タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

【ゲゲゲの鬼太郎】6期第3話「たんたん坊の妖怪城」視聴【私の愛した歴代ゲゲゲ】

タリホーです。今月6日から放送している「ゲゲゲの鬼太郎 私の愛した歴代ゲゲゲ」はもう見てますよね?

 

前にも言ったように私は基本日曜日は仕事があるのでリアタイはかなわず、昼休み休憩の時に他の方の反応を Twitter で見て、帰宅してから録画を見るという楽しみ方をしている。

先週と先々週のエピソードは既に当ブログでレビュー済みなのでレビューはしなかったが、今回6期で鬼太郎の声を担当した沢城みゆきさん選出の「たんたん坊の妖怪城」はまだ当ブログでレビューしていないので、今回はこのエピソードについて歴代の「妖怪城」と比較しつつ語っていこうと思う。

 

 

(これまで放送されたエピソードのレビューはこちら)

・Ado さんセレクト、5期第4話「男! 一反もめん

tariho10281.hatenablog.com

 

野沢雅子さんセレクト、1期第1話「おばけナイター」

tariho10281.hatenablog.com

 

「妖怪城」(たんたん坊・かまいたち・二口女)

原作の「妖怪城」は昭和41年(1966年)の10月9日・16日に「週刊少年マガジン」に前後編として連載されたエピソード。四国のとある山村に妖怪から子供を生贄として差し出すことを要求した手紙が届き、鬼太郎がその妖怪を退治するべく四国山中にそびえ立つ妖怪城へと向かうというお話だ。

このエピソードは2期以外の全ての期で放送されている定番のエピソードで、各期によって内容もかなり異なっているのだが、まず先に妖怪城の三体の妖怪、たんたん坊・かまいたち・二口女について解説しておこう。

 

たんたん坊は巨大な頭だけの妖怪で、口から吐き出される痰はターゲットをどこまでも追尾し、身体に付着すると口や鼻、毛穴といった穴を塞ぎニカワのように固まってしまうので相手は窒息死する。またその巨体を活かした踏みつぶし攻撃や眼光といった技で鬼太郎を苦しめている。

この妖怪は水木先生のオリジナル妖怪で、ビジュアルは江戸時代に描かれた『絵本小夜時雨』の狸の化けもの(大かむろ)をモデルにしていると思われる。※1

 

ja.wikipedia.org

かまいたち鎌鼬鳥山石燕の『画図百鬼夜行』などに描かれている妖怪で、つむじ風と共に現れ人の腕や足を切りつける。しかし切られても特に痛みはなく出血もないそうだ。

この現象は明治期に科学的な解釈が為され、旋風の中心が真空状態になってそこに人間の皮膚が触れると裂けて傷になると考えられたようだが、この説は現在ではほぼ否定されており、風によって巻き上げられた小石や小枝、木の葉が肌を傷つけたという説が妥当だとされている。

 

原作のかまいたちは口から突風を起こしたり、反対に吸い込みで相手を引き寄せ捕らえるといった技を見せているが、アニメでは手の鎌で切りつけ攻撃を行ったり、高速移動で柱や竹をぶった斬るといった能力があったりと、各期によって攻撃方法や技に微妙な差異がある。3期では後に鬼太郎の仲間として登場し、5期ではぬらりひょんファミリーの一員となって鬼太郎たちと敵対することになる。

 

ja.wikipedia.org

二口女は江戸時代の奇談集『絵本百物語』に記された妖怪で、下総国(現在の千葉県)にいた女性が子供に食事を与えず餓死させてしまい、後に後頭部に負った怪我が口となって食べ物を要求したことから、死んだ子供の霊が女性に憑依し妖怪化したものという風に描かれている。

この逸話の他にも日本の昔話では「喰わず女房」というお話があり、ケチの男が飯を食べないと称する女性と結婚したら、その女性は後頭部から大量の飯を食べる妖怪で危うくその男も妖怪に喰われそうになった、というお話がある。これはアニメ「まんが日本昔話」で放送されたこともあるし、子供向けの絵本にも載っている昔話だから聞いたことがある人も多いだろう。

 

原作やアニメにおける二口女は髪の毛が二匹の蛇になっており、それを伸ばして相手を捕らえ、そのまま後頭部の口で食べるという戦術をとっている。原作によると髪の毛は100メートルは余裕で伸びてどこまでも相手を追跡していたし、3期では髪の毛でパトカーを持ち上げて破壊していたから、髪の毛とはいえ伸縮自在で馬力も相当あるので意外と油断ならない。

 

そして三体の妖怪の根城となった妖怪城も各期で独自の脚色が為されているが、特にそれが顕著なのが4期と5期で、4期では夜の間だけたんたん坊たちは無敵状態であり、城に13人の生贄を捧げればこの世から昼が消え永遠に夜の世界となるという設定が追加された。5期は妖怪城そのものが巨大な生命体という設定になっており、城の周囲の四つの塔にそれぞれ地・水・火・風の属性を持った龍がいて城を守るというよりオリジナリティの強い設定が足されている。言ってみれば5期の妖怪城は戦隊ヒーローものにおける巨大メカみたいなものだと捉えて良いだろう。

 

