タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

ここまで原作通りにやるとは…!(霊媒探偵・城塚翡翠 #4)

えー、言うまでもないけど今回は原作『medium』を含めてドラマのネタバレをするのでドラマ未視聴及び原作未読の方はブラウザバックでお願いします。

 

(以下、原作を含むドラマのネタバレあり)

 

「VS エリミネーター」(後編)

medium 霊媒探偵城塚翡翠 (講談社文庫)

今回は原作の第四話「VS エリミネーター」の大詰め、翡翠エリミネーターとの対決場面となる。ドラマを既に視聴した方はご存じの通り、この最終話で(大きく分けると)二つのサプライズが用意されていた。ここからはこの二つのサプライズについて詳しく語っていきたい。

 

〇 一つ目のサプライズ、エリミネーターの正体について

ドラマでは「透明な悪魔」と称されていたエリミネーターの正体が小説家の香月史郎だったというのが本作のサプライズの一つ目である。これは前回の感想記事でも言及したが、原作を読んで割と早い段階で彼がエリミネーターじゃないかなと思った。

 

というのも、原作では各話の間にインタールードが挿まれ、そこでエリミネーターこと鶴丘文樹による犯行場面が描写されている。この時点で犯人が男であることは一目瞭然だが、ここでミステリ好きなら知っていて当然のルール=「地の文に嘘を書いてはいけない」が関係してくる。つまり、鶴丘という名前は犯人の本名であり作中で登場する誰かが別の名を騙っているという具合に推理することが出来るのだ。そうなってくると当然怪しいのはペンネームを日常でも使える小説家、香月史郎に他ならない。後の展開から考えても、今まで作中に一切出てこなかった人間がエリミネーターとして登場するというのはミステリとしてあまりにお粗末な流れなので、香月がエリミネーターだと推理するのは決して難しくない。というか、序盤から彼が死後の世界に関心があることを示しているのだから、推理とか抜きにしても勘で当てられるレベルだよ。

 

何より、語り手が犯人というのはミステリ好きにはお約束中のお約束。(どの作品がとは言わないけど)出版当時それで物議を醸した超有名な作品があることも知っているから、この一つ目のサプライズについてはさほどのものではない。むしろ重要なのは二つ目のサプライズの方だ。

 

〇 二つ目のサプライズ、翡翠の「もう一つの推理」について

Twitter の方で原作未読のフォロワーさんが「ドラマのタイトルが霊媒“探偵”なのに翡翠は探偵らしいことをしていない」といった旨のツイートを見た時は思わずニヤリとしたね。これこそ二つ目のサプライズに繋がる違和感であり、城塚翡翠がインチキ霊媒であることの仄めかしでもあったのだから。

この二つ目のサプライズと、そこから続く翡翠による怒涛の推理が本作最大の見所だが、翡翠が披露した「もう一つの推理」の評価ポイントやツッコミ所に関しては既に詳しく解説したサイトがあったので、以下に紹介する。

medium/ネタバレ感想|黄金の羊毛亭

特にツッコミ所に関してはよっぽどのミステリマニアでないと気づかないというか、翡翠の怒涛の語りに流されて香月だけでなく読者も言いくるめられてしまったのではないだろうか?

 

そういや、ナンパ目的の男に翡翠が絡まれた時(文庫本の42ページ)、相手の男に対して言ったことって「推理」で導いたことなのか「霊視」してわかったことなのかわからずじまいだったのが個人的には引っかかった(ドラマでもその場面は描かれていたけど結局原作同様スルーされている)。本筋とは関係ない部分だけど、こういう些末なトコに引っかかってしまうのがミステリ好きの性である。

 

(2022.11.17 追記)

原作を改めて読み返したら、どうやらナンパ目的に近づいてきた男は翡翠が香月を騙すために事前に雇ったサクラだったと婉曲的に書いてありました(文庫本の400ページ)。確かに金持ちのお嬢様である翡翠ならサクラなんて簡単に雇えるよね。

 

「すべてが、伏線」という惹句について

さきほど紹介した黄金の羊毛亭さんのネタバレ解説において、「すべてが、伏線」という惹句は不適切で、伏線ではなく手がかりという表現を優先すべきではないかと述べられていた。

確かに「伏線」というのは後の展開のために仄めかしておく話の筋であって、ミステリ小説では一見本筋と関係ない出来事やアイテムが伏線として張られていることが多い。そのことを踏まえると、本作における伏線(アイスコーヒー、文庫本、スカーフ等)は仄めかしているという感じではなく割とハッキリ作中で登場しているし、各話の文末には “〇〇”ends. という形で謎解きに関わるアイテムとして強調されているため、厳密に言うと伏線になっていないと私も思う。

