タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

ドラマ「美しい彼」の良さとは

TVドラマ「美しい彼」公式ビジュアルブック (キャラ文庫)

先日、録画しておいたドラマ「美しい彼」を6話まとめて視聴した。

 

「ミステリとかホラー専門のタリホーが、BLドラマのレビューを書くなんてどうしたんだ」と疑問に思った方がいただろうが、切っ掛けというか取っ掛かりは往々にしてしょうもないものだ。

昨年の私が「探偵が早すぎる」と「新・信長公記」を視聴していたことは当ブログでも言及している。その二つの作品に本作で平良一成を演じた萩原利久さんが出演しており、萩原さんが気になって彼の出演作を調べたらこの「美しい彼」がえらい評判だそうで、国内だけでなく海外からも評価されているらしいし、映画化に加えてもうすぐドラマのシーズン2が放送されるとのこと。そんなに評判ならば面白いのだろうか…と軽いノリで視聴したという訳だ。

 

共感と非共感のあわい

先に断っておくと私はこれまで恋愛ドラマを全く見たことがない訳ではない。動機は不純だが間宮さん目的で「ボス恋」と「ファイトソング」は毎週視聴していたし、実をいうと有名な「チェリまほ」も見たことはあるんだよ。

ただこれまで見てきた恋愛ドラマに私がイマイチはまれなかったのは幾つか理由があって、その一つが予定調和にある。極論になるけど恋愛モノって最終的には結ばれてハッピーエンドか別れてバッドエンドのどちらかになると大体予想はつく訳で、そこに至るまでの過程こそが重要なのは誰しも思うことだ。その過程に何か見る側の意表を突く展開がないといけないし、心を動かす何かがないといけない。私が恋愛ドラマに興味がわかないのは、(偏見だと言われるかもしれないが)予定調和になってしまう結末を補う過程(=恋愛の行方)に力を入れた物語にあまり出会わなかったからだろう。

 

視聴者の心を動かすような展開は「ボス恋」「ファイトソング」そして「チェリまほ」にはあるにはあったのだが、何というかあまりにもドラマ的な展開だったり、登場人物が聖人過ぎて「そんな奴おらんやろ~」と私の心の中の大木こだま師匠が飛び出して来るような始末で、結局いっそ共感出来るか全然共感できないかのどちらかにメーターの針がふれてしまっているような気がする。そうなると一歩引いた目線で視聴することになってしまい、没入は出来ないから記憶にも残りづらい。勿論、個人の好みの問題もあるので一概に上記のドラマが駄作だとは言わないが、私的にはのめりこめるドラマではなかった。

 

で、本作「美しい彼」はその点どうかというと、いや~凄い。共感と非共感のバランスが絶妙だ

物語は高校生の平良の視点で始まり、彼がスクールカーストの底辺の人物として描かれていることもあって、大方の視聴者は平良に感情移入しながらドラマを見ていたと思う。私も平良ほどではないが高校生活は暗澹としたものだったから尚更彼に共感する立場の人間としてドラマを見ていたのだが、途中から「え、どうしてそういう思考になるんだ?」と平良の考えに疑問を抱き、逆に当初は孤高の存在だと思われていた清居に共感してしまうといった具合に、私は平良・清居の間である時は二人に共感し、ある時は思わず苦笑してしまうほど非共感な部分に翻弄させられた。

特に物語の後半・大学生編に入ってからは清居に共感し、(劇中の清居と同様に)平良の言動に翻弄された視聴者が多かったのではないだろうか。

 

非共感的な部分もあるとはいえ、理解不能ということではなくむしろその非共感な部分にも人間くささが滲み出ているのが本作の心理描写の巧い所で、ここからはネタバレも込みで平良と清居の人間性というか心理を解釈・分析して本作の魅力を語っていきたい。

 

(以下、ドラマのネタバレあり)

 

平良の抑圧的な愛

平良は吃音もちで内向的な性格だと1話のモノローグからうかがえる。兄弟がいる様子もないし、恐らく一人っ子だろうと思うが、一人っ子は兄弟がいる人に比べるとマイペースで自分の中に独自の世界観を持っている人が多い。これは私も一人っ子なので多分間違いはないと言って良い。平良が清居を一目見た瞬間に彼をキングとして捉えたのも、内向的で独自の世界観を持つ彼だからそう印象付けたのだろう。

