タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

※原作はもっと笑える短編です【小市民シリーズ #5】

ベルリーナーってどこかで聞いたことがあるなと思ったら「あつまれどうぶつの森」で海外の年越しアイテムとしてたぬきショッピングで売られてたわ。

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(ということで、ハッピーホームパラダイスで再現してみた)

 

(以下、原作を含むアニメ本編のネタバレあり)

 

「伯林あげぱんの謎」

今回はシリーズ四作目の短編集『巴里マカロンの謎』に収録されている「伯林あげぱんの謎」が映像化された。『巴里マカロンの謎』は時系列でいうと『春期限定いちごタルト事件』と『夏期限定トロピカルパフェ事件』の間に位置する期間、具体的には高校一年生の二学期から翌年の年始にかけて小鳩と小佐内が突き当たった事件が4編収録されており、「伯林あげぱんの謎」は12月頃に起こった事件である。しかしアニメでは小鳩らが二年生になった時に起こった事件として改変されており、原作で登場した新聞部のメンバーも杉幸子が五日市という男子生徒に、飯田が瓜野に変更されている。

 

実は五日市と瓜野はシリーズ三作目の長編秋期限定栗きんとん事件(上/下)に登場する男子生徒で、特に瓜野は「秋期」で大きな活躍をする人物なので、まさか今回このような形で登場するとは思わなかった。原作を改変してまで登場させたということは、やはりアニメのスタッフは続編を制作する予定があると考えるべきだろうか?いずれにせよ続編を期待したい所だ。

 

思わぬ一撃

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©米澤穂信東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

今回はマスタード入りが仕込まれたベルリーナー・プファンクーヘンを新聞部員が食べたのに、誰も当たりのマスタード入りを食べなかった」という謎が提示される。普通に考えれば当たりを引いた部員の一人が嘘をついていると考えられるので今回はミステリ小説でいう所のフーダニットをお題とした短編かと思いきや、調査していくとどうもそんな単純な事件ではないことに小鳩は頭を悩ませる。

事件の真相自体は「おいしいココアの作り方」と同様実にシンプルだし、勘の良い人なら途中でオチがどうなるか気づいただろう。意外性には欠けるかもしれないが、推理によって一つ一つ可能性を潰していく過程は安定の出来栄えという感じだ。アニメではその推理の一部が省略されていたがほぼ原作通りの道筋を辿って小鳩は結論を導き出している。

 

もう既にアニメ本編を見た方はわかっているはずだが、このエピソードは何と言っても「笑えるオチ」が印象に残る短編で、原作を読んだ時も"犯人"が味わった予想だにしない一撃を想像して思わず笑ってしまった。

で、今回のアニメ化に際して改めて原作を読むと本作はそんなオチだけが笑える短編ではなく、物語の始まりから終わりまで笑える要素が随所に仕掛けられた、非常にユーモアに富んだ短編だったと再評価している。

 

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©米澤穂信東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

本シリーズは(一部例外はあれど)小鳩常悟朗の一人称視点で語られる物語であり、原作では彼の心情が細かく描写されている。アニメは映像作品のためどうしても小鳩の心情が描けない所が多く、そこが少々勿体ないマイナスポイントであり今回も原作で思わず私が笑ってしまったポイントがカットされている。なので原作未読の方は是非とも今回のエピソードを読んでもらいたいのだが、原作の面白さを伝えるためにここで若干のネタバレをご容赦願いたい。

 

アニメで健吾が述べていた通り、今回起きた謎の解明を彼が小鳩に依頼したのは、部員同士のいがみ合いが激化することを懸念してのものだった。水面下で対立していた真木島と門地の二人のいがみ合いが勃発してしまったら、新聞部は空中分解してしまう。そんな健吾の懸念は現実となり真木島と門地が口論を始めるのだが、その時小鳩は原作でこのように自分の思いを吐露している。

……まあ実を言えば、新聞部がどうなろうと、ぼくはあんまり興味がないんだけどね!

ひどい!(笑)

仮にも小市民を目指しているというのに、「う~わ参ったな…」ではなく「別に新聞部が潰れようがどうなろうが、ぼくには知ったこっちゃないね!」って思う辺り、まだまだ小鳩は精進が足らないというか何というか。この清々しいまでのぶっちゃけ具合に思わず声を出して笑ってしまったよ。こんな感じで原作では小鳩が内心で思っていることが包み隠さず・漏らさず書かれているので、原作未読の方は是非とも読んでもらいたい。

 

さいごに

ということで短いが今回の感想は以上となる。初回から4話にかけてアニメは独特な演出、具体的に言うと脳内のイメージを実際の景色を背景にして映像化するという手法をとっていたが、今回は特にそういう演出がなかったため、割と見やすい回になっていたのではないだろうか。あと新聞部がアンケートを提出しに来た生徒のために用意したお菓子が市販の渋いチョイスの品々だったことが今回のオチを補強する手がかりになっていたのも、地味ながら改変としてナイスだったと指摘しておきたい。

 

それにしても、小佐内さんって「春期」の時もそうだったけど、彼女自身の悪癖を抑圧してどうにかなるとは思えないレベルで事件や不幸事に巻き込まれやすい体質だなと改めて思ったし、そこが小鳩と違って自分の努力でどうにかならないのが不憫であると同時に可愛らしいというか、視聴者の同情を誘う面があると思った。まぁこの「巻き込まれ体質」というのはミステリ作品では定番のあるあるネタで、探偵が行く先々で事件が起こるのは作者によって定められた運命なのである。

小佐内の場合は別に小鳩のように探偵的な資質はないので、「解決」よりも「復讐」という方向に意欲が向くのが彼女の特徴的な部分なのだが、ミステリ作品で小佐内と同様の巻き込まれ体質を持っている女性を例に挙げると、『屍人荘の殺人』で登場した剣崎比留子や、4年前にNHKで「ハムラアキラ」というタイトルでドラマ化した葉村晶が特にその資質を持っている。本人は望んでいないのに事件やトラブルに巻き込まれるというのが小佐内を含む三人に共通する要素であり、この三人なら案外馬が合うのではないかとついつい想像してしまうのだ。

 

さて、次回からは『夏期限定トロピカルパフェ事件』に突入。ずいぶん前に読んだ原作なので内容をほとんど覚えていないのだが、読書メーターに記録しておいた私の感想を読み返すと結構高く評価していたので、少なくとも「春期」よりも面白いミステリであることは間違いないと思う。また改めて原作を読み直して感想・解説を書いていくので引き続きよろしく。