2話

炎天下で非番でもピッシリとスーツでキメてくる警視…まさか身体に冷えピタでも貼っているのか…!?

 

(以下、ドラマのネタバレあり)

 

「静かな炎天」

 2話は原作「静かな炎天」のドラマ化。以前テレビ朝日系のバラエティ番組「アメトーーク!」の読書芸人において、メイプル超合金カズレーザーさんが本作を紹介したとのこと。また本作は別冊宝島で発行されているブック・ランキングこのミステリーがすごい!」(略称「このミス」)の2017年度国内編で2位にランクインしている。

 

ただ、私は「このミス」よりも探偵小説研究会編著の本格ミステリ・ベスト10」の方を支持しているので、本作はドラマ化されるまで耳にしたことがなかった(ちなみに「本格ミステリ・ベスト10」2017年度国内編では、本作は18位)。

個人的に「このミス」はライトなミステリオタク向けのブック・ランキングという偏見があり、ロジックや凝りに凝ったトリックを求めるミステリオタクとしては、「本格ミステリ・ベスト10」の方が信用出来るのだ。

だから本作「静かな炎天」はガチガチのミステリオタクには物足りないかもしれないが、「ミステリ小説に挑戦しようかしら?」「複雑なトリックは理解するのが難しくて読んでも面白くないし、ライトなのが良い」と思っている方にはオススメ出来る作品と言えるだろう。私も一度原作本を手に取ってざっと目を通したけど、この作品はミステリ初心者ならず読書ビギナーを読書の沼に引きずり込む牽引力がある(つまり、他作品も読みたくなる)と感じたし、あのカズレーザーさんがオススメするのも頷ける、“間口の広い”ミステリ小説なのだ。

 

それはさておき、本作は一見すると何てことのない事象の数々が一つの犯罪計画に繋がっていた…というタイプのミステリ。こういうタイプのミステリを今パッと思い出せと言われたら、私はドイルの赤毛連盟」とか、クリスティの「料理人の失踪」を思い出す。長編でこういった作品をあまり見かけないのは「何てことのない事象」が延々と続くと読者がダレてくることが筆者もわかっているからだろう。まぁ単に思い出せないか出会っていないだけで、実際はそういうタイプの名作長編もゴロゴロあるのかもしれないが…。

本作の場合は「立て続けに舞い込む探偵依頼」が「何てことのない事象」として物語を動かしていく。読者にとっては「何てことのない事象」だが、主人公で不運気質の葉村にとっては「何てことのある事象」であり、それが町内会長である糸永への疑惑へと向かっていくのが本作の面白い所だ。

 

前回は不運な人生から逃れようと別の人生を乗っ取ろうとした女の心情が印象に残ったが、今回は老害の母」という不運から逃れようとしたが、葉村という「筋金入りの不運」によってそれが潰されていき懊悩する糸永の姿が印象に残った。

糸永側から見れば今回の状況はかなり洒落にならない上に気の休まらない話であり、物語の演出・構成によってはかなーり嫌な気分にさせられることになったのだろうが、そんな後味の悪い感覚が残らなかったのは、葉村の存在が大きい。それは単に葉村が周りの人々に振り回されることによって生ずる喜劇的な空気だけではなく、彼女自身の優しさも影響していると思う。

 

言うまでもなく、探偵というのは犯人にとって敵である。しかし見方を変えれば、犯人が何を考えどう行動したのか、それを理解しようと奔走しているのだから、ある意味犯人を最も理解しようと努める者でもあり、味方でもあるのだ。

葉村が岡田警視と議論した糸永の犯罪計画が「仮定の話」として流されたのは、彼女が糸永の「最大の理解者」として彼の心情を斟酌したからであり、そこに葉村の人としての優しさが垣間見える。

 

岡田警視の存在について

ところで、終盤に登場した岡田警視、今回の物語においては正直な所「いなくても問題ない人物」なのだ。彼がいなくとも葉村の独白という形で真相を視聴者に明らかにする演出も出来たはずなのにそれをしなかった。ならば彼の存在理由は何だろうか?