 

ただ一方で「すべてが、手がかり」という惹句にするのも実はマズい。既にドラマ及び原作を履修した方ならおわかりの通り、本作は謎解きに関わるアイテムを一旦スルーして最後のエリミネーターとの対決でそのアイテムの重要性を明かすため、もし惹句に「手がかり」という表現を用いたとしたら、

「あれ、『すべてが、手がかり』という割には大した手がかりが出てないな…。ってことは後々今までの事件を振り返る展開があるのか?」

という具合に物語の筋道を予想されてしまう恐れがあるので、そういう点で「手がかり」という表現を避けたかったのではないだろうか?

 

ひとまずの総評

この度の『medium』のドラマ化は終盤の二つのサプライズの内容が内容なだけに、うかつな感想を書いて原作未読勢にネタバレしてはいけないので非常にもどかしいレビューとなったが、そういった未読勢の感想が一つの楽しみとなったのはまず間違いないし、原作と同レベルのサプライズに圧倒された方々の感想をTwitter で確認して「やはりミステリって良いよな~」と改めて思った次第だ。

 

今回の映像化における功績は勿論原作者の相沢沙呼氏のおかげであるが、いたずらに原作を改変せず(4話のドラマオリジナル展開を除いて)ほぼ原作通りの脚本・演出にしたことも評価したいポイントだ。

特に日テレの日曜深夜枠で過去に放送されたミステリドラマは探偵役に原作にはない決め台詞を言わせたり(火村英生…)、やたらに怪しい人物やショッキングな死体を出す(あな番…)といった過剰なドラマ的演出が目立つものが多かったから、正直日テレ制作のミステリドラマは質の劣ったものというイメージ・偏見があった。

 

しかし今回のドラマでは過剰なドラマ的演出を抑え、見る人によっては地味で面白みに欠けるとさえ思ってしまうほど、原作に忠実な内容となっていた。小説ならまだしも、ドラマは途中で飽きられて視聴者が減ってしまうというのは制作陣にとって致命的であり、各話に見所というか印象的な場面・展開をドーンと入れて視聴者を繋ぎ止める細工をするのが定石だ。それをしないでここまでやってきたということが、原作に対する深いリスペクトを表している。

勿論、原作者が脚本協力に関わっているのだから当然と言えば当然の話かもしれないが、原作のあるなしを問わずドラマはどうしても作り手のエゴが出てしまいがちであり、時にはそのエゴに辟易とさせられる部分があったので(最近だと前クールに放送してた「新・信長公記」がそう)、こうやって原作通りやってくれただけでも称賛に値するのだ。

唯一の改変ポイントとなった4話の鐘場警部に対する疑惑も、原作にはないミスリードとして効果的だったし、香月が連続殺人の被害者の相関図を眺める場面なんかは犯人を追う側として眺めているように見えるし、真相を踏まえて見ると犯人自身が実験の記録を眺めているように見えるので、あそこはダブルミーニング的な演出として優れていたと思うよ。

 

あと何と言っても翡翠を演じた清原果耶さんが凄かったね。今回の5話における怒涛の推理シーンもさることながら、1話から演じていた純朴な霊媒としての翡翠ナチュラルで良かった(あの1話の降霊シーンは二重の意味で名演でしたね!)。

本来なら今回の怒涛の推理シーンにおける翡翠の嫌味ったらしい煽り文句って、人によってはイラつく部分だと思うし、小説を読んだ時はそっちの印象が強かったけど、いざ清原さん演じる翡翠がそれを言うと不思議とそこまで嫌味に感じないというか、SMのMの感情をくすぐられる感じがあって嫌ではなかった。この感覚を前にも味わったような気が…と思い出したのが、以前NHKBSプレミアムで放送していたシリーズ「江戸川乱歩短編集」である。

満島ひかりさん演じる明智小五郎も犯人からして見ればシャレにならない追い詰め方をしてくる一方で愛嬌もあったから、そういう点で今回の翡翠と共通するなと勝手ながら思った次第だ。

 

 

さて次回、というか新番組として今度は『invert 城塚翡翠 倒叙集』が映像化されるが、こちらの原作はまだ未読。でも、今回の『medium』が原作に忠実だったことを思うと『invert』も原作通りやってくれると思うので、原作未読のまま来週の放送を待つことにするか。