吸血鬼ピー「私のことCOVID‐19だと思ったやつ出てこい」
©水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション
吸血鬼ピーとモンロー
93話ゲスト妖怪「吸血鬼ピーとモンロー」
— タリホー@ホンミス島 (@sshorii10281) 2020年2月16日
原作「まぼろしの汽車」に登場。南方から来た吸血鬼で相棒のモンローと共に日本を吸血鬼の国にしようとした。モンローはマリリン・モンローの血を吸って以来彼女に似てきたと言われている。#ゲゲゲの鬼太郎 pic.twitter.com/9WP0zBBe8C
爬虫類か魚類のような見た目に、しゃちほこを彷彿とさせるスタイル。二本の足があり、尾びれにあたる部分に手があるこの吸血鬼は、モンローと共に同族となる吸血鬼を増やそうと画策した妖怪。特別強い能力がある訳ではないが、鬼太郎を吊り鐘に閉じ込め蒸し焼きにしたり、蒸し焼きで肉団子状態になった鬼太郎を吸血鬼に変え仲間を襲わせる所から見て、頭脳プレイに長けた吸血鬼と言えるだろう。また、シルクハットや靴を着用し、身だしなみに気をつかう一面がある。
アニメでは2・3・4・5期に登場。ピーとモンローの関係は原作ではよくわからないが、2・5期では夫婦の関係だということが明言されている。2・3期は強キャラとしての面目が保たれている感じがするが、4期から怪しくなる。
何故なら4期のピーが吸血鬼繁殖の拠点として選んだ場所は老人だらけの限界集落であり、そもそも歯のない年寄りを吸血鬼にしても噛みつきが出来ないし機動力も低いのだから、遅かれ早かれ頓挫する事件だと思った。
5期では一応頭脳プレイを以て鬼太郎を陥れてはいるが、吸血鬼なのに血を吸わず、美貌を保つために生気を求めるというまさかの設定。生気を奪われた人間は人形と化し、ピーのコレクション兼下僕となったが、最終的に鬼太郎にあっけなく退治される(っていうか、自滅したんだよな…ww)。後に吸血鬼エリートの回で再登場するものの、トマトジュースを飲みながら「エリートはヤバイ」という情報を鬼太郎に与えて逃げていくという何とも言えない立ち位置で終わった。
まぼろしの汽車
©水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション
今回の原作は「まぼろしの汽車」。目玉おやじが最強だと言われる理由に挙げられるエピソードとして有名だが、原作通りまぼろしの汽車が目玉おやじによって召喚される展開になるのは意外にも2期と今期だけ。3期のまぼろしの汽車は地獄の管理下にあり、閻魔大王の許可を得て使用出来るものとして改変されている。
そして4・5期になると、ピーの回でまぼろしの汽車は出てこなくなり、かろうじて鉄道要素が残される形となる(ただし、4期劇場版で西洋妖怪がまぼろしの汽車を奪う事件が起こる)。4期では老人たちを吸血鬼に変える場・吸血鬼になった老人たちを町へ送る道具として機関車が出て来るが、その分老人たちを吸血鬼になる前の過去に戻して人間に戻す方法がとれなくなったため、別の方法を使って吸血鬼を人間に戻した。これは是非本編を見て確かめていただきたい(ヒントは河豚)。
5期の鉄道要素は、鬼太郎たちを罠に嵌める場としてピーとモンローが用意したミステリートレイン。行先を乗客に伏せた旅行企画としてメジャーなのだが、この企画をお膳立てして鬼太郎たちを列車に乗せ、モンローが実行犯として生気を抜き、ピーは列車を運転する役割を果たした。
今期は原作通り目玉おやじが召喚出来る汽車となっているが、原作は召喚したら約一ヶ月は起き上がれないくらい体力を消耗するのに対して、今期は召喚すると命を落とすレベルなので、正に切り札中の切り札と呼べるシロモノだ。
「許されざる運命」か、「“まだ”許されざる運命」か?
