タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

探偵VS助手の構図に“アレ”を思い出す、啄木鳥探偵處 第二首「魔窟の女」視聴

啄木鳥探偵處 (創元推理文庫)

どうも、タリホーです。コロナウイルスの影響で次々とアニメ延期の報が流れるなか、本作は今のところ延期がないようで一安心。

そういえば、石川啄木の死因となった結核。当時国民病とまで言われたこの病気は今は治る病気になったが、新しい病が蔓延している2020年にこのアニメが放送されたことに運命的なものを感じるのは気のせいだろうか。

 

(以下、アニメと原作のネタバレあり)

 

「魔窟の女」

今回は原作の最終話にあたる「魔窟の女」のアニメ化。原作では金田一京助回想譚として描かれており、啄木の探偵稼業に影響を与えたある人物が登場する物語になっている。

ちなみに、アニメでは1話の待合での殺人が啄木の探偵稼業の切っ掛けの事件となっているが、原作ではこの「魔窟の女」が切っ掛けとなる事件(らしい)。

 

事件は啄木が京助を私娼窟に引っ張り込んだ所から始まるが、京助が啄木と共に浅草の娼妓へ通い遊んだというのは実際にあったことであり、啄木が記した「ローマ字日記」にも赤裸々にそのことが書かれていたそうである。

後年、その「ローマ字日記」が『石川啄木全集』刊行に際して公表されそうになった時、京助は「娘の結婚に差し支える」と言ってその部分が収録されることに猛反発したのだとか。

有名になるとこういったプライヴェートな部分も暴露されるのであり、太宰治が死後次々と今でいう黒歴史が暴露されていることを思うと、生き恥だけでなく“死に恥”を残したくないならば、出来るだけ身辺整理をして、友人に変なメッセージとか送らないように気を付けてから死ぬべきだと思わされるものだ。独り者で死ぬなら話は別だけどね。

 

それはさておき、今回の事件は探偵が助手を犯人と糾弾し、一方の助手は探偵が犯人だと糾弾する対決の構図になっている。ミステリ小説で探偵と助手がこういう形で対決する話で思い出すのが、麻耶雄嵩『メルカトルかく語りき』に収録された「密室荘」という短編。

メルカトルかく語りき (講談社文庫)

この「密室荘」は探偵・メルカトル鮎と友人(?)・美袋三条が滞在した〈密室荘〉で死体が見つかり、メルカトルは犯人が美袋だと言い、美袋はメルカトルが犯人だと反論する。現場には手がかりがあるものの、「これは私を犯人にするため偽装したものだろ」と反論出来てしまうもので埒があかない。さて、この事件はどういう解決を見せるのか…?という話。

この『メルカトルかく語りき』、「推理はマトモだが解決(答え)が異常」という話ばかり収録されたクセの強い短編集なので、ある程度様々なミステリ小説を読んで耐性がついた頃に是非この作品を読んでみて欲しい。

 

…話が横に逸れたので戻そう。

「魔窟の女」は前述した「密室荘」みたいなとんでもない解決がある訳ではなく、至極合理的な推理によって解決する。その解決をもたらすのが一人の少年なのだが、これは次回登場するので伏せておく。

原作では啄木と京助の言い争いの後にこの少年が登場するが、どうやらアニメはここからオリジナルの展開、文士仲間による京助の救助が挿入されるようであり、これが挿入されるということは即ちアニメオリジナルの推理が次回出て来ることになるのだ。原作も一応“多重解決”方式の物語になってはいるが、それに新たな推理を追加するのだから、これは脚本の岸本氏の手腕が試される。期待しておこう。

 

あ、一応原作未読の方のためにここで事件解決のためのヒントを少々(一応伏せ字で)。

(ここからヒント)啄木の推理も京助の推理も、犯行が衝動的なものだという前提で推理を進めているが、衝動的な犯行と仮定すると、死体の状況に腑に落ちない点が残る。これに気づければ「別の真実」が見えて来るはずだ。

あとは、物語に出て来たマッチ。マッチ“だけ”に注目しないよう注意。

動機の面については、実は啄木と京助と二人の出身が関係しているのだが、おっと、これ以上は言えない。(ヒントここまで)

 

蛇足

・劇中で啄木が詠んだ「わが抱く 思想はすべて 金なきに 因するごとし 秋の風吹く」は1910年頃に成立したもの。当時は社会主義の思想やそれに基づく大逆事件が起こった年であり、生活が困窮していた啄木も労働者を中心とした社会主義の思想に傾倒していたと言われている。

(「秋の風吹く」という七語があるから短歌の体裁になっているが、これがなかったら実質愚痴だよね)