今回は密室殺人がテーマなので、しっかり厳しめに評価したいと思う。
第6話あらすじ
有名漫画家・峯靖久(和田聰宏)の妻・里美(中村彩実)が自宅マンションで首をつって死んでいるのが見つかった。現場は“IoT”が導入された超高級マンションだったため、安洛一誠(佐々木蔵之介)ら京都府警サイバー総合事犯係に出場要請が入り、古宮山絆(福原遥)と多和田昭平(間宮祥太朗)が臨場したのだが、おかしなことに里美のスマートフォンがどこにも見当たらない。
実は、そのマンションはエントランスやエレベーターから玄関まで居住者のスマホがカギ替わりとなるシステムが採用されており、自殺するにしてもスマホがなければ部屋に入ることすらできないのだ。何者かが自殺に見せかけて里美を殺害し、スマホを持ち去ったのだろうか…。
しかし、安洛が調べたところ、正午に里美が帰宅して以降、夫が帰宅し遺体を発見する夜10時まで玄関の開錠記録はなく、ベランダ側からの侵入者もありえないことが判明。防犯カメラにも誰ひとり映っておらず、現場が密室であることを図らずもマンションのIoTシステムが証明していた。まさに “デジタル密室”…犯行は不可能に思われた。
そのころ、安洛はマンションの“裏ママ友会”のSNSの存在を探り当てる。里美のママ友・神山美樹(島田珠代)らは、同じフロアに暮らすシングルマザー・三好祐美子(酒井若菜)が犯人に違いないと書き込んでいたが…はたしてママ友たちの間に何があったのか…!? はたして、サイバー総合事犯係は”消えたスマホ”の謎を解き、“デジタル密室殺人”の真相にたどり着くことができるのか!?(あらすじは公式サイトより引用)
今回は予告されていた通り、高級マンションの一室で起こった密室殺人事件。冒頭から平塚係長がジョン・ディクスン・カーの『絞首台の謎』を読んでいたりと、矢鱈と密室をアピールしており、密室の検討にしても上・下・横からの侵入・脱出の検討(別解潰し)がなされており、正統派な密室ミステリの手順を踏んでいると思った。
ミステリに詳しくない人のために言っておくがジョン・ディクスン・カーといえばミステリマニアでその名を知らぬ者はいないくらい有名で、発表した作品の大半が密室殺人(不可能犯罪)をテーマにしているという凄い作家なのだ。カーター・ディクスン名義でも作品を発表しており、主な作品は東京創元社から出版されているので興味のある人は是非読んでみて欲しい。
ただし!古典ミステリということもあって、読みにくい作品が非常に多く、有名な密室講義が挿入された『三つの棺』も正直な所ミステリ初心者にはおススメ出来ない。個人的には、カーの作品でも比較的読みやすくトリックも優れている『貴婦人として死す』をおススメしたい。
(以下、ドラマのトリックについてネタバレあり)
雑感
・密室トリックの問題点
まず整理しておくと、マンション自体の監視システムと各部屋の開錠記録に絞れば殺害現場が二重の密室で構成されていることがわかる。そして一重目の監視システムに漏れがないので内部の犯行だということはドラマの捜査方針と同様誰でもわかることだろう。
問題は二重目の被害者の部屋への侵入・脱出経路。これが難解なのは被害者の部屋へ侵入するにしろ脱出するにしろ痕跡が残ってしまう、或いは不自然な侵入をすると被害者に警戒され殺害が困難になるためであり、そこをどう処理するのか気になる所だが、これを加害者が被害者の部屋に侵入したのではなく被害者が加害者の部屋に侵入したという逆転の発想でクリアしているのが今回の評価ポイント。
ただ、評価出来るのはここまでで、この後の死体の搬入に用いた手段が物理的に不可能。
避難ばしこを錆びつかせたため、階段代わりとして漫画雑誌を階段状に積んで上ったという物理トリックだが、高さの問題をクリアしたとしても肝心の摩擦力をガン無視しているのが致命的。これは物理計算以前の問題で、そもそも漫画雑誌のみならず出版物の表紙はツルっとしたものが多く、積んだだけでは摩擦力が大人一人の体重を支えるほど働くとは思えない(しかも死体を背負ってたのだから尚更無理)。それに、紙が真っ平になることは基本あり得ない。普通は湿気などの影響を受けて多少デコボコしているため、完全に紙と紙が密着することはなく、それも摩擦力を弱める原因となるのだ。
これが壁に寄せて積んだ階段なら摩擦力がなくても壁が支えとなって問題はクリアされるのだが、避難ばしこがあった穴は壁面についてない(特に体重がかかる方向に)ため、やはり実行は不可なのだ。事実、雑誌の階段を下りる時に犯人は滑って足を傷めたでしょ?逆に上りの方で失敗しなかったのが不思議なくらいだよ。
ま~、実現可能なトリックだと真似する不埒な輩が出て来るからあえて穴のあるトリックにしたのかもしれないが、そこは穴のある物理トリックじゃなくて幾つもの条件が揃わないと成立しないトリックという形で視聴者に挑んで欲しかった。カーを劇中に出したのだから、それくらいの心意気がないとミステリ好きとして認めませんよ?
・引き金のジュースジャッキング
今回の殺人事件の動機自体は至極シンプルで、クリスティ風に言うと「妻を殺す夫はよくいる」と言うべきか。むしろそのベタな殺害動機の引き金となったマンション内でのジュースジャッキングの動機の方がユニークというか話として面白かったと思う。
母親がママ友によるいじめを受けており、その原因が自分の中学受験にあると知った子供がジュースジャッキングで母親に向かう悪意を分散させ、ママ友たちを異様な教育ママとして毒親化、その矛先を彼女らの夫に向けさせるという遠大な計画。そしてその際に得た被害者の夫の浮気の証拠を被害者本人に送ったことで殺人を誘発させてしまった。ある意味未成年の無分別な判断が生んだ事件だが、前回に引き続き親子関係をテーマにしている。というか、このドラマ自体初回からほぼ親子関係をテーマにした話ばかりしているので、多分最終回までずっとこのテーマが続くのだろうな(次回は兄妹がテーマぽかったが)。
・島田珠代と末成映薫
今回被害者のママ友役として登場した島田珠代さんと、被害者の母親役として登場した末成映薫さん。関東圏の人にとってはピンと来なかった人が多いと思うが、吉本新喜劇を知っている関西圏の方なら絶対知っているはず。知らない人はとりあえず珠代さんは男性の股間を指でピーンとしてくる人で、末成さんは湯婆婆みたいな髪をして「ごめんやして、おくれやして、ごめんやっしゃ~」と言う人だと覚えておけば問題ないです。
そう言えばこの二人、先々月チョコプラさんのYouTubeチャンネルで「悪い顔選手権」に出てたんだよな。
珠代さんの悪い顔が過去最高レベルに恐ろしいと評判だったが、渡りに舟と言うべきか今回こうやって犯罪ドラマに出られたのは良かったと思う。ただ本編ではあんまり悪い顔が活かされなかったけどね。