自分なりに考えたが、今回の岡田警視は「この物語を“ミステリ”として着地させるためのマレビト的存在として登場したのではないだろうか?

まれびと - Wikipedia

 

もし岡田警視が登場しなかったら、葉村は今回の一連の出来事を「糸永の気まぐれの好意」として処理し、「最大の理解者」として彼の計画を胸底深くにしまいこんで何も語らず日常に戻っただろう。しかし、この物語は探偵物語であり、舞台の中心はミステリ専門書店。そんな結末、視聴者の大半は許さないだろう。

だから、この一連の出来事を「事件」として彼女に語らせ、合理的説明を為させるために岡田警視が登場したのではないかと思っている。本当はもっと現実的な目的があって葉村に接触しているのかもしれないが、物語の構造として彼の立ち位置を考えるとそうなってしまう。炎天にもかかわらず彼が汗もかかずにスーツでキメているのも、彼がマレビトとして存在することを示しているような気さえしてくる。

 

ドラマオリジナルキャラクターである彼の存在については後々もっと必然的な理由が明らかになるのかもしれないが、現段階で掴める彼の一端はこれ位。間宮さんのファンでなくても是非注目してもらいたい。

 

書籍紹介

さて、今回もミステリにそれほど詳しくない方を少しでもミステリの沼に引きずり込んでやろうという思いで紹介していく。

ただ、今回はミステリだけでなく怪奇小説も入っているのだがね。

 

アガサ・クリスティーカリブ海の秘密』

カリブ海の秘密 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 書店の階段横にある「サマーホリデーミステリフェア」に置かれていたのがこちら。前回も紹介した「ミス・マープル」シリーズの一つで、マープルが逗留していたカリブ海のホテルで起こった連続殺人の謎を解く物語。老人をカッコ良く描いた快作としてオススメ出来る。

 

エドガー・アラン・ポー「黒猫」

黒猫/モルグ街の殺人 (光文社古典新訳文庫)

 書店のイベント「真夏のホラーナイト」の黒板に貼られたポスター「THE BLACK CAT。これこそ、かのミステリ小説の始祖とも呼ばれるエドガー・アラン・ポーが著した怪奇短編小説「黒猫」の原題だ。物語は日本の怪談「累(かさね)」を彷彿とさせる因果応報譚で、猫を殺したことが切っ掛けで絞首刑に陥る男の恐怖が描かれている。書店に行かずとも青空文庫で読める作品なので是非どうぞ。

www.aozora.gr.jp

 

〇ウィリアム・フライヤー・ハーヴィー「炎天」

怪奇小説傑作集 1 英米編 1 [新版] (創元推理文庫)

 「黒猫」と同じく「真夏のホラーナイト」のイベントで紹介されていた怪奇短編小説。今回の劇中でも引用された「この炎天下じゃ人間だってたいがい変になる」という最後の一文が印象に残る。今回のドラマは二者の不運によって生じたミステリ」と表現出来るが、この「炎天」は二者の奇妙な偶然によって生じたホラー」と表現すれば良いだろうか。その二者をつなげて恐怖へと落とし込むのが、物語に漂ううだるような暑さなのだ。

ちなみに、「炎天」は私が敬愛する水木しげる先生によって「むし暑い日」というタイトルでコミカライズされていた。今回ドラマ化されてなかったら気づかずスルーするところだったわ。

怪物マチコミ 他 (水木しげる漫画大全集)

 

有栖川有栖『双頭の悪魔』

双頭の悪魔 (創元推理文庫)

 夏のミステリとして最後にこの一冊を紹介。「学生アリス」シリーズの一作であり代表作として有名。大雨によって分断された二つの村、その二つの村で起こった事件の謎解きをする物語だが、読者も犯人が当てられるよう作中に手がかりが散りばめられており、“読者への挑戦”が三度も挿入されたボリューミーなミステリ小説。

実は、劇中でとある人物が所持していたのがこの『双頭の悪魔』なのだが、お気づきになられただろうか?気づいた方は通である。所持していたのは上の文庫版ではなくて単行本の方なので、以下の画像をヒントに誰がどの場面で所持していたのか探してみては如何?

双頭の悪魔 (黄金の13)