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告発者Xという弱い縦軸、啄木鳥探偵處 第十二首「蒼空」視聴

啄木鳥探偵處 (創元推理文庫)

更新が遅くなりましたが、最終回感想です。

 

(以下、アニメのネタバレあり)

 

「蒼空」

最終回は初回から触れられていた告発者Xの正体が明かされる回。一応この連続アニメにおける縦軸枠にして黒幕なのだが、どうも付け焼刃感が拭えないのは原作にこのような黒幕の存在がいなかったせいだと思う。

元々原作は5話きりのシリーズで、シリーズを通して軸となるようなものも特別なかったため、連続アニメにするにあたって探偵が直面する問題だったり宿敵みたいな存在を軸として据え置く脚本にしたのは論理的ではある。が、縦軸としてこの告発者Xをもってきたのは軸としては存在感が希薄でイマイチ牽引力に欠ける。

啄木が晩年期に傾倒した社会主義の思想が絡んで来るとはいえ、この全12回のうちでそれが描かれたのは終盤の3,4回。それ以前は乱歩のオマージュ回や啄木と京助の関係を描いたりとやりたいことを色々詰め込み過ぎた結果散漫になっている印象を受けた。

 

告発者Xの正体は演出によって少々意外にはなっているものの、これも最終回以前に特別伏線が張られていた感じではなかった。とりわけ引っかかったのが加世の親が何故娘を生んだことを後悔して自殺したのか、その背景が不明なまま物語の幕が引かれている点。望まれて生まれてこなかったからこそ生きる意味に固執する女性を描くためにあの背景を描いたのだとしても、娘に対する拒絶の理由がわからないので、結局モヤモヤが残ってしまった。

 

とって付けたといえば、告発者Xのミスリード要員として成瀬という男が配置されているが、彼もとって付けた感が拭えない。OPで不敵な笑みを浮かべていたから凡その視聴者は彼が黒幕的存在なのだろうと思っただろうが、単なるミスリードであるばかりかキャラ設定がペラペラであまり印象に残らなかったな。

 

 

総評

最後に、全話の振り返りを。1話は啄木が探偵稼業を始める切っ掛けを描き、2・3話は「魔窟の女」、4話は「高塔奇譚」、5話は「魔窟の女」の後日談(啄木と京助の関係解体)、6話は「忍冬」、7話は乱歩の「二銭銅貨」オマージュ回(啄木と京助の関係復縁)、8・9話は乱歩の某中編オマージュ回社会主義への傾倒)、10話は啄木の憔悴と復活、11話は「逢魔が刻」、12話は告発者Xとの対峙、となっている。

 

原作の「鳥人」を除いた4話が映像化されたが、「魔窟の女」「逢魔が刻」は及第点以上で「高塔奇譚」「忍冬」は駄作・改悪の極み。特に原作で一石三鳥の事後工作に舌を巻いた「忍冬」があのような形に変えられたのはここ最近見たミステリの映像作品でも1,2を争うレベルの改悪だったのが残念だった。

原作における問題点、啄木を探偵役に置いた必然性が希薄な点については、社会主義への傾倒や環の死を描くことで必然性がカバーされているとは思うが、それでも必然性がキッチリ付与され問題が克服されたかというと、そんなことはなく、むしろ鳥人」をカットし乱歩の原作でわざわざ社会主義の傾倒に至る事件を描く必要はなかったのではないか?という疑念が生まれてしまった。

言っておくが、原作の「鳥人」に社会主義要素が皆無なわけではない。十分な尺があれば「鳥人」を描きつつ社会の問題と社会主義への傾倒を描くことは可能だったのだ。それにもかかわらず江戸川乱歩というビッグネームを安易に利用し、オマージュに貴重な尺を4分の1も割いてしまった所が脚本の浅はかさだと私は言いたいのだ。

 

平井青年にしろ野村や萩原といった文士仲間にしろ、ゲストキャラとしては有用だったが準レギュラーとなると少々蛇足な感じが否めず、特に芥川青年は正直いらなかったのではないかと思う。ゲゲゲの鬼太郎みたいに長期にわたるアニメならまだしも、1クールものであれだけのキャラを活躍させようとするのは少々欲張りが過ぎるというもの。いくらイケメン文士が女性に需要があるとはいえ、外面ばかり良くて肝心の話がお粗末では本末転倒というものだ。

 

こんな具合に全体的に物語の構成は大いに難ありで3話まで見ればあとは正直見なくても良いと言いたいが、褒めるとしたら作画が安定している点かな。絵はホント綺麗で色合いも見事だった。

この度の脚本とシリーズ構成は岸本卓氏だったが、彼は今月再開される富豪刑事のシリーズ構成を担当している。富豪刑事も今の所面白いが、啄木鳥探偵處みたいなことにはなってほしくないものである(まぁアレは原作があってないようなものだけど…)。