夢はあまり見ないタリホーです。
「夢」
原作は『クリスマス・プディングの冒険』所収の「夢」。百万長者のベネディクト・ファーリー氏がポワロに持ちかけた相談。それは毎夜見る夢のことで、彼は夢の中で決まった時刻にピストルで自殺をするというのだ。そしてその相談から間もなく、ファーリー氏は夢の通りの状況で死亡する。
原作でもクセの強い人物として描かれたファーリー氏だが、ドラマでもそのクセの強さがちゃんと映像化されており、吹き替えを担当した故・大塚周夫さんによって際立ったものになっている。
(以下、ドラマと原作のネタバレあり)
個人的注目ポイント
・ミス・レモンのヒント
尺稼ぎとして登場することの多かったミス・レモンが今回は事件解決の重要なヒントをポワロに与えるという特別な役割を果たす。この改変は原作で用いられたトリックの一部が改変されたことによるものだが、原作のある種機械的なトリックに比べるとドラマの方はルーティンワークを利用した自然なものになっていて、個人的にはドラマの方が好みである。
・ポワロの自惚れ
ファーリー氏は好ましくない人物であり、まずいポークパイを大量生産している点を挙げて、ポワロは「自分はファーリー氏に比べて部下に理解がある」とヘイスティングスに語っているが、ミス・レモンの希望とズレた贈り物をして悦に入るという場面を見ればわかるように、ポワロは結構自惚れが強い。原作でもポワロは探偵として自惚れた面が強く、短編作品の一部ではヘイスティングスをコケにしたような毒舌を発揮している。
・シリーズ後期の「アレ」を彷彿とさせるトリック
自殺する素振りがない人間が不審死を遂げると疑われるので、夢という「原因」を与えて自殺という「結果」を偽装するというのが本作のメイントリック。
前述した「ある種機械的なトリック」というのは、ファーリー氏殺害で彼を窓に誘導する道具が(一応伏せ字)猫のぬいぐるみとマジックハンド(伏せ字ここまで)だからであり、現場近辺に痕跡が残る問題があった。一方ドラマは煙突の煙をチェックするという彼の日常の習慣を利用して不自然さを解消しているのが評価ポイント。
今回改めてドラマを見て、本作のトリックがシリーズ後期に発表された某長編と同様のトリックが用いられていることに気づいた。未読の方の興を削いではいけないので伏せておくが、同じトリックでも演出方法が全然違っているので、今まで気づくことなくスルーしていた。
シーズン1、個人的ベスト10
1話の「コックを捜せ」から今回の「夢」までが名探偵ポワロの第1シーズンだが、ここで個人的ベスト10を発表する。
1位:ミューズ街の殺人
2位:コックを捜せ
3位:夢
4位:砂に書かれた三角形
5位:海上の悲劇
6位:24羽の黒つぐみ
7位:ジョニー・ウェイバリー誘拐事件
8位:なぞの盗難事件
9位:クラブのキング
10位:4階の部屋
基本的にクリスティのポワロシリーズは短編よりも長編の方が出来が良いが、短編でも「コックを捜せ」「ミューズ街の殺人」「24羽の黒つぐみ」「夢」は再読しても面白いと思った。「24羽の黒つぐみ」が6位なのは、犯人像を変えたことによる改悪のため。「砂に書かれた三角形」と「海上の悲劇」は原作だと「海上の悲劇」の方がランクが高いと考えているが、ドラマの改変がマイナスとなり「砂に書かれた三角形」に4位を譲る結果となった。7位以下は現代だと凡作止まりでファンでない限りはあまりおススメ出来ない作品。ただ、「クラブのキング」を原作通りにしていたら5位か6位にしていたのだけどな~。
次週は長編「エンドハウスの怪事件」。邦題は全然違うタイトルなので注意。