タリホーです。最近どうも仕事が忙しい上にパソコンのネット回線の調子が悪くブログの更新がはかどらなかったが、今回は戸田恵子さん二度目のセレクト、3期初回の妖怪城をレビューしよう。
もう既に放送から2週間以上も経っているし、妖怪城に関しては先日放送された6期3話のレビュー(↑)で大体のことは語ったが、3期の初回は歴代の鬼太郎アニメの観点から見て大きなターニングポイントになった実に重要な回でもあるので、今回はその点についてレビューしたい。
ちなみに、先日放送された正源司さんセレクトの6期「厄運のすねこすり」と高山さんセレクトの5期「働く! 目玉おやじ」は既にレビュー済みであり、新たに語ることはないのでご了承願いたい。
鬼太郎アニメの大きな転換となった3期
3期の初回が放送されたのは1985年の10月12日。基本的に歴代鬼太郎シリーズは約10年おきに新たな作品が作られているが、2期と3期の間は13年も空白の期間があり、この空白期間は歴代の中でも最長だ。これは2期の段階で「ゲゲゲの鬼太郎」の原作エピソードをすっかり使い果たしてしまったから、原作のストックを貯めるために空白期間が長くなってしまったというのもあるかもしれないが、3期鬼太郎のDVDボックスに付属のブックレットに収録された岩佐陽一氏の解説によると、当時「鬼太郎」のメイン出版社である講談社は「機動戦士ガンダム」や「ウルトラマン」「仮面ライダー」、そして自社コンテンツの「タイガー・マスク」「あしたのジョー」といった作品に力を入れており、とても「鬼太郎」にまで手が回る状況ではなかったのではないかと、そしてそういった作品の人気が落ち着いた80年代半ばになってようやく「鬼太郎」を復活させることが出来たのではないかと述べている。
当然ながら10年以上も経てばテレビ放送におけるトレンドも大きく変わっており、2期までの(良くも悪くも)原作から大きく逸脱しない「鬼太郎」ではいけないと3期の制作陣は考えたようで、当時の80年代、それも原作のような田舎ではなく科学技術によって闇が失われた現代都市に妖怪が出没するということをメインテーマにしたのが3期の最大の特徴と言えるだろう。これはOPのムービーからも顕著に読み取れるポイントで、2期までは墓場や自然の風景といったものがメインのイメージだったのに対し、3期ではビルが立ち並ぶ都会から颯爽と鬼太郎が一反木綿に乗って登場し、お馴染みのねずみ男や砂かけ婆・子泣き爺といったメンバーもバンドを組んで楽器を演奏するというスタイリッシュさが前面に出たOP映像となっている。
そして初回の「妖怪城」は、原作だと四国山中にあった城が3期では大都会の中心、建設途中の工事現場から突如出現するという形で大幅に改変され、たんたん坊・かまいたち・二口女との戦闘も、原作だと鬼太郎が一人でこの三体の妖怪と戦う※1展開になっているが、3期では砂かけ・子泣き・一反木綿・ぬりかべが救援に駆けつけチーム一丸となって戦う様子が描かれているのも注目すべきポイントだ。
今では全然珍しくも何ともないが、原作でチーム一丸となって戦うエピソードが描かれたのは3期以前だと「妖怪大戦争」のお話くらいで、それ以外は鬼太郎とねずみ男に加えてもう一人参戦する程度の少人数での戦いが当たり前だった。こうしたチーム戦が原作でも描かれるようになったのは3期以降の話で、4期と5期の初回もチーム一丸となって妖怪を退治するというプロットになっている。
元々「ゲゲゲの鬼太郎」はそこまでバトルシーンに特化した作品ではなく、特に原作の「妖怪城」では鬼太郎はたんたん坊たちと派手なバトルを繰り広げてはいない。(というか、鬼太郎はたんたん坊に潰されペシャンコになってカーペットとして利用されている始末だからな…ww)。原作は特殊な注連縄を妖怪城の一番上の屋根に乗せることで、妖怪たちは城もろとも岩となって封印されるというのがオチであり、アニメのように仲間が駆けつけて来てくれる訳でもないし、物語の決着も封印というある意味あっけない形でケリがついている。なので、3期でバトルシーンも見応えのある作品へとアレンジしたのはアニメ化として英断だったと言えるだろう。
勿論原作のあっけない決着は「どんなに強い敵でも封印の効力にはどうすることも出来ない」という妖怪の特性を描いたという点では評価出来るのだが、やはりアニメだと鬼太郎がやられっぱなしのまま封印によって妖怪が退治されてしまうという原作通りの展開だと視聴者のウケが悪いのは容易に想像がつくので、これに関しては改変して本当に良かったと思う。
3期のダイナミックなアクションシーンに大きく貢献したアイテムと言えば、アニメオリジナルアイテムのオカリナだ。このオカリナは4期でも使われたアイテムで、仲間を呼ぶ際の笛になったと思えば、短剣になったりムチになったりと様々な形で活用され、この追加要素によって原作では描かれなかった派手なアクションが生み出された。ムチと言えば、かの有名なインディ・ジョーンズを私は連想してしまうが、もしかすると3期のアクションシーンはインディ・ジョーンズといった海外の映画の影響も少なからずあるのかもしれない。※2
