タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

「半」の向こう側へ【小市民シリーズ #7】

まさかタンメンで挿入歌を一曲作るなんてね。

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歌詞に長良川って入ってるし、岐阜のタンメン屋さんのテーマソングで決まりですよ。

(小市民シリーズの川と言えば伊奈波川だけど、流石にそれだと演歌としてローカル過ぎるか)

 

(以下、原作を含むアニメ本編のネタバレあり)

 

「シェイク・ハーフ」

7話は原作の第二章「シェイク・ハーフ」から第四章「おいで、キャンディーをあげる」の序盤まで。物語としては丁度折り返し地点を超えた所で次回から物語の後半にして「春期」以上の大事件へと発展していくが、まずは今回のお話を振り返ることにしよう。

 

小佐内のスイーツ巡りの付き添いをしていた小鳩は今日も彼女から呼び出しを喰らい、ランキング7位の「フローズンすいかヨーグルト」が売られている〈ベリーベリー三夜通り店〉へ向かう。先に着いた小鳩は腹ごしらえに近くのバーガーショップでバーガーを食べていると、そこで友人の堂島健吾と出くわす。健吾は知り合いからの頼みで薬物乱用の不良グループに入っている女性をグループから抜けさせるため調査の張り込みをしている所だった。その経緯を話している時にグループに動きがあったため、健吾はメモを残して店を去るが、健吾の残したメモには「半」という文字しか書かれておらず…。

 

ということで今回は2話の「おいしいココアの作り方」以来の健吾による意図せぬ謎かけに小鳩が挑むという話だが、今回提示された謎自体はさほど大したことはなく、小説と違いアニメでは健吾が残したメモが置いてあった場所がハッキリ描かれていたので、あれが文字ではなく地図だと思い至るのも容易だったはずだ。

そういう訳で7話は5話や6話と比べると単体としての面白みに欠けることは否めないが、「夏期」が長編作であることを考えれば、7話はここからの大事件における“つなぎ”として非常に重要なエピソードであり、7話だけでは大したことがなくてもこの後の展開と結び付けて考えるとそこに周到な企みがあることに気づくはずだ。正にそれは今回健吾が残した「半」のメモと同じで、今の時点では意味を成さなくても、後々それが重要なパズルのピースになる、ということをわかってもらいたい。

 

半人前であるということ

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©米澤穂信東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

7話が“つなぎ”のエピソードとは言ったが、単体のエピソードとして注目すべきポイントが全くない訳ではない。今回はサブタイトルの「ハーフ」を象徴するが如く、小鳩や小佐内、そして健吾の「半人前」な部分が明確に描かれた回だったと私は評価している。

 

健吾は初めに小鳩から「何か調べごとがあるのか?」と尋ねられた際に「お前には関係ない」と言っておきながら、すぐさま調査の内容と経緯をペラペラと小鳩に話しており、しかも依頼主の姉、つまり不良グループに引き入れられた女性(川俣さなえ)の名前まで漏らしているのだから、これが探偵ならば完全に守秘義務違反である。義侠心から調査に乗り出したものの、当の川俣本人から「邪魔だ」と追い返される始末だし、今回の健吾は今まで以上に半人前であることが明確に描かれている。

 

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©米澤穂信東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

そしてこの「半人前」要素は小鳩にも同じことが言える訳で、今回小鳩は健吾の残したメッセージを読み取り目的地に向かったまでは良かったけど、依頼主の女性に「健吾は何かを見つけて追いかけていった」という言葉だけ伝えて去っているのがどうもねぇ…ww。そんな毒にも薬にもならないというか、何の意味もないメッセージを伝えられた所で依頼主も困るだろうし、小鳩自身が「健吾に頼まれたから伝えに行く」という中身のない機械的な行動で依頼主に会っているのが探偵として以前に人としてどうなんだ?って感じの半人前さであった。

 

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©米澤穂信東京創元社/小市民シリーズ製作委員会

以上のことは原作でも同じように描かれているのだけど、この後の小佐内との電話のシーンはアニメ独自の改変によって、原作にはない小佐内の半人前さ、小鳩との異様な関係性が表現された場面になっていたと思う。

 

原作既読の方はもうわかっていると思うが、小鳩の実家が和菓子屋というのはアニメオリジナルの設定であり、当初はこの改変がどういう意味を成すのか首をかしげた原作ファンも多かったと思う。この辺りの改変の意図はどうやらアニメ雑誌のインタビュー記事で制作スタッフがそのことを語っているらしいのだが、あいにく私はそれを読んでいないので、制作陣の真意までは今も掴めていない。

しかし、以上の原作ファンのツイートを読んで私も何となく小鳩の実家を和菓子屋にした設定の意味が理解出来た(はず)。

 

確かに小鳩が和菓子屋の息子ならば、商売敵の店のことを褒めちぎるようなことを語って聞かせるというのはあまりにも配慮に欠けると思うし、夏休み期間は和菓子屋にとってはお中元のシーズンだから平常時に比べると忙しいはずだ。当然和菓子屋の息子なら店の手伝いくらいはやらされるだろうし、そんな時期にスイーツ巡りのために小鳩を引っ張り回すというのは非常識な行為だろう。

しかし実際の所、小鳩は家の手伝いをしている様子はなく読書にふける余裕はあるみたいだし、よその和菓子屋が不動の一位だと言われても別に気に障るような素振りはなかった。小鳩の実家の商売が繁盛しているのかどうかはわからないけど、少なくとも「家業を引き継げ」と親から言われている感じではなさそうだし、小鳩本人も家業を継ぐ気がないことが察せられる。

 

小鳩と小佐内が小市民を目指すのであれば、小鳩は家業の和菓子屋を継ぐのがまぁ無難な道であり、互恵関係を結んでいるなら小佐内はせめて洋菓子ではなく和菓子屋に小鳩を連れ回した方が、(家業を継ぐ上で)彼の勉強にもなるはずだから、双方にメリットのある、理に適った行為になったはずだ。しかし小佐内は小鳩を洋菓子スイーツ巡りに付き合わせ、小鳩もさほど拒絶しない所を見ると、小佐内は配慮の面でまだまだ半人前であり、小鳩は和菓子屋の息子として半人前という、両者に未熟な面があったことでこの不思議な関係が維持出来ているという風に読み取れる。

電話のやり取りは原作と同じなのに、和菓子屋設定が加わったことで小鳩と小佐内の関係性にこれだけの深みが生じているのだから、一見蛇足と思えた改変もなかなかどうして悪くないものだ。

 

さいごに

ということで今回の感想は以上の通り。色々と中途「半」端に感じられるポイントもあったと思うが、物語はここからが本番。前「半」の展開と後「半」の事件が合わさってこの物語は完全な姿になるのだけど、これ以上は興を削いではいけないのでこれくらいで語るのをやめておこう。本当は小鳩が読んでいたオリエント急行の殺人』(比較的有名なハヤカワ文庫版ではなく創元推理文庫版とは気が利いてる!)にも触れたかったけど、それを言うと本作のネタバレに触れるので、また次回以降(多分最終回辺り)言及したい。

さて小佐内が誘拐されるというまさかの大事件にまで発展してしまった訳だが、原作未読の方でも今回の事件が単なる身代金目的の誘拐ではない、という程度のことはわかるだろう。特に誘拐前日の小佐内の言動にはおかしな点がいくつもあったので、その違和感を明確にした上で今後の展開に注目してもらいたい。勿論、今回までの段階ではこの事件の全容を推理することは出来ないのでそのつもりでいてね?