え~と、前回の感想記事から約2年経ちました(唖然)。この間色々と優先すべきアレコレがあってどうも手につかなくて…。
そんな言い訳はともかく、先日「盗まれたロイヤル・ルビー」が放送されたので、止まっていた名探偵ポワロの感想を再開します。
出来れば放送された分のエピソードは全て書きたいのだけど、長編は原作も含めての感想となると大変なので、一応短編作品は絶対やるとして、長編エピソードは追々時間を見つけて書いていこうかと。
「盗まれたロイヤル・ルビー」(「クリスマス・プディングの冒険」)
今回のエピソードは原作「クリスマス・プディングの冒険」。クリスティ自身が子供の頃のクリスマスの楽しい思い出を元に執筆した作品であり、作中でもクリスマスならではの行事や食事が色々と出て来る。
某国の王子が所有する由緒ある宝石が王子の失態によって盗まれてしまい、その宝石を取り戻すべくポワロはレイシー大佐の家を訪れるというのが本作のあらすじとなるが、ドラマのキングス・レイシーは原作で言及されているような14世紀に建てられた古い邸宅ではなくアールデコ風の近代建築になっている。(もしクリスティがこのドラマを見たとしたら、この近代建築には少しガッカリしたかもね)
また、原作は雪の降るホワイトクリスマスだったのに対しドラマは雪は降っておらず、そのため“ブリジットの死体”の発見現場はエジプト的なオブジェが立つ砂場になっており、原作と同様足跡が残る現場になっているのが改変として巧いポイントと言える。レイシー大佐の職業がエジプト考古学を専門とする考古学者、デイビッドが美術商になっているのも恐らくこの改変の影響によるものだろう。
(以下、ドラマと原作のネタバレあり)
個人的注目ポイント
・エジプトのバカ王子とワフド党
原作では某国の王子としか記されていなかったが、ドラマではエジプトのファールーク王子として設定されており、原作以上に尊大な愚か者として描かれているのが特徴だ。宝石が盗まれたと知るやご婦人の化粧室(トイレ)に乗り込むし、「売女」という下品な言葉をつかう辺りからも、「これが次期エジプトのトップに立つのかよ…」とポワロらが引くのも無理はない。
ところで、劇中で出て来たワフド党というのは第一次世界大戦後にエジプトの完全独立を求めて発足した組織のこと。
原作はあくまでも金銭目的の犯行だったが、ドラマはワフド党絡みの犯行という政治的な動機として改変されているのが以前放送された「誘拐された総理大臣」と通じるものがある。
・クリスマス・プディング
本作で最も重要な役割を果たすこととなったクリスマス・プディング(プラム・プディング)は、レーズンなどの洋酒につけたドライフルーツやナッツ類の入った蒸しケーキで、数日から数ヶ月かけて熟成させる結構手間のかかるデザート。この熟成期間に起こったハプニングによってポワロは幸運にも盗まれた宝石を取り戻すことになったのだがそれはさておき。
プディングに入れられていた硬貨や指ぬきには意味があって、硬貨が当たればお金持ちになれる、指ぬきは一生独身(ブリジットはこれに当たってオールド・ミスになるとからかわれた)、指輪は将来結婚する、ブタの小物は食いしん坊を意味している。言ってみればフォーチュンクッキーみたいなもので食事とゲームを兼ねたデザートになっているのが面白い。
・マンゴーを切る
劇中でポワロがレイシー大佐たちにマンゴーの切り方を実演してみせる場面があったが、あれはポワロを演じたデビット・スーシェ自身の体験に基づくもの。スーシェは1990年の自身の誕生日にエリザベス女王から食事会に招待され、その際マンゴーの切り方がわからなくて困っていることを告白すると、故・エディンバラ公爵フィリップ王配がマンゴーの切り方を手本を見せて教えたという。この体験をスーシェはプロデューサーに伝えたことで、この場面が追加されたとのことだ。
今日、少し読み進めたら、とても面白いエピソードが。『名探偵ポワロ』第28話「盗まれたロイヤル・ルビー」で、ポワロがマンゴーの皮をうまく剥く腕を披露して、「さる公爵に教わった」と言うシーンが実話ネタ。
— 久我真樹 (@kuga_spqr) 2018年12月15日
その公爵とは、エリザベス女王の夫・エディンバラ公爵という。(続く)
・もうちょっと気にしようぜ
由緒ある宝石を見ず知らずの女性に渡してしまい盗難されるという政治的問題にもなりかねないスキャンダルを避けるため、原作ではあくまでも宝石の奪還が主目的だったのに対し、ドラマでは盗んだ犯人も捕まえてこいとポワロは王子から命令される。全然スキャンダルは気にしてないのだから流石はバカ王子である。
そのためか、原作よりもフーダニット的な部分を意識した改変が為されており、レイシー大佐が株で大損を出し、所有するエジプトの美術品を売却しようとする設定が追加された。一応レイシー大佐にも宝石を盗む目的があった(損失の補填)と思わせるためのミスリードとしての設定なのだろうが、そこまで強烈なミスリードにはなっていない。
また、デズモンドの妹と称し宝石盗難の実行犯だった女性は原作だと病気を装って部屋にこもっていたが、ドラマでは普通に客人と共に食事の席にいるし教会にも行っている。ポワロが宝石の盗難のことで来ていると勘付いているのにそんな人前に出ていいのかと突っ込まざるを得なかった。
この女性は原作だとデズモンドに放っておかれるのだが、ドラマではデズモンドと共に逃亡している。その点ドラマのデズモンドは情のある男だなと思ってしまうがどうだろうか?