©水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション
今回の脚本は地獄の四将編以来約四か月ぶりの担当となる吉野弘幸氏によるもの。吸血鬼と化した世界で唯一猫娘が奮闘するプロットはウィル・スミス主演の映画「アイ・アム・レジェンド」(原作はリチャード・マシスンの『地球最後の男』)を彷彿とさせ、そこにタイムループの設定が加わり、同じ期間を何度も繰り返して悲劇を防ごうとする展開は西澤保彦の『七回死んだ男』のようでもある。
偶然にも、今期における吸血鬼ピーの設定「東南アジアから日本に上陸した妖怪で、本体はさほど強くないが、下僕となる吸血鬼の繁殖力が異常に高く、確実な対策方法がない」というのが、今世間を騒がせるコロナウイルス「COVID‐19」のメタファーとなっているのが面白い(不謹慎かもしれないが)。こうもり猫回の献血ポスターといい、6期は狙って作られた風刺と偶然の産物の風刺が混ざっていて、メインの話よりもその符合に怖さを感じるわ。(^_^;)
物語の展開はほぼ原作通りだが、タイムループで時系列が行ったり来たりしていたので念のためおさらい。
(一・二周目の出来事は黒字でそれ以降の周は赤字。五周目以降、吸血鬼化した和尚や仲間に鬼太郎が襲われる周回があるが、便宜上カットし2月17日からの周を六周目としてカウントする)
《2月14日 夕刻》
・猫娘、鬼太郎にチョコを渡し思いを告白する。
・猫娘、鬼太郎と2ショット写真を撮りスマホの待ち受けにする。
・村の子供、ピーのシルクハットによって吸血鬼化したねずみ男を目撃する。
・猫娘、ピーとモンローを退治する。(七周目)
↓
《2月17日 昼》
・猫娘、ツカサたちから吸血鬼化の原因を聞く。(六周目)
↓
《2月21日 朝》
・猫娘、まなとのお出かけの約束を反故にする。(五周目)
・子泣きじじい、ツカサという少年に出会い鬼太郎を呼ぶ。(五周目)
↓
《2月21日 午後》
・猫娘、ツカサという少年に出会う。
・鬼太郎たち、吸血鬼解放区となった村へ赴く。
・猫娘、鬼太郎に鐘楼の元へ行かないよう説得するも失敗。(四周目)
・鬼太郎、ねずみ男・村人によって吊り鐘に閉じ込められ蒸し焼きにされる。
↓
《2月22日 零時過ぎ》
・肉団子状態となった鬼太郎が仲間によって回収される。
・廃屋へ避難。砂かけ婆、恐山病院に往診を依頼する。
・モンロー、恐山病院の使いと称し、鬼太郎を奪う。
・猫娘、モンローを追い払うが吸血鬼化したツカサに鬼太郎を奪われる。(三周目)
・鬼太郎、吸血鬼と化し仲間を襲う。
・ピーの下僕、吸血コウモリと化し、日本中の人間と妖怪が吸血鬼化する。
↓
《2月29日 夜》
当初は鬼太郎が吸血鬼化するのを阻止する目的で動いていたため、本来の運命(=全世界吸血鬼化)は変えられず何度も同じ結末を迎えるが、目玉おやじが途中で死んだり吸血鬼化しなかったことは不幸中の幸いだったな。もし目玉おやじがやられてしまったら、その時点でその周回が確定した事実となり、もうどうすることも出来なかった訳だからね。
吸血鬼化した世界でぬらりひょんやバックベアードがどうなっていたか気になるが、妖怪復権を目的としていたぬらりひょんにとって「全世界吸血鬼化=妖怪復権の野望が潰えた」訳だから、絶望のうちに吸血鬼となったかもしれない(或いは地獄に亡命したかも…)し、バックベアードにしても完全復活前にこんな事態が勃発した上に、部下のヴォルフガングやフランケンにカミーラも多勢に無勢でやられていることだから、ひっそり異空間で隠居を決め込んでいた可能性が高い。カミーラは元々吸血鬼だから襲われた可能性は低いかもしれないが、状況を見てピーの下僕に寝返ることもあり得るだろうし、襲われたとしたら、ただの吸血鬼から「ピーの下僕としての吸血鬼」に上書きされたかもしれない。