また、平良を演じる萩原さんは見た感じ4種体癖※1っぽいが、ドラマの平良も4種体癖的な性格だ。清居に対して好意は抱いているが積極的に自分からアプローチをすることは(終盤を除いて)ほとんど無かったし、王に仕える下僕という自身の立ち位置にしても根底にはマゾヒズム的なものを感じてしまう。まぁ、6話を見た後だと100%マゾという訳でもなさそうだが…ww。

 

平良の内向的な性格からくる清居に対する妄想を含めた愛情・執着が清居を翻弄するという点が本作の魅力であるが、清居に好意を抱いているはずの平良が3話で清居からキスをされた際にそれを別れのキスと解釈したのには私だけでなく多くの視聴者が「何で!?」とツッコんだことは想像に難くない。

この平良の解釈は数ある非共感ポイントの一つで理解に苦しむ部分があるが、彼が4種体癖であることや彼の立場で考えると平良が「別れのキス」だと思い込んだのも相応の理屈があるように思える。というのも、この3話では倉田というクラス内でも比較的地味な女子生徒が清居にプロポーズしたことや、かねてより清居が俳優(アイドル)を目指していることを知っていた平良からしたら、清居の恋愛対象や集注欲求は女性にのみ向かうものだと思い込んだのも無理ないし、清居を独占的に愛してはならないという歯止めを心のどこかでブレーキとしてかけていたのではないだろうか。

そもそも平良から見た清居が王様というイメージは彼のパブリックな一面であってプライベートな部分ではない。そのパブリックイメージを主軸に置いていたから平良は彼を公的なものとして崇拝したと思うし、1話のラストシーンで清居の写真で自慰行為をしたことがそれに拍車をかけたと思う。(平良本人も自白したように)あそこで生まれた罪悪感が自身の性的衝動を抑圧する結果となり、彼が清居から身を引くことに大きく影響したと思えてならない。

 

ドラマを見ていた方ならわかってもらえると思うが、平良って心の中にはドロドロとしたものを抱えた存在だし、1話の自慰行為や6話の指舐めで清居に対する性的な欲求とか衝動性があるってことは平良自身は否定したくとも無意識のうちに身体から滲み出しているんだよね。でもそれを強烈な妄想と先入観で抑圧してプラトニックに愛そうとするからそこで齟齬が生じるというか、それが却って彼の変態性として行動に表れているのが面白い。

 

あと平良に関して印象的だったシーンと言えば3話と5話のトマトジュース事件。普段は感情を抑えている平良が劇中で一番感情的になり、客観的に見たら(嫌がらせの張本人である城田が言ったように)狂気さえ感じるほどの豹変だった。これも紐解いていけば平良がそれだけ清居に対して情熱を注いでいたことを表していると思う。

清居がクラス1の存在になることにいち早く目を付けたのは平良自身であり、清居がクラスメイトに見せない努力家としての一面を知っていたのも平良だけだった。一方城田らは清居の表面的な部分しか知らなかったし、清居がアイドルに対する憧れを抱いていたと知ると手のひら返しで侮辱的な態度をとった。何も知らないがゆえの無神経な態度はまだ自分の頭の中で処理出来た平良だったが、流石にトマトジュースをぶっかけるという直接的な侮辱行為は許せなかったという訳だ。

この出来事で平良は清居を救ったのではなく自分自身が救われたと述懐しているのが心理描写として優れたポイントで、スクールカーストの底辺として甘んじ自己を抑圧していた自分が(恐らく)生涯で初めて自分の感情を正直に、それも爆発的に表現出来たことに、ある種の爽快さというか達成感を覚えたのではないだろうか。その助けになったのが他ならぬ美しい彼・清居だったのだから、平良の心酔・崇拝心が深くなったのも当然だろう。

 

※1:体癖 - Wikipedia 

【03】精神科医が分析する「リトルナイトメア2」学校編(前編)繰り返される学校の悪夢 - YouTube

を参照。4種はえらの張った四角めの顔、頬骨が出ている、胸板が薄く背中は洗濯板のように真っ直ぐ、やせ型で肩はいかり肩といった身体的特徴がある。4種は感情が内向しやすく、自分の感情を把握するのに時間がかかるが、他人の感情には同調しやすい。他にも清潔感を重視する、マゾヒズム的傾向があるといった心理的特徴がある。実は私タリホーも4種体癖だ。

 

