タリホーです。

趣味を中心とした話題に触れていく所存(本格ミステリ・鬼太郎 etc.)

“崩す”のではなく“探す”、「アリバイ崩し承ります」3話(ネタバレあり)

アリバイ崩し承ります (実業之日本社文庫)

 

予告をみたら、来週も風呂に入るみたいだね。特別浜辺さんのファンって訳ではないから「キャー!嬉しい!」とはならないが、やっぱりファンの人は嬉しいのだろうな。

 

(以下、原作・ドラマのネタバレあり)

 

「時計屋探偵と失われたアリバイ」

 今回は原作4話の「時計屋探偵と失われたアリバイ」。特定の容疑者のアリバイを崩す所から始まるのではなく、アリバイがなく重要容疑者と目された女性が真犯人に嵌められたと考え、そのアリバイを探す所を起点とした物語となっている。とはいえ、最終的には真犯人のアリバイを崩さなければならないので、今回もこれまでと変わらずアリバイ崩しが為される。

 

事件概要についてはほぼ原作通りで大きな改変もないため、今回は特に言うことがないが、一応どうやって真犯人が河谷純子のアリバイを消し、自分のアリバイを作り上げたかは解説しておこう。

注目すべきは純子の長すぎる睡眠時間。純子のアリバイを消すだけにしては長すぎる睡眠時間にもう一つ別の目的があるのではないかと時乃は疑い、彼女が見た夢の話から、犯人が純子を姉・敏子の替え玉に利用していたことを推理する。

純子のアリバイを消し、なおかつ純子を敏子の替え玉に利用することで、敏子が事件当日11時20分まで生きていたと思わせ、それ以降アリバイがある自分を容疑者圏外におくことを目的とした、一石二鳥の殺人トリックが本作の見所と言えるだろう。

殺害動機は一種の三角関係で、愛人として纏わりつく敏子を抹殺するため。妻殺しの計画とみせかけて愛人を殺すというのは最早定番の動機だが、序盤で察時が妻と揉めていた場面がその動機の伏線になっていたのは良かったと思う。

 

ところで…。ツイッターの実況を見ていると多数の人が今回のトリックについてある指摘をしていた。その指摘というのは、睡眠薬を飲まされていたとはいえ、自宅から運ばれメイキャップされた上に、マッサージまでされて目を覚まさないなんておかしいのでは?」というもの。

この指摘について、これまで様々なミステリ小説を読んできた私が一言述べるなら、

本格ミステリにおける睡眠薬は、一度飲んだらよっぽどのことがない限りは目覚められない万能薬なんだよっ!!」

わかってるよ、現実に用いられる睡眠薬不眠症のためのものだから、動かしたり身体を揉んだら意識が覚醒する可能性は高いし、そもそも動かしても目覚めないなんて麻酔薬でも打たない限りはまず無理だからね!

第一、医者でもないマッサージ師が20時間以上眠らせるためにどれだけ睡眠薬を盛ったら良いのか、なんて知らないもんね普通!

…でもね、本格ミステリにはパズル的な所があって、「結果として〇〇が起こったから犯人は××をしたのだ」という論理が可能なのだ。だから実際に睡眠薬を飲ませて替え玉に利用出来なかったとしても、その点を挙げて揚げ足をとるのはハッキリ言って無粋というものである。結果としてあの状況が生まれた以上、あの世界の睡眠薬は強力なもので、犯人にも(どういう経緯で得たかは不明だが)服用量によって睡眠時間を操れる知識があったと認めるしかないのだ。

 

これは本作だけではなく、他作品でもあること。具体的な作品名は伏せるが、某社会派ミステリとして有名な作品で、世間では凄いと言われている〇〇も、本格ミステリ読者の私からすればツッコミ所は色々あるのだよ。

※その社会派ミステリというのは(一応伏せ字)松本清張の『点と線』(伏せ字ここまで)。

 

真犯人・芝田を逮捕する決め手になったのは、マッサージベッドの下の指紋。原作を読んだ当初は「証拠隠滅の時間は十分あったのに、指紋を残すなんて間抜けな犯人だ」と思っていたが、もしかしたらバレないと思ってちょっと天狗になっていた部分はあるかもしれない。

 

「アリバイ崩し」ミステリの紹介(アリバイ探し)

今回はアリバイ崩しならぬ「アリバイ探し」から始まる特殊なケース。「アリバイ探し」を描いた作品は国内ではなかなか見当たらないが、先週紹介した鮎川先生は「アリバイ探し」をメインにした話もちゃーんと書いていたのだ。

※思いついた分であと一つ挙げるならば(一部伏せ字)天藤真の「雲の中の証人」(伏せ字ここまで)。

(2020.03.01追記)

 

五つの時計―鮎川哲也短編傑作集〈1〉 (創元推理文庫)

鮎川哲也「急行出雲」(『五つの時計―鮎川哲也短編傑作集〈1〉』所収)

物語は大阪で恐喝を行っていた三田稔の経歴から始まる。五月某日、三田は何者かに自宅アパートで撲殺され、現場にあった煙草の吸殻から果樹園主の唐沢良雄に容疑がかかる。しかし唐沢は、事件前日の夜に東京発の「急行“出雲”」に乗っており、殺された時刻に事件現場に赴くことは不可能だとアリバイを主張する。

ja.wikipedia.org

警察は唐沢の主張を元に、彼が乗っていた11号車の同じボックス席の人物を調べるが、誰一人として、唐沢が座っていたのを見ていないと証言。唐沢のアリバイは成立しないことが判明する。

鬼貫警部も彼のアリバイが嘘だと思っていたが、ある証言を切っ掛けに唐沢が真犯人に嵌められたと確信し、彼の「アリバイ探し」をする。

真犯人に嵌められたのならば、どうやって唐沢はアリバイを“消された”のだろうか?

 

間違った客車に唐沢を乗せたとしたら、どうやって唐沢を誤らせたのかがわからないし、ボックス席の乗客全員が偽証をしているというのも現実離れしている。本作が発表された頃は国鉄によって運営されていたが、現代では到底使えないトリックを用いているのが面白い。勿論、今を生きる読者諸君も本文をちゃんと読んで、列車のある点について疑問を持てば謎を解くことは十分可能だ。

 

ちなみに、海外作品でアリバイ探しを扱ったものを挙げるなら、ウィリアム・アイリッシュの『幻の女』フレドリック・ブラウンの「踊るサンドイッチ」(『復讐の女神』所収)くらいだろうか。私は「踊るサンドイッチ」は未読なのでそちらが面白いかどうかは知らないが、『幻の女』は過去に日本でもドラマ化された有名作なので一読の価値はあるよ。

幻の女〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)復讐の女神 (創元推理文庫 (146-14))