ちなみに、このオカリナのアイデアは読売広告社の木村京太郎氏が提案したらしく、バンダイに継続的なスポンサーになってもらうため、アニメのグッズ(おもちゃ)商品のアイデアとしてオカリナや鬼太郎の家(ゲゲゲハウス)といったものが取り上げられたようである。前述した3期のDVDボックス付属のブックレットには当時発売されていた鬼太郎アイテムも紹介されており、その中には今回登場した妖怪城もおもちゃとしてバンダイから発売されていたようだ。
そして忘れてはならないポイントがもう一つ。本編で初登場する妖怪やキャラクターの名前が字幕で画面に表示されるようになるのは3期が初で、これは4・5・6期と引き継がれている。
このように、3期は
①原作が執筆された年代ではなく放送当時の80年代の都市部をメインの舞台としてストーリーを改変。
②鬼太郎単独の戦いよりも味方妖怪とのチーム戦を重視。
③アニメオリジナルアイテムを追加し、よりダイナミックなアクションシーンを演出。
④初登場の妖怪・キャラクターを字幕表示する。
といった、今現在の鬼太郎アニメの基礎となる原作改変やアニメならではの演出を行っており、この3期で生み出されたアイデアによって鬼太郎シリーズは何代にもわたりリメイクされる長寿アニメになり得たと言っても過言ではないだろう。
※1:一応目玉おやじやねずみ男もいたが、目玉おやじはサポート程度の活躍しかしていないし、ねずみ男は鬼太郎の力で半ば強制的に妖怪城の封印をする羽目になったので、鬼太郎がほぼほぼ一人で頑張って妖怪を退治・封印したと言って良いだろう。
※2:ちなみにインディ・ジョーンズシリーズの1作目である「レイダース/失われたアーク《聖櫃》」が公開されたのは1981年、2作目の「魔宮の伝説」は1984年に公開されている。
もう一度登場した妖怪城と三妖怪
実は3期では今回以外にも妖怪城が登場するエピソードがある。それが58話の「妖怪城の目目連」というエピソードで、このお話はぬらりひょんが打倒鬼太郎のためにユメコちゃんを誘拐し、目目連という妖怪をけしかけて鬼太郎を倒そうとするストーリーだ。一応舞台は妖怪城ではあるが、今回のたんたん坊たちとは一切関係はなく、城が出現した場所も今回と違って郊外の霊園に変わっているし、城にいた目目連を退治したら勝手に妖怪城は地下へと戻って行ったので、名称こそ同じものの今回の妖怪城とはまた別のものと考えた方が良さそうである。しかしそう考えると、3期の世界観では妖怪城が複数存在することになり、各地にそんな建物が点在していると思うとなかなか物騒な世界ではないだろうか?
ちなみに、今回退治された「たんたん坊・かまいたち・二口女」の三妖怪はずっと封印されていた訳ではないようで、91話の「妖怪ハンター ヒ一族」ではたんたん坊と二口女がぬらりひょん配下の悪党妖怪として再登場し、妖怪の天敵であるヒ一族と死闘を繰り広げている。その少し前の86話「妖怪香炉悪夢の軍団」では、悪夢を具現化する妖怪香炉の力によって鬼太郎に怨みを持つ妖怪たちが実体化し、その中にたんたん坊と二口女の姿もあった。
かまいたちは74話の「妖怪万年竹」で再登場するのだが、彼は鬼太郎と和解したのか味方妖怪として参戦し、万年竹を倒すために素早く動いて対象をぶった斬る自身の能力を活かして固い竹の破壊に貢献している。今回の妖怪城のエピソードでもたんたん坊や二口女とは違い、一反木綿の締めつけ攻撃で城の封印方法をあっさり自供し、渋々地中に戻って行ったみたいなので、根っからの悪党ではなかったようである。
さいごに
ということで、二週遅れてのレビューとなったが、今回の妖怪城のお話は歴代鬼太郎シリーズ全体を見ても大きな転換点になった回として話を進めた。なかなかこういったことはマニアックな話になるからなのか、あまりテレビ等でも取り上げられないのがファンとしては何とも複雑で、テレビで取り上げられたとしても猫娘のビジュアルが60年の間に大きく変わりました!程度のことしか取り上げられない。今私たちが知っている鬼太郎アニメのベースとなる設定・物語の様式は3期で完成・定着したものだということはもっと知られても良いと個人的には思うのだけどな…。
余談になるが、今回はねずみ男が"臭い男"であるということをやたらに強調した描写が目立つ。何と言ってもねずみ男は不潔で臭いというのが彼のアイデンティティであり武器でもあるから、そこを覚えてもらうためにも初回はやたらとねずみ男の臭さを強調しがち※3で、今回の場合ねずみ男の臭いで周りにいた人々が距離をとったり、テレビ局のアナウンサーやスタッフたちがガスマスクを装着していたりと、少々やり過ぎとも思える形でねずみ男の臭さを描いているのが印象に残る。
※3:ただし、5期は初回ではなくねずみ男がメインとなる2話で彼の臭さが強調して描かれている。同じく6期も初回でねずみ男は登場していないので、彼の臭さがわかるのは2話になってからである。