清居の孤高さと依存心

清居については5話の彼自身のモノローグで彼が6種体癖※2じゃないかと判断した。とはいえ彼が人一倍集注欲求が強いのは幼少期に親の愛情をあまり受けずに育ったこと、そこからアイドル・芸能界に関心を持ったという背景があるため、清居が6種だから芸能界を目指したとは限らないと思っている。ただそれでも平良に対する接し方というか素直に愛情を表現せず、突き放すような形で平良の思いを確かめようとする様子は6種的だと思わざるを得ない。

平良が自分が作り上げた妄想や抑圧的な感情で縛られた人物ならば、清居は周りのイメージに縛られた人物というのが私なりの評価で、本来の清居って凄く誰かを頼って甘えたいという感情があるはずなのに、周囲の人間が抱く勝手なイメージ、つまり孤高のイケメンというレッテル貼りが原因で、そのイメージに背いた行動が出来なくなっているんだよね。何故ならそのイメージに背くと周りが幻滅して関心を失い離れてしまう訳で、集中欲求の強い清居には辛い展開になるからだ。だから彼が芸能界入りを真剣に目指していることも城田らスクールカースト上位のクラスメイトに打ち明けられなかったのだと思う。

 

そんな清居にとって平良は清居の需要――強い集中欲求と誰かを頼りたい・甘えたいという依存心――を完璧に満たしてくれる存在だったのは間違いない。普通の人なら引いてしまうような執着、トマトジュース事件で見せた狂気とも言える平良の爆発的な怒りに清居は知らず知らず惹かれていた。平良ならば自分の素をさらけ出しても去らないとあそこで悟ったから、交流を深めたと私は推測する。

平良はあの事件以降「たまに」清居が自宅に来るようになったと言っていたけど、あくまでもこれは平良自身の主観で実際はもっと頻繁に清居は来ていたのじゃないかないかな?まぁ月に一回とかだと「たまに」になるだろうが、週に一回なら「たまに」じゃないよね?

 

結局清居の思いは伝わらずに大学生編に移るけど、この大学生編は平良の堅牢な妄想の壁を壊すというのがテーマの一つだなと思っていて、平良のサークル仲間の小山を媒介としてそれは展開していく。と言っても物語は一般的な恋愛モノにおける三角関係にならないし、平良と清居の心がギリギリまですれ違い続けるという予定調和を崩す展開になっていたのがやはり良かったポイントとして挙げられる。ギリギリまですれ違い続けたからこそ、最後に清居が平良に正直な感情をぶつけられた場面にカタルシスが生じたし、そこで両者の需要と供給が合致したという感じがした。

 

あ、そうそう。平良が清居との間に距離をとっていたのは自身の妄想が余りにも頑なでそれに囚われていたからだと言ってきたが、清居に対する感情には「畏れ」もあったんじゃないかなと少し考えている

これは私の経験も込みでの考察だけど好きな人と対面すると何か相手に自分の心(それも割かし醜い部分)を見透かされているような感覚になるんだよね。実際は相手にそんな能力なんかあるはずがないと理性はそう訴えかけてくるのだけど、崇拝的に清居を愛していた平良ならばもしかすると清居に対して「畏れ」の感情もあったのではないかとそう考えた次第だ。

 

※2:体癖 - Wikipedia 

【名作】ライフイズストレンジ2×精神科医:兄弟の旅立ち【ゲームさんぽ /思春期の分析#01】 - YouTube

を参照。6種はやや猫背、顎が尖っている或いはしゃくれている、目が据わっている等の身体的特徴がある。少人数のグループでカリスマ性を発揮し、非日常的な場面で行動的になる。また、カリスマ性がある一方で誰かを頼りたいという依存的な一面もあるのが6種の心理的特徴で、相手の愛情を確かめるためわざと裏切り行為をすることがある。そのため6種との恋愛は波乱なものになりやすいと言われている。

 

さいごに

以上、平良と清居の心理を中心にドラマの良さを語ってみた。正直こうして分析的に作品の魅力を紐解くというのは(ミステリならばまだしも)恋愛モノの感想として無粋かなとは思ったが、色んな視点で作品を見ることは決して無駄ではないと思うし、私としても折角ひとつの解説としてまとまったものを自分だけのものにするのは勿体ないような気がしたのでこうしてブログにアップしようと決意した。面白い・興味深いと感じてもらえたら幸いである。

最後に、今回記事を書くにあたって大変参考になったVtuberの方の感想動画を紹介してこの文を終える。一つ一つの場面・台詞を丁寧に解説しているから見応えもあったし面白かったよ。

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