タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

いち関西人の視点から「翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~」をレビュー(ネタバレあり)

翔んで埼玉 〜琵琶湖より愛をこめて〜

タリホーです。先日フジテレビで放送された「翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~」を見たので、今回はこれをレビューしようと思う。

 

記事タイトルにもあるように、私タリホーは関西人、それも京都の南部出身(洛外)の人間なので一介の関西人として本作で描かれた近畿地方のことも色々語っていこうと思うが、あくまでも個人の意見であり偏見もまじっていることを理解していただいた上で読んでいただけると幸いだ。

 

(以下、映画本編のネタバレあり)

 

超個人的「 滋賀・奈良・和歌山」評

まず本作のあらすじをざっくりおさらいしておくと、前作で東京都知事の不正を暴き通行手形制度の撤廃を成功させた埼玉解放戦線は、埼玉県人の結束を高めるために埼玉に海を作ることを提案。そのための砂を手に入れるべく和歌山へと船を進めるが船は座礁。流れ着いた和歌山の白浜でリーダーの麻実麗は滋賀解放戦線のリーダーである桔梗魁と出会うが、そこで麗は北関東と同様に近畿地方にも地域格差があり、都市部の大阪・神戸・京都が滋賀・奈良・和歌山を田舎民として虐げていることを知る。かくして埼玉解放戦線のメンバーは大阪府知事嘉祥寺晃の壮大な野望を阻止するべく、滋賀・奈良・和歌山と手を組み戦う…というストーリーである。

 

前作は東京・埼玉・千葉に一部群馬と横浜が絡む内容だったが、本作では前作同様埼玉ネタも描きつつ近畿地方の二府四県をメインに描いているため、前作以上にボリューミーな内容になっている。前作は北関東メインの物語なので(総合的には面白いと言えるけど)関西人としてイマイチよくわからない点も多々あったが、今回は地元関西のネタを扱っているので非常に楽しめたし満足度の高い作品になっていたと思う。

 

で、本作で描かれた近畿地方の力関係的なことについて率直にここからは述べていきたいのだけど、和歌山と奈良に関しては紀伊山地がまたがっていて平野部が少ないから「山=田舎」という感じで田舎側として一括りにされているけど、やはり滋賀と比べたら観光地としてまだ見る所はあるからだいぶマシな方だと思う。

 

和歌山と言えば黒潮市場とアドベンチャーワールドが有名だし、特にアドベンチャーワールド日本でパンダが見られる動物園という点でかなり貴重だからね。パンダが見られる動物園と言えば神戸にも王子動物園があるから和歌山だけの長所ではないと思った人もいたでしょ?でも実は昨年3月に王子動物園のタンタンが亡くなって、2025年現在パンダが見られる動物園は東京の上野動物園と和歌山のアドベンチャーワールドしかないのだ

 

それに!和歌山にはあるじゃないか!大誘拐という傑作誘拐ミステリが!

大誘拐 天藤真推理小説全集

原作者の天藤真氏は東京出身だけど、和歌山を舞台にした壮大な誘拐ミステリとして和歌山県人は誇りにしても良い作品だぞ。それに近年では脚本家の三谷幸喜氏がドラマ「死との約束」(原作はアガサ・クリスティの同名小説)で物語の舞台を熊野古道に置き換えて描いていたから、ミステリオタクとして和歌山は見所のある場所だと言っておきたい。※1

 

※1:三谷版「死との約束」――クリスティ流の騙しと横溝流オカルトの融合(ネタバレあり) - タリホーです。

 

奈良は東大寺の大仏に奈良公園の鹿など、観光地として見るべき所はあると言えばあるのだが、「食」に関しては他県に比べて劣ってしまうのは否めないし奈良ドリームランド近鉄あやめ池遊園地といったテーマパークも2000年代に潰れてしまったから他所から見ると観光都市としては凋落の方が目立っているだろう。それでも、私が小学生の時の奈良と今を比べたらかなり頑張っていると思う。私は京都南部の人間なので近場の奈良には度々お出かけするが、昔と比べたら奈良駅前のホテルの数も増えたし、奈良駅を降りて猿沢池へ向かう通りの飲食店の数も増えて「食」に関しても観光客がガッカリしないよう努力していると思う。高速餅つきでお馴染みの中谷堂も今は食べ歩き用によもぎ餅をバラ売りで販売していたからね。