ちなみに、妖怪城の縦に細長ーい独特の建築スタイルには一応モデルがあって、西洋画家のヴィクトル・ユーゴーが描いた「エディストン灯台を参考にしている。この絵を水木先生は気に入っていたのか、「妖怪城」以外にも「死神大戦記」や「新ゲゲゲの鬼太郎 スポーツ狂時代」といった作品で同様の建築が登場する。※2

 

※1:大かむろ - Wikipedia

※2:エディストン灯台 / 水木しげる元ねたコレクション

 

歴代「妖怪城」の集大成

今回再放送された6期の妖怪城のエピソードは歴代の妖怪城のエピソード、特に3期と4期の要素を取り入れつつ、放送当時の時事ネタも交えて原作を再構築しているというのが評価すべきポイントだ。

 

3期の妖怪城はYouTubeで無料配信されている※3のでそれを見てもらえれば私の言いたいことがわかってもらえると思うが、原作は四国山中の人が立ち寄らない深い山奥に妖怪城があったのに対し、3期は都会のど真ん中に突如として妖怪城がそびえ立ち、地上の覇者として思いあがった人間たちに叛意を示している。3期はバブル景気の真っただ中だった頃で、そんな人が浮かれまくっていた時代に警鐘を鳴らすかの如く妖怪が出現するという物語を初回に提示したことから見ても、3期が放送された頃の日本は闇に対する恐怖というものが人々の心から失われつつあった時代と言えるし、豊かさで有頂天になっている裏で虐げられ理不尽な目に遭っている存在がいることを妖怪という枠を通して描いたと深読みすることも出来るだろう。この3期におけるたんたん坊の主張は6期のたんたん坊に受け継がれ、6期のたんたん坊も同様の理由から人間を排除しようと暗躍する。

 

そして4期は前述したように夜間は無敵であり、13人の子供を生贄にして完全な夜の世界を作り出そうとしていたという設定が今回の6期では13人の子供を城の人柱にすることで無敵になるという形でアレンジされているのが興味深いポイントだ。日本各地の城には築城の際に若い娘や僧侶を人柱として埋めたという伝説が残されており、恐らく6期の13人の人柱も日本各地の人柱伝説を基にしたアイデアだろう。※4

 

このように6期の妖怪城は過去のエピソードや歴史的な伝説を反映させて新たなエピソードに作り替えているのが見事だと思うし、ちょうどこの回が放送されていた2018年は東京オリンピック開催に向けて競技場の設営が行われていた時期であり、この時事ネタを活かして四国の山奥に封印されていた妖怪城が都会に出現するという流れを合理的に説明しているのも素晴らしい。

 

※3:【公式】ゲゲゲの鬼太郎(第3期) 第1話「謎の妖怪城出現!!」- YouTube

※4:お城をつくる時「人柱」として人が捧げられたって本当?どんな人柱伝説が?ー超入門!お城セミナー

 

さいごに

ということで今回の感想は以上の通りだが、沢城さんのことだからてっきり6期の1話をセレクトするだろうと思っていたら3話のこのエピソードを選出して来て意外に思った人もいただろう。でも私としては沢城さんがこの回を選んだのは別に意外ではなかったかな。

 

というのも、6期で(ねずみ男を除く)鬼太郎ファミリーが総出で登場し敵を退治したのはこの妖怪城の回が初で、1話は砂かけや子泣きといったメンバーは登場せず、2話は鬼太郎ファミリーは登場したものの、戦闘に駆け付けることはなかった。それに加えて6期のレギュラーメンバーである犬山まなが鬼太郎と正式に友達になったのも実はこの回からで、それ以前の1・2話の段階ではまだ知り合い程度の間柄だったから、その点も含めて考えれば沢城さんが1・2話ではなく3話をチョイスしたのも至極妥当と言えるだろう。

3~5期までは初回で鬼太郎ファミリーを登場させ、ファミリー総出で敵を倒すというのが定番のプロットになっていたのに対し、6期は名無しというアニメオリジナルの敵を縦軸に据えたこともあってか、初回からイレギュラーな脚本の構成になっており、6期の1話を単発で出すというのは1話のあの終盤の終わり方から考えても今回の再放送にはあまり相応しくないので、その点から見てもこの3話が相応しかったのは間違いない。

 

それから、この回の脚本を担当したのは映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」の脚本を担当した吉野弘幸氏であるというのも見逃せないポイントだ。今回の終盤、目玉おやじは鬼太郎に妖怪と人間がお互い同じ世界で生きていくのに一番大事なことを説く場面があったけど、「ゲ謎」を見た後だとあの時の目玉おやじはきっと水木のことを思い浮かべながらあのようなことを言ったのだろうな~とより一層感慨深い気持ちになったし、哭倉村の墓場で釣瓶火の明かりの下で水木と酒を酌み交わしたあの体験が、相手を尊重し立場や事情を理解する姿勢が大事であるという今回の言葉につながったのだなと思えるのだ。だから、今回の「たんたん坊の妖怪城」は「ゲ謎」から鬼太郎を知った方にも是非とも見てもらいたいエピソードとして私からもおススメしておこう。

 

さて、次回は朝ドラ「ゲゲゲの女房」で水木先生の妻の武良布枝さんを演じた松下奈緒さん選出のエピソードが放送される。このエピソードは6期の時に少し言及した記憶があるのだが、ガッツリとレビューした訳ではないので次回はこのエピソードをレビューすることとしよう。一応先に言っておくと、やや批判的な物言いが含まれるレビューになると思うのでそのつもりで。