ま、それはさておき。まぼろしの汽車召喚時点の目玉おやじが死んだとしても、過去の目玉おやじが生きていて、タイムループ者本人が死亡しなければ何回でもタイムループが可能というのは予想外だった。これまでのまぼろしの汽車はあくまでも片道切符であり何回も往復可能なものとして描かれてこなかっただけに、この改変は目から鱗だった。
そして何といっても、世界を救うため自らの恋を犠牲にした猫娘が切なくていとしくて、何だかしんみりしちゃったよ。
恋を犠牲に世界を救うか。壮大だな。#ゲゲゲの鬼太郎
— タリホー@ホンミス島 (@sshorii10281) 2020年2月16日
人によって見方は色々あるだろうが、世界が吸血鬼化する運命を自然の摂理と受け取らず「誤った運命」と定めるならば、猫娘が鬼太郎に告白して友人以上の関係から恋人以上の関係に発展する運命も「誤った運命」となり、世界平和の名の下では「許されざる運命」となってしまう。
そもそも原作の鬼太郎と猫娘の関係は友人止まりで恋人まで発展せず、後に鬼太郎は南の島で出会った元酋長の娘メリーと結婚する。だから、猫娘が鬼太郎の恋人になるのは水木先生が描かなかった運命であり、描かなかったからこそこうして現在も続いていると言えるのかもしれない。
今思い返すと「鬼太郎夜話」において猫娘の前身であり鬼太郎の初恋相手である寝子は作中で自殺し鬼太郎の恋は悲恋に終わっていたのだよね。だから原作ファンとして「やはり猫娘と鬼太郎が結ばれる運命は作中世界において許されていないのかもな」とちょっと思っていたりする。
©水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション
とはいえ、アニメにおける鬼太郎の世界は今後の展開など考え方と演出で如何様にでも変えられる。原作の方は猫娘と鬼太郎が恋人になる運命は「許されざる運命」として完結している部分があるが、アニメは違う。
もし、このまま猫娘と鬼太郎が恋人になることなくアニメシリーズが終わってしまった場合、「ゲゲゲの鬼太郎」において猫娘と鬼太郎が恋人になる展開は「許されざる運命」として確定してしまうが、今後猫娘と鬼太郎が恋人になる展開を描き、それが元でバッドエンドにならなければ、今回猫娘が鬼太郎に告白し恋人以上の関係になった運命は「“まだ”許されざる運命」となるのだ。
「許されざる運命」か「“まだ”許されざる運命」か。この物語における運命の是非は未来に託されている。今期で仮に猫娘と鬼太郎の関係が発展しなかったとしても、未来の猫娘と鬼太郎がどうなるかはわからない。それを描けるのはこの先アニメ業界を担う人々だけである。
…いや~何だか想像以上に壮大な話になったな。こりゃあ頑張って長生きしないといけないぞ。
蛇足
・今期モンローの声を担当したのは、何と3期のヒロイン天童ユメコを演じた色川京子さん!
©水木プロ・フジテレビ・東映アニメーション
今回の物語に色川さんを起用したのは意図してなのか、偶然都合が良かったからなのかはわからないが、モンロー=天童ユメコに奪われた鬼太郎を猫娘が奪い返すという、ちょっとした恋の鞘当ての構図にも見えるようになっているのが巧いな~と思った。
・吸血鬼が鐘の音を嫌がる理由について。原作では何故嫌がるのか書かれていないが、唯一3期だけは目玉おやじによってその理由が説明されている。興味のある方は是非見て確かめてもらいたい。
次回は鬼太郎ファミリーの温泉回。何度でも言います。
「もう最終回まであと少しだけどちゃんと終わらせられるの!?」