海外旅行、行きたいと思わない派のタリホーです。
「砂に書かれた三角形」(「砂にかかれた三角形」)
原作は『死人の鏡』所収の「砂にかかれた三角形」。エーゲ海南部のロードス島を舞台にした毒殺事件で、タイトルにあるように三角関係がテーマになっている。
現在ロードス島はギリシャ領となっているが、発表当時はイタリア領であった。原作ではその辺りの背景はあまり描かれていないが、ドラマではファシズム組織が島をうろついている描写があり、第二次世界大戦に向かう不穏さが表れている。
分量は50ページちょっとの短編。登場人物が限られており謎解きとしての意外性は薄いものの、クリスティが得意とする「人間関係の騙し」が特筆すべき点で、これが長編作品で更なる発展を遂げることとなった。
ちなみに、原作で登場するパメラの友人のサラ・ブレイクはカットされている。
(以下、ドラマと原作のネタバレあり)
個人的注目ポイント
・黒シャツ党
前述したファシズム組織とはこの黒シャツ党(黒シャツ隊)を指す。これは1912年以前はトルコ領だったロードス島が伊土戦争によってイタリア領になった影響によるもの。
・ディリテリオ・オキアス
劇中でバレンタインを死に至らしめた毒はディリテリオ・オキアスと呼ばれる現地で伝わる蛇から抽出された毒。原作ではストロファンチンの一種だとされているが、こちらはキョウチクトウ科のストロファントゥス属の種子に含まれる毒で、毒矢の原料に用いられていたそうだ。
植物毒から蛇毒に改変したのは、毒蛇の模様がはっきりしていることについての下りをポワロに喋らせるためだろう。
ディリテリオ・オキアスが実在する薬品かどうかは不明だが、基本的に蛇毒は血液中で作用する毒で、経口だと胃で分解されてしまうため飲食物に混入して殺害は無理なのだが、今回は経口による毒殺なため、蛇毒メインの毒薬だとするとバレンタインは死ぬはずがないのだ。
・三角関係の伏線について
原作では本来の三角関係を裏付ける伏線みたいなものはなく、ポワロも殺害現場にいて犯人の犯行の一部を目撃したため、裏付けとなる手がかり――毒薬を売った人物――の調査はしていない。ただドラマは一応伏線みたいなものを張っている。
ダグラスがカトリック信者だという設定は、カトリックは離婚を禁止しているという教義に基づくもので、妻マージョリーの嘘を示している。また、一同がレストランで昼食をとった際にチャントリー中佐が「このワインは何だ。まるでピンクジンだ」と憤慨しているが、バレンタイン殺害時にはピンクジンを自発的に注文しており、その不自然さも犯人特定の手がかりになっている。
容疑者が限定されている短編のため、バカ丁寧に伏線配置する必要がないとクリスティは思ったのかもしれないが、ドラマ制作陣としては尺のこともあるしミステリドラマとしての体裁は守らなければならないという思いがあったのかもしれない。
事件自体は別段改悪にはなってないが、正直ダグラスは原作通り「ずばぬけた美男子」の方が良かったかな~と思う。その方が夫の不貞にやきもきする妻というミスリードも効果的だっただろうしね。あと序盤でバーンズ少佐(原作は将軍)がパメラを追っかけていたのは何だったのだろう。最初は彼女にお熱なのだろうかと思ったが、別にそんな感じじゃなかったしね。
次週は「海上の悲劇」。また旅行ものです。