 

そういや今回の映画で奈良の公式マスコットキャラクターのせんとくんが登場したけど、お披露目当時は結構大ブーイングの嵐だったよな(特にお寺から)と懐かしくなったわ。奈良にはまんとくんもいるけどさ、奈良駅の改札近くで飾られているのはせんとくんの方だから、やはり知名度せんとくんが上だろうね。(去年放送された某鹿アニメにもゲスト出演したと聞いたし)

 

で、今回の映画で最もディスられた滋賀に関しては私にとって(本当に申し訳ないけど)琵琶湖と西川貴教さんと平和堂鳥人間で何か成り立っている県っていう程度の認識なのよ。お出かけするには遠いし別に行きたいと思う所もない。この映画を見た後「滋賀 テーマパーク」でネット検索したけどマジでどれもパッとしないというか聞いたことがない場所ばかりで、埼玉に比肩する魅力度の低さも納得という感じだ。

とはいえ、平和堂は幼少の頃からショッピングでお世話になっているし映画でも平和堂のテーマソング「かけっことびっこ」※2が流れたり、HOPカードの下りを見た時はちょっとテンション上がったよ。映画だけ見ると平和堂って滋賀限定のローカルな店だと思っている人もいるかもしれないが、実は近畿地方だけでなく中部・北陸地方も合わせて167店舗も展開しているから滋賀県人でなくとも見たこと聞いたことはあるはずだ。

 

※2:ちなみに「かけっことびっこ」は2022年に創業65周年を記念して西川貴教さんがカバーしている。

平和堂創業65周年記念 平和堂イメージソング「かけっことびっこ」西川貴教Ver.メイキング動画 2022年 YouTube

 

タコランド

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ここからは映画本編を評価していくが、「チャーリーとチョコレート工場」が好きな私にとってタコランドのシーンを無視する訳にはいかない!

 

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比較出来るよう本家のシーン(↑)も載せておくけど、工場内の芝生の感じとかゆりあんレトリィバァさん演じる作業員(?)が白い粉の川に飛び込むポーズとか、パロディとして無駄にクオリティが高いから余計に笑えるんだよね。

あと比較するとよりわかるのだけど、本家のチョコレート工場の方はウンパルンパが多数出ているとはいえ画面全体を見ると結構スッキリとした構成になっているのに対し、「翔んで埼玉」の方は551だけでなく串カツ「だるま」や「づぼらや」のふぐ、くいだおれ人形を彷彿とさせる作業員の衣装など、情報量が多くてごちゃごちゃした印象を受ける。でもそのごちゃついた感じが大阪っぽいというか「新世界」らしさがあって良かったかも。

 

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ついでに解説しておくが、このタコランドの歓迎の踊りの曲は映画オリジナルだけど、その前の歌は映画オリジナルではなく、「大阪うまいもんのうた」という元ネタがちゃんとあるので紹介しておく。これは以前「秘密のケンミンSHOW」で紹介されていたから聞いたことがある人も多いんじゃないかな?

 

エセ関西弁控えめ

何気に本作を評価した際にポイントが高かったのが関西弁のナチュラルさである。こういった映像作品において関東の人が関西を舞台にした作品を制作した際、どうしても役者が話す関西弁のイントネーションが不自然だったり大袈裟な場合が多い。先ほど紹介した『大誘拐』もその実例の一つで1991年に映画化されたのだが、やはり一部の役者の関西弁のイントネーションがおかしくて違和感を覚えながら視聴した記憶がある。

しかし、今回の映画では関西弁のイントネーションがおかしいと感じた場面はかなり少なかったなと思う。これは片岡愛之助さんや藤原紀香さんといった関西出身の俳優さんをメインで起用したからというのもあるだろうが、本作で大阪人が作っていた「粉」が摂取した者の言語機能や行動を大阪人と同様のものに変えてしまうという設定を見てもわかるように、関西弁がネイティブの言語でない役者の方々も関西弁を話さないといけないシーンもあったはずだ。加藤諒さんや小沢真珠さんは関東出身だし、GACKT さんと二階堂ふみさんは沖縄出身だから、関西弁を話すシーンは苦労したと思う。

 

まぁ正直言うと本作で用いられた関西弁って割かしコッテコテで「今時関西人でもそんな喋り方する人おらんよw」って思う所もあったけど、それでも聞いていておや?と思ったり不快に感じるようなものではなかった。映画「大誘拐」と本作を比較して見れば、本作の関西弁の基準値がかなり高いレベルであるとわかるだろう。

