先週まで怪奇色がドギツかったが、ちゃんと「蝶々」は本格寄りになっていて次週最終回なのが惜しまれる。#探偵由利麟太郎
— タリホー@ホンミス島 (@sshorii10281) 2020年7月7日
昨日は盛り上がりましたね。ここからって所で最終回が来るからホント殺生な話ですよ。
(以下、原作・ドラマのネタバレあり)
「マーダー・バタフライ」(「蝶々殺人事件」)
原作は1946年初出。1946年といえば終戦の翌年、戦時中敵性文学として扱われたミステリ小説がようやく自由に書けるようになった時期で、横溝先生もこれを機に「出来るだけ論理的な探偵小説を」と思って執筆したのがこの「蝶々殺人事件」(以下「蝶々」)なのだ。
同時期に『宝石』で連載していた「本陣殺人事件」が岡山の旧家や村社会を舞台とした事件なのに対して、「蝶々」は大阪・東京といった大都会を舞台にしており、戦前の怪奇色が撤廃されたこともあって、物語は海外ミステリの作風に近いものがある。また密室殺人を謎の主題にした「本陣」に対して「蝶々」は死体の入ったコントラバスケースの行方とそれに伴うアリバイが問題となる。海外ではF.W.クロフツの『樽』が先駆けとなったが、日本でこれと同タイプのミステリを初めて扱ったのは恐らく横溝先生ではないかと思う。
ただ、クロフツの『樽』がアリバイ崩しものだった一方「蝶々」は犯人当ての趣向が盛り込まれているのが特徴で、解決部に入る前にエラリー・クイーンの国名シリーズさながらに「読者への挑戦」が挿入されている。とはいえ、クイーンのような物的証拠に基づく推理というよりは登場人物の性格に基づく推理が出発点となっているため、その点に関しては良くも悪くも昭和のミステリだなと感じる。
1948年に「本陣」が第1回探偵作家クラブ賞を受賞したことや、後年の映画「犬神家の一族」のヒットによる金田一耕助の台頭によって「蝶々殺人事件」をはじめとする由利麟太郎シリーズは日陰へ追いやられることになったが、作家で『不連続殺人事件』を著した坂口安吾は「本陣」より「蝶々」をいたく激賞しており、「本陣」が探偵作家クラブ賞を受賞したことに対して「『蝶々』をおさえて『本陣』に授賞した探偵作家クラブの愚挙は歴史に残るものであろう」と痛烈に批判した。これは坂口氏がトリックよりも犯人当てのロジックを重要視しているための批判であると私は思うが、「本陣」も「蝶々」も毛色が違うだけでどちらも素晴らしいことに変わりはないので、ここで優劣を競うことはやめておく。
「蝶々」は過去に映画・ドラマ・舞台がそれぞれ一本ずつ映像化されているが、私が見たのは舞台版のみで、「蝶々失踪事件」として発表された映画版や石坂浩二さんを主演としたドラマ版は未見。ただ過去作も改変が凄まじいらしく、石坂さん主演のドラマ版は被害者が原作と違っているのだとか。
6/16より、いよいよ #探偵・由利麟太郎 開始!
— やまもと (@Chizu_Yamamoto) 2020年6月13日
ということで、過去の由利麟太郎映像・舞台を比較してみました。#横溝正史#由利麟太郎#探偵由利麟太郎#探偵・由利麟太郎#吉川晃司#志尊淳#横溝美術部 #横溝絵#探偵堂#岡譲二 #石坂浩二 #蝶々殺人事件 pic.twitter.com/YzQSKUmIUX
ちなみに、古谷一行主演の「獄門島」(横溝正史シリーズで全4回で放送された)で磯川警部が「蝶々」について言及しているが、ここでは金田一が「蝶々」を解決したことになっている。
金田一耕助シリーズはここ数年でも何度も映像化されている一方で由利麟太郎は金田一ものとして改変されたり(『真珠郎』『仮面劇場』)と良い目に遭っていなかったが、去る3月24日のこと。ツイッターで「蝶々」ドラマ化の報を知った。
【本日発売!】
— 角川文庫編集部 (@KadokawaBunko) 2020年3月23日
横溝正史が生み出した、金田一耕助に並ぶもう一人の名探偵をご存知ですか? 豊かな銀髪がトレードマーク、落ち着いた物腰の由利麟太郎先生です!
ドラマ化企画も進行中、シリーズの中でも傑作と名高い『蝶々殺人事件』が復刊です。ミステリファン垂涎、「読者への挑戦」つき!(D) pic.twitter.com/hS5sT6snaH
復刊したと聞いた時は「ああ、カルロス・ゴーンの“アレ”の影響か」と思っていたが、まさか連続ドラマとして放送されるとは思わなかったよ。
個人的注目ポイント
前回の記事でも言及したが、原作における本格ミステリ指向がカットされ怪奇色で誤魔化されるのではないかという懸念事項があった。というのも、これまで放送された回がいずれも原作よりグロい展開だったり、江戸川乱歩の作品さながらの怪奇色で作品を彩ったりと、いずれも本格というよりは戦前の変格的探偵小説に近い作風として映像化されていたため、戦後のロジック重視の「蝶々」がそんな描かれ方をされるのは作品の蹂躙にもなりかねないと思っていたのだ。
で、今回の前編を見た感想としては、確かに原さくらの亡霊といった怪奇要素は追加されているものの、これまでみたいな大きな改変はやっておらず、比較的原作準拠の展開になっているのが好感触。歌劇団のメンバーも原作のキャラ設定と大きく乖離していないし、コントラバスケースの行方についてもうまくまとめられている。
前編は原作の第十三章「五つの窓」までで、次週の最終回は第十四章「トロムボーン」以降が描かれることになるだろうが、ここで原作と違うという点で気になったことを挙げていきたい。
①原さくらの亡霊
前述した通り、原作は怪奇要素を全カットした作品で亡霊のボの字も出てこないが、ドラマでは第二の殺人前に歌劇団のメンバーの前にさくらの亡霊が現れるオリジナル展開が挿入されている。
幽霊演出は犯人が他の人物にアリバイが生まれないよう一人きりにさせるための操作なのかな。でないとただのオカルトでしかないが…。#探偵由利麟太郎
— タリホー@ホンミス島 (@sshorii10281) 2020年7月7日
もしこれが犯人が狙ってやったことだとしたら歌劇団のメンバーを分散させて一人きりにさせアリバイをなくしてしまうためではないかと思っているが…。でもこのドラマのことだから一部はガチのオカルトを混ぜているのじゃないかという気がしないでもない。
②現在進行形の浮気
大鶴義丹さん演じる原総一郎は原作でも過去に浮気をしていたと書かれているが、ドラマのように現在進行形で、しかも歌劇団の女性メンバーとしてはいなかった。聡一郎をクズ寄りに改変したということは、さくらの人物像も原作と異なる可能性がある。
余談になるが、改めて原作を読み返したらドラマ視聴時はオリジナル展開だと思っていた謎の少女(小野に手紙を渡した子)は原作にも登場していたわ。
あと板尾創路さんはここ数年の横溝作品入りが著しいね。
板尾さんはガキ使のスケキヨから本家金田一の犬神家ときて由利麟太郎の蝶々と横溝作品への関わりが著しい。#探偵由利麟太郎
— タリホー@ホンミス島 (@sshorii10281) 2020年7月7日
金田一ものにも出て由利ものにも出演した役者って石坂さんと板尾さん以外に誰がいたっけかな?