単なる偶然だろうが、何だか天邪鬼みたいなことになったね。
(以下、ネタバレ解説していくので要注意)
5話「父の願いに花束を」
エリート女子高の美術教師転落死の真相を、鮮やかに暴いてみせた【探偵事務所ネメシス】。ある日、真剣な顔でニュース番組を凝視するネメシスの名探偵?=風真尚希(櫻井翔)。TV画面にはジャーナリストの神田凪沙(真木よう子/神田水帆と2役)の姿が。天才助手の美神アンナ(広瀬すず)に、「もしかしてこういう女性が好み?」と茶化されても珍しく相手にしない風真。その時アンナが偏愛する謎の料理店”Dr.ハオツー”の料理人=リュウ楊一(加藤諒)が浮かない顔でやって来る。社長の栗田一秋(江口洋介)にうながされリュウが話し出したのは、ざっと以下の通り。【天狗伝説】で有名な山奥で”天狗サーモン”という鮭の養殖業を営む天久潮(渡辺哲)が、泥酔して崖から転落死する事件が起きた。週刊誌は「天狗の祟り!」とあおり、自殺をほのめかす記事を掲載するが、リュウは社長が転落死する前日に偶然会っていた。その時の社長は離れて暮らしていた3人の息子たち=長男の一魚(野間口徹)、次男の二魚(大鶴佐助)、三男の三魚(堀家一希)が家業を継ぐために戻って来たことを心底喜んでおり、自殺するはずがないという。
栗田は3人の息子のうちの1人の経歴に目をとめ、依頼を快諾。早速真相を探るべく山奥の養殖場に向かうネメシスの3人&リュウだったが、そこで彼らを待っていたのは不気味な潮の家族達だった。3人の息子に加え、潮の義弟=天久洋(渋川清彦)に、潮の後妻=郁子(ともさかりえ)…保険金、土地の利権、相続、と何かといがみ合ってばかりの家族達…全員が怪しい。
風真は失踪中のアンナの父=始(仲村トオル)の同僚の大和猛流(石黒賢)にアドバイスを仰ぎながら、順調に捜査を続けていく。そんなネメシス一行の様子をじっと観察し続けるのは……天狗!?突如、風真の命が狙われる緊迫の展開に!(後略)
(あらすじは公式HPから引用)
今回は山奥で鮭の養殖業を営む一族内で起こった事件。予告映像からもわかるように「金田一少年の事件簿」を意識したミステリとなっており、堂本版金田一で七瀬美雪を演じたともさかりえさんがゲスト出演したり、怪人枠に相当する天狗が犯人として暗躍するなど随所にオマージュ要素が取り入れられている。天狗といえば去る3月6日にフジテレビで放送された「死との約束」(原作はアガサ・クリスティの同名小説)も天狗がミステリのトリックに利用されているが、本作と比べてみるのも面白いかもしれない。
(ただ再放送は当分ないだろうから、DVD化を待つかFODで有料配信されているものを見るしかないのだけどね)
また、金田一少年といえばその祖父・金田一耕助が連想されるが、本作では被害者の三人の息子のネーミングや金銭面での争いといった『犬神家の一族』的要素も取り入れられており、祖父(耕助)・孫(はじめ)両方の要素を取り入れたハイブリッド型金田一風ミステリというのがドラマを見た私の第一印象だ。
5話の脚本協力は降田天氏。といってもこれは一人の人物ではなく萩野瑛氏と鮎川颯氏両名が用いるペンネームで、エラリー・クイーンや岡嶋二人と同じ形式をとっている。氏の作品は未読のためネットからの引用になるが、『女王はかえらない』で第13回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、短編「偽りの春」で第71回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。なかなかの受賞歴である。
氏が担当した4巻は5月14日発売のため、今回も3話と同様ドラマのみの感想となるが、小説版は被害者・潮の死因が水死みたいなので、ドラマと小説版の内容は別物だと思われる。
※小説版読了しました。小説版は犯行動機を除けばほぼドラマと別物で(その犯行動機も厳密な部分はドラマと違うのだが…)、なかなかクセの強いバカミス的な物語。ドラマを先行して見た方なら察しがつく部分(天狗の正体)などもあるので、是非読んでもらいたい。
(2021.05.14 追記)
事件について
※加筆しました。(2021.05.16追記)
被害者の死因が前回同様転落死でかぶっているとはいえ、今回は結局トリックらしいトリックはなく、転落の真相は事故であった。解決編前の私は、靴紐(右足側)の片方をほどいてもう片方の靴紐(左足側)に結び、故意に被害者の足をもつれさせたのではないか…と推理したが全然そんなことはなかったね!
ハウダニット要素が実質皆無なので今回の事件ではフーダニット・ホワイダニットが重要となってくるが、まずフーダニットについて。犯人がネメシスメンバーを殺害しようとしたこと※1、義弟の洋を自殺にみせかけようとしたこと※2から、長男の一魚を犯人として指摘。もやい結びや風真襲撃時に洋同様行方が不明だったことが状況証拠として挙げられているが、決め手となったのは天狗に関する失言。
犯人が天狗の面に覆面マスクを付けて利用していたのは犯人しか知り得ない情報であり、問題のマスクを見せる前に「天狗のマスク」と言った一魚が犯人…という訳だが、これ抜きだと実質状況証拠のみで一魚を犯人として指摘するしかないので、アンナや風真はどうするつもりだったのか少し気になる。まぁ恐らく一魚の動機を追及して問題のコンクリートの建物を暴けば観念する公算があったと思うので、物語としてそこまで大きな瑕疵ではないだろう。
そして一魚の動機――ゲノム編集による品種改良鮭の隠蔽――について。これについては風真と栗田が一魚の経歴を知っていたにも関わらず視聴者に対して伏せていたため、ややアンフェアな気がするものの、ゲノムという情報から遺伝子組み換え食品を連想することは可能だし、そこから食品偽装の隠蔽を推測することは出来なくないので許容の範囲内だったかなとは思う。
※1:アンナだけ睡眠薬の効き目がなかったのは、恐らく偏食家のため睡眠薬入りのシチューをあまり食べていなかったからだと思う。本人は一魚を怪しみ、「容疑者だらけの場所で提供された食事を食べるなんて~」と言っていたが、そんなはずはない(多分)。あと風真よ、キャンピングカーに細工された痕跡(内側から開かないドア・窓がないことを隠すためのカーテン)があるのだから「天狗の祟り」ってビビるな。
※2:ただ、もし洋が犯人だとすると風真らがキャンピングカーから脱出後、急いで小屋に向かい遺書を書き首吊り自殺を図ったことになり、時間的に余裕もなく自殺も防がれていたと思うので、(潮殺害の犯人でないと断定は出来ないが)キャンピングカー脱出後に風真が見た天狗は洋でないことは推理せずともわかったのではないかと思う。
さいごに
今回はトリックらしいトリックはなく、犯人指摘のフーダニットもほぼ状況証拠だったため、ライトミステリと呼ぶべきだろう。金田一ミステリは祖父の方にしろ孫の方にしろ凝ったトリックが持ち味のためその要素が装飾部分だけに止まったのは残念ではあるが、謎が暴かれることで家族内のわだかまりが解消され結束が強まるという展開は『犬神家の一族』にも通じる部分があると思ったのでそこは評価したい。今回登場した中国人シェフのリュウもそれに一役買っていたという点においては、前回の姫ちゃんよりかは必然性のあるキャラ設定だったと思う。