 

伏線・前振りが効いた良脚本

前作のヒットから制作された続編というだけあってちゃんとスケールがデカく見応えのある作品になっていたが、個人的に注目したのは脚本における伏線と前振りの巧さだ。前作は伏線的な要素が少なく、ローカルネタをバンバン出して埼玉や北関東をディスることで笑いをとるという感じの脚本だったが、本作は単にローカルネタで近畿地方をイジるのではなく、その前に伏線を張ったり、前振りをすることで笑いにつなげているのが良い。これは漫才でも同じことが言えるのだけど、いきなり何の前ぶれもなく芸人がボケても観客はただ面食らうばかりで笑いは生じにくい。上質なコメディには前振りとなるモノがやはり必要だと思う。

 

とびだしとび太 とび太くん ドラレコステッカー

本作の場合、出身地対決における産地偽装のアレも序盤のアポロンタワーの下りでそのワードを出し、京都市長と神戸市長の浮気の場面が前振りとして配置されているからこそ、終盤の出身地対決の下りであの「産地偽装」のインパクトが強くなったと評価している。これは滋賀発祥の「とびだしとび太」や終盤の行田タワー現代パートの浦和対大宮の綱引き対決にも同じことが言えるし、いきなりローカルネタを出すのではなくキチンと前振りとなる情報・伏線を配置して笑いにつなげている点も含めて本作は前作からグレードアップした続編として高く評価したいのだ。

 

さいごに(ローカルネタとふるさと創生事業

以上が「翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~」の感想と評価になる。続編としてグレードアップしつつも、あくまでも本作は茶番劇であるという一線を越えない内容になっているのも評価すべきポイントとして挙げられるだろう。ヴィランである大阪府知事のやったことは前作の東京都知事以上の悪事だったけど、それでも出身地対決の下りでは滋賀・奈良・和歌山の出す手札に大きなリアクションをとるなど、悪役とはいえ相手に対する一定のリスペクトというか大阪人の人柄の良さみたいなものが滲み出ていて魅力あるヴィランになっていたと思う。

 

ハッキリ言って昨年安易にお涙頂戴系の物語に走った映画を公開したクレヨンしんちゃんの制作陣は「翔んで埼玉」を見習った方が良いぞ!

(かつてのクレしん映画がやっていたことを率先してやっているし、キャラ造形や脚本など勉強すべきポイントはいくつもあるよ)

 

そうそう、今回の映画の終盤の行田タワーの下りで麗が田んぼアートを見るためだけにタワーを作るバカなどいない」って言っていたが、これを聞いて思い出したのがふるさと創生事業である。

 

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平成のはじめ、具体的には1988年から89年にかけて当時の竹下登内閣が全国3000以上の市町村に地域振興を目的に1億円を交付した政策のことで、この1億円を元手に各地で様々な地方創生が行われた。この「ふるさと創生事業」は市原悦子さん主演の「家政婦は見た!」でも題材として扱われたことがあったので覚えていたのだが、バブル期の政策ということもあってか巨大なモニュメントを作ったり、純金の延べ棒を購入して展示するなど安易な観光政策が行われたことで結果的に大損をする羽目になった地域もあったようだ。

 

調べたら今回の映画で登場した行田タワーのある古代蓮の里も「ふるさと創生事業」の一環で生まれた公園のようだが、他の自治体の失敗に比べると行田タワーはまだ成功例と言えるのかもしれない。日本各地には行田タワー以上にバカな考えで生み出されたものがまだ残っているだろうし、それをネタとして昇華出来るのは恐らく「翔んで埼玉」以外にないのではないだろうか?

 

こういったローカルネタというか地域格差を扱った作品って海外にあるのかな~と何となくそんなことも考えたが、国によっては地域格差による差別は政治的問題にもつながるし現在進行形で内戦が起こっている国もあるのだから、そう考えるとそれをエンタメとして描ける日本はまだ比較的平和だなと、そして「翔んで埼玉」という作品が成立していること自体が平和の象徴・指標みたいなものではないかと、そんなことも考えた次第だ。

(勿論エンタメとして成立させるために単なる差別・ディスりにならないよう工夫がされているという前提あっての話ですよ?)